猫と犬は相容れない   作:あずき屋

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「あちーよぉぉぉぉ......溶けるよぉぉぉぉ......。
太陽が熱っぽい視線向けてくるよぉぉぉぉ」

「うるせぇな......ただでさえ喋るのも億劫になんだからそれ以上言うな......」

「2人とも暑いのはてんでダメですね」

「ワシは好きじゃなこの暑さ!
こう燃えたぎるような熱が内から溢れて適わん!
敦盛をROCKにして今年を過ごすぞ!」

「やめろ......俺たちを燃やす気か」

「しすけぇ、アイスぅ」

「もう無くなったわ」

「熱は水分だけでなく、汗と同時に塩分も消費する。
ミネラルウォーターだけでは熱中症を防げないので注意しておきたまえ」

「それと、エアコンの効いた部屋に長居するのも危険ですよ?
外との温度差で、短時間で体調を崩す原因にもなります」

「なぁんで極寒なはずの山頂でこんな暑さにやられなきゃならねぇんだよぉ」

「異常気象と空調の故障だから仕方ないとしか」

「しすけぇぇぇぇ......アイスぅぅぅぅ!!」

「伸びきった麺の方がなんぼかマシな光景だなこりゃ」

「フォウゥゥゥゥ......」



第16話 悲しいものも楽しいことも含めての思い出

 

僕が彼に頼んだことはたった一つ。

マシュを笑わせてほしい。

ただそれだけを彼に願った。

自分の立場を理解しておきながらどの面下げてそんなことを頼むんだって、本当は思われていたのかも知れない。

それでも僕は必死で頼み込んだ。

例え作られた生命だとしても、生命は生命なんだ。

替えが効かない、この世で最も尊い小さな輝きなんだ。

マシュにだって、人と同じものを感じる権利があるはずなんだ。

でも、立場上当時の僕らは彼女に寄り添ってあげることが出来なかった。

プロジェクトに関わる者が、私情で物事を判断しちゃいけない。

だからこそ、中立で選ばれた彼こそがその役目に一番適任だった。

厚顔無恥とはよく言ったものだよ、僕はその時全てをかなぐり捨ててお願いした。

 

彼女を笑顔に(僕らと同じに)してくれと。

 

僕の懇願を一から理解してくれたかどうかは分からない。

結果として、彼は了承してくれたよ。

複雑な心情だったとは思う。

それでも彼はこんなバカなお願いを承諾してくれた。

分かった、任せろと短く言い残して。

結果はさっきまで話した通り。

人工的に作られ、人の愛も感情も知らないマシュを見捨てたことは一度だってない。

お陰で彼女は、調整を無事に乗り切った。

 

彼と過ごした記憶を代償に、やり遂げたんだ。

 

最後の調整に命の危険はない。

確かにそういう危険はなかったけれど、敢えて伏せていたことがある。

調整はデザイナーベビー、ホムンクルスの活動時間を限界まで伸ばすためのもの。

人理焼却を回避するためには、マシュとマシュに憑依した英霊の力がどうしても必要だった。

思いや経過はどうあれ、無理矢理生かす手段に踏み切った事になる。

でもその調整は今まで以上の苦痛が伴う。

身体に掛かる負担は僕の想像を軽く凌駕する。

命の危険以外に、何が起こったって不思議(・・・・・・・・・・・)じゃない。

自分の想像を絶する痛みに対して、想定される人の精神防衛機能はさっきの自傷行為だけじゃないんだ。

自己暗示による記憶中枢の無自覚改竄。

 

最悪のケースだった。

懸念して、一番起こらないように注意して祈っていたのにそれは起こってしまった。

僕らの心象はどうでもいい。

そんな気持ちを抱くこと自体傲慢以外に他ならないんだから。

 

でも、彼はどうなる?

一番親身になって、実の兄妹のように接してきた彼の気持ちは?

彼にとっても大切な存在になった彼女が、ある日を境に別人のような存在になってしまったら?

