彼女達が笑うために   作:怠さの塊

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お久しぶりです。
半年以上経ちましたが、亀更新なんで勘弁してください。
アンケートとったら主人公の紹介あった方がいいらしいんで考えてそのうち書きます。


10話

「ねぇ、本当に良かったの?」

 

「別に良いから早く行けよ練習遅れるぞ!」

 

玄関の前で不安そうな顔をする沙綾を見送り、仕事に取り掛かる。

今日でちょうど一週間になり、もはや慣れてきた仕事をこなすのは難しくはなかった。

 

オーブンからパンを取り出して店頭に並べてレジに入れば商店街の馴染みのお客さんへの対応とパンの量を見極めて、厨房に入りパンを焼く。

やる事は基本的に変わらないし、何より引越し業のバイトよりは疲れないのでとても良かった。

 

「亘史さん腰大丈夫ですか?」

 

「ああ、タクミ君のおかげもうすっかり良くなったよ。本当に一週間ありがとうね」

 

「いや、俺は日頃の恩を返してるだけですよ。それにこの店のパンは大好きですからね。困ってたら手を貸すのは当然ですよ」

 

パンをオーブンに入れる亘史さんの様子を見ていたが、もうぎっくり腰も治っているのだろう。

腰を痛める前のようにしっかりとした足取りで業務に勤しむ姿を見て安心していると、困り顔の千紘さんがこの店のパンを詰めている袋を片手に厨房に入ってきた。

 

「あ、タクミ君お願いがあるんだけどいいかな?」

 

「はい!全然構わないですよ」

 

「これ、沙綾や香澄ちゃん達への差し入れなんだけど、あの子忘れていっちゃったみたいでね。これ届けてもらえないかしら?」

 

「えっと、それはいいんですが・・・届け先は近くのスタジオとかですか?」

 

「うんうんそうじゃなくて、流星堂って分かる?」

 

「流星堂・・・確か坂を登った所にある質屋ですよね?今時の質屋って練習スタジオもしてるんですね」

 

「違う違う。そこが有沙ちゃんのお家で蔵の中で練習してるらしいのよね」

 

「蔵で練習って・・・なんか想像出来ないけど、凄いですね。まあ、場所は分かったんでその差し入れ渡して来ます」

 

「ありがとう。ああ、そうだお駄賃渡しとかないとね」

 

「いやいや、こんな事でお金もらえませんって流石に。たかだか、お使いみたいなものですよ」

 

「けど、お願いする訳だし」

 

「なら、そうですね・・・・今日の晩飯ご馳走になるってのがお駄賃代わりってことじゃダメですか?」

 

どうせあの家に帰っても晩飯は無いと分かりきっているのでお駄賃の代替案としてそのことを提示した。

その方が俺にとって気が楽だし、何よりもう少しだけこの家族の温かみに触れていたいという気持ちもあったからだ。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

パンの入っている袋を片手に外に出ると、ものすごい暑さが肌に刺さる。

バイクや車があればすぐなのだろうが生憎そのような乗り物どころか免許すら持てる歳ではない。

茹だるような暑さの中そんなことを考えていると、和菓子屋が目に入った。

 

「昔、流星堂行ったけどものすごい和風な感じだったんだよな。手土産がパンだけってのも味気ないしな」

 

そう思い店で売られている商品を物色し始めると、とても目立つものを見つけて笑みが零れた。

 

「おじさんこれ二箱ちょうだい。あ、袋は一緒でいいから」

 

「まいどあり。そうだ、タクミ君八百屋の親父さんがボクシングの優勝の話聞いて大喜びしてたから顔だしてあげろよ」

 

「あーやっぱり顔出さないとまずいすよね?最近顔出してもなかったから流石におつかいの帰りにでも顔見せに行きます」

 

「そうしときなよ。飲み屋で最近顔見せに来てくれないなんて愚痴は聞きたくないからな・・・と、はいお待ち。ああ、お代は良いよ。ウチの店からの優勝祝いだ」

 

「お、ラッキー!やっぱ優勝してみるもんでね。みんな普段より優しくして貰えるんですから。じゃあ、ありがとうございました」

 

商店街は昔世話になったおかげか顔馴染みが多い。

これもジムが定期的に地域のイベント事に取り組むことが多いというのもあるからだろう。

手土産と差し入れの二つを持ち、流星堂に向かってまた歩きだした。

 

 

 

 

 

道中貼られた星のシールの道を進み、長い坂を越えやっと辿り着いた。

流石にいきなり敷地内に入るのはまずいと思い、表にある流星堂に向かった。

扉を開けると鈴の音が鳴り、様々な骨董品や音楽機材などが並んだ店内に足を踏み入れた。

 

「すいませーん」

 

「はいはい、只今」

 

ゆっくりとした足音と共に奥から市ヶ谷さんのおばあさんと思われる女性が現れた。

 

「ご購入でしょうか?」

 

