猫と犬は相容れない   作:あずき屋

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「オイ、なんで開始早々こんな長ったらしいんだよ」

「あぁ?分かんねぇの?
初回サービスってやつだよサービス。
あんまし短けぇと薄っぺらく感じんだろ。
こう盛りに盛り立てて少しでもまともに書けてるように見せかけてんだよ。
ちったぁその足りねぇオツムで考えろやクソ猫まな板女」

「いや長すぎんのも考えもんだろ。
和紙をいくら重ねたところで対して変わんねぇだろ。
お前こそよく考えて話せよバカ犬ポンコツ能無しヤロー」

「よし裏行こうぜ。
俺らお得意の話し合いと行こうじゃねぇか」

「ハッ!上等だこのバーカ!」

「バカっていう方がバカなんですぅ!」

「あぁ!?」

「やんのかコラァ!!」

「どっもどっちじゃないですか......」



序章 炎上汚染都市 冬木
序章


 

 犬猿の仲という言葉を聞いたことがあるだろう。

極東の国にて発祥された諺だ。

それは互いにいがみ合うほどに険悪な仲という意味を持つ。

この諺の認識は広く、日本だけに留まらず世界にまでも広がっている。

現に外国においても似たような言葉がある。

ただ、外国には猿は身近な存在ではないため猫という概念に置き換わってはいる。

だが、意味としてはどちらも同じことを指す。

 身近に皮肉や悪態をつき合う者がいたりしないだろうか。

そんな者達に対して当てられた諺がそれだ。

実際のところ、対応がどうであれ、相容れないと思うのは感情を持つ生物であるならば至極当然のことだ。

元来知性あるもの、即ち人は争う生き物。

戦であれ日常であれ、相手より自分が上回っていると主張し、他を蹴落とそうと躍起になる。

そんな醜い生物の子孫が現代に生きる人々だ。

何百何千年経とうと、人は争いの心を手放さない。

真の意味での共存はいつの時代になろうと誰も実現出来ていないのだ。

それ即ち、犬猿の仲とは人間の行いそのものを表していると思えないだろうか。

情に厚い犬は時に損得勘定抜きで飼い主に付き従う。

反面猫や猿は人に懐きにくく、自由奔放でマイペース。

そして、そのペースを乱すものに対しては容赦しない。

この2匹は互いの性分が理解出来ず、性格も真反対のことから馬が合わない。

正に水と油。

決して相容れないと古来の人たちはそう思い、そんな言葉を残しのだ。

いつの時代、どんな状況、どんな環境でもそれは如実に表れる。

例え世界が焼却される間際にまで陥ろうとも、人はその在り方を忘れることはない。

間違いなく、人という存在が完全に消え去らなければ消えることのない感情だろう。

 

 

「おいコラ、最初に言っておくぞ」

 

「あァ、オレもお前に最初に言っとくぞ」

 

 

 

──────(オレ)はお前が気に食わねぇ!バーカ!

 

 

 

 これは、どこまでも(いが)み合い続ける二人の物語。

 

 

_____________________________

 

 

 

 

「っていうかさ、何でこんな時にまでお勉強しないとといけないの?

人理終わっちゃうんでしょ?

こんなことしてる暇ねーじゃん。

それより早く英霊呼んだ方がよくね?

何なの?机がお友達なの?

ペンが恋人なの?ノートが愛人なの?

え、何?本命どっち?

たらしにも限度ってもんが」

 

「うるさいっ!!!!

いいから黙って机に噛り付いてペン握ってノートに術式を書き込んでいればいいのよ!

だいたい何よお友達とか恋人とかって!!

そんなもの私にはいらないわよ!!

魔術の鍛錬にだけ尽力してれば問題ないの!

それが私たち魔術師としての在り方で責務なの!

貴方も魔術師の端くれならそれくらい理解できるでしょう!!?」

 

 

「いや全然」

 

「キィィィィィィィィィィィ!!!!

何なのこのダメ人間!!」

 

「おいおいヒステリーもそれくらいにしとけよ。

すぐイライラする女は嫌われんぞ?

