鍛錬もシャワーも食事も所長のイタズラも全部終わっちまってやることねぇや。
コタツ入ってゲームでもしよ」
「遅せぇぞシスケ」ヌッ
「お疲れ様です紫助さん」ヌッ
「あ、お邪魔してますよ」ヌッ
「切符みてぇに全自動で出てくんなよ。
......ったく、当たり前のように毎日入り浸りやがって。
よっこいせ」
「フォウ!」ヌッ
「そこはフォウさんの位置です」
「なんなのこの嫌がらせのスペシャリスト共」
飛び交うは幾つものの鉄の塊と炎。
鉄塊は不規則に舞い、断続的に捕捉者を追い込み、その首を狙い続ける。
放たれる無数の炎は機関銃のように炸裂し、徹底的に獲物を破壊しようと唸りを上げる。
傍から見れば一方的な蹂躙。
降伏を無視した完全な殲滅。
相手の事情など聞く耳を持たず、完全に沈黙するまで続けられる集中砲火。
それが人であるならば最早灰とて残らないような有様だっただろう。
「ふっ!!」
並大抵の相手であったのなら問題なく撃破出来ていたことだろう。
しかし、侮ってはならない。
失意と絶望に染まろうと、その身はブリテン国を治めた騎士王。
国を繁栄させんと立ち上がり、数多の敵を排し、より多くの臣民を救おうと剣を握り続けた気高き王のうちの一人である。
国に仇なすものがあれば迷わず異を唱え、自国を侵す者には何人たりとも容赦はしなかった。
「でやぁっ!!」
その身は確かに、幼さの残る歳であった童子に過ぎなかったのかもしれない。
国の統治など行えるはずもない器だったのかもしれない。
剣など握ったことのない清廉にして純粋な子どもだったのかもしれない。
だが、周囲や役人がなんと言おうとその身はブリテン国を統べた王。
多くの者の不安を裏切り、一国の主として恥じることの無い器へと自身を見事昇華させた。
その余りある気概は決して偽れず、必要な才は全て花開き、臣民全てに安寧と安らぎを与えるまでに至った。
「吠え上がれ、荒れ狂う風よ!
『
有り得たかもしれないifの世界の騎士王。
清き正しさをもって秩序を成すのではなく、禍々しき力を振りかざして秩序を成さんと確立したセイバー、アーサー・ペンドラゴンの可能性が具現化した姿である。
「......っ!
流石は最優サーヴァントと名高いセイバークラス。
砂を払うように弾幕が全て掻き消されてしまったぞ」
「呑気なこと言ってんじゃねぇ!!
テメェ弓はどうした弓は!!
仮にもアーチャーなら矢の一つくらい射っとけや!!
テメェのクラスは飾りか!あ”ぁ!?」
「喧しいぞクーフーリン!!
矢を番えている暇があればとっくに100は射っている!
貴様こそいつまで火遊びを続けているつもりだ!
ルーン魔術が聞いて呆れるわ!!」
「んだとコラァ!!
テメェが弾幕張れっつーから出の早ぇ火のルーン使ってやってんだろうが!!