「あ、いえ違いまして・・・その市ヶ谷有咲さんに用があるんですが御在宅でしょうか?」

 

「あら、有紗に男の子のお友達がいたなんてねぇ。有紗なら蔵で練習してるわ。案内しましょうね」

 

「ありがとうございます」

 

お礼を言って頭を下げ外に出る市ヶ谷さんおばあさんの後を追うと、裏手には立派な蔵が建っていた。

 

「有咲お友達が来てるわよー」

 

「友達?一体誰だよばあちゃん・・・ってなんでお前がここに居るんだよ!」

 

おばあさんの呼び掛けで蔵の地下から上がってきた市ヶ谷さんが指を指しながらそう叫ぶ。

 

「市ヶ谷さんあまり人に指を指すのは行儀がよくないよ」

 

「そうよ。有咲お友達にお前呼びなんて失礼でしょ」

 

「いや、そうだけどそうじゃなくて!ばあちゃんなんでこんな奴上げたんだよ」

 

「あら、有咲のお友達なんじゃないの?有咲に用があるってウチの店に尋ねて来てたのよ」

 

「いえいえ、おばあさん僕と有咲さんはとても仲の良いお友達ですよ。あ、そうだ これつまらないものですがどうぞ」

 

「あら、わざわざご丁寧にどうも。お茶入れてくるからごゆっくりしていって下さいね?」

 

「ああ、いえお構いなく」

 

形式通りのやり取りをして市ヶ谷さんおばあさんが去って行くのを大層不満顔の市ヶ谷さんと騒ぎを聞きつけて様子を見に上がって来た残りのメンバーと顔を合わせる。

 

「じゃあ、上がっていいかな?」

 

「言い訳ないだろ!カチコミに来たならさっさと帰れ」

 

「まあまあ、そんな事言わずに。ほら、ちゃんと手土産も持ってきたし、ちゃんと菓子折りも道中買って来たんだからさ話くらい聞いてよ」

 

「・・・せっかくばあちゃんが茶入れてくれるんだ。飲んだらさっさと帰れよ」

 

店で購入したミッシェル最中とやまぶきベーカリーのパンを手渡すと渋々と言った様子で納得したようだ。

てか、カチコミは今時ねぇよ市ヶ谷さん。

そんなこともを思いながら蔵に戻る市ヶ谷さんの後を追い、蔵の地下へと入って行った。

 

 

 

 

「ごめんね。パン持ってきてもらっちゃってさ」

 

「いや、いいよ気にしなくて。これも仕事みたいなものだから」

 

申し訳なさそうに謝る沙綾に、笑ってそう言った。

蔵の地下には冷房の効いた空間が広がっていた。

そして、目の前には不満そう腕を組む市ヶ谷さんとパンを物色する残り三名を見まわした。

 

「お茶飲んだら帰るからそんな睨まないでよ。別に報復行為だとかそういうのはしないよあれくらいで」

 

「信用出来ると思えるのか?」

 

「まあ、出来ないよね」

 

苦笑いして、両手を挙げ何も持ってないというアピールをした。

それを見て市ヶ谷さんはため息を吐く。

 

「それ飲んだらさっさと帰れよ」

 

「分かってるよそのつもり」

 

「あ、このモナカ食べていい?」

 

「ああ、どうぞ戸山さん一応手土産だからみんなで食べて味は保証するよ」

 

「わぁ、めっちゃすごい。ミッシェルの形してるー」

 

「りみーチョココロネもあるよ」

 

「ちゃんとみんなの分あるんだからゆっくり食べよ。ね?」

 

それぞれがパンやモナカを手に取る中、立て掛けられたベースやギターそして奥にあるキーボードとドラムに目を向けた。

先程まで練習中だったのだろうアンプのスイッチが入ったままで放置されていた。

席を立ちアンプのそばに寄って、スイッチを落とした。

 

「このランダムスターは誰のかな?」

 

「ハイ!私のです」

 

「元気がよろしくて結構だけど、アンプの電源を入れっぱなしにするのは感心しないな。せっかくの良いアンプも中のコンデンサが摩耗したら修理しないといけないから大変だよ」

 

席に着き、入った麦茶を飲もうと手を伸ばして止まる。

 

「・・・何?」

 

無言でみんなにこちらを見つめられると、流石に困り果てる。

別に何かおかしなことを言った覚えはなくて首を傾げる。

 

「やけに、詳しいんだな」

 

「昔教えてもらったし、機械いじりを仕事にしてる仲間に色々教わってるんだ。俺みたいなのは手に職ないと雇ってもらえないからな」

 

昔は、プロボクサーになるつもりはかけらもなかったし、高卒で仕事に就くつもりだったってのもあったからだ。

 

「ドラムの方はもっと詳しいけどね」

 

「なんで、沙綾が自慢気に言うんだよ」

 

「え、ドラムも詳しいんですか?」

 

