猫と犬は相容れない   作:あずき屋

11 / 17
「あぁ、もう年終わったよ。
あっという間だったなオイ。
ぐーたらしてたって訳じゃねぇけど気づけばもう年明けじゃん」

「なぁ」

「俺だってさ、こうも早く過ぎるとは思ってもなかったよ。
そりゃあガキの頃は1年どころか1日過ぎんのも遅せぇなぁみたいにずっと感じてたよ。
でもいざ振り返ってみるとなかなか歳重ねちゃってるじゃん?
もう早いもんね。
ロケットが大気圏突入するぐらいあっという間だもんね」

「なぁってば」

「もう半年もしないうちにまた一つ歳重ねるわけじゃん?
もうあっという間にオッサンだよね。
最悪だよ、また1年なんもねぇ年だったなぁってボヤくんだよなぁ。
あーあ、みんな死ねばいいのに。
アルマゲドンのバットエンドみたいになればいいのに」

「おいって」

「ンだよさっきからにゃーにゃー。
みかんならまだあんだろ」

「いや、お前この作品の趣旨忘れてんじゃねぇのってつい最近思ったんだよ」

「............えっ?」

「ちょいちょい濁してるけどなんやかんやシリアスっぽい雰囲気に流されてるだろ?
最近読者離れてんのそれが原因じゃねぇかなってさ」モグモグ

「............えぇ?」

「そりゃ確かにこれギャグ路線だけどそれだけじゃつまんねーじゃん?
違う味出して飽きがこねぇようにやってんのは何となく分かってた。
でもさ、最近やり過ぎじゃね?
オレがなんか飽きてきた」

「...............マジで?」

「だからこーやって言い訳じみたこと前書きでやってんだろ?
みんな口に出さないだけで思ってたと思うぞ。
早く気づけこのばかみたいにずっと思ってたよ。
そりゃ離れてくよな、こーいう系統腐るほど転がってるし」

「もっと早く気づくべきでしたね」

「くど過ぎたかな。
でも気づけて良かったと思うよ。
このままだったら確実にボツだし」

「ンキュンキュ、フォウ」

「............え、まだ足りない?」


第10話 初心忘れてた

 

「ふははははっ!!

カルデア諸共爆破して」

 

「へぇーこれが聖杯ってやつか。

なんだ捻りもねぇフツーの感じだな。

まんまじゃんコレ。

俺これ酒のグラスにも使いたくないんだけど。

何処ぞの王様あたりは喜んで使いそうだけどコレはゴメンだわ」

 

「まぁその名の通り聖杯ですからね。

史実で沢山の人達が求めていたものですからこれくらいは普通なんじゃないでしょうか?」

 

「でも本来の願望器の聖杯じゃないってダ・ヴィンチちゃん言ってたしね」

 

「まだ無駄なこんな悪足掻きをして」

 

「どうでもいいだろ。

聖杯さえ取りゃもうオレらの勝ちなんだ。

目的達したし帰ろーぜ」

 

「いやぁどうなる事かと思ってヒヤヒヤしたぜ。

慣れねぇクラスで慣れねぇことはするモンじゃねぇな」

 

「全くだ。

もう少し頭の冴えが良くなっていたのかと思えばとんだ肩透かしだ」

 

「おうコラもういっぺん言ってみろや」

 

「聞け貴様ら!!」

 

「でも装飾にはピッタリなんじゃない?

ほらトロフィーみたいに飾りましょうよ所長室に」

 

「確かに見栄を張るにゃ丁度いいな。

テメェでやったわけでもねぇのに一丁前にやり遂げました感を出すには持ってこいかもしんねぇ。

なぁフォウ公」

 

「フォーウ」フルフル

 

「やっぱダメだってよ」

 

「だからいい加減こっちを向け!!

