リアルでの事情により時間が全くありませんでした。
ごめんなさい。
目の前で叢雲が僅かに肩を震わせて泣いている。静寂な雰囲気の食堂にはもう鳥の鳴き声や波の音は聞こえず、か弱く今にも消えそうな声だけが耳に入る。
叢雲が話してくれた理由を聞いた俺はひどく動揺していた。何故なら事の発端を生み出してしまった原因が偶然とは言え、自分自身にあるからだ。
しかしまだ話は終わっていない。確かに昨日は叢雲に殴られてしまったが、それが理由でここに居れないならまだ望みはあるはずだ。それに、ここまで叢雲自身が苦しんでいる理由も知りたい。そう思い混乱した気持ちを落ち着かせ叢雲に優しいく問いかける。
「ここに残れないのは俺の事を殴ったからだと…」
「……」
叢雲は無言で頷く。
「じゃあそれ以外の理由でここに残れない事情はありますか?」
「……」
今度は首を横に振ってくれた。それを見て俺は一安心する。今回の件を引きずっているのであればそれを無くせば済む話だ。俺は、わざとらしく手のひらを重ねながら笑顔で言う。
「でしたらこの問題は無かったことにしましょう。」
俺が声のトーンを1つ上げそう言うと叢雲は勢いよく顔を上げ困惑した表情で見てくる。
「…え?」
「ですから叢雲が殴った件に関しては無かったことにします。」
「ちょっと待ってよ!どういうこと…」
どうやらまだ理解ができてないみたいだ。まぁ、急にこんな事を言われても無理もないけど、ここで叢雲に出て行かれるのは俺も困る訳だ。鎮守府に艦娘がいないのは流石にまずいし、初っ端からこんな問題を起こしたら先輩になんて言われるか。
それに、最初は仕方なく受けた仕事だけどじいさんの考えが分かるまでは続けるつもだし、途中で放り出すのは好きじゃない。私情が結構多いけどね。
「確かに、昨日俺は叢雲に殴られましたけど幸運な事にも他に目撃者がいないんですよ。だったらこの事は口外しなければ問題ないでしょう?」
「それは…そうだけど」
叢雲は未だに信じられないと言うか受け入れ難い様子だった。
「それじゃあ叢雲はこの鎮守府に残りたくないですか?」
「いえ!そんなことは、無いです…。ただ自分がした事が許せなくて。それに…」
「それに?」
「すいません。まだ言えないです。」
叢雲は何かを言いかけたがすんでのところでその言葉を飲み込んだ。俺は何を言いかけたのか気になるところだったが、ここで一気に話を聞いても叢雲が混乱して本心を言えないかもしれない。
それに叢雲がこの鎮守府にいる限り時間はたくさん残されている。さっき言いかけたことが叢雲の苦しんでいる理由なら、自然と叢雲が話してくれるような関係になればそれでいいとそう思った。
「いいですよ。無理しなくても言いたくない事は誰しもありますから。」
俺はそう言って席を立ち冷めてしまっただろう自分と叢雲のお茶をいれなおす。少しは緊張が抜けたのか顔の色が明るくなったように思え、ここがチャンスと言わんばかりにいろいろと話を振ってみた。
「え…!それじゃあ俺の事を不審者かお化けの類と勘違いして殴ったんですか。」
「ええ、夕日でハッキリと見えなくてね。それとあの夕刻時の雰囲気が尚更まずかったわね。今考えれば恥ずかしい話ね。」
今は叢雲に昨日の事を聞いている途中で、どうやら俺の姿を見て勘違いしてしまったらしい。確かに、昨日は海からの夕日だけが差し込み薄暗い中だったため俺も叢雲だと気がつくのに少し時間がかかった。
あの状況なら互いの姿がシルエットととして写っただろう。そうなれば俺が持っていた工具類が何かしらの『武器』に見えなくもない。だからあの時叢雲が逃げたのかと想像がつく。
「だとすると、あの時俺が追いかけたのはまずかったですね。」
「全くよ。おかげでこっちは相当怖い思いをしたんだから。」
「あはは…すいませんでした。でも連装砲を構えられた時にはさすがに焦りましたよ。撃たれると思いましたからね。」
「あれは私もちょっとだけやり過ぎたと思うわ。でも、あれ以外の方法が思いつかなかったのよ。」
叢雲はバツが悪そうに目線を逸らしながら言う。まぁ、実際あの状況になったら持っている武器を構えるのは自然な事だと思うしそれだけで十分抑止力になる。それに、俺があそこで突っ込んでいる時に発砲されてたら大惨事になったのは間違いない。叢雲が構えだけで済ましてくれたのは俺にとっては不幸中の幸いだろう。
「そう言えば、俺もお礼を言ってませんでしたね。」
そこでふと、思い出したかのように昨日叢雲に看病された事を思い出した。
「何のお礼?」
「昨日叢雲に看病されたお礼ですよ。成り行きとは言えお世話になりましたからね。ありがとうございました。」
俺はそう言い頭を下げた。
「別にいいわよそんなこと。当然の事だし原因は私にもあるからどっちが悪いという事でもないわ。」
「そうですか。」
それを聞き一安心する。俺の中では今回の事で両方に原因があると考えるのが1番綺麗におさまると思っている。もし叢雲が自分1人で抱え込もうとしていたのなら心にしこりを残す結果になっただろうが、叢雲も両方に原因があると言っているからその心配はなさそうだ。
とりあえずこの話はここで終了でいいだろう。1番懸念していた事も無くなったし、何より叢雲が敬語ではなく話しやすく言葉を崩していることが嬉しかった。心の警戒を完全に解いてくれるまでまだまだ時間がかかると思うけど最初の1歩目は踏み出せた。
