自信はあまりないですけど、楽しんで頂けるなら、幸いです。
DMMORPG<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>『ユグドラシル<Yggdrasil>』。
2126年に日本のメーカーが満を持して発売した体感型MMOだ。
体感型とは、専用のコンソールを使って仮想の世界で現実に居るかのように遊べるゲームのことだ。
このユグドラシルは、そんなDMMORPGの一つで、他を圧倒する膨大なデータ量を元に、種族や職業、果てはアイテムまでが、自分の思い通りに作ることができる。
そんな徹底した自由度があらゆる人々の心を昂らせ、このゲームの虜にされてきた。
月々の使用料が1500円かかるなかで、月何万と課金する人が続出していた。
もちろん僕もその一人だ。
しかし、それでもたかがゲーム。
かつて、DMMORPGの代名詞とまで謳われたこのゲームも、12年の歳月を経て、終わりへと向かっていた。
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「僕がこの姿で居られるのも、今日で最後か...」
窓から見える星空を眺めながら、僕は一人呟いた。
寂寥に打たれながら、コーヒーの入ったカップを傾ける。
所詮はゲームの中だ。味はしない。だが、大昔の漫画の主人公をロールプレイしている身としては、コーヒーは必須なのだ。
僕が今居る喫茶店も、ロールプレイに関係する。
僕がこのゲームを初めて、数年が経ったころ。
僕が小さい頃から大好きだった漫画が、ユグドラシルとコラボしたのだ。
勿論僕も参加した。
討伐系のクエストで討伐数のランキングによって報酬が変わるタイプだったので、喫茶店を営んでいた僕は店を閉めて、コラボ期間の1ヶ月間四六時中ユグドラシルに潜り、見事ランキングトップとなった。
あのときは、ギルメンにちょっと引かれてしまった。
しかも、開始初日からトップを守り続けた特別報酬として、原作キャラをNPCで完全再現するためのデータクリスタルをいくつか貰った。
他にもいくつかの特別報酬を手に入れたし、この喫茶店だってその一つだ。
だが、それらももう無くなってしまう。
席を立ち、報酬で作成したNPCに近付く。
原作のヒロインで、僕も女性キャラの中で一番好きなキャラだ。
「今まで一緒に居てくれてありがとうね。大好きだよ...本当に...」
彼女や、他のNPC達と別れることになるのは本当に辛い。
もし、ここが現実であったなら僕の両目からは止めどなく涙が流れていることだろう。
あと一時間もすれば、この世界から、この夢の中から追い出される。
別にリアルが嫌いな訳じゃない。
まだ若いから、結婚はしてないし、彼女も今はいない。
けれど、別に一度も居なかった訳でもない。
自分の営む喫茶店だって、あの廃れた世界では珍しい、本物のコーヒー豆を使用しているから有名だったし、裕福層の人達がよくやって来たため、お金に困ることも無かった。
けれど、やっぱり僕にとってこの世界は夢のような場所だったのだ。
憧れのキャラに成って、好きなキャラ達に囲まれて、親友と言えるような友達も出来た。
と、そこまで考えた時、その親友に最終日に一緒にカウントダウンしようと言われていたのを思い出した。
「ヤバっ!完全に忘れてた...!」
怒って無いといいなと思いながら、その親友にメッセージを飛ばす。
《モモンガさん、連絡遅れてすみません。今からそちらに向かわせて頂きます》
返信は、すぐに帰ってきた。
《了解です。全く、連絡もないから何かあったのかと思いましたよ。今ならヘロヘロさんも居るので早く来てくださいね》
《それは早くしなくちゃいけませんね。わかりました》
僕もすぐに返信して、外へ出る支度をする。
と言っても、コーヒーを飲み干して、カップを片付けマスクをつけるだけなんだけど。
支度を終わらせた僕は、この体の機動性を生かして猛スピードで目的地まで走る。
親友のモモンガがギルドリーダーを務めるギルド、『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドホーム『ナザリック地下大墳墓』へと。
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ナザリック地下大墳墓。
8階層によって構成される巨大な墳墓であり、凶悪を知られることで有名なダンジョンである。
