無言で教室の扉を開き自分の席に座る。それまでの行動だけなのに先程まで賑やかな雰囲気だった教室が一気に重苦しい雰囲気に変わる。
別に学校で問題を起こしたことは一度もない だけど、中学での行いが周りに知られているせいかクラスに馴染めない ただ、クラスに入るだけでこれだから友達と呼べる人物が少ないのも当然だろう
卓に突っ伏して外を眺めていると、声を掛けられた。
「おはよう」
「おはよう。なあ、蘭あまり俺に話し掛けない方がいいって言っただろ。蘭は、バンドが有名になってからクラスでそんなに浮くことが無くなったのに俺みたいなのと仲良いって思われるとまたクラスで浮くぞ」
「別に私は気にしないし」
「気にしないとかじゃなないんだよ。はあ、とりあえず座りなよ」
「うん」
隣の席に座る蘭は、小学校から顔見知りではあったが気難しい性格や彼女の理解者である幼馴染とクラスが別になってからは中学で浮くようになっていたのに加えて、顔見知りの俺と一緒にいたことや当初授業をサボってたことで裏で色々言われていたが彼女はバンドをやり始めてから授業にちゃんと出るようになりそういう類の陰口は言われなくなった 。
まあ、ここだけの話一時期授業に出なくなった時に蘭の親父さん呼び出されお前が娘を不良にしたのかと言われ2、3発顔を殴られたのをよく覚えている。
「蘭が気にしなくても俺は気にするよ。蘭が俺のせいでまた浮いたりしたら今度は花鋏片手に蘭の親父さんに追い回されそうだからな」
「そんなことになったら絶対家出する」
「勘弁してくれよ冗談にしても笑えないそんな日には、本当に俺の家に蘭の親父さんが殴り込みに来そうだ」
あの人は娘のことになると頑固だし、男の俺が絡むと余計に暴走してしまうから本当にやりそうで恐ろしい
「それにしても巧は変わったよね。私みたいに授業サボってたくせにちゃんと受けるようになったし、あの頃みたいに喧嘩もしなくなった」
「まあ、ボクシング始めたからな。それに、親父がちゃんと授業出ることを条件にジムの金出してくれるから」
「アンタも私も好きなこと始めて変わったってところだね」
「でもな、俺に対するみんなの反応が変わらないよ。喧嘩ばかりしていたんだからさそんな腫れ物扱いされてる俺なんかと仲が良いって知られたらホントに浮くぞ。俺は嫌だからな蘭が根拠も無いことで悪口言われるのも何もしてないのにあることないこと勝手に言われるのも」
「アンタはまたそうやって恥ずかしいことを言って」
「わざとだ。そう言えば蘭が弱いことは昔からの付き合いで分かってるからな」
「ホントに調子狂う」
「わざとだよそうやっとけば、蘭が話を切ること知ってるからね」
頰を赤く染めて、機嫌を悪くした彼女が窓の外を向いたのを確認してから、机に突っ伏して寝ることにした
4時間目を過ぎ、昼休みに入ると昼食を食べるためにクラスがざわつき始めた 蘭もメンバーと食べるからか早々と教室を出て行き 一緒に食べる人もいないから屋上あたりで飯を食べるために弁当を持って屋上に上がった
「人居なくて助かった 俺がいるだけで雰囲気悪くなるから居場所に困るよ」
独り言を呟き影に座りこんでから空を見上げる
空には、鰯雲がありそよ風が吹いていて気持ちが良かった
無言でボーっとしていると喋り声と共に誰かが屋上に入ってくる音がした
「リサさ〜ん奇遇ですね〜 私達も屋上で食べようと思ってたんですよ〜 ね〜 蘭?」
「なんで私まで」
「いやー 奇遇だね。私も友紀那と屋上で食べようって話してたんだよね」
入ってきたのは、AftergrowとRoseliaの湊先輩と今井先輩だった
正直居心地が悪くて屋上から出て行こうとすると肩を掴まれた。
「何処行こうとしてるんだ 巧?」
「喉乾いたから飲み物欲しいなと思ってな」
「奇遇だな アタシも喉乾いたから飲み物欲しいんだ 一緒に買いに行こうぜ」
「はぁ 邪魔かなと思ったから出て行こうとしただけだよ だから、肩から手を離してくれ 巴」
「別に邪魔なんかじゃないさ 昔からの付き合いで気心の知れた仲なんだからな」
強制連行される形で巴に引っ張られてみんながいる場所まで連れて行かれる。周りから見れば駄々を捏ねる子とその母の構図に思えてしまい恥ずかしくてしょうがない
「あ、た〜くんだ〜 超絶美少女のモカちゃんと一緒にお昼食べたいの〜?」
「あ、俺 超絶美少女と一緒に飯食ったら尊すぎて死んじゃうから他で飯食べますね」
再度逃げ出そうとすると、巴が睨んで拳を鳴らす 最早その姿が様になっている彼女に睨まれたら 動けるはずもなかった
「ゴメン 冗談だから 俺 巴とはやり合ったら負ける気がするからホントに」
そんな光景を目の当たりににした今井先輩はクスクスと笑い出した。
何がおかしかったのかよくわからないから首を傾げていると目が合った
「ゴメン ゴメン 噂では、喧嘩で負けた事ないだとか2学年上にも喧嘩で勝ったとか舎弟が100人くらいいるって聞いてたんだけど なんか噂と違うなって思ってさー」
「噂のほとんどはホントのことですよ 喧嘩して負けたことないし、中1の時に喧嘩して2学年上の先輩を倒しましたから 舎弟100人は流石にないですが 」
「なんか噂と違うなー 紗夜がそんなに言う人には思えないな」
