「ここか……」
『クレストプライムタワー Duchess』。事前に調べた通り、見るからに高級感溢れる荘厳で長大なタワーマンションだった。
ロビーに足を踏み入れれば、とんでもなく広い空間と、豪奢な装飾、煌びやかに彩られた壁に天井、タイルの床が出迎える。
「すっげぇな。うちの屋敷とは違う感じだが、でけぇ、なげぇ、やべぇ。とにかく縦がバッドだな」
「駅近とはいえ、こんな片田舎の町にこれほど大きな建造物があるなんて驚きを隠せないな」
都心部でもないのにこんな大きなマンションに需要などあるのだろうか、と考えてしまうが、今はそんなことはどうでもいい。
3人は足早にエレベーターへと乗り込む。当然、部屋番号を要求するなどのセキュリティがあったがカードキーそのものは手元にあるため、ここは問題ない。
追跡されている様子はなかったが、できる限りの隙はなくしたい。行き先のボタンを押して、すぐさま扉を閉める。
そして3人はそのまま、無振動のエレベーターで上へ上へと上っていく。
(しかしこの部屋番号、5005号室……地上50階? とんでもない高さだな……)
タワーマンションというのはそういうものだが、実際に入ってみると、やはり驚きはある。数分エレベーターに乗っていてもまるで止まることなく上昇を続けるというのは、奇妙な感覚だった。
やがて50階へと到着する。人の気配はない。住人の姿も見えない。そのまま早足で、目的の部屋の前まで辿り着く。
「ここ……だな」
「で、ここになにがあんだ?」
「それはわからない……が」
試しにドアノブをガチャガチャと引いてみるが、当然、鍵が掛かっている。
同時に扉に耳を当ててみるが、なにも聞こえない。誰もいないのか、あるいは防音設備はしっかりしているのか。
今度はインターホンを押してから、同じこと。やはりなにも聞こえない。
「なにやってんだ?」
「まあ、一応試しにね。無駄だったけど」
「だ、誰かいる……んでしょうか……?」
「かもしれないと思ったんだけど、出て来る気配はないね」
仕方ないので、カードキーを挿し込む。これで解錠された。
ドアノブを引く。なんの抵抗もなく、重厚な扉はそのまま開かれる――
「! ソウ!」
「え? うわっ」
――その瞬間、霜の態勢が崩れる。
後ろから足を払われるように、重心を崩された。
身体が宙を浮く一瞬。
後ろ向きに倒れ行く眼前に、煌めく刃が通り、霜の前髪を掠めていった。
「っ……!?」
あまりのことに、声も出ない。
霜はそのまま尻餅をつくように倒れてしまう。そして空を切った刃は、霜を追いかけるように、そのまま振り下ろされるが、
「させっかよ!」
パシンッ! と、ヤマネがその刃を振るう腕を掴んだ。
ギリギリと。幼くとも男の、怪物の力で、締め上げるようにその凶刃を打ち止める。
「……おい、こりゃあどういうつもりだ? なぁ」
彼はその刃を振るう人物を睨み付ける。
霜も、眼前に突きつけられたまま停止した刃を隔てて、彼女へと、視線を上げた。
「君は……」
「……っ!」
吃驚や、侮蔑や、憤怒。あらゆる情念が混沌の如くない交ぜになった、激情の眼が、言葉なく霜を見下ろしている。
彼女は、ふーっ、ふーっ、と呼気荒く、興奮した様子で、ギリギリとヤマネと拮抗していた。
そして、その直後。
「狭霧ちゃん!」
部屋の奥から、男の声がした。
ドタドタと騒がしく足音を立てて、声の主はやって来る。
「なにをやってるんだ、こんな時に」
「でも! お兄ちゃん……!」
彼は、彼女から刃――包丁を取り上げる。
そして次に、霜たちを順番に見遣る。
「……水早君に、ネズミ君。それにユニコーンちゃんか。意外なほど意外な組み合わせだ。だけど、まだ生き残りがいて、オレは嬉しいよ」
「若垣、朧……いや、ヤングオイスターズ、って言うべきなのか?」
「どっちでもいいよ。とはいえ今のオレはヤングオイスターズとしてではあるけどね。しばらく学校には行ってないし」
若垣朧。そしてその妹、若垣狭霧。ヤングオイスターズの末端たち。
朧は落ち着いているが、いつもの不敵で軽薄な雰囲気が鳴りを潜め、狭霧もいきなり刃物を向けるなど、かなり興奮している様子だった。
一体、なにがどうなっているのか、まったくもって不明だが。
少なくとも、話くらいは聞けそうだった。
「狭霧ちゃんは……少し、落ち着きなさい」
「…………」
朧に窘められると、狭霧は逃げるように黙って部屋の奥へと引っ込んでいってしまった。
「色々とすまないね。とりあえず入ってくれ。聞きたいことも言いたいことも、たくさんあるだろうから、お互いにね」
こうして霜たちは、朧に招き入れられた。
なんだかんだでよく出る朧。書きやすいし扱いやすい。
TRPGをやっていると、癖が強めなキャラクターの方がやってて楽しいけれど、やはり小説を書くってなると、こういう真っ当なキャラの方が安定して手綱を握りやすい部分があるなぁ、としみじみ思う。