彼女達が笑うために   作:怠さの塊

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千聖さんメインの小説を書き始めました。
正直駄文過ぎてもしかしたらそのうち書き直すために削除するかもしませんが。
今回は区切りどころご分からず長くなりよく分からないタイミングで区切っております。
また、ボクシングしてる描写を書くのは初めてなので拙い文になっています。すいません。


7話

ボクシンググローブをきつく締め直し、リングに上がる。

リング上では既に歓声が上がっている。

俺に対してではなく対戦相手へのだ。

 

「石田ー 決勝もワンラウドKO見せてくれー」

 

「石田センパーイ 頑張ってくださいねー」

 

「ユウジがんばれー」

 

OBや後輩そして両親からの応援に応えるように片腕を上げると、更に観客が沸いた。会場の一体感が素晴らしい。今日の俺は完璧なまでにベビーフェイスというよりはヒール役だろう。

 

「うわぁーめっちゃアウェイ感半端ねぇよ」

 

「大丈夫だ!お前ならやれる。俺は応援してるからな」

 

ブラウニー1人の応援で何かが変わるとは思ってないが、まあいないよりはマシだと思うが、この舞台じゃ意味をなさないだろう。

 

「別に負けるって思ってる訳じゃないですよ。ただ、勝った時に絶対ブーイング受けそうだなって思いまして」

 

その一言を聞いたであろう周りの人が白い目を向ける。

そして、ブラウニーも呆れたように溜め息を吐いた。

 

「お前のその何気ないビックマウスは天然なのか、わざとなのか分からなくなってきたよ」

 

「いや、俺は負けないつもりだからですよ。負けたら俺の存在意義が分からなくなる。勝つことが俺が俺であるための証明なんですよ」

 

「お前が何故そこまで勝ちにこだわるのかはよく知らないが無理だけわするなよ。生徒がボロボロになるのは見たくないからな」

 

そう言って、ブラウニーが背中を叩いてリングから出て行った。

ボロボロになっても俺は勝たないといけない。

2人に追いつけないから。

負けたら俺が何のためにいるのか分からなくなる。

俺自身の存在意義のために勝つしかない。

そんな強迫観念にも似た思いが駆け巡る。

対戦相手を見れば向こうも気合充分のようだった。

選手紹介の後にレフェリーに呼ばれリング中央に呼ばれ、反則行為は行わず正々堂々闘うように言われる。

そんな中、石田さんも見れば向こうもこちらを睨んでいた。

なるほど、闘志は充分らしい。

ただ、こちらとしても舐められるのは嫌いだから睨みつけた。

観客のボルテージも最高潮に達してきた。

レフェリーにコーナーに戻るよう指示されコーナーに戻り、マウスピースをはめヘッドギアを着ける。

 

「ほら水だ。飲むだろ」

 

「どうもです」

 

顔を上げ水を飲ましてもらってから周りを見渡した。

すると、見知った顔を見つけてしまい、顔を顰めた。

 

「どうかしたか?」

 

「いや、何もないですよ」

 

これは下手な試合したら、確実に練習量増やされるだけでは済まないと思った。

再度リング中央に向かえばいよいよ、試合が始まる。

なんとも言えない緊張感がリングに漂う。

耳の近くにある動脈を流れる血の音が聞こえてくる。

 

「ボックス」

 

レフェリーの合図と共にゴングが鳴り響く。

それと同時に石田さんが一気に詰めてきた。

予想通りだったためすぐさまバックステップで距離を取り、アウトレンジの距離からジャブで牽制し、距離を詰めさせないようにする。

この点に関してはインファイターに比べて圧倒的なアドバンテージになる。

ジャブで牽制しながら、ガード越しにストレートを放ちコーナーに押し戻す。

自分の距離を保つことで有利に試合運びをするのが理想だが仮にも全国チャンプ相手だからそうやすやすとはいかないらしい。

すぐさま体を入れ替えられ今度は逆に追い詰められてしまった。

すぐにガードを固めて攻撃に備えるもガード越しにジャブを放たれる

ガード越しに放たれるジャブは重く気を抜けば貰ってしまうだろう。

だか、ただそれだけだ。左のジャブに狙い澄ましたカウンターを叩き込む。その一撃は綺麗に顔を捉え石田さんをリングに叩きつける。

湧き上がっていた観客が静まり返り、レフェリーがカウントを始める。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー」