だからちゃんとカルシウム摂っておけってアレほど」

 

「ロマァァァァァァン!!!?

ロマニ・アーキマン!!!?

一体何処にいるの!!?

こんなダメ魔術師を候補にした張本人!!!

出て来なさいっ!!!!

ガンドで蜂の巣にしてあげるから出て来なさいっ!!!」

 

「おうおうおう、姫がご乱心なされておるわ。

こんなんで所長とか大丈夫かよホントに」

 

「誰のせいよ!!?誰の!!!!?」

 

 

 人理焼却の結果をカルデアスが指し示してから少ししてのこと、人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長であるオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアはこれ以上ないくらいに焦っていた。

2016年に人理が焼却されてしまうという前代未聞の結果を突きつけられ、多方向から圧力を掛けられてただでさえ参っているというのに、次の仕打ちがこの現状だ。

青葉紫助(あおばしすけ)

人理焼却を防ぐために選ばれた48人のマスター候補うちの一人。

ではなく、そのマスター候補の候補。

即ち補欠要員である。

聞けば彼の扱う魔術は強化のみ。

厳密には強化のみではなく、その他の初歩的な魔術を扱うこともできるが結局のところそれまでだ。

魔術による戦闘ではなく、肉弾戦に特化した戦法を好むことから、マリーの神経を更に逆撫でした。

彼は魔術師としては異端と呼ばれる類のものだろう。

故に特別な適性を持ち得ておらず、役割としては数合わせ程度だろう。

勉学に対する姿勢は至って不真面目。

大した素養もなければやる気も覇気も感じられない。

そんな彼が、何故ギリギリながらもマスター適性の判断を下されたのか。

全くもって理解できない。

彼は間違いなく役立たずだ。

 だが、どんな偏屈な者であれ、ここカルデアに招かれた以上はそれ相応の戦力になってもらわなければ困る。

ギリギリでも適性が出てしまった以上、彼には人理焼却を阻止するために出来るだけのことをやっておかなければならない。

マスターとしての責務を果たせない以上、カルデアの所長としてできることはやらなければ上層部への面目が立たない。

だからこそ不本意ながらも、非常に不本意ながらも教育係を買って出たのだ。

そして、今に至る。

 

 

「なぁ所長サン?

この術式ホントに覚えなきゃダメ?」

 

 

「当たり前よこのおバカ。

こんなもの初歩中の初歩よ?

ここにいるマスター候補はもちろん、スタッフだって全員知っているわ。

分かっていないのは貴方と、もう一人の補欠ぐらいよ。

本当に、何でこんな奴らが適正判定が出ているのよ......」

 

 

「今更どんだけやっても付け焼き刃だろ?

ンな鈍より俺の木刀の方が何倍も使えるわ。

と言う訳ではい、お勉強おしまい。

俺修練場行ってくるわ」

 

 

「ちょっ.......!

待ちなさい紫助!!

全職員招集の大規模ブリーフィングまで時間ないのよ!?

せめてこれぐらいやっておかないと!」

 

 

「だからこそだろ?

俺に構ってねーで、お前はお前にしかできないことやっとけよ。

ここの代表なんだろ?

だったら事前に確認しておくこととか色々あんだろうが。

俺みたいな補欠は隅っこで素振りでもしてる方が落ち着くんだよ」

 

「で、でも!」

 

「いいからもう管制室に向かっとけ。

所長が遅刻なんて、それこそメンツ丸潰れだろ?

