「この書類の確認をお願いします」
クラス代表決定戦から数日、打撲がまだ治らない俺は生徒会にて楯無さんの書類仕事を手伝っていた。
「これもお願いします。あと、その書類の2行目誤字があるので修正するのでこっちに下さい」
「あっ、ありがとう。じゃなくて‼︎」
楯無さんは机をバンと叩いて立ち上がる。
「何この黙々と仕事をやっていく雰囲気は。もっと緩くダラダラ仕事をやるのが生徒会でしょう⁉︎」
何だか熱弁を振るっているが、内容が内容なので楯無さんのカリスマを持っても流石に響かない。
「だそうですが虚さんどうなんでしょうか?」
「いえ、この姿が正しい姿だと思いますよ」
「あぁ〜、もう休憩よ!休憩!」
「やった〜。おやつの時間だぁ〜」
虚さんが俺の側に周り、旗色が悪くなったのを察したのか休憩を提案し本音がそれに賛同する。おい、本音お前は殆ど何もやっていなかったじゃねえか。
「2人がああなっては動かすのは無理ですよ。上代さんも少し休憩なさって下さい」
「いえいえばいいそんな。手伝いますよ」
「いいのよダイチ君。それに生徒会室のキッチンは虚ちゃんの城なんだから出入り禁止よ」
「ですが何もせずにいるわけには…」
「いえ、本当にお気になさらず休憩なさっていて下さい」
「では、甘えさせて頂きます」
確かに自分が仕切っている空間に他の人が手伝って逆に効率が悪くなることもよくあることだ。俺は素直に自分の席に戻った。
数分後生徒会室には紅茶のいい香りが広がってきた。
「粗茶ですが。どうぞ」
そう言って虚さんは俺の前にティーカップを置く。華美な装飾のないが落ち着いた気品を感じさせる一品であった。俺は頂きます、といいひと口口に含み。華やかな香りが花に抜けていく。これまで飲んだどんな紅茶よりも冗談抜きで美味しかった。
「虚さんめちゃくちゃ美味しいです!」
「そりゃそうよ。虚ちゃんの紅茶は世界一なんだから」
そう言って楯無さんはフフンと胸を張る。
「どうして楯無さんが威張るんですか」
「だって自分の家族が褒められたら嬉しいのは当たり前じゃない。雪菜ちゃんもよくダイチ君のお茶は世界一って褒めてましたよ」
「そんなものなんですかね」
俺は照れ隠しにそう返す。雪菜様が俺のことをそんなふうに思っていてくれたのは素直に嬉しかった。
こうして午後のティータイムを過ごしていると、生徒会室のドアがノックされる。
「どうぞ」
「失礼するぞ…ってまたサボってるのか」
そう言って入ってきたのは織斑先生であった。
「サボりじゃなくて休憩です」
「お前達いつも休憩してるじゃないか。そんな暇な生徒会に仕事をやろう。山田先生」
「はいぃぃ…」
大量の資料を持たされた山田先生が後ろから部屋に入ってくる。あまりにも不憫なので俺は資料を運ぶのを手伝う。
「半分お持ちしますよ」
「あっ、ありがとうございます」
それにしてもこんな資料を1人で運ばせるなんて織斑先生は鬼に違いない。
「上代、いま何か不敬なことを考えなかったか?」
「いえ、めっそうもございません」
織斑先生といい楯無さんといいIS学園の人たちはエスパーか何かなのか。
一連の書類を机の上に運び終える。
「で、この書類は何の書類なんですが?」
「転入生に関する書類だ」
「転入生?」
ただでさえ入学時のハードルが高いIS学園。そこに転入するとなるとかなりの厳しい条件、具体的にいえば国家からの推薦が必要だったはずだ。
「代表候補生となると、1年生のISの授業なんて受けず専用機の調整を優先する人も少なくないんですよ」
「なるほど」
「それにしてもこんな早い時期の転入手続きってことは、俺を含む男性操縦者への接触ってことですかね?」
資料を読みながら状況を確認する。中国の代表候補生、凰鈴音。写真からは強気な姿勢が伝わってくる。父親が日本人でハーフらしく、中学2年までは日本で生まれ育っていたらしい。
