護りたいもの   作:影風

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以前投稿していた話が1話あたり長すぎたので分割します。内容自体は句読点や誤字の修正くらいで特に変更はありません


【第13話】仮面の下の涙

「こんなので本当に来ますかね?」

 

 時計は既に19時55分を指していた。おそらく来るだろうと思っているのだがなんだか不安になってきた。

 

 だがそんな俺とは対照的に楯無さんは余裕綽々といった様子だ。

 

「うーん、もっと書き方を工夫した方が良かったかもね。例えば…『お前が女だということは知っている。そのことをバラされたくなければ部屋に来い』、みたいな?」

 

「思いっきり鬼畜じゃないですか」

 

「ああ、シャルロットちゃん可哀想に。鬼畜なダイチ君に口止め料として乱暴されるのね、エロ同人みたいに」

 

「するわけないでしょ‼︎」

 

 何言ってんだ、このアマは。とりあえず楯無さんに軽くチョップを喰らわせているとコンコンと部屋の扉がノックされた。

 

「じゃあ、私はシャワーでも浴びて来とくから2人で頑張ってね♪六角家の執事のお手並み拝見ね」

 

 そう言って楯無さんは着替えを持って浴室に消えて行った。

 

 さて楯無さんにもらったチャンス無駄にするわけにはいかない。気合い入れていかないとな。

 

______

 

「へぇ…デュノアさんの処遇をダイチ君が決めるってこと?」

 

 楯無さんは笑顔こそ浮かべているもののその目は笑っておらずこちらを値踏みするような冷たさを含んでいた。思わず俺は怯みそうになるが答える。

 

「ええ、さっきの楯無さんのお話では学園内の秩序の安定と今後同様の事件が起こらないようにすることが目的って感じでしたよね?」

 

「まあね。その2つが達成出来るなら私としては特に文句はないわ」

 

「では楯無さんが持ってるデュノアに関する情報をくれませんか。そこから先の切り札は俺が持ってます」

 

「ふーん、別にいいけれどわざわざダイチ君がやるメリットはなに?」

 

「学園側としてのメリットは正直それほどないです。ですが俺にも、そして楯無さんにもメリットがあります」

 

「私に?」

 

 意外そうな声を上げる楯無さん。予想外の返答だったのか少し雰囲気が緩む。

 

「はい。楯無さんの守るべき学園内の秩序にはデュノアも含まれているはずですし、学園外から全てを守る生徒会長としてはそうあるべきです。この治外法権のIS学園を統べる長たるあなたは誰よりも気高い理想と共にあるべきであり、それに矛盾する行動をすれば楯無さんの正義に疑問を持つ人も出てくる可能性があります。だからこそそういうことは俺にやらせて下さい。俺にも楯無さんが守ろうとしているものを守らせて下さい」

 

 俺の言葉を正面から受け止める楯無さん。理想論なのは分かっている。だが俺の思いが届いてくれ…

 

 楯無さんは俺の言葉を聞き終わり少し俯き熟考をするように目を瞑る。

 

 沈黙が生徒会室を包み込む。が、決意を決めたように顔をあげこちらを見つめ直す。

 

「ダイチ君の考えはよく分かったわ。少し時間を上げるし、ダイチ君のお手伝いもしてあげる。でもどうにもならないと私が判断した場合は私は私のやり方でデュノアさんを止めるわ。それでいいわね?」

 

「はい!ありがとうございます」

 

「私の期待を裏切ったらどうなるか分かってるわよね♪」

 

「うっ、善処します…」

 

 そうして俺は楯無さんからシャルルの情報をもらう。ここからは俺の勝負の舞台だ。失敗するわけにはいかない。

 

_____

 

 俺がドアを開けるとそこには緊張した様子のシャルルが立っていた。

 

「えっと…こんばんは」

 

「突然呼び出してすまない。とりあえず中に入ってもらえるか?」

 

「あっ、うん」

 

 そう言ってシャルルを部屋に入れる。

 

「その辺に座ってくれ」

 

「ありがとう」

 

「何か飲むか?と言っても緑茶しかないんだけどそれでいいか?」

 

「あっ、それで大丈夫だよ」

 

 そう言ってシャルルは椅子に腰をかける。その雰囲気は明らかに怯えていた。

 

 俺はシャルルにお茶を差し出す。

 

「あっ、美味しい…」

 

