スイスから帰国後、日本に着いたのは夕方過ぎになっていた。そのため直接寮の部屋に荷物を置きに戻る。
ドアを開けると楯無さんのものと思われるシャツなどが脱ぎ散らかされており苦笑いすると共に少し安心感に包まれる。
俺のベッドの上を見るとそこには置き手紙…と言っていいかも分からないプリントの裏に殴り書きが残されていた。
また何かのイタズラか。そう思いながら文面を見た俺の背中に冷たいものが走る。
『生徒会室。助けて』
気が付くと俺は部屋を飛び出して生徒会室へ真っ直ぐ走っていた。
(一体何があった…⁉︎)
焦燥感を隠し切れず廊下を疾走する。すれ違う生徒が何事かと言った様子でこちらを振り返るがそんな視線も気にしている余裕がなかった。
「楯無さん!!!」
「ダイチ君…おかえり…」
「上代さんお疲れ様です…」
「かみし〜助けて〜」
俺は勢いよくドアを開けるとそこには書類の山に埋もれて疲れ切った楯無さんと虚さん、そしてなんと驚くことに仕事をしている本音の姿があった。
普段は仕事を増やすからという理由でのほほんとしてるマスコット役のあの本音すら働いている。それだけ事態が逼迫していることだ。
「一体何があったんですか⁉︎」
「シャルロットちゃんの再転入手続き、一夏君、ダイチ君の専用機の登録、ラウラちゃんのISのVTシステムの暴走、タッグマッチトーナメントの未開催分の振替日程の調整…とにかく色々あったの!」
「要は通常業務でも結構仕事捌いて下さってるダイチさんが抜けたタイミングでアクシデントが多発して、カツカツになってる状態ですね」
冷静に補足してくれた虚さんのお陰で事情は大体わかった。
「でも聞く限りですと先生方の仕事の結構混じってる気がしましたけど?」
「先生方も無人機の襲来があったりシャルロットちゃんの件に関する外部からの対応に追われてて、回り切らないからこっちに回ってきてるのよ」
無人機の件は内緒だからね、と言いつつ楯無さんは自分の席に座りキーボードを叩きながら答える。
「なるほど。とりあえず俺はこれを片付ければ良いですかね?」
俺はとりあえず自分の席に座り机の上に山積みになっている書類を捲りながら質問する。どうやらタッグマッチトーナメントを実施出来た2年、3年生のデータ整理等のようだった。
「そうね。それと中止になってる分の一年生の1回戦の分の日程調整等もお願いするわ」
「了解です」
俺は備品のノートパソコンを開きデータ入力等を始める。3年生はアメリカ代表候補のケイシー先輩のペアが、2年生は当然というべきか楯無さんのペアが優勝していた。
1年生はというとAブロック1回戦1組目という本当に初めのタイミングで事件が起こったらしく殆ど開催出来ていなかった。
アリーナの使用可能時間表と各クラスごとに必修となっている授業等との組み合わせ等を見合わせながら試合を入れていく。
大体のペアを入れ終わった時にふと気になる名前を見つける。イギリス代表候補生セシリア・オルコットと中国代表候補生の鳳鈴音のペアだった。
確かラウラとの戦闘でISを損傷していて参加を見送っていたはずだが幸か不幸か修理が間に合ったので出ることになったのか。
それにしてもこの2人と当たるペアには同情する。戦闘経験の豊富さに加え専用機持ちまで持っている2人は1年では最強と言っても良いだろう。
そんなことを考えながら残ったペアを見て俺は目を疑う。
「楯無さん、俺の名前がトーナメント表にあるんですが?」
「データ収集が主目的なんだからそりゃ出られる1年は当然でなきゃね?」
「え、俺誰とも組んでないんですけど?」
確かペアが出来なければ抽選になるとか書いてた気がするが、その時期記者会見やらIS特別委員会やらで俺はそもそもエントリーすらされていなかったのだから相手もいない。
実際うちの学年は総数が奇数のため溢れる生徒が出るのは当然ではあるが、まさか2人の相手を1人でやらされるのか?
