寝オチしたらギレンになっていたが 何か? 作:コトナガレ ガク
ぽち、ぽち。
「おっこれいいな」
サイド6の南の海を模したコロニーで、贅沢にも海があり、まさに南国を再現していてトロピカル。小麦色の美女を見ながら過ごす人生いいな。
俺は今まさに南極で停戦について話し合われている中、一人籠もる執務室で引退後に住む家を物色中であった。
モニターには次々とお勧めのリゾート地の別荘が紹介されていく。この程度の値段なら総帥のへそくりでお釣りが来る。そしてこの授かったチート天才ギレンの頭脳を持ってすれば、残った資金で株なり会社なり経営して小金を稼ぐなど簡単なこと。
元小市民サラリーマンにしてみれば夢のような悠々自適の第二の人生。その為にも口の堅い整形外科医を見付けて、偽造市民証を手に入れるなどやることは多く準備は念入りに行う必要がある。
気を抜きすぎと言われるかも知れないが、懸念材料は排除し交渉はゴップに丸投げですることがない。交渉が纏まれば暫く碌に眠れないほど忙しくなる。なら折角空いたこの貴重な時間を無駄にするわけにはいかないと第二の人生のプラニングをして何が悪い。
部下からの中間報告ではゴップが上手く立ち回って順調に協議は進んでいるらしい。後は明文化してサインをするだけとのこと。
楽勝楽勝、俺のギレン生活ももう直ぐ終わりだ。
唯一未だシーマ達から何の連絡も無いのが気がかりだが、事ここに到ってはラプラスも必要ないし気にしないことにしよう。シーマ達も戦争が終われば帰ってくるだろう。
さて、終の棲家探しを続けるか。
「総帥っ」
「あなたっ」
ノックも無しにドアが開けられセシリアとセイラさんが入ってくる。
俺はエロ本を読んでいたところを母親に部屋に入られた少年のように驚きつつ素早くモニターの画面を消す。
「どうした慌ただしい」
俺は跳ね上がった鼓動を抑えつつ落ち着いた口調で言う。
逃亡計画を知られるわけにはいかない。
この二人が何の権力も無くなり、ただの小市民に戻った俺に着いてきてくれると思うほど、俺も世間知らずじゃ無い。ギレンの魅力はあくまで権力とセットになって溢れるカリスマにある。カリスマが無ければ、眉無しオールバックの怖いおっさんで女にもてる要素など皆無。
だから手は出してないし、引き継ぎはちゃんとして消える鳥跡を濁さずのつもりなので後ろめたいことも無い。
「何を隠したの?」
「閣下、クーデターです。地球連邦軍の一部が蜂起して議会を占拠しました」
「なっなんだと!?」
「んっ閣下。テレビをクーデターの首謀者が演説をするそうです」
イヤホンから何か連絡を受けたらしいセシリアが言う。
俺は素早くテレビを付けると、中心には見知らぬ男、その横にはTV本編で見たときよりも若さが残るジャミトフが映っていたのであった。
中央にいた金髪碧眼の美青年がしゃべり出す。
「地球に住む愛する者達よ。
今この美しい地球が宇宙人共の土足で踏みにじられようとしている。なのに地球を愛さない売国奴共は、戦うことを諦め自身の保身のためこの地球を宇宙人共に売り渡そうとしている。
こんな事が許されていいのか。
許されるはずが無い。
故に私マーセナスが売国奴共に天誅を下し、宇宙人共を追い払うため立ち上がった」
マーセナスだと!!!
スペースノイドとアースノイドの千年に渡る確執を生み出した、ザビ家と並ぶ呪われた一族が表舞台に出たというのか。
演説は続いていき、最後に特大の爆弾を炸裂させる。
「軟弱な地球連邦軍に任せてはおけない。私はここに地球を守る新たな軍を創設する。
その名は、ティターンズ。
地球を守る剣、その剣は我が同士であるジャミトフ大佐に任せる」
くっく、こういう流れになるのか。
地球連邦を裏から操りスペースノイドを弾圧してきた連邦保守筆頭。そして地球をこよなく愛し地球上から人類を一掃したいジャミトフ。
マーセナスはスペースノイドに主権を譲って戦争を終わらせたくない。
ジャミトフはアースノイドがまるで減っていない状況で戦争を終わらせたくない。
互いの真の目的は違えど、戦争を終わらせたくないことで一致した両者が手を組んだというのか。
政治家と軍事がガッチリ組んだ以上簡単には倒せない。
宇宙世紀の混迷はまだまだ続く。