彼女達が笑うために   作:怠さの塊

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今回は前にも書いてることを仄めかしていた過去の話。最低最悪な生まれと育ちをしたタクミが高校に上がるまでに紗夜と日菜その他の人達のおかげで救われて壊れた話です。


過去
1話


自分の住む部屋の窓から喘ぎ声が聞こえてくる。

中で何が行われているのかは、幼いながらも理解していた。

行為を行っている部屋から追い出されアパートの階段に座り込めば、冷えた段差に驚いた。

冬も過ぎ去り、もうじき春になるのだろう。

裸になった木に若葉が生えているのがそれを証明していた。

冷たい風が吹くと、冬のような寒さを感じるが春まで一月近くしかないというのが不思議な事だった。

母親が買ってくれたおもちゃで1人遊んでいると、部屋の扉が開かれ1人の男が出てくる。

きっと母との行為を終えたのだろう。

いつも通り立ち上がろうとすると後ろから衝撃が走り前のめりに倒れてしまった。

幸い地面が硬いコンクリートではなく土だったため怪我はしなかったが顔に泥がついてしまった。

 

「邪魔なんだよ糞ガキが!こんなところで遊でんじゃねぇよ。」

 

「ごめんなさい。」

 

舌打ちをしてアパートから出て行った男と入れ違いに部屋に戻ることにした。

部屋の中はいつも通り独特な匂いが充満していて対して不快にも思わなくなってきたらしい。

 

「片付けしとくからいつもの弁当と飲み物買ってきなさい」

 

母親がテーブルに置いてある千円札を指指しながら言った。

無言でお金を取り家を出ると、日が沈み暗くなっていた。

先程にも増して寒くなる一方の夕方に1人買い物に出かける。

コンビニに入れば母と自分の分の弁当そして、飲み物を手に取った。

幼い体には、似つかわしくない量の荷物が入ったコンビニ袋片手に アパートに戻れば、先程より匂いがマシにはなってはいるがどうにも多少の匂いは残っていた。

買って来た弁当を置き、自分の分を取り出し、レンジで母親の分も温めてテーブルに並べている。無言で受けとった母親がテレビをつける

母親のつけたテレビには流行りの芸人が漫才を行なっていて会場を盛り上げている。それを、観ていた母親もつられて笑い声を上げる。

 

そんな母親を見ていると、ふと目が合いすぐに睨まれる。

 

「何見てるのよ」

 

「ごめんなさい」

 

下手に口答えすると、酷い目にあうためこれ以上は何も言わずすぐに風呂場に逃げ込む。

狭い風呂場で手早く身体と頭を洗って出ると、冷蔵庫から取り出したであろう缶ビールが辺りに転がっており顔を赤くした母親がテレビを付けたまま寝ていた。

無言でテレビを消して、独特な匂いが残る寝室から一枚布団を持ってきて母親に被せ、空き缶をゴミ箱に捨てる。

母親は酔い潰れるのは早いが眠るまでが酷くてよく殴られるため早く潰れてくれて良かったと思った。

自分がいつも使っている、布団を引きずりながら玄関付近に広げて寝転がる。

底冷えする床に冷たく思いながらも布団にくるまって寒さに耐えながら目を瞑ると、いつなの間にか意識は闇に落ちていった。

 

 

 

「ガハッ」

 

唐突に鳩尾に衝撃が走り身体をくの字に折り曲げ噎せる。

涙目で起き上がると、化粧をして荷物を持った母親と昨日の男が居た。

 

「3日間旅行に行くから、机に置いてあるお金でご飯を食べなさい」

 

そう言って、玄関を出て行く。

 

「ねぇ、向こうに着いたら沢山シようね?」

 

「分かってるよ。なんなら一回ホテル寄ってからやるか?」

 

「もう、旅館に着いてから今日もう出来ないなんて言わないでよ」

 

階段を降りる年中発情期の母親の猫撫で声に吐き気を覚えつつ顔を洗うため洗面所に向かう。

顔を洗い、万札をポケットに入れてからコンビニに向かった。

3日分の食料として弁当や菓子パンの類と飲み物を買い普段より重くなった袋を片手に部屋に戻る。

テレビを見ながら菓子パンを食べ買ってきたお茶を飲む。

いつもよりも平和でこの先3日は殴られ蹴られる心配もないだろう。

食べ終えたゴミを捨て、鍵をとり少しだけ外出をすることにした。

風が肌寒いがいつもより幸せな気持ちで外出できる幸福を味わえることに喜びを覚える。

今は暴力を振るわれ暴言を吐かれる心配もしなくて良いということがとても嬉しかった。

 

