マリアと翼が住んでいるマンションの一室。二人は晩御飯を食べ終わり特に目ぼしい番組もやっていなかったため手持ち無沙汰で暇を持て余していた。
「マリア」
「ん?」
「何かこう…暇を潰すものはないか?」
「無いわね、だからこうしてダラダラとしている訳だけど」
「ふむ…良くない状況だな、何かこの状況を打破できる一手が…」
そんな事を話しているとふと呼び鈴が鳴り宅配便だと言う声が聞こえた。
「こんな時間に宅配便とはまた奇怪な」
「私が出るわ、はーい」
マリアは玄関で数言交わしたあと片手に収まる程度の小包を持って帰って来た。
「何だ?ファンレターでも来たのか?」
「指令からだし質感からして違うわね。開けてみましょう」
マリアが小包を開けるとそこにはパッケージ入りのDVDが入っていた。
「DVD…?おすすめの映画かしら…にしてもパッケージが黒…ッ!」
「どうしたマリア、そんなに驚いて…これはッ…!」
二人が見たのはパッケージだけでも分かるようなホラー映画の類だった。
「ホラー映画…ですって」
「なるほど、指令はホラー映画も見たのだな。少し意外だ」
「…見る?」
「何だ?まさか怖いのか?」
「い、いえ!そんな事はないわ!そんな事は決して無いわ」
「そうは言うがな…」
翼はマリアの致命的な言動を指摘した。
「声が思いっきり震えているぞ。全く情けない」
「…ッ!貴方だって!ほら!」
マリアが翼の足元を指すと翼の足がガクガクと震えていた。翼はそれを指摘されて悔しげに呻いた。
「ぐぅ…この程度で恐怖していては防人としての務めなどとても果たせぬと言うのに…ッ」
「フッ、風鳴の防人たる者がとんだザマね!」
「尚も声が震えてるお前に言われたく無いわ!」
二人はひとしきり言い合った後決意したように翼が言い放った。
「このDVD、指令からの精神鍛錬と受け取った!であるならば果たすのみ!行くぞマリア!この場に剣と槍を携えているのは私達のみ!」
「足震えてるのに結構な見栄切るのね」
「だから声が震えてるお前に言われたく無いッ!」
二人はDVDの再生を開始する。内容は町に発生した殺人鬼の謎を追うと言うようなものだった。
「む…血を見るのは慣れていない訳ではないが…やはり腑に落ちぬと言うか…そういった物があるな」
「同感だわ、その感覚は失ってはならない。剣とは言えね」
「まだ序盤なのに声の震えが最高潮ではないかマリア」
「あんたも体の震えが風邪引いてるのか疑うレベルよ!」
見進めて行くと唐突に驚かされるようなシーンに入る。二人は少しピクリとした後話し始めた。
「まさか急に襲い来るとはな…なかなかの手練れと見た…」
「ちちちち違いないわね」
「落ち着けマリア、一旦休憩するか?」
マリアは自分の肩に置かれた翼の手を握り上げて言い放った。
「貴方も手ガックガクじゃない!お互い様よ!」
「まあ落ち着け、これでも大分緩和されている方なのだぞ」
「えっ」
「フッ…急ごしらえだがある方法を思いついてな、聞きたいか?」
「ええ、一応聞いてやろうじゃない」
「強がるのは声の震えを抑えてからにした方が良いぞ…コホン、では聞かせてやる」
翼はあたかも鬼の首を取ったように話し始めた。
「その方法というのもだな、例えばあの殺人鬼を倒すべき敵として見据える事だ。防人は常在戦場の心意気で居さえすれば怖いものなど何もない」
「なるほど…確かに敵と認識すれば…悪くない方法だわ。早速試してみるわ」
そうして視聴を再開するとまた唐突に驚かされるようなシーンが入る。二人はまたピクリとするが翼は得意げにマリアに話し始めた。
「どうだマリア?大分マシになったのではないか?」
「Seilien coffin airget-laムグッ!?」
突如聖詠を歌い始めたマリアに翼は慌ててマリアの口を塞いだ後手に持っている聖遺物を取り上げた。
「一応聞くが何のつもりだマリア!?」
するとマリアはテレビに映る殺人鬼を指差して勇ましく言った。
「あの下衆を誅するために胸の歌を取ったまでの事!」
「落ち着けマリア!アレを貫くと家のテレビが無くなるぞ!」
「だからとてッ!あの殺人鬼を野放しにする理由などありはしないッ!」
「悪かった!下手な対策を講じた私に責がある!一度剣を納めろ、ここはまだ鞘走る場ではない!」
「くっ…!」
マリアが座ると翼も安堵したように溜息をつきながら座った。その後も何度か驚かされたが特に大きな事態には至らず映画は終幕した。
「くっ…なかなか恐怖心を煽る映画だったな」
「ええ…少し疲れたわね。もう寝ましょうか」
「ああ、明日も早いからな。疾く寝るに限る」
「ええ、じゃあおやすみ」
「ああ」
二人はそれぞれの部屋に散るがしばらくすると布団を抱えてリビングに戻って来た二人の姿があった。二人はそれを見て互いに震え始めた。
「フッ…フフフ」
「クスクス…」
二人はしばらく震えていたが糸が切れたように大きく笑い始めた。
「アハハハハハハハハハハハ!」
二人はひとしきり笑った後話し始めた。
「全く、防人たる貴方が…ねぇ?」
「だからお前には言われたくないと言っているだろう…ああ、だが今宵ばかりはこういうのも良いかも知れんな」
「同感ね、じゃあそうしましょう」
そう言うと二人は布団を並べて先程の事などなかったかのようにこてんと眠りに落ちてしまった。