デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 どこで48話を区切るか悩んだので、ちょうど良いタイミングということで、ここで48話を切ります。次回は49話からです。もうすぐ50話ですね。


48話「国盗りです Ⅸ」

 不思議の国の森に開かれた神殿が閉じる。ミネルヴァの背に、牢獄へと繋がる戸口だけが開いたまま。

 ミネルヴァは剣の切っ先を、公爵夫人へと突きつけている。公爵夫人は、黒い肉塊が力なく脈打つだけで、ぴくりとも動けないでいる。その肉塊は囚人のように鎖に繋がり、ゆるりと牢獄へと引きずられていく。

 しかし醜悪に歪んだ口からは、言の葉だけは紡ぎ続けた。

 

「……はっ。そうか、合点がいった」

 

 倒れ伏したまま、公爵夫人は、無力に吐き捨てる。

 

「貴様は我らと同じ落し子だと思っていたが……根本的にその認識がずれていたのだな」

 

 同じハートの女王の胎から生まれた、千匹の黒い仔山羊の一匹。

 そう思っていたが、それは違う。

 

「いやさ、確かに落し子と言えばそうなのだろう。だが貴様らを生んだのは、厳密には――女王ではないな?」

「…………」

「大方、代用ウミガメの力が女王の権能と交わった結果だろう。成程、貴様らは我らのような落し子ではなく、あの海亀によってもたらされた……そうさな、化身に近いものなのだろうな」

 

 それがわかったところで、なにが変わるわけでもないが。

 悪足掻きにもならない反骨心だけで、口を開く。

 

「貴様らは女王だけでなく、代用ウミガメも信奉しているようだが……ひとつ、忠告してやろう」

「……なに?」

「奴は弱いが強かだ。脆いが生き汚い。善人の癖に悪を背負っている。だから奴は延々と迷い続ける。迷宮に彷徨う愚鈍な海亀。優柔不断で、どっちつかず。不安定で自我が二律背反。弱い癖に、光と闇の狭間で苛まれている。はんっ、なんともハッキリしない奴よな」

「姫を愚弄するか? 貴様!」

「いいや、逆だ。奴をあまり、侮るなよ」

 

 公爵夫人からすれば、代用ウミガメはどうしようもなく弱い同胞だが。

 しかしその弱さが、強さに転じる可能性を、見出した。

 

「奴が惑うのは、奴がこの世界で生を得たからこそ。女王に与えられた役割から逸脱した、純粋な奴の個性。女王に傅く貴様らでは到底測れぬ秘奥の宝。迷うことは弱者の特権、弱者の証左だが、その昏迷は、貴様らのような異様の猛毒にはいい薬になるだろうさ」

 

 肉塊は半分以上が、牢獄へと堕ちていく。抵抗する力は既に無く、這い上がるなどもってのほか。

 光の中の闇に閉ざされる間際、公爵夫人は最後まで、叛逆の貌で、彼らを嘲笑う。

 

 

 

「【死星団】とやら。『代用ウミガメの』“人”生に――奴の“迷い”に、足下をすくわれぬようにな」

 

 

 

 ――バタン

 そして、牢獄の扉は閉じた。

 開かれた空間も、閉ざされた。

 

「…………」

「浮かない顔ですねぇ、ミーナさん?」

「メルか」

 

 公爵夫人の捕縛を終え、ミネルヴァは振り返る。

 そこには青い髪を流した少女。

 

「そちらはどうだ?」

「99%制圧完了なのです。まあちょろっと取りこぼしは出ちゃったのですが、それはいつものように狩って潰せる範囲内なのですね。少なくとも、この山にはもう、残存する落し子はいないのです」

「そうか。ならば後はリズに任せよう。彼女が眠り続けたこの地を、早急に黒い森へと変じなくてはならない。一刻も早く、彼女には目覚めて頂きたい」

「大賛成なのです。リズちゃんが王国建国、それが終わり次第、リオくんとディジーさんもお引っ越し。そしてその間に残党狩り……お姫さまのためにお仲間の保存、なのですね」

「あぁ。間違っても殺すなよ」

「わかっているのです。でも、どうしようもないものっていうのも、あるのですね」

「……メル?」

「やだなぁ、怖い顔しないで欲しいのです、ミーナさん。だってほら、彼ら? 彼女ら? まあどっちでもいいですが、あれらはそろそろ限界なのですよ、寿命なのです」

「? ……あぁ、ヤングオイスターズか」

「ビンゴなのです! 流石はミーナさんなのですね」

「あれの長姉は、確かにそろそろ末期だと聞いた」

「なのです。もうズタボロで今にも死にそうって感じだったのですけど、それを回収してきたのです」

「……それで?」

「ふふっ。まあお楽しみは後に回すのです、サプライズは後だしがいいものなのですよ。ただちょっと、このままダメにするのも勿体ないので、先祖返りしてもらう程度なのです」

 

 無邪気そうに笑う。しかしその笑みの裏側には、なにが渦巻いているか。

 ミネルヴァは、あえて踏み込まなかった。

 少女はそんなミネルヴァに、上目遣いで覗き込む。

 