「どうやらそれだけじゃないらしいわよ」
資料をめくっていた楯無さんは資料の備考欄を指差す。
『男性操縦者、織斑一夏との面識があり』
「つまり一夏に会いにきたってことか?」
____
待ち合わせ時間から10分が過ぎ、俺は学園前で待ちぼうけを食らっていた。確かにこの場所で、時間も間違っていないはず。更に待つこと五分後、クシャクシャの紙を手にした少女が現れた。
「凰鈴音さんですね」
男の声で一瞬一夏と間違えたのだろうか。表情が明るくなったものの不機嫌そうな表情に戻る。俺で悪かったな。
「そうだけどあんたは?」
いきなりあんた呼ばわりされて、カチンときたがそこは営業スマイルでやり過ぎす。
「申し遅れました。私は学園側から凰さんの案内を申し使わされました上代大地と申します」
言外に頼まれなければやっていないということを匂わせつつ答える。
「ではさっそく案内させて頂きます。まずは転入手続きということで事務受付に行きましょうか」
「分かったわ。でもその前に、気持ち悪い仮面みたいな笑顔外したら?」
「ほぅ…驚いたな」
旦那様の付き添いや雪菜様のボディーガードなので、外向けの仮面を被ることには慣れていたつもりだったが一発で見破ってきた。流石は代表候補生と言ったところか
「それに呼びにくいでしょ。鈴でいいわよ。あと敬語禁止」
「ああ、分かったこっちも通常通りやらせてもらう」
そう言って俺はいつものスピードで事務所に向かって歩き始まる。
「ちょっとあんた態度変わりすぎじゃない⁉︎もうちょっと間ってもんががあるでしょ‼︎」
「初対面でいきなりあんた呼ばわりしてくる人間に持ち合わせる礼儀はあいにく持ち合わせていないんでね」
「あんたいちいち腹立つわね。あっ、あと一個聞いときたいことがあるんだけど…」
「織斑一夏なら俺と同じ一年一組でクラス代表だぞ。ちなみに鈴が所属する予定は一年二組だ」
「なっ、別に私はそんなこと気にしてないんだけど???」
言葉では否定しつつ明らかな動揺を隠せない鈴。
「ほら、話をすればちょうどいいタイミングで一夏の登場だ」
ぱっと見織斑だけが見えていたのだが、どうやら篠ノ之も一緒だったらしい。前言撤回。最悪のタイミングじゃねーか…
2人はこちらに気づかず去っていくが、背後の鈴の機嫌が急激に悪くなっていくのを感じる。
「あの、鈴さん…?」
「何かしら?」
恐る恐る背後を振り返るが、鈴は笑顔こそ浮かべているものの目が笑っていなかった。
「とっとと案内してくれるんでしょ。続きよろしく」
鈴の圧力に屈し俺は歩き始める
「ああ、そう言えば1-2のクラス代表の子って決まっているんだっけ?」
「ああ決まっているがお前ひょっとして…?」
「ええ、もちろん。話し合って交代してもらうのよ」
俺は交代を言い渡される女子生徒の生徒の気持ちと、それに関わる仕事を想像し頭を抱えた。
____
「というわけで織斑くんクラス代表決定おめでとう〜‼︎」
パンパンとクラッカーが鳴らされ確実飲み物やお菓子をつまみながら盛りがあっている。
なんと意外なことにこのパーティーの言い出しっぺは本音で、俺は裏方として目立たなくて済むならと協力した感じだ。
無事にパーティーも盛り上がり始め、俺は無事に壁の花と化している。俺のステルス能力を持ってすればこれくらい造作もない。縁もたけなわといったところで片付けに戻ってくれば文句はないだろう。
そう思い外の空気を吸いに行こうとした時、バッと現れた女生徒に行く手を拒まれる。
「どうも新聞部です!独占インタビューにきました。ちなみにこれは名刺ね。あと本音これ約束のデザート食券5枚分」
「やったー、デザート食べ放題だぁ〜。何から行こうかなぁ」
「あっ、本音裏切ったな⁉︎」