んじゃーなー」

 

 

 掴み所がなく、全く制御できる気がしない。

風みたいにすり抜けて、いつでも飄々としている。

最初に見た時から全く理解できなかった。

これだけ大勢の実力者に囲まれて劣等生としての烙印を押されていながら、どうしてあれ程までに素知らぬ顔をできるのかと。

普通、居心地が悪くなって心理状況は落ちて行くはずなのに、彼は一行に自分のスタンスを崩さない。

理解出来ない。

ただそれだけの回答がずっと頭の中に示されている。

 

 

「............はぁ、バカらしい」

 

 

 どれだけ考えてもあのバカを理解できる気がしない。

というよりしたくない。

考えるだけもう無駄だ。

それこそ時間の無駄というもの。

仕方がない。

彼の教育はここまでにしよう。

どうせ彼の出番などありはしないのだから。

他のマスター候補は、残った魔術師の中でも本当の実力者たち。

あんな異端者にかまけている暇なんてない。

それよりも彼らのバックアップをより強固にしておかなければ。

思考を切り替えて管制室へ向かうことにした。

数歩歩いて気がついた。

大切なことを思い出した。

 

 

「って......あんたもブリーフィングに参加するのよこのバカァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

_____________________________

 

 

 

 それからしばらくして、ブリーフィングは滞りなく進行された。

もう一人の補欠候補が遅刻した挙句に居眠りをして怒鳴り散らしたこと以外は、問題なく進行した。

結局現れなかったバカを除いては問題なく進行した。

選ばれた補欠候補という奴らは一体何なんだろうか。

どいつもこいつも人を舐め腐っているとしか思えない態度だ。

あんなのが世界の運命を担うというのか。

想像するだけで頭痛が強くなる。

まぁいい、どうあれあの二人が活躍することなどあり得ない。

結局のところ、この選ばれたマスター候補たちに全てを託すしかない。

そのためのバックアップ体制を整えよう。

 

 

「以上のことから、ブリーフィングを終了します。

何か質問のある者は?」

 

 

「............」

 

「ないならいいわ。

最後に一つ、貴方たちはこれから先常識では測れないかつてない危険な任務に赴くことになるでしょう。

安心してとは言わないし、言えない。

私たちは決して前線に立つことは出来ない。

貴方たちの壁になることも剣になることも出来ないわ。

でも、これだけは覚えておいて欲しい。

貴方たちにしか出来ないことがあるように、私たちにしか出来ない大切な役割がある。

レイシフトの安定化、レイシフト後のサポート、英霊召喚の基盤作り、遠隔からの探査。

どれもこれもスタッフと貴方たち抜きでは実現し得ない試みよ。

私たちに出来ないことを貴方たちがやり、貴方たちに出来ないことを私たちが努める。

バックアップは任せなさい!

そして、共に人理焼却なんて馬鹿げた結末を、この手で覆してやるのよ!」

 

 

 所長からの激励が、候補生に伝播する。

喝采が涌き、士気が向上していく。

マリーはこの反応を分かっていたように表情を変えずすぐに踵を返す。

最早この場にて自分ができることはない。

まるで道化のよう。

何の力もない自分の発言で人が湧き、勝手に盛り上がっている。

 

 

「(はぁ......まぁいいわ。

こんなの今に始まったことじゃない。

この後はいよいよレイシフト実験。

これさえクリアできれば、後はどうとでもなる。

必ず完遂してみせる。

そして、あいつらをいつか見返してやるんだから!)」

 

 

 

 マスター候補たちをコフィンと呼ばれる霊子変換装置に入れ最終チェックに移行する。

これにより霊子を過去へ送って時間逆行させて、タイムトラベルを実現させ、そのうちの人理焼却の原因を排除。

観測されている七つの異変、特異点を突き止め、これを排することで現在の未来を変える。

なかなかにぶっ飛んだトンデモ理論ではある。

納得も理解も出来ないのは無理もない。

しかし、数多の実験を経て理論を随時見直し、現代の魔術技術のレベルならば実現可能。

実績も十分に示せたからこそ上層部もこれを認可し、人理継続保障機関フィニス・カルデアの設立と運営を許可したのだ。

事実上最後の砦であるカルデア。

これしか打つ手はないが、これが最善の手段だ。

 

 

「システムオールグリーン。

被験者バイタル良好、霊子基盤安定。

シバ、ラプラスともにシステム安定を確認。

レイシフト開始までのエネルギー充填まで、後195秒。

問題ありません所長」

 

「マスター候補生のバイタルチェックは常に把握しておいて。

どんなタイミングで不安定になるか分からないわ。

これから先の試みは、カルデアにとって初めてなんだから。

誰一人欠けさせないで」

 

「了解。

......ところで、ロマニ氏はどこに?