50文字も喋れてないん」

 

「あ」

 

突如爆発音が鳴り響いた。

先程から声がやたら響く箇所から突如爆発し、全員の視線が否が応にでもそちらに向く。

濛々と爆煙が立ち上っていることだけを見届けるしかなかった。

 

「済まない、まだ罠の残りがあったようだ。

誤作動か何かで作動してしまったようだな」

 

「ンだよアンタのせいか。

危うく変なツッコミ入れるところだったぜ」

 

「どういうやつなんだ?」

 

「ある種のお約束、みたいな?」

 

「貴様らァァァァァァ!!!」

 

一切触れられず騒ぎ立てる連中を前に怒り狂うスーツ姿の男がいつの間にか立っていた。

何故か身体中煤まみれで、服の至る所が焦げている。

突然現れて何処かの古家に出てきそうな生物のようななりをして、此方にがなり立てるように怒り狂っている。

 

「私を虚仮にし、あまつさえ無視を決め込むその態度。

全くもって許し難い!

今この場で全ての希望を残さず私の手で摘み取ってやろうか!」

 

「どうしたのこの人」

 

 

 

 

 

──────作者都合により「カットカットカットカットカットォ!!!」

 

 

 

 

 

 

「ぐっ、貴様らァ....!

この程度で勝ったと思うな......。

足掻いたところで最早この結末は変えられぬ!

人理焼却は既に決定付けられている!」

 

「描写カットしたら急に巻気味に喋るなコイツ」

 

「さして重要でもないからいんじゃね?」

 

「めちゃくちゃ重要じゃない!!!

私ほぼ身体死んでるのよ!!?

もう出ても死ぬだけじゃない!!」

 

「だいじょぶだいじょぶ、その辺ちゃんと考えてあっから何とかなんだろ。

どんな奴でも水かけりゃ生き返る理論だよ」

 

「私死んじゃったァァァァァァ!!!」

 

「オイ、叩き斬るかこのヒスマ」

 

「それはやめとけ。

考えがあんのは事実だからよ。

ふじっこ、ちょっと所長抑えとけ。

そんでメガネっ子は所長の口を大きく開けとけ」

 

「「「え?」」」

 

 

羽交い締めにされ、凡そ淑女とは思えないほどにだらしなく開けさせられた口元。

恐らくここまでの醜態を晒した貴族はいないだろう。

 

 

「ひゃ!ひゃによひょのはっこう!!?」

 

「お前さんをちゃんと現実に戻す方法。

ホラ、見てみこの金平糖。

猫、こいつをどう思う?」

 

「......すっげーデカいな」

 

「手のひらサイズの虹色に光る珍しい金平糖。

ダ・ヴィンチ曰く貴重なモンらしくてな、英霊召喚の触媒にも一役買ってくれる代物なんだとよ。

つまり、コイツをお前さんに突っ込んでちょちょいと色々弄りゃ何とか丸く収まる算段だ。

どうだ、理にかなってるだろ」

 

「つかンなもんどこにあったんだ?」

 

「あぁ、その辺に落ちてた」

 

「ふひゃけひゃいで!!

ほんなものくひにひゃいるやけ!!」

 

「オラァ!!3秒ルール上等!!!

ダ・ヴィンチ!!戻せ!!」

 

 

声にならないオルガマリーの悲痛な叫び声を無視して、強引に光る何某を口に突っ込んでいく。

卑猥なものでは無いが、違った意味で目を背けたくなる凄惨な絵面であったことは言うまでもないだろう。

それを見届けていた立香は思った。

やっぱりこの人ロクでもない人間なのだと。

 

 

 

 

「────────────────ッッッッッッ!!!!」

 

 

 

 

______________________

 

 

システムの作動音と共に開くコフィン。

その近くに英霊召喚に似た閃光を放ちながら現界する人影がひとつ。

 

「ダ・ヴィンチ!!

皆はどうなった?!」

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんとみんな戻ってこれたよ。

まぁ一人アフターケアが必要な子がいるけどね」

 

「所長!!

無事で何よ......口周りが血だらけだけど無事で何よりだ!!

無事なのか線引きがだいぶ怪しいけどとにかくよかった!!」

 

「ドクター!

急いで所長を医務室もといオペ室へ!!

多分皆さんが思ってる以上に重体です!!」

 

「分かってる!

医療スタッフを掻き集めて!

直ちに治療に移るよ!