マシュに対してなんて詫びればいい?

あれだけ楽しませてあげて、最終的にはその僅かな思い出すら奪い去るのかい?

 

首を斬られる覚悟で、彼に謝りに行った。

足がすくんでまともに立っていられなかったけれど、それでも無い頭を思いっきり下げて謝った。

でも、彼の反応は僕の予想を下回った。

 

 

────そんなことしてる暇なんてねぇだろバカヤローお前コノヤロー

 

 

いつもと変わらない表情と言動で吐き捨てた。

人でなしと思う心はあるだろう。

懸命に謝る姿に吐く言葉ではないだろうと。

それでも彼は以前のスタイルを貫いた。

多くのスタッフから軽蔑の視線を向けられようと、彼は出会った時と何ら変わりない姿を見せた。

でも、やっぱり変化はあった。

今までのようにマシュと関わることを極力避け、接触があったとしても持ち前のテキトーな会話でなあなあにする。

まるで、彼女の再出発に自分は必要ないみたいな背中だったな。

口や態度にこそ出しはしなかったけど、絶対寂しかったに違いなかっただろう。

 

 

───────────────

 

 

「ぅ............うぅっ!

涙が止まりません......」

 

「その後は特にこれといった変化もなく、今に至るという訳か。

彼女たちの関わりを見るに、恐らくはそういう事なんだろう」

 

『察しが良くて助かるよ。

紫助くんが前以上に悪ノリをするようになったのは、多分マシュに勘づかれない為なんだろう。

彼女には紫助くんがマスター候補の候補、ただの補欠要因であるとしか伝えてない。でも実際にはその枠外の特例候補生なんだ。

僕がお願いしたからこそ、彼はカルデアに在籍してくれてる。

レイシフト適性が見つかったのは、本当にただの偶然なのさ』

 

「そんな事実が......」

 

「合点がいったよ、ロマニ。

話してくれてありがとう。

やはり、奴もなかなか不器用な男らしいな。

因みに最初に言っておくと、私は最初から内通者として疑っていた訳では無い。寧ろその逆、危うい橋を渡りつつも常に君たちを気遣おうと行動する男だったよ。

マシュの反応が完全に予想外であったのは事実だったがね」

 

「でもだからと言ってマシュに何も言わないのは!!」

 

『藤丸くん、それが彼の選んだ選択なんだ』

 

 

でもと食い下がる藤丸に、ロマニは諭すよう言葉を連ねていく。

望んだ姿にならなくとも、選んだ選択は飲み込まなければならない。

それを受け入れて、青葉紫助はマシュの重荷にならない道を選んだ。

失ったものなど無い。

感情と人との触れ合いを知ったあの時こそが始まりなんだ。

その前の出来事など、体験版に過ぎないのだと。

そう青葉紫助は切り捨てた。

一番の心配するべき対象は、マシュだけだと言うように、彼はその思い出に蓋をする決断をした。

いつかそんな過去をも笑顔で塗り替えるだろうと、たった一人の妹分を信じ抜いて笑顔で別れを告げた。

 

 

『だから、僕は紫助くんの意志を尊重したい。

これ以上引っ掻き回して余計な傷を増やさせたくないというのが本音なんだけれどもね』

 

「............ふぇ......ぐっ。

そんな悲しいお話があったのですね」

 

「それでも尚前に進まなければならない。

奴の選んだ道とはそういう事だ。

変に泣き言を言わないだけ立派、とは言い難い。

誰にも頼らない、頼れない在り方を良しとした生き方だ。

分かるなマスター。

そういう奴は、お節介でも強引でも何でもいい。

無理やりにでも支えてやらねばならない。

でなければ、君たちは彼と共にいつも通りの日常を送れなくなる」

 

「うん......何か抱えてる人だとは思ってたけど、想像以上だった。

多分マシュの事だけじゃない、もっと色んなことを一人で抱えてるに違いない。

話してくれるまで、根気よく付き合っていかないとね」

 

「素晴らしいですっ!