公園に行くと、親子連れや友達と来ている子供しか居なかった。

ブランコまで行き一人で漕いでいるた、親子連れの人の視線を感じた。

 

「あの子の服とってもよれよれね。何処の子かしら?」

 

「それにしても顔にある痣。虐待されてるのかしら?」

 

聞こえてしまったその言葉に胸が痛くなる。

嬉しかった気持ちが急に冷め、ブランコを降りる。

あからさまに言っているとしか思えないその言葉に何も言い返せず、公園を出る。

行くところもなく、家に帰る道中目の前に小さな子猫が現れた。

 

「君も一人ぼっちなの?」

 

そう言って撫でようとすると、威嚇をして逃げていく。

逃げた先には親猫と思わしき猫がいて路地裏に逃げて行った。

先程の威嚇は一人なのはお前だけだと言っているような気がした。

人にも好かれることなく、動物にも好かれない。

もうどうでもよくなって足早に家に戻る。

家の前には知らない車が止まっていた。

だが、それすらもあまり気にならなかった。

幸せに感じた気持ちはどこかに行ったのだろう、階段を登り部屋に向かうと部屋の前に見知らぬ男が立っていた。

 

「何か用ですか?」

 

男は身長が高く、身なりも良くて母親の知り合いには見えなかった。

 

「君がタクミ君かい?」

 

「おじさんは誰ですか?」

 

「私は君の父親だ。君の母親が事故で亡くなったらしい。私のところに連絡が来たから君に伝えないと思ったのだけどね・・・」

 

父と名乗る男がジロジロとこちらを見る。

見すぼらしい服で顔に殴られた痣しか無い自分を見た男は溜息をついた。

 

「君の様子では君の為に振り込んでいた養育費は彼女が使っているのか。それに、顔の痣といい暴力を振るわれているんだな」

 

男は呆れたように言って腕を掴み階段を降りる。

 

「あの何処に行くんですか?」

 

「病院だ。身元確認のために子供の君を連れて来いと警察が言っていた」

 

車に乗り込みエンジンをかけると車内にジャズが流れる。

無言でハンドルを握り、車を走らせる。

自分の父親だと言った男は何を言うこともなく、車を走らせ続けた。

病院に着くと、不思議な部屋に通された。

後で知ったのだがそこは霊安室だったらしい。

台に乗せられた布を取ると、顔は潰れ所々爛れた人が寝転がっていた。

髪は焦げていて、肉の焼けた匂いがした。

事故の悲惨さが現れたソレは指輪などの装飾品や来ていた服から母親だと分かった。

そして、もう一つの死体は朝母親と共に旅行に行った男だったモノだった。

警察に尋ねられた質問に返答しそこで初めて母親の名前を知った。

田浦真美それが母親だった女の本名らしい。

どうでもいい話だが今更になって自分の苗字を知った。

病院のベンチに座り父親と名乗る男がジュースを手渡す。

お礼を言って受け取ったそれを飲みながら父親が話し始めた。

内容としては君は私の子供だから君を育てる義務がある。

一応高校までは面倒を見るので、高校を卒業したらあとは好きにしろとのことだった。

それからは早く借りていたアパートの手続きなどを済ませて、父親とその家族が住む家に住まわせてもらうことになった。

目の痣も癒え、男に連れられて知らない土地に向かう。

 

「ひとまず、挨拶したいところがあるからそこによるがあまり変なことはするなよ」

 

釘を刺した父は車を駐車場の一角に止めて、向かうマンションに着いて行くとある部屋の前に止まり、インターホンを鳴らした。

一言、二言の挨拶を交わして出てきた二人の男女に軽く紹介させらるようだった。

 

「ああ、どうも氷川さん、実は前に話した元妻との子供を引き取りに行って今戻ったところで・・・今日はその紹介に来ました」

 

「ああ、その子が・・・母親を亡くして大変だろうけど、しっかりな」

 

男がそうやって近づいて手を出す。

殴られるのかと思い反射的に後ろに下がると男は少し驚いた顔をした。

 

