時系列としてはダイチがスイスに行っている間のお話しとなります
ある夜のこと私、更識楯無は退屈していた。いつもの部屋と同じはずなのに何だか広く感じる。
そう、この部屋の同居人である上代大地がスイスにISを受け取りに行っていて不在なのだ。1年の頃は薫子ちゃんと同じ部屋だったし2年になってからは彼と一緒だった。
つまり久しぶりの1人の時間を持て余していたのだ。
「これじゃなんか私が寂しがってるみたいじゃない‼︎」
決してそんなことはない。からかいがいがあって面白い男の子がいなくなっただけ。とりあえず緑茶でも淹れようか。
そこで思わず苦笑する。小さい頃から虚ちゃんが紅茶を淹れてくれていたので、知らず知らずのうちに私も紅茶派になっていた。そのはずなのに、どうやら彼の緑茶を3ヶ月ほぼ毎日飲んでいるうちに改宗させられていたらしい。
「ダイチ君、ちょっと拝借〜」
そう言って彼がいつも使ってる急須と湯呑みを借りる。緑茶を淹れたことは殆どないのだが、彼が淹れてる様子はいつも眺めているしそれなりに上手く出来る自信はあった。
「…美味しいけど何か違う」
キチンと上手に淹れられたのだが、やはり彼が淹れてくれたお茶の方が美味しく感じる。そこで私の中の闘争心に火がつく。
「ダイチ君をあっと言わせるお茶淹れてみせる!」
そう言って美味しく淹れるコツなどをネットで調べながら試行錯誤をする。三杯目を飲み終わったところで流石に飲み過ぎたため少し休憩し器を眺める。
黒地にススキと月が描かれたシンプルなデザインの湯飲み。着飾らない彼のイメージにはピッタリであった。
そう言えばいつもより口当たりがいい気がした。私もいつまでもマグカップじゃなくて湯飲みを買いに行こう。それならダイチ君とお揃いの湯飲みにするのもいいかも…
「ってないない‼︎」
大きく私は頭を振って
その時部屋のドアがノックされる。ナイスタイミング。こんな時間に来るということは虚ちゃんかしら。そう思いドアを開けると立っていたのは意外な人物だった。
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「すみません、今時間大丈夫ですか?」
「ええ、ちょうどお茶していたところなの。シャルロットちゃんも飲む?」
「あっ、ではお願いします」
「了解!おねーさんがとっておきのお茶を入れてあげるから」
そして私は今日4杯目となるお茶をマグカップに淹れてシャルロットちゃんに持っていく。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
そう言って少しフーフーと冷まして一口口に含む。
「美味しいです!」
「そりゃ私が淹れたんだから当然よ」
そう言いながら私も一口飲む。一杯目に比べると数段美味しい。けどやっぱり何かが違う。何が足りないのだろうか、そう頭の隅で考えつつ目の前の相手に対応する。
「で、何か困ったことあった?」
「あ、いや更識さんに改めてお礼を言いたくて」
「楯無でいいわよ。それにしてもダイチ君じゃなくて私にお礼?」
「では楯無さんで。ダイチにももちろん感謝してますが楯無さんにここにいていいって言ってもらえたのが何より嬉しかったんです」
「何だそんなこと。私は生徒会長。それなら生徒であるシャルロットちゃんのことを守るのは当然でしょ」
「でも本当にありがとうございます。あの言葉に本当に救われました」
そう言って深々頭を下げるシャルロットちゃん。その姿を見ていると私が美味しい所をを持って行けるようにしてくれたダイチ君の好意を無に帰す行為だとは分かっているが伝えずにはいられなかった。
「…頭を上げて頂戴シャルロットちゃん。実はあれもダイチ君の発案だったの」
「え、どういうことですか?」
「私は当初生徒会長として、今回の一件はフランス政府及び貴女を排除する方向で動いていたわ。実際そのために貴女の周辺情報やフランス政府の情報を調べていたの」
「…」
シャルロットちゃんの表情に緊張が浮かぶ。
「だけどそこでダイチ君がフランス政府の計画すらを利用する計画を思いついて私にストップをかけたの。世論頼りの不確実な計画、普段の私なら一蹴していたでしょうね。でも私は何故か彼の言葉を信じてみたくなって
「そう、なんですね」
「ごめんね、やっぱり失望させちゃったかな」
「いえ、少し驚きましたけど楯無さんの立場としては当然の判断だと思います」
そう言う彼女の表情は思いの外穏やかなものだった。
「それに本当に僕のことを排除しようとしていたのならもっと早くに出来たんじゃないですか?今こうやってお話しさせて頂いて改めて確信しましたがやはり楯無さんもダイチが動いて何かしてくれるのを期待していたんじゃないでしょうか?」