こっちも詠唱に時間かけりゃここら一帯とっくに消し炭だわ!」
「喧しいのはこちらの台詞だ。
獣同士の喧嘩は他所でやれ」
「「ぐぅおおおおぉぉぉぉ!!!」」
「下らん喧嘩も児戯もここまでだ。
諸共極光の果てで潰えるがいい」
「させっかよォォォォォ!!!」
「クーフーリン!時間を稼げ!」
魔力を聖剣に纏い、一気に解き放つことで周囲一帯の弾幕全てを消し飛ばす。
属性が反転したことにより、従来の力を超えた膂力を発揮するアーサー。
輝かしい頃の姿は既になく、あるのは目の前の敵全てを滅ぼし尽くす暴君の姿。
聖杯と自身の魔力パスを繋げているためその魔力は無尽蔵。
無限と有限では勝負にならない。
着実に追い詰められている二人だが、彼らにも意地がある。
ただ死ぬつもりなどない。
足を捥がれようと腕を切り落とされようとも、首だけになろうと牙を突き立てるだけの気概を絶やさない。
「分かってんよぉ!そぅら爆ぜなぁ!!!」
華麗に杖を捌き、勢いよく地面に突き立てた瞬間アーサーの足元が発光する。
同時に地面が轟音を響かせて爆発する。
難なく回避されるも追撃の手は緩めない。
クーフーリンはそのまま構えを解かず攻撃を続行。
対するアーサーは止まる事なく駆けまわり、照準を絞らせまいと翻弄する。
「流石はクランの猛犬。
獲物の追い立てが随分と上手いじゃないか」
再度アーチャーが弓を構えて仕切り直す。
爆発を避けて動くのなら、その先を予測して狙い撃ちにする。
アーチャーの名に恥じない精密射撃を超人的技術で連射し追い詰める。
さながら機銃のような連射力。
「甘い」
「......チィ!」
後方へ構えた聖剣から風が渦巻き、突風となって炸裂する。
向きを変えて扱えば、それは大きな推進力となって加速する代物となる。
高速連射の上をあっさりと抜かれ、照準どころか捕捉すら困難となった。
姿がブレ、一瞬だけアーサーを見失うアーチャー。
あっという間に接近される。
「終わりだアーチャー」
「へっ、そう来んのを待ってたんだ!!」
「ぐっ......!!こ、これは?!」
「そらよ!!
大仕掛けってヤツだ!!」
アーサーが地を踏みしめた直後、周囲に巨大なルーン文字が浮遊。
時計の針のように回り、やがてそれは周囲の空間諸共自身を停止させる。
短時間でクーフーリンが仕込んだ空間停止魔術。
発動すれば、外部との干渉を遮断させる。
見えない壁に阻まれ僅かによろけさせる結果となった。
「いつの間にこんなものを......!」
「今の俺は仮にもキャスターなんでね。
何の考えも無しにぶっ放してたんじゃメンツが立たねぇだろ?」
「今更外部と遮断して何に............っ!!?」
「ガラ空きだ!!」
クーフーリンの指差す方向には、アーサーの頭上を捉えているアーチャーが弦を引き絞っている姿だった。
その左手にある螺旋状の剣がその形状を細く変形していく。
不意を付き、大掛かりな仕掛けを発動させ、その後の反応を伺わせる。
そうした緩急を続けていれば、いずれ反撃の隙が生まれる。
「───
爆ぜろ!『
多量の魔力を凝縮させた矢が対象を直撃した直後、急速に拡散し大爆発を引き起こす。
投影魔術で武具を作り出し、それに編み込んだ魔力を武具諸共爆破させるアーチャーの十八番。
それが
替えが幾らでもきく投影魔術によって生み出された武器だからこそ成立する荒技。
それは魔力放出のように瞬間的威力に秀でているため、並みのサーヴァントなら即死させるほどの威力を有する。
無論、相手が並みのサーヴァントならここで終わっていた。
「随分と賑やかに踊ってくれたものだ。
少しだけ興が乗ったぞ貴様ら」
「野郎......ナメたことしてくれるじゃねぇか」
「見切られた、いや......気取られたか。
オルタの存在となっても尚健在とはな。
ほとほと厄介だよ、君の“直感”は」
多くの実践を積んだ者だからこそ培われる力こそが直感。
あらゆる状況にも瞬時に対応し、即座に適切な行動を取ることが出来る能力。
アーサーは多くの者と対峙し、どんな困難な局面も潜り抜けてきた。