もうレイシフト実行まで時間がないのですが」

 

「大丈夫よ、別に来なくても。

来ないなら来ないで給料80%カットに加えて、マスター候補生への監督不行届と勤務態度最悪の報告を上層部に伝えて一生タダ働きに近い仕打ちにしてやるから。

何らなら次のプロジェクトの実験体に推奨してあげてもいいかもね。

きっと涙を流して喜ぶでしょう。

まぁ拒否なんてさせる間も無く押し通すけどね。

所長権限なら指先一つでちょちょいのちょいよ」

 

「ロマニ氏......憐れなり」

 

「あの天才はまだ工房に篭ってるの?」

 

「えぇ、彼女でしたら先程連絡があり

『またまた天才的アイディアが降りてきたからまたしばらく篭るね!

何かあったら遠慮なくこの天才に伝えてくれたまへ。立ち所に解決させてあげよう』

とのことでした。

返答をする前に回線を切られ、遮断されているので打つ手がありません」

 

「......もう好きにさせておきなさい。

なんかあったら流石に飛んでくるでしょう」

 

 

 間も無く歴史改変の第一歩を踏み出す。

過去に干渉された事変を正し、未来を正しい方向へ導くための始まり。

猶予はなく退路もない。

あるのは途中で断絶された短い路。

これを本来あるべき路に戻し、これから先も発展を続けていくための橋渡し。

歴史を修復するという前代未聞の試み。

決して成し得ることのできないと言われた歴史改変を、今人類の英知を結集した技術で果たそうとする。

だが、立ちはだかる壁というのはいつだって唐突に目の前に現れる。

悪しき思惑を持った者によって、その鎌は振り下ろされる。

 

 突如発生した謎の爆発事故。

それはレイシフトを目前に控えたタイミングで起こった。

カルデアの重要システムの大半の損壊。

スリープ状態のままコフィンで眠っていたマスター候補生たちを諸共爆破させ、多くのスタッフを同時に犠牲にさせた大事故。

人理焼却は、既に崩壊の一途をたどっていたのだ。

 

 

「.........先輩、手を......握って、くれ...ませんか?」

 

「......マシュ」

 

 

 こうして、様々な困難を突きつけられたまま、歴史改変は始まった。

多くの痛みと悲しみを残して。

 

 

 

_____________________________

 

 

 閑話休題。

見慣れた近未来の空間はそこにはなく、目の前に広がるは崩壊した街並み。

火が疎らに広がり黒煙を吐き出す。

建物は軒並み破壊され、生存者は存在しない。

空は暗雲に覆われ、夥しい死臭と硝煙が肺を満たす。

これは、ある戦争の果てに作り出された絶望の世界。

人類の欲望が最後に辿り着くのが、きっとこの光景なのだろう。

荒廃し、生命も文明も焼き尽くし、色のない世界が人類の終局。

この惨状をまざまざと見せつけられ、マスター候補生藤丸立花は口元を抑える。

堪えるは嘔吐感。

自分たちの住む世界が、いつの日かこんな有様になってしまうと考えてしまう。

頭痛がひどくなる。

希望も未来もない暗闇の世界が自分たちの行き着く先だって。

双眸が睨みを効かせる。

そんな世界を自分は認めない。

次の年を跨いだ後に迎える世界がこんなものだなんて、絶対に認めてやるものか。

戦う決意を持ち直す。

そうだ、こんなところで立ち止まってなんていられない。

自分は、この結末を迎える未来を正すためにきたのだ。

 

 

「行きましょう、先輩!」

 

「行こう!」

 

 

 隣に立ってくれるのは、大楯を携えた少女。

未来を守ることを象徴とし形としたような盾を携えて、この特異点の原因を共に解明しようと手を伸ばしてくれる。

自分は一人じゃない。

運よく生き残った自分たちを含め、カルデアにはまだスタッフたちがいる。

一人では無理でも、みんなと力を合わせれば、どんな難局だって乗り切れる。

 

 

「クカカカカカカッ」

 

「先手必勝!行きます先輩!