 

石田さんは倒れていた身体を無理矢理起こしファイティグポーズを取る。

チャンピオンとはいえ、あれだけ綺麗にカウンターを貰ったのだから

効いてない筈がないそう思いそろそろケリをつけることにした。

 

「ボックス」

 

無理に起こした身体にトドメを刺すために身体を一気に寄せる。

虚を突かれながらもハイガードで上の防御を固めた石田さんに対し、俺の狙いは顔では無かった。

左拳を握り締め、腰を捻りながら左のブローを相手の肋目掛け叩き込む。リバーブローが突き刺さりあまりの痛みからか石田さんの顔が上がる。

しかし、そこに追い打ちをかける如く今度は右のボディブローを鳩尾に叩き込むと今度は身体をくの字に折り曲げ膝から崩れ落ちた。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ」

 

カウントが始まる中ロープを掴み身体を支えてたちあがろうとする姿が見えた。

流石は、チャンピオンというものか。

ただ、グロッキー状態の今KOも時間の問題だと思う。

ボディブローはコツコツと積み重ねていくことで相手の体力を奪うのだが鳩尾に打ち込んだ一撃は横隔膜に大ダメージを与えたすぐさま呼吸に影響がでる。今までならここでKOが取れただろうがチャンピオンはまだ崩れないらしい。

石田さんの目はまだ死んでいないとはいえ、そろそろ点数差もついてきたからRSCも目に見えてきた。

 

「ま、まだやれます」

 

ファイティグポーズを取ってアピールをするが足腰が震えていてそろそろ限界も近いのだろう。

ここまでの試合運びで既に実力差は目に見えてるのに諦めないのはとても理解出来なかった。

 

「次のダウンでRSCを宣告します。ダウンしてなくてもこれ以上の試合はキケンだと判断した場合も同様です。いいですね?」

 

レフェリーが石田さんに注意をしている声が聞こえるなかコーナーに戻る。その途中で辺りを見渡せば観客はそれぞれ驚愕の表情を浮かべていた。

それもそうだろう、圧倒的な強さを誇っていたチャンピオンが初出場の選手にサンドバッグ状態なのだから。

そして、その目にはそれぞれ恐怖が写っているような気がしてならなかった。

 

「胸糞悪い」

 

誰に言うでもなく吐き捨てるように呟き、石田さんに向き合う。

 

「ボックス」

 

石田さんは身体を引きずるように詰めてきた。

どんなにボロボロになっても負けじと向かってくる決して屈しないその姿は漫画で言うとこの主人公のようだった。

それに対し俺は主人公をいたぶり嘲笑う悪役なんだろう。

演劇部の手伝いをしていた時に薫先輩に俺はヴィランと言ったが今の自分はまったくその通りだと思われる。

なら、最後までやってやる。嫌われるなら徹底的にだ。

ボロボロになってまで立ち向かうその姿に敬意を表して自分の得意なスタイルでトドメを刺す。

 

今のスタイルであるアウトファイトからインファイトに切り替える。

息を吐きすぐに距離を詰めた。

ジャブが石田さんのガードを削っていき、遂にはガードを外した。

もはやこれがトドメだから容赦はしない。

右拳を握りしめ横に振り抜く。

右のフックが顔を捉えたが、振り抜いた拳に違和感を覚えた。

リングに叩きつけるつもりで殴った身体は倒れることなく一撃に耐えて立っていた。

このシチュエーションを何度も漫画で見たことがある。

はじめの一歩のようにここから大逆転が始まる流れそのものだ。

石田さんが右拳を放ってくる。

これは石田さんのフィニッシュブローの右ストレートだろう。

徐々に近づいてくるその拳で何人もの人をKOさせてきた動画で何度も見た。それこそ圧倒的な強さを誇る主人公そのものだ。

 

