あと、感想 評価 お待ちしています。
基本マイペースなので次の更新はいつになるかわかりません。
花金だと呼ばれる夜は憂鬱を超えて不機嫌になる。
明日の午後に、学校に来るようにという連絡を受けた。
午前中の練習の後に学校の方に寄られないといけないと思うと、酷く憂鬱になる。
自分の洋服が入った少ないダンボールと簡易的な机そして、この家の住人の洋服が入ったダンボールが部屋の半分を占拠している。
そんな部屋で机を片付けて布団をひけばやっと寝れるレベルになる。
ふとダンボールの上に目を向ければ折れたドラムスティックがあった
二本の折れたドラムスティックをダンボール箱の中に突っ込みため息をつく。
未練がましいのはいけないことだとわかっているが、どうしても捨てることが出来ない。
そんな気持ちも裏腹に敷いた布団に寝転び天井を見上げればいつのまにかウトウトし始めいずれ眠くなって瞼が下がるのを最後に意識が落ちた。
「お疲れ様でした」
「おう おつかれ タクミ 私服ってことはどっか出かけるのか?」
「あー 顧問に呼び出されて一回学校に顔出さないといけないので」
「大会のことか?」
「俺も詳しくは知りませんよ じゃあ、先輩も練習頑張って下さいね」
そう言って、ジムを出る頃には2時前になっており慌てて学校へ向かう
本当はどんな理由で呼び出されたかなんて分かっているがあまり人に知られたくなかったから適当にはぐらかした。
真昼間の暑さのなか学校に向かえばやはりどの部活も大会シーズンだからか気合いの入った練習をしておりそんな練習風景を見ながら職員室に向かう。
職員室の中はクーラーが付いており外の暑さに比べたら寒すぎるくらいだった。
「 上村先生はいらっしゃいますか?」
「上村先生なら演劇部の方がに向かいましたよ」
「ありがとうございます」
あの先生は人を呼び出しておいて居ないんだから本当にいい度胸してやがる。そんなことを思いながら演劇部の部室に向かえば沢山の人が行ったり来たりを繰り返していた。
次の講演の準備中なんだろう。中に入れば忙しなく働き続ける人達の視線が突き刺さる。こんな場所に居て良い人間ではないことは分かってる。だが、こちらにも呼ばれた理由があるのだから仕方がない。
生徒に囲まれた1人の若い教師を恨みがましく睨みつつ後ろから声をかけた。
「人を呼びつけるとはどういう要件だ ブラウニー」
「先生はお手伝い妖精なんかじゃない それと、上村先生と呼べと言っているだろ タクミ」
「頼み事を断らないからブラウニーって呼んでるんですよ それと何の要件ですか ある程度予測は出来ますが」
周りの様子を見渡しながら聞くとにんまりと笑いながら奴は言った。
「演劇部が来週に講演をするんだ その準備を手伝って欲しい 」
それを聴いた生徒が訝しむようにこっちを見る。
何を言いたいかなんて分かってる。だから、いちいちこっちを見ないで欲しい。こちらにもこちらの理由があるのだから。
「それは契約に基づいてですか?」
「ああ、そういうことだ」
「分かりました なら、手伝いますよ 」
「よし じゃあ、今から日高も手伝いをするからだれかアイツに仕事を教えてやってくれ 」
そう言って、演劇部の部長ともう1人背の高い女性が来た。
「やあ タクミ すまないね 手伝って貰って」
「別に気にしないで下さい これも仕事なので それに瀬田先輩やハロハピの皆さんには前に世話になりましたから そのお礼だと思って貰えると助かります」
「そう言って貰えて嬉しいよ 公演前は常に人手不足だからね 私達演劇部としても助かるよ」
「そういう社交辞令とかいいんで、仕事下さい 時間足りないんですよね」
「あ、ああ そうだね じゃあ、君には麻耶と一緒に裏方の仕事を手伝ってもらうよ 」
そう言って、作業をしていた女性を呼ぶと耳うちをして指示をしていた。
「えっと 日高さんは自分と一緒に来て下さい あと、何か得意なことってありますか? 」
「ああ、大和さん タクミなら何でも出来るよ 機械弄りも教えたら完璧に覚えたから 」
ブラウニーこと上村先生が答える 元を辿ればアンタのせいで覚えさせられたんだろうがと文句を言いたくなるのを抑えた。
「そうは言っても素人なんで機械弄りはちょっと不安ですから他の事ならある程度は出来ますよ 」
「なら、演劇部は女子生徒が多いから荷物運びを手伝って貰えますか?」
「ええ、わかりました 」
荷物運びならバイトの引越し業で慣れていたから難しい事ではない
そう思っていたが、そうはいかないらしい。
「あの、これ 体育館までお願いします」
「あ、これも 」
「これもお願い」