皆も後でしっかり診るから先に報告済ませといてね!!」

 

バタバタと忙しなく走り回るロマニとスタッフたちを尻目に、ボケっとそれを眺める目が4つ。

あれほどまでに喧しく貶しあっていた2つの口は重く閉ざされ、変わりに気怠いと主張する空気が徐ろに満ち溢れていた。

何はともあれとにかく疲れた。

何も考えずに寝具に潜り込みたい。

そういった考えが2人の頭を支配していた。

つまるところ、もうめんどくさいのだ。

 

 

「おい」

 

「そこ出て右の3つ目」

 

「ん」

 

「あ、オイ」

 

「わかってる」

 

「あいよ、って何だよ。

穴開くぐらい凝視すんなよ」

 

 

もう長年連れ添った相棒のように、僅かな単音だけで通じている。

別に大したものを感じているわけじゃない。

ただ単純に、何となく解るのだ。

何を求め、何をしたがっているのか。

短い時間ではあるが、そういう意味で分かり合うには十分な時間だった。

そんな2人を見ていた天才が一人。

 

「いやね、邂逅一番に殺し合いしてた2人にはどうにも見えないなーってね」

 

「なんだそりゃ、今のうちだよ今のうち」

 

「ふーん......誓約まで付けておいて?」

 

「棒立ちのまんま殺されるとは言ってねぇよ。

それに、あぁでも言わないとアイツは納得しなかっただろ。

俺は、到底マスターなんて呼ばれる器じゃねぇからな」

 

「そんなこと」

 

「あるのさ」

 

天才はものの真贋を見抜くことが出来る。

目の前にあるものが真実か否か。

どれだけ精巧に作られ、どれほど細部に力を入れていようと偽物であればそれは必ず見抜ける。

経験から齎される能力ではあるが、天性の才覚からそれは直感で伝わってくる。

一目見ればそれが本物であるかどうか。

それ故に、ダ・ヴィンチは目を細める。

目の前の男がどれ程の器であるのか。

判断材料が少ないのもあるが、珍しくも断言出来るものが見つからなかった。

何を考え、何を最終的な目的として動いているのか。

この男からはそれがどうにも読み取りづらい。

自身のことを適当な理由や仕草で覆い隠しているのも分かる。

かつての誰かのように、大事な真実を懐に抱え込んでいるような、そんな違和感。

 

「まぁどうでもいい話だったな。

それよりメンテ、するんだろ?

だったら手早く済ませちまおうぜ」

 

「そうだね、そのボロボロな体を早く調整しなきゃね」

 

そう言われ案内された部屋は、殺風景なカルデアの作りからは想像できない色に満ちた空間であった。

無機質で無駄を削ぎ落とした備品の姿はどこにもなく、一面に広がるのは精巧に作られた置物や、一見しただけでは使い道の分からない機器ばかり。

凡そ凡人にはそれこそ理解できない代物ばかりが、紫助の視界に広がっていた。

 

 

「さて、では早速診せてくれるかな?」

 

「おう」

 

 

男の胸に軽く触れ、魔力を通して身体の構造をチェックする。

筋肉繊維の壊れ方、臓器のダメージ、酷使された箇所、魔術回路が正常に働いているか等を隈無く把握する。

これを申し出たのは他でもないダ・ヴィンチ。

この性分として、こと珍しいものに関しては研究せずにはいられない。

大して多くもない魔術回路、習得している魔術の少なさからいって、まず間違いなく凡庸の魔術師。

だが、それを補うかのようなその肉体に文字通り目をひかれた。

一般の成人男性など比較にならない強度、その筋ものが極めるものとしても一目置けるほど鍛え抜かれた肉体。

そしてそれ以上に、魔術回路の配置が完璧だ。

回路がまるで第二の骨格のように彼の体に配置され、回路ひとつの起動で身体中に満遍なく魔力が行き渡る。

これが人為的なものでないのなら正しく、これも天性の賜物。

 

 

「やっぱり、無理したんだね」

 

 

そして、やはりと天才は小さく肩をすくめる。

筋肉繊維は通常の壊れ方ではなく、過剰の魔力運用によって摩耗気味。

それに伴い臓器のいくつかも痛み、体内出血寸前。

回路そのものは無事だが、どれもがオーバーヒート寸前だ。

特異点にいる中、ほぼ常時魔術を行使していたのだから無理もない。

 