だが、だから何だというんだ。

負けたら俺の存在意義がなくなるから

負けたら紗夜さんと日菜さんに追いつけなくなるから

そんな脅迫観念にも似た思いが駆け巡り、身体を突き動かす。

スウェーよりもさらに上体を大きく逸らす。

この避け方を何度も見た。

世界で最も有名なボクサー ナジーム・ハメドのディフェンステクニックなんて真似出来るものじゃないが、今だけは違う。

石田さんのストレートが空を切り、上体をそこから無理矢理起し、体勢を立て直す。

面と向かえば石田さんの顔には驚愕を超え恐怖が浮かんでいた。

それもそうだろう決定的なこの場面で自分の自信のあるフィニッシュブローが躱されたのだから。

再度右拳を握りしめる。

ミドルレンジで放つとしたら皮肉にもこのパンチしか無かった。

振り抜いた拳が顔を捉え、石田さんの身体は大きく後ろに倒れ込みそこで、ゴングが鳴り響きレフェリーが止めに入る。

ワンラウド2分50秒の闘いを最後の最後で石田さんのフィニッシュブローである、右ストレートで終えたのは皮肉な話だ。

向こうの顧問が担架を呼び、石田さんが運ばれて行くなか父親と思われる男性が俺を睨みつけながら母親を連れて付き添って行った。

 

「ほら、タオルと水」

 

「ありがとうございます。何て言うか勝ったっていうのに後味悪いですね」

 

「そうだな」

 

「俺やっぱり負けた方が良かったんですかね?」

 

「それは違うだろうな。お前の方が強かったから今ここに立っているんだ。そのことを誇りに思え。堂々していろ。それが勝者として出来ることだ」

 

「そうですか。なら、俺は失格かもしれないですね。勝者として」

 

そう言って、リングを降りて部屋に戻る。

結果的に見れば打たれないで勝てたというパーフェクトゲームだが完全アウェーで前大会チャンピオンをそれこそ内蔵の詰まったサンドバッグのように扱ってしまった罪悪感だけが心に重くのしかかってくる。

喧嘩をしていた時は殴られても文句を言えないような連中をボコっていたが、ボクシングを始めてからは決してそんな理由がない奴らを相手にしないといけない。

中学の時からそこら辺を上手く割り切れなかった。

廊下を歩いていると、リング上で見た今一番会いたくない人物と出会った。

 

「お疲れさん。試合運びは完璧だ。この調子でやっていけば大丈夫だろう」

 

「宮村さんどうも。俺も試合運びは完璧だと思ってますし、勝てたので良かったですよ」

 

「勝者って面じゃあねぇけどな、まあなんでもいい。とりあえずは、向こう1週間は身体を休めとけ。反省はその後だ」

 

「お疲れ様でした」

 

宮村さんと別れて自室のシャワーを浴びてからは早かった。

流れるように表彰と閉会式は終わり、チェックアウトしてから新幹線に乗り込み三時間着いたころには、疲れ果てた身体はもう限界だった。

 

「夕飯どうするよ?奢ろうか?」

 

「いや、今日は疲れたからパスで。ブラウニーも奥さんとこに早く戻ってあげて下さい」

 

「そっか。なら、ゆっくり休めよ。あと、寄り道せずに早く帰れよな」

 

「上村先生1週間ありがとうございました」

 

そう言って、頭を下げるとブラウニーは片手を上げて応えてから歩いて行った。

そろそろ帰らないといけないがその前に知り合いにお土産を渡しておく事にし、商店街に向かった。

 

 

クローズとかかれた看板のあるドアを叩き、中の人物を呼ぶとすぐにドアを開いてくれた。

 

「おかえりなさい。タクミ君」

 

「ああ、ただいま つぐみ。これ、みんなへのお土産なんだけど来た時にでも渡しといてくれるか?」

 

「わぁ、ありがとう。それと・・・優勝できた?」

 

「勿論。ほら、これがメダル」

 

「わぁ、凄いね 優勝おめでとう。そうだ、夕飯まだなら食べてかない?」

 

「悪いな、つぐみ。あと、はぐみと沙綾にお土産渡さないといけないから今日はいいよ」

 

「そっか、じゃあ、気をつけて帰ってね」

 

「ああ、おやすみつぐみ」

 

久々に会った大事な仲間はいつでも一緒に居て温かいと思える。

本当に大事な居場所なんだと思う。

北沢精肉店に向かえば目が合った瞬間元気に手を振ってくれた。

 

「はぐみ お疲れ様」

 

