彼女達が笑うために   作:怠さの塊

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めっちゃ間隔が開きました。
すいません個人的な要件が立て込んで忙しくなってました。


13話

「♪〜〜〜」

 

鼻唄に時々口笛を交えながらでBruno MarsのThe Lazy Songを謳う。

えらく上機嫌に見えるかもしれないが実際はその逆でとても不機嫌だった。

嫌な事を忘れるために口笛や鼻唄で誤魔化すのが癖になったのはいつからだったか覚えてないが日菜さんに指摘されてから気付くようになった癖である。

紗夜さんと日菜さんが俺のことを知ってくれてるというのは嬉しい事だが隠し事が出来ないのは少しだけ厄介なものだ。

ヘッドホンから流れてくる歌詞を口ずさみながら観に行く約束をしていたらライブ会場に向かうと長蛇の列が出来ていた。

そしてその中で列整理をしていたまりなさんと目が合い会釈すると凄い勢いで荷物を持ってない方の手を掴まれ、CiRCLEの中へと連れて行かれる。

 

「えっ、ちょっとまりなさん急になんですか?」

 

「みんな助っ人が来てくれたからもう安心だよ!」

 

「流石です。まりなさん助かりました」

 

「これで少しは楽になるわ」

 

スタッフさんがそれぞれ嬉しそうにしているが話の読めない俺からすれば疑問でしかない。

 

「いや、助っ人って………俺今日はお客様ですよ。ってあれまりなさん?」

 

気付いたら列の最後尾まで猛ダッシュしていくまりなさんの後ろ姿を眺めていた。

肩に手を置かれ、振り返るとスタッフ用のTシャツと更衣室を指さしたスタッフさんがニコニコしているの見て諦めがついた。

今日はマジで何もしたくない1日だった筈なのにいつのまにかライブハウスの助っ人である自分が非常に笑えない。

 

×××

「こちら、コーラとスプライトになります。次の方どうぞ」

 

大勢の客がいたらドリンクコーナーを回すのも一苦労だろう。

諦めから来る無我の境地というやつなのか注文を手早く捌いていく。

 

「ありがとう日高君。本当にありがとう!」

 

「いえ、大丈夫ですよそれよりも人手不足深刻ですね。出来たばかりとは聞いてましたがここまでとは……」

 

必要最低限の人数で回してはいるがいかんせん客が多すぎて手が回っていない様子だ。

 

「次の方ーどうぞ」

 

そう言ってお客様の顔を確認してみるとあまりにも意外な人物だったため表情に出してしまった。

お客様はそれを嗜めるように咳払いをしてメニュー表を確認し始める。

 

「烏龍茶とお前は何する?」

 

「私も同じので」

 

「烏龍茶が御二つですね。少々お待ち下さい」

 

注文を承り同じドリンク担当のスタッフさんが準備してる間に改めて頭を下げた。

 

「お久しぶりですね美竹さん。娘さんの出番が書かれたセトリはあちらの方に貼られてるのでご確認下さい」

 

まさか、美竹御夫妻が来るとは思いもよらなかった。

思いもよらぬお客様相手に少しだけ緊張感が流れたがその空気を感じてか奥さんが話始める。

 

「いつも蘭がお世話になってます。タクミ君も大きくなったわねー新聞見たわよボクシングも優勝して頑張ってるみたいね」

 

「いえ、こちらこそお世話なってます。ボクシングは唯一の取り柄みたいなものですので・・・それで、あのなんでしょうか」

 

未だに蘭の父親がこちらを見つめてくる。

なんというか昔と変わらない眼圧で睨まれると正直困ってしまう。

 

「こら、貴方良い加減にしなさい。タクミ君も困ってるでしょ」

 

「す、すまない。その優勝おめでとう・・・そのところでだな、娘達のバンドの調子はどうなんだね?」

 

正直そんなこと自分で聞いて欲しいのだがこの親子は口下手なところが似ているためその手の話は一切しないのだろう。

呆れてしまうがこの人もこの人なりに娘達を心配する1人の親なのだと感じた。

 