 

「筋肉は文字通りボロボロだし、臓器も悲鳴を上げてる。

君レベルの肉体でなければ、体内から魔力が暴走して爆発四散してるよ。

比喩でもなんでもない。

それも抑えるためにまた魔術を使ったんじゃただのイタチごっこだ。

私のサポートにも限度がある、ちゃんと分かってるよね?」

 

「......あぁ痛てぇ、わかってる」

 

「ホントにわかってる人はこんな無茶しませんっと」

 

「あがっ......!」

 

「君の所業ははっきりいって異常なんだよ?

生きている人の身で、サーヴァントと同程度の肉体にまで伸し上げる。

それも、強化魔術という初歩中の初歩魔術で。

あのアーチャーは分析に特化してたね。

見抜かれたんだろう?

君の魔術は、固有時制御で幾重にも強化をかけるもの」

 

「...........っ」

 

「単純に筋力を底上げするものじゃない。

自身の肉体、手に触れられるものであるのなら何であれ、その存在強度を引き上げる。

モードレットやアーチャー、アーサーと曲がりなりにも戦えたのも、マシュを守るために使ったものもそれなんだろう?」

 

「はぁ......天才に隠し事なんてするもんじゃねぇな。

興味ひかれて結局丸裸にされるのがオチだ」

 

 

そうして青葉紫助は、降参したように両手を挙げる。

配属されて今日に至るまで隠し通してきたものが、早数週間で露呈してしまった。

だが、彼も全力で力に関して隠蔽を測っていた訳では無い。

ここに来た時、ダ・ヴィンチに目をつけられた時に薄々肌で感じてはいたのだ。

この英霊相手に隠し事など無意味。

興味を持たれてしまったが最後、此方の真実を徹底的に詳らかにするだろう。

だからこそ、取引をすることにした。

調べたいのなら幾らでも調べていい。

その見返りとして、無理をした時のケアを要求した。

 

 

「取引内容に頷いたのは私だけどさ、やっぱり辛いかな」

 

「それでも調べたいんだろ?

作り手の性じゃしょうがねぇわな」

 

「ホントに君は意地悪だなぁ」

 

「それが俺の性ってやつだな」

 

「あぁ言えばこう返すのはどっちなんだか......。

まぁいいよ、はい応急処置完了。

歪んだ箇所は元通りにして、魔力の淀みも出来るだけ取り除いた。

後は安静にしてれば回復するはずさ。

82%ぐらいにまでは戻れるよ」

 

「八割、か」

 

「そう、あと八割しかないんだ」

 

 

あっけらかんと言い放ったダ・ヴィンチを前に、俯き自らの手のひらを眺める紫助。

彼女が戻るといった限界値は八割。

安静にして、極力魔術を行使しないで数日間療養に務めて漸く戻って八割だ。

それ以上の回復は見込めない。

どれだけ眠ろうと、どれだけ食べようと、どれだけ休んでも以前の身体には戻らない。

身体が全快になることは二度とない。

 

 

「過去にあれだけやってそれなら全然マシな方だよ。

それでここまでの数値に戻ること自体どうかしてる。

普通なら植物状態、運がよくて半身不随。

君の肉体はやっぱり天性のものだよ」

 

「身体が資本、よく言うだろ?

年がら年中薄暗い地下に引きこもって、訳わかんねぇ研究してる奴らに比べたらまともな方よ。

そんで?どうなんだよ」

 

「何がだい?」

 

「惚けんな、単刀直入に聞くぞ。

俺の身体は、後どれくらい保つ(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「............そりゃ、今回みたいな戦闘続けてたらひと月ともたないよ。

推奨としては、立香くんのように魔術の行使は礼装をベースに、基本的な戦闘はサーヴァントに一任。

これなら還暦ぐらいなら楽に迎えられると思うよ?