「えへへ〜、かみしーごめんね〜」
本音は口では謝りつつも少しも悪びれる様子もなくフラフラとどこかへ消えてしまった。
そう言えば本音にしては手際の良い下準備。今になれば新聞部が準備していたと思うと全て合点がいくが後の祭りだった。
「そういうのは事務所通してもらっていいですか?」
「大丈夫。たっちゃんからは『脱がす以外ならなんでもOK!』って許可もらってるから!」
たっちゃんと聞いて一瞬『?』となるが、俺の上司でそんなことを言うのは1人しかいなかった。
改めて渡された名刺を見る。名前は黛薫子さん。学年は2年だそうだ。仕事柄名刺を見ることは時々あったが、今は高校生でも持っているものなのかと感心する
「気になる男子生徒その1である上代大地君に独占インタビュー!まずは専用機持ちを汎用機で2人も倒した今の気持ちを率直にどうぞ!」
「まずあの戦いは更識生徒会長を始め、裏方のサポート役の皆様、あと俺自身は初心者で油断を誘ったということが大きな勝因だと思います。反省すべき点は反省しつつ、ちゃんと鍛錬を積んでいかないなと改めて実感しました」
「完璧な受け答えね…改善する余地がない」
若干引き気味に答える黛さん。さらっと改善とかヤバいこと聞いた気がするが聞き間違いだろう、多分。六角家の執事として最低限の知識と教養は身につけられている。このくらい朝飯前だ。
「じゃあ、俺はこんな感じで。後の2人もつっかえてるでしょうし。ではここで」
俺は黛さんの横をすり抜けようとするが、がっしりその腕を掴まれてしまう
「専用機持ちに、男子生徒2人。こんな絵になる写真取らないわけにはいかないでしょ?」
「はあ、やっぱりそうなりますよね…」
流石にもう逃げられないか。諦めて黛さんの後ろに続く。
俺は織斑とオルコットのインタビューが終わるのを待ち、そしていよいよ写真撮影に入る。
構図としてはオルコットを中心に左に俺、右に一夏という配置になった俺の手の上にオルコットの手はおかれ、さらにその上に一夏の手が置かれる。
緊張しているのだろうか。さっきからオルコットの手汗が凄いことになっているがそこは大人である。スルーするのが安定である
黛さんのよく分からない掛け声の下、いよいよ3人での写真撮影…のはずが1-1の他の生徒も乱入。
IS持ちwith男子生徒の構図がクラス写真となったが、まあこれはこれでいいだろう。オルコットは不満そうだが何より黛さんがOKしてるし。
縁もたけなわといったところで俺は片付けを始める。最初は乗り気じゃなかったが、案外楽しいものでやってみてよかったと心から思った。
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今日も楯無さんとの特訓が終わり着替えを済ませて更衣室から出ると意外な人物に出くわした。
「よお、鈴。お前も訓練か?」
「いや、私はちょっとね」
そういう鈴の手にはタオルとスポーツドリンクが握られていた。
「なるほど、一夏への差し入れか」
「なっ⁉︎別にそんなんじゃないわよ‼︎」
俺の指摘は図星だったようで鈴は真っ赤になって否定する。
「ライバルは多いと思うが頑張れよ」
「だから違うって言ってるでしょ‼︎」
「はいはい。ファイト!」
プンプン怒る鈴を尻目に俺は手をフリながら部屋に戻る。恋する乙女の挑戦が上手くいくことを祈りながら今日のISの演習の復習を脳内でし始めた。
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翌日の昼休み、俺がいつも通り食堂の端っこで一人食事をしていると、テーブルにダンッと乱暴にラーメンが置かれた。顔を上げるとそこには怒った様子の鈴の姿があった。昨日の恋する乙女モードはどこにいった?