「この前練習を見た限りでは完成度も高くて本番が楽しみだって感じでしたね。心配しなくてもアイツらはきちんとやってますよ」

 

その言葉を聞いて安心したように胸を撫で下ろす。

余程娘のことを気にかけているのだろう不器用ではあるがきっと良い父親なんだと再度思う。

 

「そうだ!これ差し入れなんだけど、タクミ君から渡しておいて欲しいのだけど今いいかしら?」

 

「あ、ハイ。分かりました自分の方から後で渡しておきますね」

 

受け取った差し入れをカウンターに置き、今度は烏龍茶を手渡した。

「こちら烏龍茶になります。ライブ開始までもうしばらくお待ち下さい」

 

列を離れていく美竹夫妻を見送りながらも次のお客様の注文を取り始めた。

 

×××

 

「で、これが蘭のお父さんとお母さんからの差し入れね」

 

「……………ありがとう」

 

観に来て欲しくなかったのだろうか蘭の顔が曇るがそれを横目にモカとひまりが差し入れの袋を開け始めた。

 

「わぁ、みてみてこのドーナツ!」

 

「ああ、それ女子高生に人気な奴じゃん。この前めっちゃ並んでようやく食べれたんだよな」

 

「え、嘘なんで私達誘ってくれなかったの?」

 

「いや、だってひまりダイエット中だったし、俺ますきと・・・友達と言ってただけだしさ」

 

ダイエットしてるときに誘うのは流石にダメだと思うし、日頃の食べ過ぎが原因なのにこれ以上原因を作るのはどうだろうと真剣に悩んだ末のことだった。

 

「いいんじゃないの〜今回は食べれたんだし、ひーちゃんは日頃から食べすぎだと思うな〜」

 

「モカがそれ言う?アタシだって日頃から抑えようとしてるし身体動かしてるんだからね!」

 

そう言いつつもドーナツに手をつけるひまりを宥めながらみんながドーナツに手をつける。

 

「てか、俺からも差し入れあったんだけどさ」

 

ビニールに入った箱をテーブルに置くとそれぞれが目を輝かせる。

巷で話題の行列のできるワッフルを差し入れとして買ってきたのだが今は流石に食べきれないだろう。

 

「これ、ライブ終わってからにする?まりなさんに頼んで冷蔵庫に入れててもらうけど」

 

「え、これ本当に良いの?」

 

「これってテレビに出てたスゲー行列の出来るって有名なワッフルじゃないのか?」

 

「市ヶ谷さんも今井先輩も皆さん気にしないで食べて下さい。あ、でもその代わりに今回のライブ頑張って下さいね」

 

他のスタッフさんにも全員分あることを伝えて箱を手渡すと喜ばれた。

やはり、この手の差し入れは女性受けが良いのだろう。

開始時間は残り15分を切ったところでそれぞれ弟子に声をかける。

緊張をほぐすのも兼ねてという意味合いもあるが基本的には応援的な意味合いが大きい。

 

「沙綾調子はどうだ?」

 

「アハハ・・・やっぱりライブって慣れないね。少し緊張しちゃうよ」

 

「良い傾向じゃねーか。適度に緊張した方が集中できるんだからな。それと俺は初めてお前がライブするのを観るから改めて言わせてくれ」

 

いつにない緊張感が漂ってはいるが別に対したことを言うつもりはなかったし、なんでか気が削がれた。

 

「………やっぱりやめた。言わなくても沙綾はもう分かってるだろうし」

 

「ちょっと、言いたいことがあるっていうから身構えたのに何なの!」

 

「いや、なんでもねーよ。お前ならやれるから頑張れな」

 

笑いながら頭を撫でるとやるせない表情で見つめられる。

正直この手の心構えは俺よりも沙綾の方が分かっているだろう。

 

「じゃあ、他の人達に声かけてくるからまた後でな。ライブ楽しみにしてるから」

 

そう言って沙綾の元を離れてRoseliaの元へ向かう。

どうにも調子が出ない何を言えばいいのか分からなかったが意を決して話しかけた。

 

「調子はどうですか紗夜さん」

 

「・・・練習は本番のように、本番は練習のように。私はいつも通りの演奏をするだけです」

 

