デュエ魔法少女マジカル☆ベル   作:モノクロらいおん

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 過去の栄光や過去作の人気キャラに縋った新作は堕落と思うタチで、そういう意味では最近のデュエマにはちょっとコンテンツ的な危うさを感じているのですが、それはそれとしてディスペクターのコンセプトは凄い好き。あの冒涜的に陵辱的な設定が、とても、いい……


49話「隠れ家だよ Ⅳ」

 霜はその晩、朧たちのマンションに宿泊することにした。

 公爵夫人は、最初から不思議の国から離反するつもりだったのか、それとも今回のような敵襲に備えていたのか、このマンションには食糧等の備蓄がある。今、下手に外に出るといつ襲われるかもわからない以上、ひとまずこの場所に潜むのが得策と思われた。

 

(もっとも、地上50階なんて高層マンションなんて、この場所を突き止められたら、かえって逃げ場がなくなりそうでもあるが……)

 

 しかし家に帰って、なにも知らない家族を巻き込みけたくもない。

 一応、メールで兄に「今日は帰らない」と伝えた。不登校再発に、ヤマネを家に招き入れたり、急な外泊。既に家族の不信感は募っているだろうが……

 罪悪感が積み重なっていく。近しい人に真実を告白できず、本来あるべき日常が削られ、少しずつ精神を蝕んでいく。

 これではまるで、

 

「昔に戻ったみたいだな……」

 

 小鈴と出会う前の、自分。

 大切な人を失って、その人への微かな思いに縋って、振り回されて、空回っていた頃の自分。

 今と、まるで同じだ。

 

「みたい、じゃなくて。戻ってしまったのか。退行してしまったんだな、ボクは」

 

 それが自覚できただけ、まだマシか。

 前に進むために、よりよくなるために動いていたはずが。実際はその逆を進んでいただなんて、滑稽でしかない。皮肉極まる裏目だ。

 その事実に、ただただ、霜は自嘲するしかなかった。

 

「起きてたんだ、水早君」

「朧……さん」

「別に無理して敬語使わなくていいよ。今は一蓮托生だけど、元々オレらは仲間ってほどでもないんだからさ。というか、こっちとしては半ば君らを巻き込んでるような形だから、むしろ申し訳ないくらいだ」

「まあ……そこは気にしてないですよ。ボクにも、ボクの責任がある」

「そうかい。寝ないの?」

「ちょっと考え事してて」

「この場所だっていつまで凌げるかわからない。休める時に休んだ方がいいよ」

「それはわかってるんですけどね」

 

 それでも、考えてしまうのだ。

 自分のこと。自分がすべきこと。今までのこと、これからのことを。

 

「対外的な干渉より、まず自分の内面を、か。それはそれで大事なことなんだろうね」

 

 月に向かってそう零すと、朧はおもむろに霜のソファの隣に腰掛ける。

 

「隣、座るよ」

「……どうぞ」

 

 月明かり差し込むソファに、2人の少年が座する。

 しばし黙した後、朧が口を開いた。

 

「しかし、ほんっとうちの妹分や母親が迷惑掛けるね。ウミガメちゃんはともかくとしても、女王様は正真正銘、文字通りのモンペだから」

「スケールが大きすぎて、もはやそれは迷惑なんてレベルではないのでは?」

「それもそうだ。けれどスケールの小さなところにまで、歪みを与えているのも事実だろうさ」

「? どういうことですか?」

「君、友達と喧嘩してるだろう?」

 

 急に、切り込んできた。

 のらりくらりとしている朧らしくもない物言い、霜は言葉に詰まる。

 

「……だったら、なんだっていうんだ?」

「地雷かなとは思ったけど、怒らないでくれよ」

「あなたには関係ないことだ」

「いやあるでしょ。直接ではないとはいえ、それってオレらがちょっかいかけたことがきっかけだろう?」

「…………」

「まあ関係ないと思うなら関係ないでいいと思うけど、関係ないからこそ吐き出せることもあるんじゃない? 君なら特にね」

「……なんだか、らしくないですね。そんなお悩み相談とかするタチだったんですか?」

「今夜はそういう気分なのさ」

 

 薄雲のかかる半月を見上げる朧。

 霜は訝しげにそんな彼を見つめる。

 

「……そんな目で見ないでくれ。仕方ない、素直に言おう。ひとつは責任を感じてるから。少しは申し訳ないと思っているんだよ、オレも」

「本当に?」

「嘘ではないさ。言うほど本音でもないがね。どちらかというと、恩を売りたいという打算の方が強い」

「むしろそういう理由の方が安心するな」

「悲しいな。何度も言うようにオレたちは一蓮托生、運命共同体だ。共通の脅威が存在するのだから、今は共に手を取り合って協力するのが吉。なら、君の不安や問題を少しでも取り除く方が、連携もスムーズになると思わないかい?」

「筋は通ってますね」

「これはまごうことなく本心だよ。今は君たちの力も借りないとやっていけない。一時の間とはいえども、仲間の力になろうとするのは、おかしいことじゃないだろう? だから怪しむのはやめておくれよ」

 

 などと、朧は必死に弁解するものの。

 霜は以前、正に霜が抱えている問題が発生した時、この朧に騙されていたわけなのだが。

 

(まあ……今とあの時とじゃ、状況がまったく違う。この人も、本当に必死なんだろうな)

 