荷物運びは相当忙しかった 3つの荷物を運ぶ間に2倍の量の荷物運びを
頼まれる。キリがないというレベルではない 頼まれた荷物を運び終える頃には1時間経過していた。
「お疲れ様です」
「いえ、演劇部の裏方ってとても大変ですね 道理で皆さん忙しい訳ですよ」
大和先輩の労いの言葉に軽く返して周りを見渡した。
壇上ではきっと演技の練習をしているのだろう瀬田先輩セリフを読み上げている。流石は王子様だと思う 役に入りきっているあの姿にひまりもきっと惚れたんだろうな
「あの大和先輩 さっきからスピーカーの調子が悪いのか、音が飛んだりしてしまうんです それと、もう片方はノイズが入っちゃって」
「え、ホントですか ちょっと繋いで貰えますか?」
スピーカーを繋ぎ直し音楽を流すと、音が所々途切れてしまい もう片方のスピーカーに至っては音すら出なかった。
「スピーカーは接触不良を起こしてるかもしれませんね 試しにコードを一回繋ぎ直した方がいいかもですね」
割って入るように言って、コードを弄り始めた。
一回スイッチを切ってコードを繋ぎ直し、もう一度スイッチを入れるがやはり音が飛んでしまったりする。
「コードが断線してるのかもしれないんで新しいコード持って来て貰えますか? あと、上村先生に工具一式と俺の鞄を持って来るように伝えて下さい」
後ろを振り向かずに頼むと、走り去る音が聞こえたからきっと言う通りにしてくれたのだろう。
「直せるんですか?」
「分からないですね さっき言った通り、機械弄りは覚えて2、3年しか経たないし、仲間内にスピーカーの修理出来る奴から何回か教えてもらいながらやったけど1人でやるのは不安しかないですね」
他に異常が無いか調べるがやはり異常があるような感じはしなかった
配線かアンプに異常があるのかもしれないが確証が持てない。
一応分解出来るタイプだからいざとなればバラして中を調べるがそれでも直せるか怪しい 調べるのと同時並行に頭を働かして原因を探していると、後ろから走って来る音が聞こえた。
「ほら、頼まれたの持って来たぞ」
そう言って、上村先生が工具と鞄を横に置いた。
鞄の中からヘッドホンを取り出し、アンプに繋げてみる音は通常通り聴こえた。
「新しいコード貸して」
受け取ったコードをスピーカーに手早く接続してヘッドホンを引き抜くと、通常通りの音が流れた。
「良かった これはコードの劣化が原因みたいだ けど、もう一つは・・・」
同じようにコードを替えてみるが音が出なかった。
「日高さん ヘッドホン借りますね 」
「え、ハイ 」
「アンプには問題ありませんね スピーカーに問題があるかもしれません 一回バラして中を確認した方がいいかもしれませんね」
「・・・大和先輩ってそういえば、機材オタクでしたね なら、一回バラしますか スピーカー本体だったらきっとコンデンサが寿命なんだと思いますから」
「そうですね 多分今からやれば1時間くらいでは終わりますかね」
「じゃあ、ブラウニー 今からこれバラすから秋葉原にコンデンサとエッジ買いに行ってよ 大きさと容量は後で連絡するから」
「全く 人遣いが荒い奴だな 分かった 買いに行くから分かったら連絡しろよ」
走って行く上村先生を見送った後に、工具を取り出す大和先輩に目を向ける。
「えっと・・・ 大和先輩もやるんですか?」
「その方が早いと思いますし、一応 スピーカーのメンテナンスは私がやっていましたから」
「いや、それはいいですけど 制服汚れちゃいますよ 」
「なら、自分は着替えてきますから先に始めといて下さい 」
足早に去って行く彼女は仮にもアイドルの筈なんだが 機械油の汚れも気にしないなんて最近のアイドルは進化してるのかもしれない
そう思いながら、手早く引き込み線やハンダをチェックしてからスピーカーコードを取り外した。そしてエッジを切り離して、ダンパーを取り外しにかかった。
「どれくらい進みました?」
「ダンパーを取り外そうとしてました あとは、残りを取り除いて基盤を取り出すって感じですね」
「じゃあ、急いで取り掛かりましょう」
そう言って、作業着姿の彼女はダンパーを取り外しにかかった。
その横で補助に着くような形で手伝いをしていると、周りを取り囲んでいた生徒達も皆忙しいのだろう いつのまにか居なくなっていた。
「あの日高さんはどうして 他の部活の手伝いをしたりしてるんですか?」
「急ですね まあ、学校側と生徒会側とのちょっとした取り決めがあるからですかね 」
「取り決めですか? 一体どんな取り決めなんですか?」