「どういたしまして、緑茶には慣れたか?」

 

「部屋でも一夏が淹れてくれるしこれもこれで美味しいなって思うよ」

 

「それならよかった」

 

 そう言って少し空気が緩むも沈黙が部屋を包み込む。場も温まったし本題にいくか。

 

「さて、今日は何の用件か分かるか?」

 

「僕の処遇について…だよね?」

 

「ああ、何か俺たちに隠していることはないか?」

 

「…」

 

 シャルルは黙り込む。やはり自白というのは厳しいか。

 

「悪いがお前の家族関係を調べさせてもらった。お前は非嫡出子、いわゆる愛人の子だな?」

 

「どうしてそれを⁉︎」

 

「情報の出所は明かせないがその反応を見る限り合っているようだな」

 

 シャルルはそこで気づく。出自を知っているということは勿論自分の性別に関しても当然調べがついているのだろう。チェックメイトである。観念したようにシャルルは話し始める。

 

「…僕は愛人の子として生まれ、2年前に母が亡くなってデュノア本家に引き取られたんだ。そこでIS適性が高いことが分かってテストパイロットをすることになったんだ」

 

「…」

 

「もうダイチは知ってるかもしれないけどうちの会社、経営状況が良くないんだ。そこでデュノア社の広告塔として、そして第3世代である一夏の白式のデータ窃取及び2人目の男子生徒である上代大地の身柄確保のために男装してスパイとして送りこまれたんだよ」

 

「でも、お前は一夏から白式からデータの情報を盗もうとした形跡は今の所なく、それどころか一夏を避けているという。それはなぜだ?」

 

「…」

 

「積極的に隠す気はなく、正体が発覚してもまあそれで仕方ない。どちらかと言えば消極的な協力によってデュノア社への復讐をしようとしたんじゃないのか?」

 

「…ダイチは本当に何でもお見通しなんだね」

 

 そう言って笑うシャルルの笑顔はどこか空虚で痛々しかった。

 

「でも、ダイチにはバレちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社はまあ…潰れるか他の企業の傘下に入るかどのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」

 

「…本当にそれでいいのか?」

 

「えっ?」

 

「IS学園の転入には厳しい条件、特に国家の推薦が必要となる。つまりフランス政府が自国の、ましてや代表候補生にする人間のことを調べていないはずがない。恐らく補助金のカットをちらつかせてデュノア社に今回の計画を立てさせたのだろう。この件の黒幕はデュノア社じゃなくてフランス政府なんだ。勿論それを黙認したお前の実家も許されることじゃない。でもデュノア社も被害者であることをわかってほしい」

 

「でも、それを知った所で今更僕にはどうにも出来ないし…」

 

「そんなことはない。フランス政府を告発すればいい」

 

 俺の言葉にシャルルは笑って首を横に振る。

 

「それこそ無理だよ。ダイチもさっき言ってたじゃないか。フランス政府はデュノア社の一存でやったこととしてデュノア社ごと僕を切り捨てるよ。そして僕は代表候補生を降ろされて牢屋行きで口封じかな」

 

 どこか諦観を含んだ声。大きな力の前に人生を翻弄されて来た彼女はもう自分の居場所を見失っているのだ。

 

「お前一人の発言だとそうなるだろうな。だが俺がその件に関して証言をするとなるとどうだ?」

 

「えっ?」

 

「ただの一代表候補生の発言となればそれこそもみ消されかねないが、良心の呵責に耐えかね男性操縦者である俺に真実を打ち明けた。そう俺が証言すれば一気に世論はお前に味方し、フランス政府もおいそれとちょっかいを出せなくなるだろう」

 

「でも…」

 

「それにここはIS学園。あらゆる国家・組織・団体に所属しない。ですよね、楯無さん?」

 

「ええ。どんなことがあろうとこの私がいる限り決して手出しはさせない。身の安全は保障するわ」

 

 『鉄壁』と書かれた扇子とシャツだけを纏い現れた楯無さん。シャワーを浴び終わって濡れた髪が艶めかしく、正に水も滴るいい女性と言った感じだ。

 

「あなたは⁉︎」

 

「初めまして、シャルロットちゃん♪私は更識楯無。生徒会長をやってるわ」

 

「タテナシ・サラシキ…あっ、もしかしてロシア代表の⁉︎」

 

 目の前にいる人物の正体に気付き驚きの表情を浮かべる。楯無さんやっぱり有名人なんだな。

 