その逸話がスキルとして昇華され、危機的状況を回避できるものとして備わっている。
その領域は直感というより、ある種の未来予測に近いレベルにまで精錬されている。
「爆破と同時に同威力の魔力放出を放って威力を相殺させたか」
「ちっ、面倒極まりねぇぜ。
あんだけ引っ掻き回して花火プレゼントしておしまいかよクソッタレが」
「悪態は後に取っておけ。
次だクーフーリン。
別に頼みの綱を使い切ったわけじゃない。
まだこちらにも奥の手が残っている」
「オイオイ、時間稼ぎの役割はどうしたよ」
「悠長に時間はかけていられない、ということだよ。
彼らの助力があれば或いはこの状況を打破できる......が、それを待つのにも限界がある。
今ここで削れるだけでも削っておくべきだと私は思うのだがね」
「ここで各個撃破されたらそれこそ終いだろうが。
らしくねぇな、もう音上げんのかよ」
「部の悪い賭けはしない質でね。
ここで加勢を待って散るよりかは、少しでも消耗させて後を託したほうがいい。
我々サーヴァントの役目はいつだって後を託すこと、違うかね?」
「そいつぁ間違っちゃいないがね......後を託すにしても、丸腰でほっぽり出す訳にもいかねぇだろ。
指導とまではいかなくてもよ、覚悟を固めるまでは待ってやろうや。
走り方覚えさせてからそういう話をしやがれ。
まぁ、もうちょい粘れやアーチャー。
後少しでアイツらなんかおっ始めてくれそうな気がすんだよ」
「また戦士の勘かね?
君の世迷い言に付き合って死ぬなんてそれこそ御免なんだが」
「冷えた体に血が巡っていく感覚だ。
少々私も舞い上がってしまっている。
先程の小娘には防ぎ切られたが、貴様らはどうかな」
「っ!!
クーフーリン!!」
「『我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。
因果応報、人事の厄を清める社───』ちぃっ!!」
吹き上がる混沌とした色を持つ魔力が轟く。
光も希望も飲み込む極光が、2人目掛けて津波のごとく押し寄せる。
まともに受ければ確実に落とされる。
猶予はなく、退路もない。
アーチャーは迷わず最大防御の切り札を切る。
クーフーリンも今まで以上に魔力を引き上げる。
「極光は反転し、光を呑め。
卑王鉄槌
「
「──────っ!!!」
彼らのうち誰かが叫んだような気がする。
それは制止の声だったのか、はたまた恐怖ゆえに齎されたものかどうかなのか。
いずれにせよ真意が聞こえることはなかった。
それら全てを押し流す負の激流が、文字通り音も何もかもを飲み込んだのだから。
「
「
堰を切った水のように破壊の意図を持った魔力が濁流のように押し寄せる。
アーサーの放った一撃により空間停止結界は消え、元通りの地下空洞の景色に引き戻された。
呑まれれば敗北は必至。
その背に退路などとうにない。
ならばここで押し留める以外道はなく、耐え切る以外生存の道はない。
赤き弓兵の掌に顕れるは七つの花弁の形をした巨大な大盾。
花弁一枚が古の城壁に匹敵する防御力を有しており、こと遠距離攻撃において無敵の防御力を誇る概念宝具の投影品。
遠距離攻撃に対してしか効力を発揮しないが、それ故にその硬度は折り紙付き。
「ならば、更に出力を上げるまで!!」
「............っ!!
くっ、クーフーリン!まだか!?」
「黙ってろ!
『倒壊するは、
オラ!善悪問わず土に還りな!!」
アイアスに覆い被さるように顕れるは細木の枝で編まれた炎の巨人。
本来はその灼熱と圧倒的質量を持って敵を焼き潰す宝具だが、今回は防御の役割を果たす形となった。
遠距離攻撃において高い防御力を誇るアイアスと、圧倒的質量を持つウィッカー・マンを持ってしても、聖杯の恩恵を受けているアーサーの攻撃を凌ぎきることは難しい。
その気になれば、無限に近い聖杯の魔力をそのまま宝具にあてることが出来る。
よって、持久戦となれば2人に先はない。
現にウィッカー・マンは半壊し、アイアスも4枚を散らしてしまった。
「......っ!クソがよ!!