どうかな?」

 

「却下だ、考えるまでもねぇ」

 

「な、なら君専用の魔術礼装を用意しよう。

魔力の淀みを随時汲み上げて、溜まった魔力を循環させて細胞活性に回す。

必要箇所は交換式にして長時間の運用を可能にして、えと......それから、えっと......そ、そう!

氣の活性術式とか組み込んでみたらもっと効率よく行動出来るようになるんじゃないかな?

ほ、ほら君なら理解できるだろ?

中国伝来の身体活性術式も存外馬鹿にならなくてね、迷信とかじゃないんだよ?

ちゃんと理にかなった理屈とデータが証明されてる。

かの有名な槍の達人、李書文はこれを極めていてね、なんと自然と同化して一切周囲から気取られなくなるんだ!

彼がアサシン枠で召喚されれば、普通の聖杯戦争において敵なしとされるレベルさ。

あ、あぁとそれからコレなんて」

 

「もういい」

 

「な......何を言ってるんだよ、可能性を捨てるなんて紫助くんらしくないなぁ、あはは。

大丈夫だ、君の身体を何とかする手立てはまだ幾つか見繕ってあるんだ。

現代科学と魔術を組み合わせれば......きっと!」

 

「ダ・ヴィンチ」

 

 

まただ、またこの眼を持ってしてでも見通せない。

肩に置かれた手は暖かく、その天才の名を久しぶりに口にした彼の言葉は気遣いしか感じられない。

柄にもなく感情的になるのも、合理性に欠けた発言は全て目の前の男のせい。

自分でも分かっている。

今のいままで提示したことは全て時間がかかり、且つ現実的な試みではないことを。

 

 

「お前が俺にそこまでする義理はねぇよ。

最初に言ったろ?

俺はあくまで選ばれたマスター様たちのおまけなんだ。

今、この場で一番重要視し続けなきゃいけない奴は藤丸(アイツ)らだけなんだ。

お前に出来ることは、アイツらの生存率を少しでも押し上げること。

それに、お前はよくやってくれてるさ。

じゃなきゃアイツらは最初の段階でお陀仏になってたかもしれねぇ。

柄にもなく取り乱してんじゃねぇよ」

 

「どうして?

どうしてそんなに冷静にいられるんだい?!

確かに、今回の試みは命を賭けるほどのものさ!

私だってどうしようもない状況ならそれ相応の切り札を切るさ!

でも......それとこれとじゃ話は違うよ......。

生き残るために死ぬための道を選ぶなんて、それこそ本末転倒じゃないか......」

 

 

力なく項垂れていてしまい、その後の返答に詰まる。

彼は今を生きる残された希望のひとつだ。

自分たちのように召喚された仮初の生ではない。

死ねば本当にそこで終わってしまう。

何とかしてあげたい。

万能の天才に名に恥じない功績は、これまでこのカルデアで幾度となく上げてきた。

それでも、今回ばかりは打つ手がないのが非常に歯痒い。

打開策はあっても、それを実現するための時間が足りないのだから。

 

 

「顔、上げてくれよ」

 

 

自壊の道を選んだ彼は、それでも朗らかに言った。

いつものような憎たらしい顔ではなく、此方を慈しむような儚い小さな笑顔。

死を免れない故の悲しさではない。

自棄になったものでもない。

諦めた顔とは、どこか違うそんな顔を見せてくれた。

 

 

「いいんだ、ありがとうダ・ヴィンチ。

俺のためにこんなに感情的になってくれて。

だからこそ、笑ってくれ。

そんな顔じゃ、大手を振ってレイシフトなんて行けないぞ?

俺たちを死なせたくないのなら、精一杯サポートしてくれ。

ん?」

 

「君は......君って奴は、そんなことを笑顔で......」

 

 

どこか子どもをあやすような優しい声。

いつものような砕けて、ぶっきらぼうな口調じゃない分、その声は自分の中に自然と落ちていった。

それはある種、いずれするであろう自殺を見届けろという意味と同義。

それでもいい。

それでもいいと彼は言った。

無理難題を突きつけられる世界が相手なら、こちらもまた無理をしなければならない。

ぼやけた視界でも、その決意に満ちた顔ははっきり見えた。

暖かな雫が落ちるように、その声や表情の真意も心にすとんと落ちる。

覚悟を決めたのなら、最早これ以上は無粋。

 

 

「......グスッ、本当に男の子って、不思議だなぁ」

 

「元男が言うセリフかよそれ」

 

「デリカシーのない君にだけは言われたくない!