真実を知った上で何も告げず懸命に寄り添う人の愛情......あぁ、ごめんなさい。

自分で言ってて感極まって泣いちゃいました......!

あんまりにも悲しくて儚げで胸が痛くなって辛いもので......」

 

『そう、だからこそ事情を知ってる僕らは全身全霊をもってバックアップを......』

 

「紫助さん任せにしないよう自分も頑張って......」

 

「世話の焼ける相手が一人増えただけの話だよ。

なに、今まで以上に気を配って......」

 

「はい!

皆さん一緒に頑張りましょう!!

私も微力ながらお手伝いしますっ!!」

 

「「『って貴方(君/お前)は誰だ!!!?』」」

 

「えっ?」

 

 

────────────────

 

 

おかしくないですか。

いえ、この時代に召喚されたのは私のクラスの性質上や問題の原因となっているものの都合上仕方の無いことではあるかと思います。

私の霊基が通常より落ちているのも何かしらの原因があるのでしょう。

それらはちゃんと飲み込んで納得はしています。

それに、どうやらこの世界は私の役目を果たす必要のない世界であることも分かっています。

この世界では聖杯戦争は起きていないですから、私がここにいる理由がその役目を全うするためのものではない。

ならそれ以外の理由で呼ばれた可能性に疑いを持ちますよね。

 

だから色々散策して、この時代の情報を集めていたんです。

まさか、私の火刑から少しばかり経った頃のフランスとは思いもしませんでしたが......。

更に私の別側面が作り出され、竜の魔女として民から恐れられているなんて想像だにしないでしょう。

まぁ......この際私情は挟むだけ損です。

もう一人の私のお陰で情報収集には苦労しました。

当時を彷彿とさせる尋常じゃない仕打ちを受けたのですから。

石の礫や物を投げるなんて序の口です。中には鍬や鉈を持って襲い掛かってきた民もいました。

何故だか中には、その......ほぼ全裸に近い状態の者にも襲い掛かられました。

よくは分かりませんでしたがこの時代には見られなかった奇抜な髪型をしていて、ファンクラブがどうとかジルがいない今がチャンスだとか訳のわからない事ばかり触れ回っていました。

この現状に気が触れてしまった者も中にはいたのでしょう。

でなければ丸腰で数人がかりであられもない姿で押し掛けて来たりはしないでしょう。

えぇ、きっと彼らは疲れていたのでしょう。

殴られた後に”ありがとうございます!!”とか言わないでしょう。

もう忘れることにします。

そして散策を続けていくにつれて、道中襲われている街を発見しました。

空飛ぶトカゲが犇めいていて、通常の在り方から外れたサーヴァントが暴れているとなれば行かざるを得ないでしょう。

私は裁定者(ルーラー)なのですから。

加えて目の前に敵対行為を示しているシャドウサーヴァントに対して然るべき対応を取らなければならない事も不本意ながら理解はしています。

 

でもこんなのあんまりじゃないですか!!

 

 

「オラオラどきやがれ!!!

勝つのは俺だ!!!」

 

「三千世界に屍を晒すが良い。

信長スペッッッシャァァァァッル!!!」

 

「「刺し穿つ死翔の槍(三千世界)!!!!」」

 

 

瞬く間に千を超える棘と、一軍隊から放たれる掃射が同時に私の身に降り掛かってきたんですよ。

逃げる素振りすら見せられなかった翼竜たちは串刺しになっていき、無数の風穴を晒してあっという間に制圧されました。

幾ら裁定者(ルーラー)のサーヴァントとはいえ、今の私の霊基は本来の出力の半分かそれ以下しか発揮出来ません。

真名看破も大した効力出ないですし、そもそも身体能力も落ちてるんですよ。

あの死の雨から逃れられたのは一重に天命によるもの。

でなければ私は有無を言わさず死んでました。

いえ、それは別に助かったのですから悪く言うつもりはありません。

身体のあちこちを掠りはしましたが大事には至っていません。

えぇ、主の声がなければ即死でした。

結果論とはいえ、私の命は助かったのですから。

 

でもやっぱりこんなのあんまりじゃないですか!!