「この子はどうも人見知りなようなのですいません。私の今の妻の妹さんとその旦那さんとその子供達だ。挨拶しろ」

 

下がった身体を押し戻され前に出される。

 

「タクミです。よろしくお願いします」

 

頭を下げると一緒に出てきた女性が微笑んでいた。

 

「あら、しっかり挨拶出来るなんて偉い子ね。ほら、紗夜と日菜も挨拶しなさい」

 

先程からじっと見つめていた女の子二人が前に出てきた。

 

「姉の氷川紗夜です。よろしくお願いします」

 

「妹の日菜だよ。よろしくね!」

 

そう名乗った二人は眩しいくらいの笑顔を浮かべて挨拶をしてきた。

この二人は公園にいた子達のように幸せな生活を送ってくれるのだろう。

ジーっと見つめてくる二人と目が合うとまた二人が笑顔を向けてくるのが堪らなく怖くなってきた。

向けられる笑顔はいつも暴行を受けている最中の男が浮かべたものだったからだ。

 

「君とってもるんっ♪ってするね」

 

「るんっ?」

 

「気にしないで下さい。いつも日菜が使う表現なので」

 

姉の方がそう言ってフォローを入れた。

正直言ってどうでもよくて適当に相槌を打って終わる。

 

「それで、小学校はどちらに?」

 

「近くの方にと考えておりますが、何分私も忙しいので明日にはアメリカに戻らないといけないので後のことは妻に任せてます」

 

「なるほど、近くのということはウチの子たちと一緒のところですね。紗夜 日菜タクミ君も同じ学校に通うから優しくしてあげなさい」

 

「うん!タクミ君よろしくね」

 

「よろしくねタクミ」

 

「え、はい。よろしくお願いします」

 

自分の知らないところで早々に処遇は決まっているらしい。

小学校・・・テレビでしか見たことがない勉強をするための場所らしいそれを自分は通うことになるらしい。

 

「じゃあ、私達はそろそろ」

 

そう言って挨拶をして家に入ろうとする父親を横目に頭を下げて挨拶をする。

 

「タクミ次は一緒に遊ぼうね」

 

そう言って妹の方が手を振っている彼女達に父と共に別れの挨拶をして、車に戻った。終始無言の車内に流れる音楽とウィンカーの音に耳を傾けながら窓から流れる景色を眺めると

持っている荷物はとても少なくダンボール一箱分しか無かった。

閑静な住宅街の一軒家に車を止める。

 

「ここが今日から君の住む我が家だ。部屋は家族が物置として使っている部屋が余っているからそこを使うといい」

 

無言で玄関を開けると出迎えに来たのは女性と自分よりも小さい男の子がいた。

 

「お帰りなさいアナタ」

 

「すまない、帰ってきてすぐだが明日にはアメリカに戻る。今の仕事を出来るだけ早く終わらせて戻ってくるから」

 

「そうですか、ところでその子が?」

 

「ああ、引き取ったタクミだ。この子のことは君に任せるよ。そうだ、タクミこの人が私の妻の真波と弟になる剛だ」

 

紹介だけして父親は部屋に荷物を持って行った。

改めて真波さんに頭を下げる。

真波さんは蔑むような目をした後に上の部屋の一番端にある部屋を使うように言って剛の手を引いてリビングに戻って行った。

一人取り残された自分としてもどうしようもないのでとりあえず荷物を持ち二階の自分の与えられた個室に行くしかなかった。

 

ああ、思えばこの日からまともな生活を送ることが出来ると思っていた自分を心底嫌いになったことはないだろう。

そして、隣の家の二人が自分を救ってくれるなんてことも当然この時は知りもしなかったんだ。

 

この日からただのタクミから日高巧になった。

人生で最悪な時期から最低な時期に移り変わった日でもあった。

 




主人公が報われない方がなんか文章的に良いのかなと思ってしまうのですがみなさんはどうでしょうか?
本醸醤油様の青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。の終わり方もめっちゃカッケーなと思っていますがやはり、悲哀は嫌だなって人もいるんですよね。自分は面白ければなんでもいいのでアナザーストーリーも楽しく拝見させてもらいました。
この作品の場合はタクミを幸せにして終わるかどうかは多分気分です
だから今の段階でどうなるか分かりません。
こんな作品ですがどうか宜しくおねがいします。
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