「相席していいわよね?」
「聞く前にもう座ってるじゃねえか」
「全く、細かいことにうるさいわね」
そう言いながら割り箸を割って鈴はラーメンを食べ始めた。
しばらくお互い黙々と食事をする。
「で、俺に何の用だ?」
大体の予想はついているが一応聞いてみる。
「忘れてたのよ…」
「は?」
「一夏が私との約束を忘れてたのよ‼︎」
興奮気味に立ち上がる鈴を俺は抑える。
「落ち着けって。周りの奴が見てるぞ」
実際かなり大きな声だったのでかなりの注目を集めていた。
「あっ…」
バツが悪そうに鈴は席に着く。しばらくして食堂内に活気が戻ったところで俺は鈴に尋ねる。
「その約束っていうのは何なんだ?」
すると急に鈴は俯いて顔を赤らめる。
「えっと…言わなきゃダメ?」
「俺としてはどうせ惚気話しか出てこないだろうから別に聞きたくもないんだが」
そう言って席を立とうとすると鈴は慌てて止めてくる。
「待って、言うから‼︎」
そう言って昨日あった出来事のあらましを聞かされる。予想通り一夏が唐変木を発動させただけの話だった。
「そりゃお前が悪い。相手は付き合ってくれ、って言われたら勝手に買い物に付き合うって解釈しそうな男だぞ?そんな奴にそんな遠回しな言い方で伝わるわけないだろ」
ちなみに俺も雪菜様に味噌汁のくだりを言われたことがあるがその時は意味が分からず、朝はパンだから味噌汁は要らないって答えて雪菜様にめちゃくちゃ怒られた。
「それはそうなんだけど…」
シュン、と肩を落とす鈴。…こう言っちゃ失礼だが表情がコロコロ変わって小動物みたいで可愛いな。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
「手伝ってくれるの?」
鈴の顔がパッと明るくなる。
「手伝わないとどうせ話が進まないやつだろ」
RPGとかでよくある『はい』を選ばないと、会話が無限にループするアレだ。
「ほんといちいち突っかかって来て腹立つわね。まあいいわ。あんた一夏に勝ったんでしょ?」
「ギリギリだったけどな」
「一夏の対策方を教えて欲しいのよ」
「なんだそんなことか。お前のISに射撃型の武装はあるか?」
「基本は近接型だけど一応中距離対応武装があるわ」
「じゃあお前が負ける訳がない。初心者の俺でも倒せる近接型武装しかない相手に代表候補生のお前が負ける訳がないだろ?」
「はぁ…そのくらい私でも分かってるわよ。実際に戦った人間としてもっと他に何か注意する所とかないわけ?」
呆れ顔で聞いてくるがないものは答えようがない…いや一応あったか
「奴は経験はまだまだ浅いが戦闘センスは目を見張るものがあるな。戦闘の中でどんどん成長していくタイプだ。流石はあの織斑千冬の弟というだけある。時には定石から逸脱した予想外の手をうってくるかもしれないが、乱されずに落ち着いて対処すれば問題ないってとこか。ん、どうした?」
ポカンとした表情で俺を見つめる鈴。
「いやー、あんたあんまり人を褒めたりしなさそうな感じがしてたから意外だなって思って…」
「失礼な奴だな。俺だっていい所は素直に褒めるさ」
「なるほどね。そういえば今更だけどクラス代表戦で敵となるクラスに塩を送ってもいいの?」
「ああ、俺は特にデザートフリーパスもどうでもいいし、それに何より一夏にはオルコットと篠ノ之の2人がかりで特訓してるんだ。1人くらいお前の味方がいてもいいだろ」
生徒会の資料で鈴の過去の経歴を調べたが2年前に両親の不和で中国に帰国。人口が多いためライバルも多い中国でそこから専用機持ちの代表候補生になったのは本人の才能もあるが相当な努力をしたことだろう。
努力をすれば報われる、なんて世の中甘くはないが努力をしてきた人間の力になりたいと思うのは自然なことだろう。
「あんた、意外に良いやつね」
「意外は余計だ。俺は基本的に良いやつだ」
「はいはい。でも参考になったサンキュ!」
俺の軽口を軽く流してすっかり元気になった鈴はラーメンをずるずるとかき込んで去っていった。少しは機嫌の回復に役立てたようで何よりだ。
それほど興味のなかったクラス代表戦だが少し楽しみになってきたな。
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生徒会としての裏方の仕事や合間を見ての楯無さんの特訓を受けているとあっという間に時は流れクラス代表対抗戦当日。いつものように身支度をすませる。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
二人で部屋を出ようとしたその時、サイレン音のようなものが鳴り響く。
「なんの音?」
自体が飲み込めない楯無さんを尻目に俺はカバンを引っ掻き回す。それは俺の緊急時にしか使わない携帯の着信音だった。
「楯無さんすいません‼︎先に行っててください」
俺はそう言って携帯を取り出す。ディスプレイに表示されていたのは旦那様の側近であり六角家の使用人頭でもある
「上代です」
『ダイチか、繋がってよかった』
その声には疲労の色が伺える。普段は感情を表に出すことほとんどない彼としては異常なことだ。
「一体どうしたんですか?」
俺が聞くと、一条さんは一瞬黙った。
『いいか、落ち着いてよく聞け』
一条さんは一呼吸おく。
『風月様が刺された』
書いては消し書いては消し送り返して投稿めちゃくちゃ遅くなってしまいました ♂️
終わりは決めてプロットも練っているのでアラが目立つかもしれませんが定期的に(週1回を目標に)投稿しておきたいと思いますので初めての方も続きを待っていて下さった方も楽しんで頂けると嬉しいです