思いもよらない意見をぶつけられて考える。決め手がないと言いつつも確かに排除を先延ばしにしていたのは私でどこかで彼に期待していたのかもしれない。だがそれを素直に認めるのは少し気に入らず茶化して答える。
「おねーさんはしたたかだからあんまり簡単に信頼すると痛い目見るわよ?」
「…アハハハハ」
「何がおかしいのよ?」
「いやすみません。ただそう言って悪びれるところダイチにそっくりだなって思って」
「っ…」
確かに自分でも今の誤魔化し方は彼に似ていたような気がし、てバツが悪くなり言葉を選びかねる。
「それにしても何で僕を庇ってくれたんでしょうか?」
「自分と同じ目をしていたからって言ってたわよ」
「同じ目?」
「ええ。ダイチ君は幼い頃両親に捨てられたの。だから居場所がないシャルロットちゃんの気持ちがわかったんだと思う」
「‼︎」
その言葉に彼女は目を見開き、しばし考えた後ゆっくりと口を開く。
「…もしよかったら、ダイチのこと教えてもらえませんか?」
「もちろんよ。恋する乙女の後押しをするのも年長者の役目だしね♪」
「えっ、いや別にそう言うわけじゃ‼︎」
さっきの意趣返しではないが少しからかってみる。慌てて否定するシャルロットちゃん。その慌て方は肯定しているも同意だった。だが予想外の反撃が飛んでくる。
「それに楯無さんはどうなんですか?ダイチとずっと過ごしているんですし楯無さんこそ…」
「やめて」
決定的な言葉が出るのを無意識に遮る。発した自分でも驚くほど冷たい声だった。
「あっ…すみません‼︎」
シャルロットちゃんは怯えた表情で頭を下げる。どうしようもなく騒つく心を落ち着けながら弁明する。
「いや違うの!私はどっちかというと頼り甲斐にある人が好みだしそう言う感じではないってことね‼︎」
無茶苦茶だ。自分の口から思ってもいない言葉が溢れ出る。
「あ!なるほど…楯無さん大人びてますもんね」
「そうそう。私より強い人くらいがいいから後輩であるダイチ君はちょっとね〜」
「それはちょっと厳しすぎないですか」
そう言って苦笑いするシャルロットちゃん。改めて彼女を見据え、私は質問する。
「で、シャルロットちゃんはどうしてダイチ君のことを知りたいの?」
「好き、なのかは正直まだ分からないんです。今までこんな気持ちになったことがなかったので…」
俯きつつも懸命に言葉を紡いでいくシャルロットちゃん。
「でも居場所がなく人生を諦めていたぼくを太陽の下に連れ出して生きる道を示してくれた。だから少なくとも感謝とは別の感情を抱いていますしその気持ちが何なのか、それを知るためにもダイチのことをもっと知りたいんです…」
「ただの興味本位じゃないのね」
「はい、しっかり1人の人間としてダイチのことを知りたいんです」
「そう、じゃあどこから話そうかしら…」
シャルロットちゃんは同級生に恋をする女の子。恋する乙女は無敵なのだ。1人の先輩としてその背を押すことくらいは許されるだろう。
私は彼の話を始める。時折シャルロットちゃんから聞くダイチ君像も私に見せない面もあり、なかなか新鮮で有意義な時間だった
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シャルロットちゃんが帰ったあと私はベットに倒れ込む。
「…雪菜ちゃん怒るだろうなぁ」
私の幼馴染で、誰にでも礼儀正しい可憐な女の子。ただちょっと自分の執事が大好き過ぎるのが玉に瑕だ。私が女の子にダイチ君を紹介しただなんて知ったらうちに乗り込んで来て抗議してくるだろう。
そう、本当に大切にされていた。だからこそ雪菜ちゃんを通して彼の話を聞いたことはあったが実際に会ったことはなかったのだ。惚気る割に彼女は決して私にさえ彼を紹介しようとしなかった。
どうしてそんなことをするのか当時はわからなかったが、今日シャルロットちゃんにダイチ君の話をする時に少し彼女の気持ちがわかった。付き合いの浅い私ですらこうなってしまっているのだから共に育ってきた雪菜ちゃんは言わずもがなである。
そこでスッと自分の立場を再確認する。
私とダイチ君は先輩、後輩。生徒会長と副会長。護衛とその護衛対象。そして何より親友の好きな人である。それを知っている私が彼に踏み込むことはあり得ない。
だが少しだけ、彼がいる前ではしっかりとするから今だけは許してほしい。
「お休み。ダイチ君…」
私は隣のベッドに潜り込み眠りについた。
UA9000越えしててめちゃくちゃ嬉しかったです!
いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます!
これからも頑張っていきます!