 生きることに。仲間を守ることに。そして、取り戻すことに。

 ただの子供でしかない霜に縋りたくなるほどに、追い込まれているのだろう。

 とはいえ霜も、あの時のことを、それによって生まれた自分の今の感情を、そのまま言葉にするのは難しい。

 また、しばらく静寂が続いた。薄雲が月から離れるまで、2人は黙していた。

 今度は、霜から口を開く。

 

「……絶交、って言われたっけな」

「それは伊勢さんと? いや、香取さんかな」

「実子とは最初から友達のつもりはない」

「ふぅん。まあ、でも、伊勢さんは大丈夫でしょ。彼女の性格からして、君にその気があれば、すぐ仲直りできるさ」

「その気、か。果たしてボクにその資格があるか、だと思いますけど」

「資格か。ま、いいけどね。それこそ君にその気があるか、だ。それよりも……香取さんとの喧嘩の方が深刻かもね」

「……どういうことです?」

「いやぁ、香取さんの名前を出すたびに君、随分とイライラしてるように見えるからさ。そんなに彼女のことが嫌いかい?」

「嫌いですよ。速やかに死ねばいいと思う」

「うわぁ辛辣」

 

 あまりにも直球すぎる言葉だった。以前の霜ならもっと言葉を濁していただろうに、そのオブラートさえ剥がれている。

 それほどに、霜の中で変化があった。それは確かだ。

 霜はストレートな罵詈雑言を吐いた後、務めて冷静に戻る。

 

「ただ……あいつの言い分もわからないわけじゃない。結局のところ、誰しも自分の利を求めて社会は回っていて、そのために誰かを利用したりするのは自然なこと。それは合理的で、当たり前のことなんだ、って」

「ちょっと邪悪な感じはあるけど、それもまた人の世の真理だね」

「それは分かっている。わかってるんだが……」

「肝心要の伊勢さんは、善性の塊みたいな子だからねぇ。それを利用するというのは、友であることの欺瞞のようで、つまり――」

 

 ――裏切り。

 その一言に他ならない。

 

「君は彼女に裏切られて怒っているのかい?」

「まさか。あいつの邪悪さにはずっと気付いていましたよ」

「でもなんやかんや一緒にいたよね? なんで?」

「なんでって……そりゃあ、小鈴の手前、大っぴらに喧嘩なんてできないでしょう」

「いや、君ら結構、公衆の面前とか関係なくギスギスしてた気がするけど……まあいいや。伊勢さんが君らのストッパーになってたんだろうねぇ」

「……なんです? その顔。ちょっと不愉快なんですが」

「別に? ただ、君は君らしくあればいいだけだと思ってね」

「ボク……らしく?」

 

 懐かしいような、くすぐったいような響き。

 その言葉に、胸の奥がざわつく。

 

「知性と理性。合理と功利。効率と能率。君の目的を果たすための最良と最善の探求。君は、理知的であればいい。そうすれば、きっと上手く行くよ」

「……意味がよくわからないのですけれど。具体性に欠けるのでは?」

「闇は悪ではないし、光も善ではない。潔白だからって良き未来に繋がるわけではない。邪悪だからって破滅的とは限らない。正義感や責任感や善意、利己的も功利主義も性悪説も、絶対的なものではないのさ」

「それは哲学かなにかで?」

「お節介な先輩のアドバイスと思ってくれ。これでも多くの弟妹の面倒を見てるんだ、後輩に言葉の一つや二つを残すくらいするさ」

 

 こう見えて新聞部では頼れる記者なんだよ? と朧は微笑む。

 なんとなく、そこに、兄の姿がダブった。

 

「君は自分の道に悩んでいるようだが、オレたちも君らも、きっとすべきことは変わらないよ」

 

 今、自分達がすべきこと。

 大いなる脅威に立ち向かうための、必要条件。

 それは、

 

 

 

「離れ離れになった仲間を取り戻そう。話はそれからだ」

 

 

 

 縁を断った友人も、統治を喪った民も。

 また、同じところへ。

 よりを戻し、元々の居場所へと集合する。

 バラバラなまま、女王に敵うはずもない。惰弱であるが故に、知恵と勇気と仲間の力で乗り切るしか、生路はないのだから。

 

「そのためにも、君の場合、ちゃんと話をしてきなさい、ってところかな。言葉は君たちの武器だからね」

「ご忠告どうも。兄貴よりも役に立つご助言でしたよ」

「あまり自分のお兄さんを貶めるもんじゃないよ」

「……感謝はしてますよ。あなたにも、兄貴にも」

 

 胡散臭い、詐欺師のような人だと思っていたが。

 いざ味方になると、思いのほか、頼もしい。

 力は弱いが、いやさ、弱いからこそ。

 弱者の戦い方を、生き延び方を、彼は知っている。

 朧の助言を反芻する。自分の為したいこと、為すべきこととはなにか、考える。

 

(ボクの目的……したいこと、すべきこと、か)

 

 それは当然、彼女を、小鈴を守ることだが。

 自分の力では、非力で、そして彼女の意にそぐわない。

 彼女の求める理想を壊さず、その箱庭のような美しさを守るには、どうすればいいのか。

 霜の求める欠けのない完璧な回答は、いずこに。

 あと一歩のところまで、来ている気がする。

 けれどそれを見つけ出すのは、もう少しだけ――




 彼らの方針は定まった。
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