「別に誰にも言うなと口止めはされてませんし、どうでもいいから教えますが 俺がボクシングしてるのは知ってますよね?」
「ええ、確か 中学時代は全国チャンピオンでしたよね 」
「まあ、それとは別に 俺 天文部入ってるんですよね まあ、変人の住処って言われる通り部員は2人しかいないから部活として認められてないんですがね だから、部費が下りなくて何も買えないんですよ それが嫌で生徒会と学校側に文句言ったら 部費を出す代わりに こうやって上村先生と一緒に手伝いをすることと前の大会で優勝してしまったから 俺が強いことを知った学校側が羽丘代表としてボクシングの大会に出ることを条件として出された訳ですよ」
「なるほどだから、手伝いをしてるんですね これで納得出来ました」
「なんで 俺がこんな事を無償で引き受けるかやっぱり不審に思ってたんですね じゃあ、俺からの質問です 大和先輩は俺のこと・・・怖くないんですか?」
基盤を取り出そうとしていた手が止まり、無言になる。
無言は肯定を意味するというが今回もきっとそうなんだろう。
横から基盤を抜き取り無言で立ち上がってスマホを取り出して、先生にコンデンサの容量とエッジのサイズを伝えて買って来るように頼んだ。
「え、えっと 怖くないですよ 」
目が泳ぎ、声がうわずっている。
この人は嘘をつけない良い人なんだろう。
「大和先輩は良い人ですね 下手な嘘をついてまでそんなこと言うなんて 別に気にしてないですよ それが当然の反応なんですから」
無言になり、俯く彼女に罪悪感が募る。
別に皮肉を込めて言った訳ではなく本心なのだがこういう場面では逆効果だったらしい 相変わらず人の気持ちを考えて行動出来ない自分が腹立たしかった。
「他にやる事ありますか? どうせ 上村先生が戻って来るまでまだ時間はありますから」
「・・・すみません お願いします」
大道具の設置や荷物運びを手伝っていると、先生が戻って来たので技術室ではんだごてを使いコンデンサを取り付け、分解したスピーカーを元に戻した。
「これでよし じゃあ、スイッチ入れますから音流しちゃって下さい」
「ハイ」
大和先輩の指示でスピーカーん通し流れ始めた。
スピーカーはもう大丈夫なんだろう 周りでもホッと胸を撫で下ろしいる人が沢山いた。 ヤンキーが直せるか不安だったのだろう。
正直に言ってどうでもいい どうやら仕事はもう終わりらしい 。
気づけば3時間以上経っていて身体も多少重い。
「仕事が終わりなら俺はもう帰りますね」
「ええ、助かったわ」
「ありがとう 助かったよ タクミ 君はまるで無償で困っている人を助けるヒーローのようだね」
「何 最後まで意味分からない事言ってるんですか 俺がヒーロー? 馬鹿ばかしい 俺はどちらかと言えばヴィランですよ 困っている人を嘲笑い 正義の味方を嬲る そんな 史上最低最悪なタイプの奴ですよ 俺はそこら辺履き違えられては困ります」
ヒーローそれはこの世で一番嫌いなタイプの奴だ 正義という絶対的なな盾を手にどんな理由があろうとも悪を滅ぼし人々を守る。虫酸が走る。正義の味方に憧れる? そんな事は断じて有り得ない。自分を救ってくれるのは結局は金なんだ。そんなことを知らないから子供の時に正義の味方に憧れる。子供の頃から苦しさを味わって来た奴らはみんな正義の味方には憧れない。仲間が良い例だ。今まで苦楽を共にして来た仲間は口を揃えて言うだろう。正義じゃ何も救えないと。
吐き捨てたい気持ちを押し殺し鞄を背負ってから体育館を後にする。
使い古したスニーカーを履き出ようとした所で後ろから追いかけて来る足音が聞こえた。
「あの 日高さん ちょっと待って下さい 」
「何ですか? まだ仕事がありましたか 大和先輩」
「い、いえ そういう訳では あの良かったらこれ」
「これは チケットですか?」
「はい 明後日の公演のチケットです 良かったらその・・・見に来て下さい 日高さんも手伝ってくださったので」
「どうも まあ、時間があったら観に来ます」
そう建前で返事をして体育館を後にした。
減量を完了してあとはキープするだけとなった身体には今日の練習と手伝いで疲労が溜まっており怠くてしかなかった。
そして、手に収まるチケットを見ながらポケットからスマホを取り出しメッセージを送った。
返って来た返信にはいつも通り彼女らしい内容だった。
今日の練習やみんなについて書かれたその内容に笑みが零れる。
とりあえず、明日羽沢珈琲店に3時集合という旨を伝えて、胸糞悪いあの我が家に帰ることにした。
麻弥さんの喋りかったちょっと不安です
違うなと思ったら変更します。
アイリP様 ☆8 ありがとうございます