押し切られんぞアーチャー!!」
「分かっている!!
だが......十分時間は、稼げたようだ」
「何をしようと無駄だ。
ここまでよくやった、誉れとして破滅を受け取るが」
横槍が赤き流星となって騎士王へ飛来する。
迸る赤雷を置き去りに煌いた光線は強く、何よりも早く目的地へ駆けつける。
純白の甲冑を身に纏い、白銀の剣を携えてそれは姿を顕にした。
かの騎士王の生き写しと見間違う金色の稲穂のような髪色。
宝石のように透き通った
王位継承剣である魔剣を担ぎ、捻くれた思春期の子どものような尖った印象。
一度その手で殺したはずの騎士が、再び彼の王の前に馳せ参じた。
あの時とは違う、新たな輝きを宿した瞳をこちらに向けて、不敵に笑ったのだ。
「確かに、オレらしくなかったな。
くだらねぇ事でウジウジ考えちまった、今度ばかりは礼を言うぜシスケ。
さて、溜まりに溜まったストレス......ここでしっかり発散させてもらうとするか、騎士王!!」
「......ようやく戦場に出張れるまでに至ったか。
あの丘であったのならとうに斬り伏せられていたというもの。
仲間に救われたな反逆者」
「貴方が本当にあの騎士王なのかどうか詮索するつもりはない。
いや、する必要がないからな。
オレの魂に刻まれたこの激情が何よりの証拠だ。
オレはただ、認めたくなかっただけなんだ。
気高く、高潔で、いつだって私たちの太陽であった貴方が魔に落ちたなんて誰も想像だにしなかったから......」
それは、目の前にいる騎士王に向けて放った言葉であったが、目の前の騎士王に向けて言いたかった事ではない。
自分がいつだって語り合いたくて堪らなかった王は、あの時の騎士王だけだったから。
落ちても相手は我が王であることに変わりはない。
だが、その在り方は決してあの時の王ではない。
その騎士王はどうしようもなく本物の我が王であるが、限りなく似ているだけに過ぎない。
本物ではあるが、かつての志を失くしてしまったが故にあの時の輝きを感じないからだ。
だからこそ、モードレッドは相手に対して明確な答えを求めない。
自分の真意を伝えられない相手に問答をしたところで無意味。
ならば割り切ろう。
そして勝手に思い込もう。
相手は騎士王の姿を持った影であると。
そう考えると、不思議と頭の中の靄が晴れていくような気がした。
自分の中の本物でないのなら、剣を振るわない道理はない。
「道を踏み外さない奴なんていねぇよ。
誰だって悩んで迷って落ち込む。
いつでも変わらないなんてことはあり得ない。
木の枝みてぇに枝分かれして、人の在り方っつーモンはどんどん変わっちまうモンさ。
それでも、根っこだけは絶対に変わらねぇ。
そいつがそいつ自身である大切な芯なんだからよ。
その大事な根っこを捻じ曲げちまったら最後、テメェを見失う羽目になる。
あの王様は、ただテメェを見失っちまっただけだよ」
「あぁ、分かってる。
あの騎士王は道を踏み外した可能性の姿、なんだろ?
オレの知ってる騎士王じゃない。
可能性の姿だ?馬鹿馬鹿しい。
だったらオレの時代の王はなんだったんだ。
バカにすんのも大概にしろよ。
他人が父上を侮辱すんのはどうにも我慢ならねぇ」
「どんだけパパっ子なんだよテメェは。
だがまぁ、いんじゃねぇの?
自慢のパパだ、憧れんのも仕方ねぇだろ」
「別に憧れてるわけじゃねぇ!!