かつてプレイヤー1500人というサービス開始以来の、大軍が攻略に乗り出したが、全滅したという伝説を生み出した場所でもある。
そして、ここナザリック地下大墳墓こそ、このユグドラシルに置いて、最高峰と言われるギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の居城である。
それが今、僕の目の前に堂々と建っている。
ここまで来れば、もう急ぐ必要はない。
なぜなら、ナザリックの中を自由に転移することができる指輪、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがあるからだ。
僕は、モモンガさん達がいるであろう円卓の間を選択し、転移した。
そこには案の定、豪華なローブを纏った魔王の様な骸骨と、黒色のドロドロなコールタールを思わせるスライムがいた。
「あ、やっと来たんですか。遅いですよ」
「お!お久しぶりです。元気してました?」
「遅れてすいません。NPC達との別れるのがが辛くて。
ヘロヘロさんお久しぶりです。僕は元気ですけど、そちらは元気にデスマーチしてますか?」
僕が来たことに気付いた二人と挨拶を交わす。
「そうですか。仕方ないですね。NPC達のこと、大好きでしたもんね」
「そうなんですよ!今日もここに来るまで、馬車馬の如く働かされてて__」
と、僕の余計な一言でヘロヘロさんの愚痴が始まってしまった。
長くなりそうだな。と思い、相槌を打ちながらチラッとモモンガさんを見ると、ジト目でこちらを睨んでいた。
表情は変わらないので、あくまでも気がするだけだが。
ヘロヘロさんも大変だなぁと思いながら、愚痴を聞いていると、だんだん話が支離滅裂になってきた。
疲れが溜まっているのだろう。
そろそろログアウトした方が良いんじゃないだろうと、思っていると、愚痴が一段落ついて、深いため息をついた。
そのタイミングを見計らって、モモンガさんが口を開く。
「いやー、それなのに来てもらって悪かったです」
「何をおっしゃいます。こっちも久しぶりに皆に会えて嬉しかったですよ」
「そう言ってくれると助かります」
「まぁ、本当は最後までお付き合いしたいんですが、ちょっと眠すぎて」
「あー。ですよね。落ちていただいて結構ですよ」
「ええ。さっきの愚痴も最後の方が何言ってるか分かんないぐらい疲れてらした見たいですし」
「お二人はどうされるんですか?」
「私は一応最後まで残ります。誰かが来るかもしれませんから」
「僕も残ります。もともと、モモンガさんと最後の時を一緒に過ごそうと誘われていましたし」
「なるほど。……今までありがとうございました、お二人とも。このゲームをこれだけ楽しめたのはモモンガさんがギルド長だったから、そして貴方が彼を支えてくれたからだと思っています」
モモンガといわれたオーバーロードは大げさなジャスチャーでそれに答える。
「そんなことはありません。皆さんがいたからこそです。私なんか特に何かしたわけではないです」
「僕もですよ。あのコラボクエストは全力でやり込みましたが、それ以外では皆さんとのちょっとした会話が僕の楽しみでしたしね」
「それこそ、そんなことがないと思いますが・・・それでも、私だけじゃない。ギルメンのみんながお二人にこの言葉を送りたいと想っているはずです」
ヘロヘロさんはそう言うと、僕たちの目をじっと見つめ、深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました。また、どこかで会いましょう。ユグドラシルⅡとかだったら良いですね。では私はこれで」
ヘロヘロさんは、笑顔のアイコンを出して、ログアウトしていった。
「「ええ。お疲れ様でした」」
そんな彼に、僕たちは声を揃えて、心からの労いの言葉で見送った。
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ヘロヘロさんが帰ってから、少しの間が経った。
今、僕たちの前には玉座の間に続く大きな扉がある。
そして、僕たちの後ろには、たっちさんの作成したNPC、ナザリックの執事であるセバス・チャン。そしてその部下の、戦闘メイド『プレアデス』達がいる。
彼らは、ここに来るまでに見つけたので、最後の仕事としてここまで付き従わせているのだ。
話を戻すが、モモンガさんの、最後は玉座の間で過ごそうという提案を受けて、玉座の間まで来たのだが、あまりの重厚な扉に、二人して驚いていた。