「アタシにドラム教えてくれたのタクミなんだよね。分かりやすいし、ドラム自体もとっても上手かったよ」

 

驚く牛込さんに自分の事のように言う沙綾に苦笑しながら続けた。

 

「お前に叩いてるとこ見せたのは、基礎くらいだからな。本気で叩いてるのは動画で見せたやつくらいだろ」

 

その昔まだドラムをやめる前くらいだろう。

たしか、巴にドラムを教えるために動画を撮ったのをそのまま沙綾に見せた筈だ。

 

「ねぇ、日高君に私たちの曲聴いてもらわない?」

 

「はぁ?香澄お前本気か?」

 

「あ、いいかも」

 

「ちょま、おたえまで」

 

「わ、私もいい考えだと思うよ。だってCircleでのライブに向けて色々感想とか聞きたいし」

 

「りみまで・・・確かにそうだけどよ」

 

チラッとこちらを見る市ヶ谷さんと目が合う。

肩を竦めると、ため息をつかれた。

 

「沙綾はどうなんだ?」

 

「うーん・・・私はちょっと怖いかな。久々にドラム聴かせる訳だし昔教えてもらった時からかなりブランクあるから前に比べて下手って言われそうでって痛い痛い痛い」

 

そう言う沙綾の頬を引っ張た。

 

「いいか沙綾。俺は別にお前がドラム下手になったからって文句は言わない。せいぜい今のお前に合う練習の仕方を伝えてやる程度だ。だが、そうやって今の自分の音を卑下するのは良くない」

 

頬から手を離し、今度は頭を撫でる。

少しだけ頰に赤みが差したのは頰を引っ張たからだろう。

 

「いいか?俺はお前の音が好きだ。その気持ちを踏み躙るのは止めろ。それに前の音は前のメンバーと一緒に作りあげたもので、今の音は今のメンバーと作り上げたものだろ。それを比べる訳ないだろ。今のお前の音を俺は聴きたいんだから下手になったとか考えてんじゃねぇよ」

 

「・・・好きなのは音だけなんだ」

 

「さあ?どうだかな」

 

口を尖らせて答える沙綾に目線を逸らして答えた。

馬鹿みたいに一生懸命語ったせいで頰に熱が差し周りの視線が気になって壁を見てて気を紛らわした。

 

「それでイチャついてるとこ悪いけど、沙綾はやるのか?」

 

「別にイチャついてはないけど、ここまで好きだって言われたらやらないとね」

 

「ったく仕方ない。じゃあ、さっさとやるぞ」

 

それぞれが各自の定位置について、アイコンタクトを交わし始める。

沙綾のカウントで始まるその曲は技術的に見ればお世辞にもとても上手いという訳でもないが何か引き込まれるようなものを感じた。

音楽を心の底から楽しんでいるのだろう。

顔を見れば分かるなんて言えるほど人の心が読める訳では決してないけれど、彼女達の表情を昔の記憶に残る表情と被る。

なんとも言えない気持ちが心にだけ残った。

 

 

×××

 

 

 

「じゃあね、みんな」

 

「気をつけて帰れよ」

 

「みんなで泊まれたら良かったんだけどねー」

 

「仕方ないよーりみりんは明日用事あるみたいだし、沙綾は家の手伝いあるんだから」

 

「ごめんね。また、今度みんなで泊まろうねおたえちゃん」

 

「うん。その時は、おっちゃんも連れて来る」

 

「いや、連れて来るなよ」

 

女子トークが繰り広げる中笑いながら切り出した。

 

「じゃあ、またねみんなの曲良かったよ。次のライブの時行く予定だから。またその時にね」

 

「げっ、お前来るのかよ」

 

「一応ね、まあ今日聴けなかった曲も聴けるだろうから楽しみにしてるよ。じゃあ、俺はこれで」

 

先に歩き始めると、別れの挨拶をした沙綾が早歩きで付いて来た。

横の沙綾のペースに合わせて歩調を落とすと、横で笑う声が聞こえてきた。横を見ると、笑う沙綾と目が合う。

 

「んだよ?」

 

「べっつにー」

 

そう言って、身体を寄せて来た。

溜息を吐きながら、優しく手を引き自分の左側である歩道側に誘導すると、また笑いだした。

 

「タクミって本当優しいよねー」

 

「お前みたいに世話になってなかったら絶対優しくはしないけどな」

 

そう言った直後今度は、手を握られる。

このなんとも言えないどうしようもないくらい甘い空気感に思わず顔を顰める。

 

「暑いからあんまくっつくなよ」

 

「でも、手振り解かないんだね」

 

「うるせ」

 

帰り道を共にしながらドラムの練習方について少しだけ話した。

その日の夕食はこの一週間の中でも一番温かった気がしたのはきっと気のせいでは無かったんだろう。

 

 




デレステとミリシタにハマりました。
デレステは飛鳥君推しでミリシタはジュリア推しです。
もう少し頻度上げれるよう頑張ります。
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