いやああァァァァ!!!」

 

 

 盾を振るい彷徨う骸骨を薙ぎ払っていく。

亡者を体現したかのような人骨が多く立ちはだかるが、そんなものは敵ではない。

自分たちの敵はもっと強大で禍々しいものだろう。

人理そのものを焼却させ、ここまで築いてきた文明をなかったことにしようとする連中だ。

だから、こんなところで立ち止まっていられない。

自分たちはいつだって前に進んでいくのだ。

 

 

「ーーーーァァ!!」

 

「っ!?

先輩!今悲鳴が聞こえました!」

 

「近いぞ!行こう!」

 

 

 走り抜けた先にいたのは、銀髪の少女。

間違いなくカルデアの所長、オルガマリーだ。

体を丸めて縮こまっており、彼女の近くには多くの骸骨たちが犇めいていた。

 

 

「っ!クソ!」

 

「数が多すぎて、近づけません!

このままでは所長が!」

 

「レフぅぅぅ...助けて、レフぅぅぅ」

 

「マシュ!

俺のことはいいから所長まで最短距離で突貫だ!

彼女を助けてくれ!」

 

「でも、先輩は!?」

 

「足には自信がある!

必ず逃げ切るから!頼む!」

 

「っ......了解っ!

死なないで、マスター!」

 

 

 彼女は砲弾のように盾を構えて突進し、多くの骸骨たちを跳ね飛ばしていく。

どんな攻撃を受けてもびくともしない盾ならば、必ず所長まで届くはずだ。

デミ・サーヴァントであるマシュは英霊以上の力は出せないが、それでも通常の人間より遥かに強い。

格段に跳ね上げられた身体能力なら、オリンピックに飛び入り参加することだって夢じゃない。

どころか立ち所に頂点に立ってしまうだろう。

マシュを信じよう。

彼女なら、必ず所長を助け出せる。

 

 

「おや?

美味しそうな匂いがしますね。

絞りがいがありそうです」

 

「そんなっ!!?サーヴァント!?

でも......これは?」

 

 

 骸骨の中に、突如として黒い影が降り立つ。

声を発し、人の形を成しているが何かが違う。

全身から発せられる殺気。

人間ではない圧倒的存在感。

まさしくアレはサーヴァント。

だが、通常のサーヴァントではない。

その実態が全て影に覆われていて、神秘のカケラも感じさせない禍々しい雰囲気。

どう見ても普通じゃない。

レイシフトして早々サーヴァント戦なんて無理があり過ぎる。

相手は過去に逸話を残してきた超人や魔獣等に存在。

その存在が神秘という概念に覆われ、常識では測れない力を有した者たち。

そんな英霊と戦うなんて出来ない。

模擬戦の経験はあるがアレはあくまでも模擬戦。

実践とは程遠いものだ。

 

 

「可愛い姿ですね。

小さく縮こまって、まるで子ウサギのよう。

捕食者に対峙した反応そのものですね。

いいでしょう、優しく殺してあげます」

 

「所長!!!」

 

「ヒッ......!」

 

「っ!!!」

 

 

 突如シャドウサーヴァントが後方へ弾き飛ばされる。

予想だにしなかった謎の飛来物に不意を突かれ、文字通りの不意打ちを見舞われたのだ。

砂煙吹き荒れる中、一陣の風と共に現れるもう一人の人影。

木刀を右肩に乗せて、自分と同じ黒髪を揺らし、悠々とそれは歩いてきた。

 

 

「トイレって......どこにあんの?」

 

「「は?」」

 

 

 緊張感の欠片も見受けられない気怠そうな姿が、そこにはあった。

こちらを見透かすような鋭い眼光で、引き締まった顔で、彼はトイレの場所を聞いてきた。

トイレ?