「やっぱり流石ですね・・・俺応援してますね」

 

集中してる紗夜さんの姿見て息を呑んだ。

ああ、やはりこの人はこういう人なんだと思う。不器用ながらも前に進み続ける力強い人だと再認識した。

 

「あ、日高さん今日のあこのカッコイイドラム見てて下さいね!」

 

「ああ、ちゃんと見てるさ・・・俺なりに君の成長に繋がるような指導を出来るようにね」

 

「ハイ、あこ精一杯頑張ります!」

 

流石は巴の妹気合いの入った子だなと感心する。

この子の為に俺に出来ることは限られてはいるが、そのことがRoseliaのひいては紗夜さんの為になるんだと思う。

 

「じゃあ、また後でな。Roseliaの皆さんも頑張って下さい」

 

それと同じように他バンドにも声を掛けたが、いかんせん俺の事をよく知らないメンバーからは警戒されるばかりだ。

悪名の高さもここまで来るとただただ厄介でしかない。

 

「みんなー開始5分前だけど、準備は良い?」

 

「「「「「ハイ!」」」」」

 

そう言って入ってくるまりなさんがみんなを見渡すとそれに答えるように全バンドが声を揃えて返事をする。

気合いの入り方が違うなと感心した。

みんなが集まって円陣を組み、巴が隣にスペースを空けて手招きをするが首を左右に振り部屋を出る。

冷たく鳴り響くドアの音の後に、それぞれ掛け声に合わせるように声を上げているのが聞こえてきた。

そんな声を聴いて1人控え室のドアの横に座り込む。

 

「捨てた筈なのに・・・女々しいんだよクソ」

 

自分自身への叱責が声に出た。

楽しみにしてた筈なのに昔を思い出したのだ。

笑い合って、時に厳しくも楽しく過ごした日々だ。

結局ドラムやめてからは忘れるようにがむしゃらにボクシングに打ち込んだ結果が今の自分なんだと言い聞かせる。

やめてよかったんだ。捨てて良かったんだ。

こみ上げてくる虚無感を押し殺すように言い聞かせながらライブ会場のドアを開けた。

大勢の人が集まる空間の中には1人2人程度に顔を知っている人もいるのかもしれないがライブ直前は周りを気にしていないからか誰にも気づかれない。

ライトの光がステージを照らし始めると、会場のボルテージは高まりだす。

眩しいステージに立つ彼女らを見ていると胸が締め付けられる感覚に陥る。

 

「眩しいよ・・・みんな」

 

遠く遠く手が届かないくらいに遠い。

夢見た過去は今は遠い。手に入れようとする未来も同じように遠い。

並び立ちたい人達は背中すら見えない。

何を捨てて、その代わり何を得たのか俺には分からない。

けど、俺から彼女達にあげれるものというのは何かあるんだと思っていないとドラムを教えたり、アドバイスをするなんてことはおこがましいとすら感じる。

矛盾してるんだと再認識することがある。

巴と沙綾にドラムを教えるようになって2人が上達していくに連れて、自分の存在の必要の無さを感じることがある。

上手くなって欲しい、けど俺の見える位置に手の届く位置にいて欲しいという相反する思いがあるんだ。

自己嫌悪が更なる吐き気を催してくる、胸が心が痛くなる。

悪魔にも心があるのだと今まで何度自嘲してきたのだろうか。

それでも受け止めるべく彼女達のライブ見続ける。

並び立ちたい存在が更に遠く感じても。

 

×××

 

 

「みんなお疲れ様!それじゃあ、勝手ながら私月島まりながライブの成功を祝して乾杯の音頭をとらせてもらいます。・・・乾杯!」

 

「「「「「乾杯!」」」」」

 

グラスをぶつけ合う音の後に沢山の笑い声に溢れる。

ライブは無事に大盛況で終えることができて一安心したのだろう。

ライブ会場の片付けを手伝っていると、日菜さんに手を引かれて連れて行かれたと思えばこれである。

テーブルの上にはお菓子類や差し入れに渡したスイーツの類が広がっていた。

打ち上げの最中だったのだろう各自が色んな菓子を摘んでいる。

 