 

 

「あーまだ骨があるやつは残ってんな。

雑魚がまだちらほらと、死にかけだがまだ生きてるバーサーク?

まぁまともじゃねぇサーヴァントが一騎か。

どうするよ信長、奴さんどうやらまだ物足りねぇらしいぜ?」

 

「うっはっはっは!!!

かの名高い呪槍に加え、ワシの三千世界を持ってしてでも殲滅せなんだか!!

元の霊格から程遠いワシらではこれが限度。

甚だ遺憾ではあるが、甘んじて飲み込む他あるまいて。

だがな御子よ!

であるならば、更なる波を持って奴らも飲み込みきってやらねばならんのではないか!?

殺れるのなら殺ってしまえ、小僧は確かにそう言った。

ならば答えはこれに尽きよう!!」

 

「「是非もなし(もう一発いっとくか)!!!」」

 

もう1回撃たなくても死屍累々なんですよ!!待ってぇ!!

 

 

虚しく響く声、言っていてこれほど悲しくなる言葉はありません。

最もそれは途轍もない豪雨に掻き消されてしまったんですが。

声は届かず再び蹂躙という名の雨が降り注ぎました。

私の幸運を褒めて欲しいです。

2回ですよ2回。

あの死の雨から2回も逃れられたんですよ。

逸話として昇華してくれてもおかしくないですよね。

主の声がなければ本当に召されていました。

幸運半端なくて若干自分で自分に引いたぐらいですよ。

ん、えぇ......チラッと着弾箇所を見たら、物の見事に綺麗な更地になっていましたよ。

翼竜もサーヴァントも共に完全消滅です。

民がいなくて本当に良かったです。

でも何故でしょうか、不思議とあの槍を携えた御方からの攻撃は当たる気がしなかったんです。

なんと表現すれば......その、どうでもいい相手には当たって肝心の相手には当てられないと言いましょうか。

え、私何かおかしなこと口にしましたか。

紅い貴方、ちょっと肩を震わせているような気がしましたが......気のせい、そうですか。

気のせいなら気にすることないですよね。

 

 

でも私は死にかけたんです!!

こんな仕打ち絶対あんまりですっ!!

 

 

──────────────────

 

 

「その後お二人は肩を組んで何処かへ行進していかれました......。

話が逸れました。

それで命からがら街を逃れ、脇にて待機している貴方たちを見つけ、たまたまお話を耳にしてしまったという訳です。

貴方たちの敵ではありませんので、ご安心ください」

 

「すみませんでした」

 

「どうして貴方が頭を下げるのですか!?」

 

蟠り(わだかま)を残さないよう心を鬼にして話そう。

その爆撃を指示したのは彼だ」

 

「この鬼!悪魔!!あんぽんたん!!」

 

『変わり身というか、情緒の変動がすごい!!

あんぽんたんとか久々に聞いたぞぅ!!』

 

「「「ジャ、ジャンヌ様が何故生きて!!!?」」」

 

『あーもう!!

とりあえず説明するから皆ちゃんと聞いてくれ!!』

 

『あははっ!

ロマニ、私は騎士たちの説得に回るよ。

曲解のないよう彼女に状況を伝えてあげなよ?』

 

 

〜医師天才共に説明中〜

 

 

「全くもって納得がいきません!!

さっきの話の方の言う台詞にはとても聞こえませんし、人間の身で私たちサーヴァントと張り合うなんて話とか前代未聞なんですよ!!?

理解しているのなら止めるべきです!!

紅い貴方言いましたよね?

無茶でもいらないお節介でも何でもいいから止めるべきだって!

命を軽く見過ぎではないですか!?

無茶が通れば道理が引っ込む等それこそ神話や御伽噺の世界の話なんですよ!!

神秘がとうの昔に衰退した世界の人達の身で私たちに並ぼうとするなんて自殺願望どころか破滅願望の域です!!