............分かったよ、今回は大人しく引き下がる。

現状打つ手がないのは事実だから。

でも!」

 

「ん?」

 

 

力強く続けると共に、彼の手をしっかりと覆う。

この温もりを決して失わせないと誓いを込めて。

 

 

「私は!絶対に!諦めないよ!!」

 

「............そっか」

 

 

一瞬彼の顔は面を食らったように硬直したが、その言葉の意味を理解すると、さっきと同じように小さな笑みを浮かべた。

絶対に諦めない。

意趣返しとして受け取れと、強く約束の結びを締め直したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォーウ.........」

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

「何よ、何か言いたいことでもあるの?」

 

「いえ、ただ所長の顔をこのカルデアでもう一度見ることができて、改めてホッとしているんです」

 

「本当に何とかなってよかったよ。

生きててくれて何よりだ。

あれ?嬉しくない?」

 

「そんな能天気に喜べるわけないでしょ?

いい?もう私の身体は人間のものじゃなくて、僅かに無事だった細胞を高密度のエーテルで無理やり繋ぎ止めてるような状態なの。

同調が上手く行けば確かに、肉体構成は問題ないかもしれない。

でもね、そんな簡単にいくような事じゃないの」

 

「それは、どうしてですか?」

 

「簡単な話よ、前例がないの」

 

 

人体がほぼ機能不全になってから、外的要因で蘇生に成功した例など存在しない。

今回は異例中の異例だろう。

まさか聖晶石を人体構成のための礎とするなんて、普通の魔術師では考えもつかないだろう。

やはり、あらゆる意味で、青葉紫助という存在は無茶苦茶なのだ。

 

 

「はぁ、戻れたことは確かに嬉しいんだけどやっぱりね。

でも、貴方たちには感謝してるわ。

こんな私を最後まで見捨てないでくれて本当に感謝してる。

あのバカを除いて、ね?」

 

「...........ぷっ」

 

「な、なによマシュ!

私が感謝するのがそんなに面白い?!」

 

「すみません、そうではなくて。

ねぇ?先輩?」

 

「そうだね」

 

「一富士も何笑ってんのよ!

本当に補欠候補生は人をバカにして!!」

 

「だから藤丸だってば!!

紫助さんに毒されないでよ所長!!」

 

 

悪態をつこうと、オルガマリーの表情は晴れやかだった。

俗に言うなんちゃらではあるのだが、それはいずれ誰かが口にするだろう。

デリカシーがなく粗暴で、いつでも場をかき乱すへんちくりんな男の口からそれは語られる。

だから、今は束の間の休息を享受し、作戦の成功を喜ぼう。

まだ見ぬ世界への挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。

 

 

「あ、そう言えば所長。

お見舞いの品を紫助さんから預かってたの忘れてました。

はい、出歩けるまで隣に置いておくようにって」

 

「キャアアアァァァァァァァ!!!!

人が動けないのをいいことにぃぃぃぃ!!!

絶対許さないんだからぁぁぁぁ!!

あのおバカぁぁぁぁ!!」

 

「所長!!口が!!

治療したばかりなんだから落ち着いて!!!」

 

 

いつぞや完成させたクマのぬいぐるみが、賑やかな光景に溶け込むように笑顔を光らせていた。

この大団円が、人理修復の後にも続くように。

ぶっきらぼうに書き殴られた「お大事に」というメッセージカードを握り締めて叫ぶオルガマリーの顔は、やっぱりいい顔をしていた。

 

 

 






明けてましたおめでとうございます。
今更感あるけどどうぞお納めくだされ。
駆け足気味になったのはすんません。
許して♡

殺意湧いた人の心は正常です。
まぁ、こんな感じでまた面白おかしく書き上げてみようと思いますので、どうかよろしくお願いします。
その他の作品もそのうち書きます。

ではでは、また次のページにてお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。