「たーくんおかえりなさい。それと、優勝おめでとう」

 

「え、知ってたのか?」

 

「うん、今日ねソフトボール部の練習の時にたーくんが優勝したって話聞いたんだぁ」

 

「まじか、ありがとうな。あ、そうだった。これ家族で食べてくれ。岐阜土産だからさ」

 

「ありがとうたーくん。あ、ちょっと待ってねー」

 

そう言って、裏に向かったはぐみが手に持った袋を手渡してくれた。

 

「これあげる。とーちゃんがたーくんが来たら優勝祝いに渡しとけって出来たてだから熱々で美味しいよ」

 

「お、サンキューはぐみ。親父さんにもありがとうって伝えてといてくれ。じゃあ、俺帰るわ。じゃあな」

 

「うん、たーくんも気をつけて帰ってね」

 

北沢精肉店の袋には、コロッケや唐揚げなど出来たての熱々の惣菜が入っていて、その匂いが空腹の腹を刺激する。

その袋を持ったまま、山吹ベーカリーに向かうと、この時間ならもう電気を消している筈なのにまだ、オープンの看板が出ていて、店も開いていた。

ドアを開けると、鈴の音が鳴るがレジには誰も居なかった。

すると、奥からゆっくりと歩いてくる足音共に顔が赤くフラフラした状態の沙綾現れた。

 

「はぁ、はぁ、すいません。今日はもう・・・店終いなんですよね」

 

そう言って倒れそうになる身体を慌てて支えると、身体は熱く発汗も酷かった。

 

「おい、大丈夫か?沙綾」

 

「はぁはぁ、タクミ?なんでここに?」

 

「いいから黙ってろ。お前熱あるぞ。休んでろよ」

 

そういい切らない内に沙彩の意識が途切れぐったりとする。

どうやら、気を失ったらしい。

 

「お姉ちゃん休んでなきゃダメだよ」

 

「ああ、紗南か。良かった、亘史さんか千紘さんいる?」

 

「あのね、お父さんがギックリ腰になっちゃったの。それて、お母さんに無理させないようにってお姉ちゃん風邪引いてるのに無理してね。それでね。休むようにお姉ちゃんに言ってたんだけどお姉ちゃん無理しちゃって」

 

「わかったわかった。泣かないでくれ。兄ちゃんに任せな」

 

今にも泣き出しそうな紗南ちゃんの頭を優しく撫でると、涙目で絵に描いたような笑顔を浮かべる。

そして、いつまでも店の中に居るわけにもいかないので、沙綾を抱き上げて奥の居間に向かった。

そこでは、腰を痛めながらも無理やり立とうする亘史さんとそれを止める千紘さんがいた。

 

「亘史さんはとりあえず安静にしといて下さい。あなたまで悪化したらホントに大変なことになるから」

 

「え、タクミ君来てたのかい?それに沙綾が」

 

「はい、ストップ。落ちついて下さいね。とりあえず、沙綾を上で寝かせてきます。千紘さんは氷嚢用意してて下さい。純は、沙綾を運ぶから部屋のドアを開けて欲しい。あと、紗南は、千紘さんが無理しないように見張っておくこと」

 

そう言って、それぞれが指示された行動に移る。

とりあえず、俺は沙綾をベッドに寝かせるために部屋に向かった。




レフェリーが一方的な試合になった時や、点数差が極端にある時に試合続行不可能として試合を止めることようは、TKOですが、アマチュアボクシングではRSCと言います。
アマチュアボクシングは、プロボクシングとは違い有効打と手数が勝負を左右します。たとえ、ダウンを相手より上回っているとしても有効打が少ないとポイントの差で判定負けしてしまいます。
そして、3分3ラウンドという短い時間なのでこの作品のようにKOで勝負がつくことはあまりありません。
この作品を気にボクシングを興味を持ってくれると幸いです。
そして、作者は決してボクシングを習っていた訳ではありません。
好きではありますが、ルールなど間違えているかもしれません。
なので、間違えがあった場合は教えて貰えると助かります。
作者はずっとサッカー部でした。

OsK様 優希@頑張らない様 せっけん様 ☆9
ぼるてる様 ☆5
ありがとうございます。
感想 評価お待ちしております。



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