人理を救済する話は何とか理解出来ました。

このままでは私たちの世界は焼却され、真っ白なページにされてしまう

それをどうにか正しい道筋に戻すため貴方たちが遣わされたと。

ですが!!それとこれとは別問題ですっ!!!」

 

「いやー改めてこう捲し立てられるとやっぱりおかしい話だよね」

 

「数少ない良識人からの貴重な意見だ。

やはり私たちの毒され具合がおかしいのだろう。

我々にとっては最早それが当たり前として認識されてしまっている」

 

『うん、分かってる。

分かってるけどどうにもなぁ......。

彼女の反応も最もだし、紫助くんの現状も事実だしなぁ』

 

 

ロマニの懸命な説明を聞いた上で尚ジャンヌは憤慨した。

両の手でしっかりと握り拳を作って、凡そ村娘が持つには余りにも過ぎた物、何処ぞの猫が嫉妬で狂う程の豊満な双丘の前でブンブンと拳を振るっていた。

団扇で扇いだかのような風量が引き起こされる。

紫助のように冗談混じりで突っ込もうにも、彼女の表情は真剣そのものである。

再三同じことを繰り返し言っているが、常識的にはマスターたる存在は直接的な戦闘に参加する立場ではない。

サーヴァントのバックアップならまだしも、自身も直接相手に向かって刃を振るう必要はない。

本来なら成立していい話ではないのだ。

バカバカしくも信じ難いことではあるが事実だと、ダ・ヴィンチはおどけた口調を止めて言葉を連ねていく。

 

 

『エミヤの言う通り、私たちの認識が歪められてるのかもね。

でも結局のところ何とかなっちゃうのが歯痒いところかな。

私たちとしても形振りは構っていられない。

何より他でもない彼の選んだ道だ。

彼はとても頑固な性格でね、私たちが口を挟んだところで意見を変えるような男の子じゃないんだ』

 

「ですが、その話の彼は人間なのでしょう?!

マスターならサーヴァントの後方支援が鉄則......!」

 

「私も、以前はそう思ってました」

 

「マシュ!」

 

 

横槍を入れたのは意外にも彼女(マシュ)だった。

冷静さを取り戻した頭で、私情を出来るだけ省き、理性を働かせて滔々と言葉を紡ぐ。

その眼に映るのは確信を持った揺るぎない自信の色。

常識的にはそういう認識が当然なのだろう。

しかし、我らが先陣を切る無鉄砲な男の在り方はさっき話した通り。

自らが敷いた信念の元にあらゆる困難に立ち向かおうとする。

その先に自分が求める結末ではなかったとしても、きっと後悔はしないだろう。

だって、何時だって彼は根拠の無い自信で満ち溢れているのだから。

酸いも甘いも、彼ならきっと飲み込むだろう。

そして、いつも通りに笑い話に変えてしまうに違いない。

そんな背中に、私たちは憧れを抱いてしまったのだから。

 

 

「常識と良識もあの人の前では無意味です。

少なくとも、こうした特異点でそういった問答こそ意味はないかと。

何が起きるか分からず、この世界は常に私たちの予想を裏切ってくるんですから。

そして、そんな厳しい現状を打ち破ってきたのが紫助さんです。

現にお陰で私たちは最初の特異点を修正し、ここに立っています」

 

「あぁ、散々妙なことに巻き込まれはしたが、最終的に奴は勝利を収めた。

無尽蔵の魔力の供給を得た騎士王と聖剣を前にだ。

相手側がこちらの常識を覆してくるのなら、こちらも相手側の常識を覆しに掛かる。

それが青葉紫助のやり方であり、私たちはそれに賛同してこの戦いに臨んでいる。

確かに、従来の魔術師とサーヴァントのやり方より危うい橋渡りだ。

深く考えずとも答えは簡単に出る。

この試みは、半ば賭けに近い別側面からのアプローチだ」

 

「ならどうして!」

 