「紗夜さんですか まあ、あの人も日菜さんと色々ありますからね そんな中で俺と同じみたいに言われたら怒るのも当然ですよ 」
弁当の蓋を開けて食べ始めるとつぐみが驚いた顔をした
「え、タクミ君 弁当それだけなの?」
正直弁当の少なさに関しては目を瞑っていたがやはり周りからしたら異常なんだろう
「八月に全国大会があるからそれに向けて、減量中 だから、この量なんだよね」
減量というのは、苦しいもので試合1週間前にはほとんど水も飲めないし、食事も制限される ボクサー自体常に体重に気を使わないといけないし、何より減量期間中は精神力が必要になってくる もし、途中で投げ出したらその分だけペナルティーがあるからだ
「タクミは体重どれくらい減らすの?」
「食事量と水分量を制限して自分の体調を保てるギリギリまで落とすつもり 俺はライト級だから最低でも60キロまで落とさないといけないんだ まあ、あくまで最低だからそれ以上落とすつもりなんだけどな ひまり 聞いたからって実践するなよ 慣れない奴がやると命に関わるからな」
質問をしてきたひまりに釘を刺しておけば実践なんかしないだろうと思っていると
「やっぱり 目的に対してストイックなところは紗夜に似てるわね」
先程から口を開かなかったが、やはりボーカルだなと思わせる 周りの目を惹くような声をしていた 鳥籠の歌姫は伊達じゃないらしい そんな彼女が関心したように言った
「やめて下さいよ 似てるなんて言ったらあの人マジで怒りますよ
それに俺は適度に遊んでるからストイックじゃないです まあ 勝つ為の努力を怠ることはないですけどね」
「ねぇ そういえばさ 紗夜と従兄弟ってことは日菜ともだよね 日菜とは仲良いの?」
「まあ、日菜さんとも仲良いですけど、 俺なんかより姉妹仲がもっと仲良くなって欲しいですかね 」
あの姉の後ばかり追いかける妹と妹に対してコンプレックスを抱くようになった姉 あの二人の摩擦をどうにかしたいが方法が思いつかないからもどかしくてしょうがなかった
「確かにアタシもそれは思うかな 紗夜は日菜が絡むと明らかに嫌そうな顔するもんねー どうにかなれば良いけどさー」
「それをどうにかするのが従姉妹の俺ですよ 身内の問題は身内でケリをつける 他所の人に迷惑なんかかけれませんから じゃ、ご馳走さまです 」
そこで話を切り弁当を袋に戻して教室に戻ることにした あまり、一緒に居て誤解を招くことになったら頭が上がらないからだ
階段を降りながら左耳にある塞がったピアスの穴を弄りだす。
悪い癖だとわかっているがやめれない悪癖だ
二人に認められたいという承認欲求とあの二人に出来た頼れる友人達がいる事で自分の必要性の無さを感じるという矛盾した思いが残る
友人が少なく、社会の底辺であるヤンキーの自分にも少なからず承認欲求があることに自嘲してしまう
学校が終わりジムに行けば大会に向けての追い込みでいつも以上にキツイ練習に追われた
汗を流すためのシャワーを浴びて家に帰る頃には9時を過ぎていて街灯に照らされた道を歩いて帰れば、灯りのついた氷川家のその隣りにある 自分の住ませて貰っている家に入る。
無言で家に入れば母親の真波さんがリビングでテレビを観ていた
「夕飯食べたら皿洗いしときなさいね あと、洗濯も回して夜のうちに干しときなさい 」
「分かりました 真波さん 」
お笑い番組を観て笑う彼女を横目に二階に上がり、自室とは名ばかりの物置と変わらない部屋に荷物を置く。
制服のまま部屋を出ると、ちょうど部屋から顔を覗かせる弟の剛と目が合った。
「バタバタうるさいんだけど、静かにしてくんない 」
「悪かったな。進学校受験の奴の勉強を邪魔して 」
音も立ててないのに、難癖つけられたから皮肉で返す 。
「それとも、勉強じゃなくてシコってたか?なら邪魔したな、今度から部屋の前通る時はちゃんとノックしてやるよ 」
「してねーよ。なんで家族でもないお前がこの家にいるんだよ 早く出てけよ馬鹿」
顔を赤くして怒鳴りながら、部屋のドアを閉める。
少しだけ鬱憤が晴れて、いくらか気分がマシになった。
それにしても図星だな 顔を覗かせた時に見えた 床に放置されたティシュから判断したがどうやら当たりだったらしい。
階段を降りれば、不機嫌な顔をした 真波さんが立っていた。
「あの子はあなたとは違って優秀なのよ。今度あの子邪魔をしたら家を追い出すわよ」
「すいませんでした」
向こうから突っ掛かってきて、言い返すとこれだ
息子が息子なら親は親らしい 父親と母親がクズなら息子もクズか
自分が言える訳じゃないけど
リビングから逃げるようにキッチンに入り、冷蔵庫を開けば買ってきた野菜とササミでサラダを作り、食べながら片手にスマホを持ち同階級の前大会の優勝者や優勝候補の過去の映像を観る。
今日も変わりばえしない1日だと思えばどうでもよくなる。
時計の秒針の音がまるでそれを肯定するかのように部屋で鳴り響いた。
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アイリP様 高評価ありがとうございます
この作品は気分で書いておりますので、更新は気分なので非常にマイペースです。ご容赦下さい。