「あ、タクミ君も今日まで手伝ってくれてありがとう!これは、ウチのスタッフからのささやかな打ち上げ用のお菓子だけど、どうぞ」

 

「いえ、自分は特に何かした訳ではないので気にしないで下さい。えっと、・・・・・皆さんのライブ凄かったです。正直感動しました………

自分なんかに言われてもあれですけど、これからも頑張って下さい応援してます。じゃあ、俺片付けに戻りますんで」

 

来た道を引き返そうとすると、巴に肩を掴まれ引き戻される。

頼むからやめてくれとばかりに顔を曇らして首をふるが、無理に紙コップを手渡されてジュースをなみなみと注がれる。

 

「巴分かるだろ?・・・・・流石に場違いなんだもう勘弁してくれよ。

俺だって馬鹿じゃないんだ空気も読めるし、人の気持ちくらい察せる・・・・・だからほっといてくれ」

 

堪らず絞り出すように出した声の後にコップに注がれたジュースを飲み干してゴミ袋に捨てて階段を降りる。

巴や沙綾の後ろから呼ぶ声を無視して開いたドアがいつになく重たく感じるのはきっと気のせいだ。

会場の掃除をしながら1人ドラムの前に立ち尽くす。

捨てたものにしがみつく自分の浅ましさを反吐が出ると吐き捨てるのは簡単なことだ。

 

「ねぇ、今日のタクミ全然るんっ!ってしないけどどうしたの?」

 

「・・・調子悪いだけですよ」

 

開いたドアから入って来た日菜さんに溢すように言う。

 

「ヨイショ!」

 

「ちょっと日菜さんそこライトあるんだから、あんまり座らないで下さいよ」

 

「じゃあ、すぐに済むからこっちに来て!」

 

ステージに座り込む日菜さんに諭すように言うがどこ吹く風とばかりに聴き流す日菜さんが隣に腰掛けるようにと手を引っ張る。

渋々隣に座ると、今度は頭を無理矢理膝の上に置くように指示される。

 

「これ、良いね!膝枕って言うんだっけ?今度お姉ちゃんにしてもらおうっと」

 

「ん、成功すると・・・いいですね」

 

頭を撫でられると少しだけ心が落ち着く。

少しだけ眠くなり、欠伸をすると日菜さんが小さく零した。

 

「タクミは頑張ってるよ………いつだって一生懸命にがむしゃらに頑張ってるのを知ってるよ。けど、たまには休まなくちゃ」

 

「……脇目も振らずに頑張らないといつか2人の背中すら見えなくなるかもしれないから怖いんですよ。紗夜さんも日菜さんも遠い存在に感じることがあるから」

 

別に紗夜さんや日菜さんに限った話ではない。

自分が育てあげた巴や沙綾だってそうだ。常に進み続ける彼女達が眩しく感じる。

目を瞑るとみんなが離れていく姿が浮かんでくる。

鎮まりきった空気のなか急に唇に柔らかい感触を感じて、慌てて目を見開く。

 

「・・・大丈夫、私はいつだってタクミの側にいるよ。もし、タクミが立ち止まっても私が手を引いてあげる!」

 

別に初キスというわけではないが、この歳になると少しだけ気恥ずかしさだけが残る。

 

「手を引いてあげる……ね」

 

目から溢れた涙を拭って笑うと日菜さんもそれに釣られて笑い出す。

ああ、そうだよ。この人はこういう人だった。

 

「じゃあ、そろそろ戻ろっか?」

 

「そうですね」

 

起き上がった俺のそばから立ち上がり、出口のドアに向かう日菜さんが振り向き手を差し伸べる。

それを無言で握るとにこやかに笑顔を浮かべる彼女を見てこちらも自然と笑顔になるのだから不思議なものだと思う。

 

「日菜さん」

 

「ん〜どうかした?」

 

「ありがとうございます」

 

「アタシ何かしたっけ?」

 

「いや、なんとなくですよ」

 

「ええ〜何それ?」

 




主人公の設定も考えました。
そろそろ真面目に月一投稿出来るように頑張りたいです。
これからも応援お願いします。
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