モモンガさんが躊躇いながらも扉を押すと、見かけ通りゆっくりと扉が開いた。
玉座に続くカーペットを歩きながら、改めて中の造りに感心していると、玉座近くに一人の女性が立っているのが見える。
確か、あれはタブラさんの作ったNPCで、ナザリックを守護する者達を統括する立場にいたはずだ。
名前はたしか...そう。アルベドだ。
彼女のことを思い出していると、モモンガさんがここに来るまでに見つけたNPC達に「待機」のコマンドを出していた。
さらに、魔王ロールの時の低音の響く声で「ひれ伏せ」とコマンドを出す。
すると、セバス達だけでなく、アルベドも玉座のそばで片膝を落とし、臣下の礼をとる。
「このNPCはたしか...」
モモンガさんもアルベドが気になったのか、その手にある、円卓の間から持ってきた、ついぞ使用されることの無かったギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使ってアルベドの設定を読んでいる。
途中「長っ!」と驚いていたのを見ると、自然と笑みがこぼれる。
たしか、タブラさんって設定魔だったもんな。
僕も少し気になってきたので、モモンガさんの横からアルベドの設定画面を見る。
すると、一番下までスクロールしたときに、モモンガさんがある一文を発見した。
『ギルメンを愛している』
たった十文字だが、これはタブラさんの残した本心なんじゃないだろうか。
♡♥♡♥♡♥♡
思いもよらない、ギルメンの暖かさにほっこりしてしたったが、時計を見れば、今の時刻は23:55:48。
00:00:00になると同時に、ユグドラシルのサービスは終了してしまう。
もう、終わりの時まで5分もない。
モモンガさんは、玉座に座ると天井から垂れ下がる、ギルメンの旗を一つ一つ指を差して名前をあげていく。
「俺、たっち・みー、死獣天朱雀、餡ころもっちもち、ヘロヘロ、ペペロンチーノ、ぶくぶく茶釜、タブラ・スマラグディナ___」
モモンガさんが名前を挙げる度、その人との思い出がよみがえる。
ついに最後の一人。モモンガさんが僕の旗を指してこちらを見てきたので、僕はここのギルメンであったことを噛みしめながら、声を絞り出した。
「そして、僕。」
「...楽しかったなぁ...」
「ええ..そうですね...」
モモンガさんの哀愁漂う呟きに、僕も同じように呟き返した。
玉座の間にしんみりした空気が流れる。
さすがに、最後をこんな空気で終わりたく無いと思ったのか、モモンガさんが口を開く。
「本当に、ここにいてよかったんですか?」
「それは、どういう?」
「いや、あのNPC達と一緒に居なくてもよかったのかなと思って」
「良いんですよ。それに、あそこにあれ以上いると、別れるのが本当に辛くて...」
せっかく空気を変えようとしてくれたのに、僕のせいで対して変わらなかった。
これでは申し訳ないと思い、冗談めかして言葉を続ける。
「思い切り抱きついて、最後の最後でアカウントがBANされてしまいそうですから」
「・・・フフ、ハハハハハハハハハ」
どうやら、目論見は成功したようだ。
「そうですね。本当にやりそうなところが怖いですよ」
「ええ。だから、最後の時をモモンガさんと過ごせてよかったです」
「俺もですよ。」
23:59:35
「じゃあ、最後はあれで締めましょうか。モモンガさん」
「そうですね。」
23:59:43
「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」」
23:59:49
「それじゃあ、本当にありがとうございました。モモンガさん。」
23:59:55
「ええ。こちらこそ本当にありがとうございました」
23:59:59
00:00:00
「金木研さん」
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言い忘れていたけれど、僕のアカウント名は
『金木研』
僕の大好きな漫画の主人公からとったものだ。
いかがだったでしょうか。
なるべく最後まで主人公が何のキャラか分からないようにと思って書いていたけど、投稿前に、これ、タグとかあらすじとかでバレるやん...!!
というアホなことになってたんですが、もういいか。と、投稿してしまいました。
次はなるべく早くに出せるようにがんばります。
誤字脱字があれば、どんどん教えてくれるとありがたいです。