「それで、なのですね。ミーナさん」

「なにかね」

「公爵夫人様……あたしにくれないです?」

「……なんだと?」

 

 怪訝そうに眉根を寄せるミネルヴァ。

 少女はまるで予想通りの反応だと言わんばかりに、笑いながら続けた。

 

「いえいえ、別に壊そうっていうつもりはないのです。ただの実験なのです、実験」

「実験、だと?」

「なのです。若牡蠣のお姉さんっていういいサンプルが手に入ったのです、これを利用しない手はないのですよ。それに公爵夫人様、肉体的には最も落し子に近い彼女であれば、最高の素体になると思うのです」

「なにをするつもりだ?」

「戦力増強、とかなのですかね? まあ利用用途は追々なのです」

「……メル。君の叡智も技術も評価しているが、少々、自分勝手に過ぎないか?」

「おっと? メルちゃんひょっとして、咎められてるのです?」

「ひょっとしなくてもそうだ。どれほどの罪科を重ねようと、姫が重んじる者。みだりに狂わすことは許されるべきではない」

「おー、そう来たのですね。ミーナさんらしいのです」

 

 ミネルヴァの反発に、また楽しそうに微笑む少女。

 しかしその返しも想定済みだと言わんばかりに、少女も言葉を返す。

 

「でもミーナさん、やっぱり女王様の落し子として、あるべき本来の姿というのは大事だと思わないです?」

「む……それは……」

「リズちゃんもきっと同じように言うと思うのですよ? 今の彼らは本来の役割を忘れて人の形に歪んでしまったのよ……なーんて言うと思うのですよ」

「……確かに。シリーズならば、憂いげにそう言ういいそうなものではあるな……誰よりも、彼女の本質に近く、それを重んじるのが彼女だ」

「なのです。女王様は絶対なのです。なら指向性もそちらに合わせるのが道理というものではないのでしょうか?」

「そう……だな」

「本来の形を取り戻して、本来の役割に着き直せば、それはミーナさんとしてもいいことなのです。あたしはただ、人為的に元のあるべき姿に戻そうとしているだけなのですよ。それは許されないどころか、推奨してもいいくらいなのでは?」

「…………」

 

 ミネルヴァは沈痛に顔をしかめる。

 返す言葉はない。その理屈であれば、反論する材料はひとつもなかった。

 彼女の実験とやらには、そこはかとない不安に駆られるが、こう言われてしまえば拒むことはできない。

 結局、ミネルヴァは彼女の言いくるめに屈してしまう。

 

「……わかった、後ほど、公爵夫人は君の王国へと引き渡そう」

「わーい! ありがとなのですミーナさん!」

「だが、公爵夫人だけだ。行き過ぎた実験は許可しない」

「わかっているのです。これは既に壊れかけのヤングオイスターズさんと、原点回帰への親和性が高そうな公爵夫人様だからできることなのです。それ以外の人を無理やり弄っちゃうと、本格的に壊れちゃいそうなのですしね」

「…………」

 

 この好奇心が彼女の役割ではあるが、やはりその自我について、ミネルヴァは思うところがないわけではなかった。

 本来の姿を取り戻す以前に、戦力増強など不要だとは思うが、常に万全に備えるというのも重要な軍略ではある。

 ただ、残る狩るべき者達については、純粋な力さえあればいい、というものでもないのだが。

 

「そういえばミーナさん」

「どうした」

「マジカルベルちゃん、ずっと放置しているのですけど、いいのです?」

「あぁ……あれは、難しいのだ。殲滅も捕縛も、姫の望むものではない。どのように接触するべきか、いまだ不明瞭だ」

「ふーん。面倒なのですねぇ」

「姫はまだ心が不安定だ。拠点を移すのも、姫の精神の安定も目的だからな。姫の正気が安定次第、迅速に行動するべきだろう」

「成程。合理的なのです。まあ、まだまだやることたくさんですし、じっくりタスクはひとつずつ、なのですね!」

「そうだな」

 

 とはいえ、いつまでも放置していられる問題でもない。デリケートだからこそ、早めに手を打つ必要があるだろう。

 

(そういえば、先ほども出逢ったな。水早霜……我々の存在を感知されたか)

 

 彼は今、マジカルベルから孤立しているはず。情報がそちらに拡散するとは思えないが、しかし『眠りネズミ』と共に行動するのは誤算だった。

 思えば公爵夫人に妨害されて、彼らを逃してしまったのだ。

 矮小な人間と、小鼠程度にできることなど、気にするまでもなかろうが――

 

「――まあ、いいだろう」

 

 ミネルヴァは切り替える。

 ――そちらはメルの担当だ。繊細さで言えば、彼女以上の適任はいないだろう。

 自分は姫の望みに応え、彼女の目覚めを、ただ待つだけ。

 己に与えられた主命を、果たせばいい。

 それに従い続ける限り、彼の正義は、為されるのだから――




 めちゃくちゃ今更ですけど、小分けにして投稿すると、特定の過去の話を遡る時、どこになにあったかわかりにくいですね。皆さんはどうですか? 今の小分けにする形式と、一話分を纏めて投稿する形式、どっちがいいでしょうか?
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