今彼はトイレの場所はどこかと聞いてきたのだろうか。

あまりにも有り触れていて自然の問いかけに対し、現状にそぐわない問いかけに面を食らってしまう。

ある訳ないだろう。

 

 

「おいおいマジか。

トイレ探し回って歩いてたら変な光に飲み込まれちまうし、気がついたら戦争跡地みたいなところに放り出されるし散々だよ。

ふざけんなよ、こちとらカレー食い過ぎてもう限界なんだよ。

俺の胃袋も腸内も戦争中、もうすぐ終結しそうなんだけど全く出口が見えねぇ。

俺のカレーがカレーで出る前に早いとこトイレを」

 

「分かりましたもういいですそれ以上口を開かないで下さい」

 

 

 マシュはこれ以上口を開かせることに嫌気がさしたのか、彼の言葉を途中で遮る。

何というか、恥もへったくれもないような人だ。

本当にこんな人があのシャドウサーヴァントを吹き飛ばしたのだろうか。

全くもって信じられない。

だが、今ここにいるのは彼一人。

信じられなくても信じるしかないのが現状だが。

 

 

「そんな邪険にすんなよメガネっ娘。

あ、今メガネ掛けてねぇな。

つーかなに?その格好。

そんな全身ピッチピチのタイツ着て寒くねぇの?

え、何誘ってんの?

マジかよ......俺の知らないところでそんな服着てストレス解消してたのか。

悪かったな、これからはもっとお前に対して気遣うからさ......そのなんだ、元気出せよ」

 

「勝手に人を変態みたいに言わないで下さい!

これは、その......止むに止まれぬ事情があるんです!

だから変な反応しないで下さいね!

ぶっ飛ばしますよ!?」

 

「マ、マシュ?!」

 

「あーあ、えらく嫌われたな。

昔からどうも女には嫌われる傾向があるんだわ。

何だろうな、前から俺生物としてどうなのって考えたことあんだよ。

人っつーか動物ってさ?子孫を作ることを目的として活動してるわけじゃん?

俺の在りようってどうもそのサイクルに入ってないんだよね。

そもそも女に嫌われるんだもの。

多分コレ、最悪何もしないまま人生終えるよね?

よく後悔しない人生は死ぬ間際になって、あー幸せな人生だったわって振り返ることだって聞いたけど、無理だよね。

後悔垂れ流しで死んでいくよねコレ。

あとさぁ、モテるにはどうすればいいって前ホームレスのおっさんに聞いたんだけど」

 

「よく喋るなぁこの人!!

今の現状見て喋ってくれませんか?!

ほら来たぁ!!

危なっ!!掠った!今頭を何かが掠った!!」

 

「うるせぇなそんな慌てんなよ。

たかが雑魚の集まりじゃん。

魚の小骨が襲ってくるみたいな感覚で受け流せよ。

ほら、あの鎖骨部分見てみ?

ちょっとなんか、鯖みたいな模様してない?」

 

「まず骨が筋肉なしに動くところから疑問に思ってよ!!」

 

「先輩っ!!後ろ!!」

 

 

 悪寒が背筋を走る。

振り返るまでもなく、自分の背中が何に反応したのかが手に取るようにわかる。

何かが自分の命を刈り取ろうとしている。

ようやく思い出した。

この気配、あの人に吹き飛ばされたサーヴァントの気配だ。

下らないやり取りをしている最中、気配を殺して自分の背中まで忍び寄っていたのだ。

反射で振り向いてみる。

微動だにしない口元のみが見えた。

人を殺すことに、何の躊躇いも持たないみたいに、それは凶器を自分に向かって振り下ろす。

 

 

「っ!!」

 

「うわっ!!