「............純粋な期待、かな」

 

 

きっと彼なら何とかしてくれる。

ふと思い浮かんだ言葉がそれだ。

妙な安心感というか、危機的状況も想定内のような感覚にさせてくれる。

だからこそ、自分たちはパニックに陥らずここまで来た。

青葉紫助という緩衝材がなければ、冬木の特異点にすら辿り着くことも出来なかったかもしれない。

御伽噺の導き手のように完璧な案内をしてくれる訳じゃない。

神のように守護を与えてくれる訳じゃない。

どんな相手でも打ち倒す力がある訳じゃない。

 

彼は一緒に迷ってくれる。

一方的じゃない自分たちの力もアテにしてくれてる。

一人じゃない、戦う時はみんな一緒だ。

 

そんな彼を支えたい。

立香の心に浮かんだ言葉がもう一つ。

頼りきりにする訳がない、寧ろそんなものはお断りだ。

誰にでも受け止めきれる容量に限界がある。

なら、自分たちがそれを肩代わりすればいいだけの話だ。

一人にはさせないし、頼まれても離れるつもりは無い。

 

 

「自分たちも、紫助さんという人を信じています。

どんな逆境もヘラヘラして真っ向から挑むあの人の強さに惹かれたんです。

それに、みんな口にこそ出しはしないけれど、ちゃんと分かってるんです」

 

「なに、例え地獄に落ちようとも無理矢理引っ張りあげるくらいの気概でいてやるさ。

あの頑固な性格も、後々には矯正してやらないといけないのでね。

それまで、死なせるつもりは毛頭ないさ」

 

「決して一人にはさせません。

皆さんの盾になることこそが私の唯一の役目なんです。

お株を奪われたまま黙っているほど、子どもでもないつもりなので」

 

『彼には返しきれない大きな恩がある。

生涯を掛けてでも清算してみせるさ!

それまで、この縁がどこまで持つか試してみたい気持ちもあるしね!』

 

『ふふっ、みんな気持ちは同じなんだ。

私たちの願いはただ一つ、この子達に明日を届けたいだけ。

その願いを邪魔する輩は、この天才の全知能を駆使してでも排除してみせる。

どうだい?生半な覚悟を持たないまともな連中じゃないだろう?

そんな変わり種が集って、どんな結末を作れるのか。

行く末が気にならない訳じゃ、ないんだろう?』

 

「貴方たち......」

 

 

それでも駄目だと、ジャンヌは止める気にはなれなかった。

どうしようもなく能天気な顔で、心の底から溢れてくると言わんばかりの笑顔を見せられたら何も言えなくなる。

立場がまるで逆だろうと喉まで出かかる。

止めようとしている此方が悪者だとでも言うのだろうか。

いや、間違いなく断言されるだろうなと反射的にそう考えた。

不安で仕方ないが、ここで見捨てることが出来ないのがジャンヌ・ダルクという英霊の在り方。

底抜けの阿呆どもがどこまで本気かは知らないが、こうなれば出来るところまで付き合ってやろう。

きっと直ぐにでも現実を見て考え方を改めてくれるはず。

そんな僅かな希望を抱いて、柄を握り締める。

どうあれ、今の自分はあの時と同じように先陣を切れる。

 

この旗と同胞が健在する限り、我らが主は決して見捨てない。

 

 

「その紫助さんにお説教するために貴方たちに着いていきます。

絶対に無茶はさせませんからね!」

 

 




暑くて死にそうになっている内の一人、あずき屋です。
やっとジャンヌ出せてご満悦です。
この絶妙なポンコツ具合が可愛くてしょうがない。
なんとか再現してみせますので、ゆるりと待っていて下さい。

裸になっても暑いのが夏の厄介なところですよね。
気合いで今年も乗り切りましょう。
新鯖来る前触れが感じ取れます。
皆様、主の導きの通り引きましょう。
運営を讃えましょう(錯乱)

溶けてなかったら、また次のページでお会いしましょう。

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