ンな軽いモンじゃねぇんだよ」
「あぁ、何となく俺には分かる。
言葉で表せねぇレベルなんだろうよ、気安く踏み込む気はねぇ」
「流石バカ犬だな。
物分かりだけはいいじゃねぇか」
「情緒不安定な猫にだけは言われたかねぇや」
「あ”ぁ?」
「はぁ?」
「............へっ、重役出勤の上に早々痴話喧嘩かよ。
いっそのこと清々しいねぇ、まぁらしくて逆に安心したがよ」
「全くだ。
ヒーローは遅れてやってくる、か......。
何だろうな、いざ自分が待たされる側に立たされると妙な感じがするな」
役者は揃った。
舞台も整った。
意気込みも十分。
正念場にしてクライマックスだ。
「......ははっ!それじゃあ蹂躙するか!!」
「へいへい......好きにしろや。
遠慮せずに持ってけ」
先程より強い質の魔力が吹き上がる。
英霊により差は異なるが、基本的に魔力が色濃く現れるのはこれから来る嵐の前触れ。
宝具解放。
モードレッドのそれは極めて限定的であるが、対象がある個人であればその威力は果てしないものへと変貌する。
世界的に有名であるが故に、その世界からの後押しを受けて、赤雷はより強大なものになる。
見るがいい。
そして、今一度知れ。
かの騎士王へ先陣切って仇なしたのは一体誰なのかを。
収まりが付かなくなった魔剣が、耳鳴りを引き起こすほどの轟音を立てて王に牙を剥く。
「これこそは、我が父を滅ぼす邪剣。
道を違えた我が王へ捧げる安寧の調べ。
「貴様っ!!」
「させねぇよ!!」
それは一度向けたが最後、あの時と同じように止まることはない。
翻してしまった旗のように、もう二度と大手を振って戻ることは出来ない離別の意。
それこそが彼女の逸話にして、遂げることになる悲痛な末路。
複雑な感情が入り乱れ、行先を幾度となく見失うことになるだろう。
「
「っ!!
貴様、ここに来て尚まだ邪魔をするか!」
「そうピリピリすんじゃねぇよ王様!!
テメェのガキの反抗期ぐらい、黙って受け止めてやりなっ!!」
「ぐっ!
貴様は何故そうまでしてあの反逆者に加担する!?
受けた恩を忘れて狂気に身を窶し、最終的に私に反逆した!
いや私だけではない!
生まれ育った故郷、清く美しかった彼らの顔に泥を塗り、全てを掻き乱して破滅の道へ誘った!!
最早反逆者など矮小なものに収まる話ではない。
アレは、彼奴は!!!」
「それ以上口を割るんじゃねぇ」
「ごはっ......!
き、貴様......。
何故だ、何故貴様がそのような目をするのだ......」
「............さぁな。
ただ、虫の居所が悪かっただけさ」
「......凡そ貴様も、反逆者などという器ではないな。
決心を固めたように見えるその瞳......その実、まだ迷いが見える。
人の身に余る力を手にしたからこそなのか......いや違うな。
恐らく、貴様は元からなのだろう」
「............」
「ふっ......答えはその胸の内からは出さぬ......か。
まぁ、それも良かろう。
酸いも甘いも、希望も絶望も、不当も正当も全ては貴様次第......と言いたいところだが結局は無駄な足掻き。
何をしようと徒労に終わる他ない。
どう転ぼうが、貴様らに明日などありはしない。
あの先の絶望の底は、人類に見極められるものではないのだからな」
それでも、隣にマスターたる存在がいれば話は変わる。
従来の一方的に命令を下す傲慢な者ではなく、ましてや己の欲望のままに使うような下賎な者でもない。
共に笑い、共に悩み、共に迷ってくれる存在が隣にいれば、仮初の生にも意味は生まれる。
生前味わうことのなかった親しき者との時間の共有。
それはきっと、彼女が求めていたものの一つだ。
だから、今は騙されたと思って一緒に歩いてみよう。
自分を召喚した男が、どれほどの大馬鹿者であっても、彼はいつかの憎悪と怒号に包まれた日々を薄めてくれる。