「そういうこともやってるわね〜。とにかくIS学園内にいる限り私が守ってあげるから安心しなさいな。だからあなたはここに居なさい」

 

 そう言って楯無さんはシャルルの頭を優しく撫でる。

 

「僕がここに居ていいんですか?」

 

 シャルルは楯無さんを見上げる。

 

「勿論よ。あなたも私の守るべき学園の生徒でしょ。安心しなさいな。1人で今までよく頑張って来たわね」

 

「あっ、ありがとう…ありがとうございます…」

 

 緊張の糸が切れたのかシャルルは大粒の涙を流す。楯無さんがハンカチを取り出しシャルルに渡す。

 

「ダイチ君女の子泣かせるとかおねーさん感心しないんだけどなぁ?」

 

「なっ、シャルル泣かせたの楯無さんじゃないですか」

 

「酷い、ねえシャルロットちゃん?ダイチ君のこの態度良くないわね?」

 

「アハハハ、そうですね。確かにダイチはもうちょっと女心を理解すべきですね」

 

「なっ…まあいいが、なあシャルルそこで一つ俺の依頼も聞いてくれないか?」

 

「依頼?」

 

「ああ、ある人に会わせて欲しいんだ」

 

______

 

 シャルルを部屋に返したあと俺たちはお茶を淹れ直し楯無さんと一息吐く。

 

「とりあえずなんとかなったわね」

 

「ええ、勝負はこれからですがひとまず第一ラウンドはクリアって感じですね」

 

「そういやダイチ君やたらシャルロットちゃんに肩入れするじゃない。ひょっとして好きなの?」

 

 楯無さんの軽口に俺は適当に返す。

 

「違いますよ。あいつ俺と同じ目をしてたんです」

 

「目?」

 

「そうです。両親に捨てられてこの世の全てに絶望したような目を。だからこそ捨て置けなかったんです。ん、どうしたんですか?」

 

 俺の話を聞きながらニヤニヤとした笑みを浮かべる楯無さん。

 

「いや、ダイチ君やっぱりいい人だなって思って」

 

「俺はいいやつなんかじゃないですよ。今回のシャルルの件もフランスの政府から裏取引情報を引き出すのが目的ですしシャルルの件はあくまでついでです」

 

「でもシャルロットちゃんを切り捨てフランスと直接交渉をするって道もあったはずよ。でも君はついでといいつつ、救える人間は全てを救っちゃう。君のいいところよ」

 

「買い被りすぎですよ。俺は俺に出来ることをしているだけです」

 

「もう可愛くないんだから。まあでもそこがダイチ君のいいところでもあるんだけど…」

 

 そしてそれまでのふざけた口調から一転真剣な声色になる。

 

「それにしてもダイチ君ありがとう。わたしの大事な物を守ってくれて」

 

「当然じゃないですか。生徒会長様を支えるのが副会長の仕事です」

 

「それでも私1人じゃきっとシャルロットちゃんを排除する方向で動いていたと思うの。本当にありがとう」

 

「楯無さんちょっと向こう向いててくれますか?」

 

「えっ?」

 

「いいから」

 

 そう言って楯無さんは俺に背中を向ける。俺はその肩にそっと手を触れる。

 

「ヒャッ」

 

「変な声出さないで下さい。あっ、やっぱり肩かなり凝ってますね。この1週間かなり仕事詰めてましたからね」

 

「ダイチ君一体何を…?」

 

「見ての通りマッサージですよ。楯無さんこそずっと気を張っているんですからちょっとは休んでください。頼りないかもしれませんけど俺は一応生徒会副会長ですから」

 

「いえ、そんなことないわ。ダイチ君は良くやってくれていて…」

 

 そう言いながら楯無さんは寝落ちしてしまう。よほど疲れていたのだろう。俺は彼女を起こさないようにそっとベッドに移す。生徒会長、ロシア代表、暗部当主。本当に16歳の少女の小さな背中には重すぎるものを背負いすぎているのだ。少しでも俺が力になれるならお安いものだ。

 

 とりあえずシャルルはこちらに取り込んだ。あとは俺がそのカードをうまく使っていくだけだ。




めちゃくちゃ短い気がしてましたが、このくらいの長さの方が読みやすいと思いますので。もしよければどのくらいの分量が読みやすいかなどありましたら教えて下さい
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