街が楽しげな雰囲気に包まれて眠る聖なる夜、そんな中バイクに跨る二人の女性がいた。一人はサンタの衣装にクリスマスカラーで装飾したヘルメットを被りもう一人は同じような衣装でプレゼント袋を担いでいた。その二人とは…
「マリア、袋は持ったな?」
「もちろん」
「プレゼントの中身は確認したな?」
「緒川さんと一緒に確認済み、全部あるわ」
「ヘルメットを被ってバイザーは降ろしたな?」
「大丈夫よ」
「完璧だな…防人サンタ、いざ推して参るッ!」
翼はエンジンを吹かしてバイクを発進させる、道中再び翼がマリアに話しかけた。
「マリア、ホントにポストで良いのか?やはりサンタをやる以上は枕元に…」
「切歌と調の家とクリスの家なら合鍵あるから行けるけどここの二人はダメじゃないかしら」
「くっ…やはりままならない…ッ!だが防人サンタはどんな形であれプレゼント配りを遂行してみせるッ!それがサンタの!ひいては夢を防人る私の使命なればッ!」
「ええ、やっちゃいなさい!」
翼達は決意を新たにしつつ響と未来の家に到着する。
「ここだな、ポストはほど近い。そう警戒するほどでもないだろう。マリア、プレゼントを」
「ええ」
マリアはプレゼント袋を担ぎ翼が先導してプレゼントをポストに入れて次の家に向かう。
「次は暁と月読の家だったな」
「ええ、極力静かに行きましょう」
そして二人の家に到着する、マリアが持っていた合鍵を使い家の中にそろりそろりと入っていく。
「気をつけろマリア、音を立てるな。身内とは言えやってる事は立派に犯罪だからな」
「そう言えば気になってたのだけど配ってるメンバーの中でサンタを信じてるの切歌くらいよ、不審がられないかしら?」
「…」
翼はマリアの問いに答えず忍び足を続けていたがマリアはそのまま問い詰めた。
「…まさか考えてないとか言うんじゃないでしょうね?」
「話せば分かってくれるだろう、皆優しいからな。私もその優しさに助けられてきた…」
「いい話っぽくしようとしてるけど騙されないわよ」
「…その時は、一緒に謝ってくれるな?」
「…分かったわよ、仕方ないわね」
そんなやりとりをしつつ寝室にたどり着く。切歌と調の枕元に行くと二人は一緒の布団で手を繋ぎあって寝ていた。
「…この二人は寝ててもいつも通りだな、仲良きことは美しき哉と言うからな。雪音なら怒っていたかもしれんな?」
「軽く毒づくくらいはしたでしょうね。とにかくさっさとプレゼント置いて次行くわよ」
「ああ」
二人はプレゼントを置いたのち寝てる二人に向かって「メリークリスマス」と小さな声で言った後最後のクリスの家に向かった。
「次は少々強敵ね、策はあるの?」
「起きたらその時はその時だ、多少強引にでもプレゼントは受け取ってもらう。それが防人サンタの流儀だ」
「具体的には?」
「こう…手刀で…ズバッと」
「バカッ!可哀想じゃないッ!」
「え?…あ、ああ。ボケのつもりだったのだが…」
「貴方が言うと冗談に聞こえないわよッ!」
「うーむ…私とて冗談の一つくらい言うのだが…やはりままならない」
翼がぼやきつつもクリスの家に到着し二人は合鍵を使おうとするとドアが開いていた。
「む?」
「どうしたのよ」
「開いているぞ」
「あら、あの子そんな不用心だったかしら」
「いや、そんな筈はないと思うが…まあ開いていると言うのなら入ろう」
二人がクリスの家に入ると奥の方から何か物音が聞こえてきた。
「まさかまだ雪音が起きているのか?」
「それだったら普通に渡しちゃいましょ、起きた時が怖いわ」
「一理あるな、ではそうしよう」
二人は物音のある方に向かう、そして扉を開くと黒ずくめの男が物漁りをしていた。翼は一瞬驚くがマリアが前に出る。翼達に気づき立ち上がった男だったがその瞬間マリアのボディブローがまともに入り男は倒れ伏した。
「流石、やるなマリア」
「それほどでもないわ。けれど…」
「ああ…」
男を取り抑えた二人が扉の方を見るとそこにはパジャマ姿のクリスが立っていた。
「よお先輩方、二人して愉快な格好して捕物たぁますます愉快だな?」
「メリークリスマス、雪音。だがまずは警察が先だ、呼んでもらえるか」
「分かったよ。あ、お前らは勘弁してやるけど後で話聞かせろよ」
「…良いだろう」
男が警察に連れてかれた後クリスの部屋で取り調べが始まった。
「で?仏教徒のあたしに隠れてクリスマスプレゼントか?めでてぇなオイ」
「私も仏教徒だが…」
「皮肉で言ってんだよッ!」
雪音が怒声をあげると一旦なだめてマリアが話し始めた。
「確かに不法侵入よ、そこは謝るわ。だけどプレゼントは受け取ってほしいの」
雪音は「あー…」と少し困惑した後話し始めた。
「しゃーねーな、くれるってんなら貰ってやるよ」
「本当か!感謝する雪音!」
「ここで受け取らねえってのも後味が悪ぃだろ」
「雪音らしいな、あとだな…」
「あ?なんだよ」
翼が真剣な顔で話し始めた。
「もしよければなのだが…」
「ああ」
「もし怪しまれた時は…一緒に謝ってくれないだろうか」
「あたしを共犯にすんじゃねぇッ!それはテメエらでやれっての!」
「そうか、まあそうだろうな。悪かった、では邪魔したな」
「おう、じゃあな」
「ああそうだ、雪音」
「ん?」
翼はマリアと一緒にクリスに言った。
「メリークリスマス」
「…おう」
「む…反応が悪いな。まあ良い、また会おう」
「今度こそじゃあな」
翼とマリアはクリスに見送られ家に帰り着きその後は疲れたのか倒れ込むように寝てしまった。翌日、やはり二人して謝る羽目になったのはまた別の話。