その声に応えるための一歩をここで踏み出す。
父への反逆を再現し、その証明の一つをここで示そう。
「それでも俺は、俺たちは......諦める訳にはいかねぇんだ」
「
全ての怒りと憎しみを魔力に乗せ、迸る赤雷は王へと伸びた。
焼き焦がし、突き貫く怨嗟の声が具現する。
慟哭に似た宝具の解放が、確かに騎士王を飲み込んだ。
史実を知っている者からすれば痛々しい力だろう。
かつて忠義や誇り、命までもの全てを捧げた王。
真実を突きつけられ、言明しても終ぞ息子と認められることはなかった。
その心の叫びが宝具として昇華されたのだ。
だが、それでも彼女の表情はそういった連中の想像を超えた。
「あの時とは真逆かよ父上。
まぁ、貴方はあの時の父上じゃないが、それでも騎士王は騎士王だ。
生きている間に成し得ることじゃなかったんだけどな......つくづくサーヴァントってのは損な役回りだぜ。
でも、今回は少しスッキリしたぜ。
喜びたいが同時に悲しくもある。
相変わらず色んな根性がごった返しちゃあいるが、今のオレはすっげぇ晴れやかだぜ!」
彼女は、とても晴れやかな顔をしていた。
現代でどれほどの偉業を成し遂げようと、彼女の抱く苦悩や後悔は払拭されない。
生前にしてきた所業と、サーヴァントとなって尚抱き続ける葛藤だけはどれほどの月日を重ねようとも消えることは無い。
それでも、一時だけでいい。
自分を必要としてくれた大馬鹿野郎と、ほんの少しの間だけバカをやって、あの時のことを考えなくていい時間に浸れるのなら。
この旅の終点まで付き合うのも、決して悪くは無い。
「............って!!
晴れやかに締め括ろうとしてくれてんじゃねぇ!!
殺す気かこのポンコツダメ猫が!
危うく王様と一緒に地獄にランデヴーする所だったわ!!」
「ははっ!わりぃわりぃ、よく見えなかったんでよ。
ついぶっ放しちまった!
うん......アレだな。
反省もしてなければ後悔もしてない。
寧ろ清々しい達成感がある、ってか?」
「テメェコノヤローあの時の仕返しか!?
上等だ!速攻で返上してやるよ!!」
「なんだなんだ随分と興奮気味だなぁわんちゃんよ。
テメェの番はここにはいねぇ、来世で巡り会えることを祈りな。
少しは手助けしてやるからよっ!」
「美味しいところ掻っ攫ってご機嫌だなぁセイバーの奴」
「まぁ、別に今回くらいはいいんじゃないか?
反抗期が上手くいった祝いとすれば、多少の浮かれ具合は見逃して然るべきだろう」
「はぁ......一時はどうなることかと。
最後までドキドキしっぱなしでしたよ......」
「なんやかんやあったけど、上手くいってよかった。
後はあの聖杯を回収して終わりだね」
「フォーウ」
「最初から最後まで生きている心地がしなかったわ。
事故とはいえ、もうレイシフトは懲り懲りよ......」
「あ”ぁん!!?
テメェあんま舐めてっとあ”ぁん!!?」
「ははっ!!
なんだよシスケ?
雷ぶっ放されてパニクってんのかよ!?
おぉー怖かったでちゅねぇーよちよち」
「抜けやゴラぁ!!
一瞬でお陀仏にして浄土巡りツアーに参加してやるからよ!!」
「なんだあの二人............。
理解不能過ぎて出て行きづらい」
あずき屋ですどうも。
最後は駆け足になりましたが無事オルタ撃破です。
これ以上引き伸ばすのはアレだと思ったんで殺っちまったよ。
宝具が溜め気味になっちゃうね。
場を持たせる為だから是非もないよネ。
第1章でこんなに長くなるとは思わなかった。
まぁでも結果オーライ?
楽しかったからなんでもいっか。
次回からはちょいちょい小話とか織り交ぜてオルレアンに向かうよ。
お便り頂戴ね?
キリンみたいに首伸ばして待ってるから。
ではでは、また次のページでお会いしましょう。