............って、え?」

 

「一度ならず二度までも邪魔を......。

サーヴァントたる私を吹き飛ばしたことはおろか、私の一撃を止めるなんて。

貴方、本当に人間ですか?」

 

「お前らからしたらまぁ人間なんだろ。

別に不思議がることはねぇよ。

誰だって俺みたいに死ぬ気で頑張ればこのくらいはできる」

 

 

 さっきまでま前方にいた彼が、一瞬で自分の背後にまで距離を詰めていた。

当たり前のようにサーヴァントの一撃を防ぎ、鍔迫り合いをしている。

どう考えてもおかしい。

膂力において、人間はサーヴァントに対して到底敵う筈がない。

相手は神秘の塊そのものなのだから、人間の物理的攻撃が通る筈がないのだから。

 

 

「その木刀......成る程、微弱ながらも退魔の力を感じます。

微弱でも力があればそれは神秘の武具。

私に傷をつけることができたのもそのせい。

御神木か世界樹の類が使われていますね」

 

「しらねぇよ、ウチの蔵にあったもんテキトーにかっぱらって来ただけだ。

それに、俺にとっちゃサーヴァントなんて人間と大して変わらねぇよ」

 

「ほう?

大きく吠えましたね。

人間風情が私たちサーヴァントを同格に扱うと?」

 

 

 両者は武器を弾き合い、互いに大きく後退する。

シャドウサーヴァントの構えるのは長い鎖がついた大きな杭のような武器。

反面彼が構えるのは少し変わった木刀。

変わったことがあるとすれば、それは木刀なのに金属製の鍔がついていることぐらいだろう。

確かに見た目は珍しいが、結局はただの木刀だ。

それでどうやってサーヴァントとやりあえているのだろうか。

 

 

「......それは、この一撃で判断しな」

 

「優しく殺してあげますよ」

 

 

 この間合い、サーヴァントにとってはあってないようなものだろう。

距離はせいぜい20m程度。

サーヴァントならば1歩で喉元まで迫れる。

だが彼はただの人間だ。

さっきは不意打ちだったから成功したようなもの。

今回に至っては真正面から小細工なしの一騎打ちだ。

驚異的な身体能力を誇るサーヴァントが、人間程度に遅れを取るはずはない。

 

 

「へっ、それよりいいのかよ。

俺ばっかりに気ぃ取られて。

後ろで発情してるヤバい奴がお前の首狙ってんぞ」

 

「......何を」

 

 

 風がすり抜ける。

誰にも気づかれることなく吹き抜け、目前の敵目掛けて一気に迫り寄った。

視認出来たのは獲物が影に突き刺さった後のこと。

自覚出来たのは痛みが遅れて全身を駆け巡った後のこと。

理解は、どうしても出来なかった。

例えその格を落とされようとも影は神秘そのもの。

根本からして全く別の存在だ。

ましてや彼女たちは神話や逸話の物語に登場する人智を超えた者達。

多少動けようとも、人間如きに霊核を穿たれる訳がない。

 

 

「凌ぎ合いに余所見した結果だ。

甘んじてそいつを受け入れな」

 

「ほんの一瞬の死角を突きますか......。

褒められた行為ではありませんでしたが......その勢いの良さだけは評価しましょう」

 

「悪いな。

こちとら誇りなんてご大層なもんぶら下げてるわけじゃねぇんだ。

大人しくちゃんとした場所に帰りな」

 

「ふふっ、よく見れば貴方も随分と美味しそうですね。

次に出会えた時は、優しく殺してあげますよ」

 

 

 数回言葉を交わした後に、影は風に攫われていった。

彼女を倒した青年の背中は広く、とても寂しそうだった。

 




どうも、初めましての方は初めましてご機嫌よう。
また来てくれた方もご機嫌よう。
一ファンとして一度は書いてみたかったものがこれです。
少しでも楽しんでくれれば幸いです。

長ったらしくなってしまったのはごめんなさい。
区切り所が分からなくなってこうなりました。
まぁ初回サービスということで一つ大目に見て下さい。
相も変わらずぶっ飛んだ主人公を作りました。
変に捻くれた部分は私に似ているかもしれません。
さらっと流して下さい。

どう転ぶか、どう続くか分からない相変わらずの見切り発車ですが、どうぞ気長に付き合ってやって下さい。


 ご縁があれば次のページでお会いしましょう。

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