よし。と一言いって席を立ちコップを片付に厨房に下がる。次に話す内容はこれからの仕事の話だ。ここからは提督である俺がスムーズに指示を出し円滑に作業を進めていかなければならない。俺は軽く自分の頬を叩いて気合いを入れ直した。
「叢雲。今からこの鎮守府での仕事について話をします。」
再び席についてそう切り出したが叢雲は少し不満げな顔をして俺を見てきた。
「あなたが説明するの?」
「ええそうですけど。何か問題でも?」
「……いいえ、続けて。」
叢雲は一瞬何かを考える素振りを見せたが俺は気にせず話に入ることにした。
鎮守府の仕事は大きくわけて3つある。
1つ目は深海棲艦との戦いで海域を奪取する事。これは人類共通の認識として捉えられ誰しもが知っている常識だ。現在、深海棲艦との戦いにおいて海域奪取率は日本は6割強と世界各国から見ても高い数字だ。
しかし、ここ最近ではその数字がいまよりも良くなることは無くなった。理由は明確で深海棲艦の動きが活発化してきており以前には見かけなかった新しい深海棲艦の報告が相次いでいる。俺が以前学校で聞いた話だと北の海域で新たな深海棲艦により海域が奪われと聞き、その当時は相当話題になった。
2つ目は鎮守府周辺地域への貢献活動だ。鎮守府は国が取り締まっている組織で資金は国民からの税金が当てられている。海域奪取率の悪さや鎮守府のスキャンダル等が明るみになれば国民からの不安や不満が直接鎮守府へと向き運営が困難になる。
そのため、国や鎮守府は国民の信頼を得るためにパレードや奉仕作業など各鎮守府が様々な取り組みをしている。それに税金だけでは無く個人からの支援金も鎮守府の力もとい提督の権力を増やすのに重要になってくる訳でこの『様々な取り組み』の内容はかなり黒い噂が軍で立っているのも事実だ。
3つ目は資源調達の捜査をすること。武器や艦娘に設備などにはからなず資源が必要で燃料、鋼材、ボーキサイト、弾薬が眠る新たな場所をマッピングする。そしてその情報を各鎮守府等で共有したりするのだが、鎮守府間には力の上下関係が存在し不利な条件での情報の公開や資源の取得量に偏りがあったりする。
元々は鎮守府同士での助け合いから生まれたこの仕組みだが時代がたつにつれその『助け合い』の意味が変化してしまったのは残念でしかない。それに比べここの鎮守府は忘れ去られた地。そんな面倒事に巻き込まれる可能性は低いだろうが考えて行動しないといけない。
そんな感じで鎮守府の仕事について話が終わった。叢雲も当然ながらこの内容は頭に入っているみたいで終始無言で話を聞いていた。
「と、まぁこんな感じですがなにか質問はありますか?」
「そこに関しては無いわね。こんなの頭に入っているから。それで、私達はまず最初に何をするのかしら。」
叢雲は鋭い目付きで質問を飛ばしてくる。その目はやる気に満ち溢れている。任務や仕事に対して熱意を持ってくれることは嬉しいはずなのにどうしてか、冷や汗が止まらない。
何故ならこの鎮守府には他とは違う決定的なところがある。それは艦娘が叢雲1人しかない事と予算や資源が全くもって無いのことだ。
このような状態で出撃や遠征を行えば瞬く間に鎮守府の力を失う。と言うか今でもここを鎮守府と呼んでいいのか怪しいぐらいだ。こんな事を言ったら叢雲は怒るだろうしやる気をなくしてしまうかもしれない。しかしこの事からは逃げられない問題で、1からの鎮守府立ち上げは通常の鎮守府運営とはまた異なった大変差があると実感している。
だからと言ってこの叢雲のやる気を粗末に扱うのは間違っている訳で、ここで俺がとるべき行動は嘘をせず包み隠さず話す事しかない。
そう思い俺は机に両肘を立て組んだ手に顎を置き真剣な目で叢雲を見返した。今2人の間には先程までとは違う張り詰めた緊張感が漂い叢雲もそれを察したのか少しだけ表情を強ばられる。
「まず俺達がしなくては行けない仕事は…」
叢雲は俺が口にする言葉を待ち望んでいるかのようにその真剣な眼差しで見つめてくる。
(例えどんな事があろうとも怖気ついてはいけない。大丈夫俺は提督怖くない。)
心の中で必死に自分を落ち着かせる。そして、少しのタメを作りゆっくりとその真実を話した。
「鎮守府内の掃除です。」
俺はキメ顔でそう言った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ごめんやっぱり無理だった。
それからどうなったか。結果を言うと俺は謝罪と言い訳の弁を机に頭を擦りつけながら必死に訴えている最中で叢雲は呆れた表情で俺を見下ろしていた。
「ふざけてるの?」
「いいえ。ふざけていません。」
「じょ、冗談よね…」
「真実です。」
「どういう事か説明してくれるのよね。」
「はい…」
俺は頭を下げたまま答える。て言うか、叢雲から発せられる雰囲気が怖すぎて顔を上げたくなかった。それに、あのやる気ある眼差しを向けられてたのに期待していた答えを言えなかったのは罪悪感が半端ない。
とりあえず、誠意を持って丁寧に我が鎮守府の現状をお伝えするために説明に入った。
これからは、少しづつ更新していくのでよろしくお願いします。