「パートナーに関しては心配しないで。攻めに守りに連携タイマン、どれを取っても一流よ」
「そんな奴うちの学年にいましたっけ?」
強いて思い浮かぶのはシャルロットだがもう彼女は一夏とコンビを組んでラウラ、箒ペアと戦っている。
「それは当日までのお楽しみって事でとりあえずダイチ君は今の仕事に集中してちょうだい」
心なしか楯無さんが少し楽しげに言う。
「はぁ…了解です」
何だか嫌な予感がするがまあ楯無さんがそういうなら何とかなるか。そう思いながら書類の山との格闘を再開した。
______
そしてパートナーを知らされないままタッグマッチトーナメントエキシビジョンマッチの日を迎えた俺は頭を抱えていた。
「ISには珍しいフルスキンに装甲全振り…中々面白そうな機体じゃない」
楯無さんは俺のISを見て感想を言う。
「ありがとうございます。で、一つ質問いいですか?」
「なに?おねーさんのスリーサイズ?いやん、ダイチ君エッチなんだから♪」
「何で楯無さんが横にいるんですか?」
俺の隣には専用機
「だってもう一年で出てない子いないんだもん。余ってたダイチ君が可哀想だなって思っておねーさんが一肌脱いだってわけよ。サポートはしっかりするから任せてね」
攻めに守りに連携タイマン、確かにどれをとっても一流だろう。何しろ学園最強なんだから。
「1年同士の試合に2年の、しかも国家代表のあなたが出ちゃダメでしょ。各国政府関係者も観戦するんですし」
セシリアと鈴も専用機持ちで代表候補生であり実力は折り紙つきだ。だが、楯無さんは代表候補ではなく代表。その実力は同じ専用機持ちとはいえ隔絶した差があるだろう。
「その点は大丈夫。逆に今回私以外がダイチ君のパートナーになって万が一でも勝っちゃったらそれこそイギリス中国のメンツが丸潰れよ。その点国家代表に負けたのなら仕方ないって言い訳が立つし丁度いいのよ」
「…それって裏を返せば俺達は絶対勝たないといけないってことじゃないですか?」
「ご明察!でも生徒会長が学園最強であるなら副会長には最強とはいかなくてもそれ相応の活躍してもらわないとね?」
そう言って笑う楯無さんだが、その笑みには期待を裏切ることは許さないと言う無言の圧力があった。
セシリアは一度戦って勝っている相手とはいえ相手の油断があったマグレ勝ちのようなもの。奇襲は2度は成功しない。4人の中で俺は格下だが果たしてどこまでやれるのか。そうした不安で身体が固まってくる。
フルスキンなので顔は見えていないはずなのだが、楯無さんは俺のそんな緊張を見透かしたように声をかけてくる。
「ダイチ君、安心して。確かにISに関わってきた時間はセシリアちゃんや鈴ちゃんよりは短いけど貴方はもうスイスと言う国家から認められてその代表を任されている存在なのよ。自信を持てとは言わない。でも代表候補生として胸を張って試合を楽しみなさい。多少のミスはおねーさんがカバーしてあげるから」
その言葉で俺はハッと気付かされる。もう俺の戦闘は俺だけの戦いではない。正直自分の操縦技術にはまだまだ不安が多い。だが俺を信じてサポートしてくれる人達がいるのだ。それならせめてその人達に恥じない戦いをするだけだ。
「フフッ、良い顔になったわね」
「楯無さん俺の顔見えてるんですか?」
「いいえ、でも顔を見なくても分かるわ。この数ヶ月誰よりも近くで見てきた私の愛弟子だもの」
楯無さんに予想外の言葉をかけられて言葉に詰まる。
「…そろそろいきましょうか」
「あっ、ひょっとして照れてる?ダイチ君照れてるんだ〜」
「照れてません!とっとと行きますよ!」
からかわれたお陰で少し肩の力が抜けた気がする。素でやってるのか狙ってやっているのかは分からないが改めて彼女の気配り上手には感嘆する。何にせよ俺は俺に出来ることをするだけだ。そう気を引き締め直して俺はアリーナへ飛び出した。
______
俺たちがアリーナに出ると観客席からワッと歓声が上がる。4人全員が専用機持ち、そしてその中に生徒会長と男子生徒も含まれているとなると盛り上がらない訳がなかった。楯無さんは手慣れた様子で観客席に手を振ったりファンサービスをしている。
所定の位置にはセシリア、鈴ペアが先に到着して待機していた。
オープンチャネルでセシリアと鈴が話しかけてくる。
「ダイチさん、以前は不覚を取りましたが今日は雪辱を晴らさせてもらいますわ!」
「ダイチ、あんたとは一度やってみたかったから絶好の機会ね。手加減はしないわよ」
早速の宣戦布告に俺はしっかりと返す。
「ああ、良い試合にしよう。俺も全力でいかせてもらう」
「私は蚊帳の外かしら。おねーさん悲しい」
オヨヨと分かりやすい嘘泣きをする楯無さん。
「正直生徒会長と戦うことになるとは思っていませんでしたがやるからには全力でいかせてもらいます!」
「生徒会長は学園最強らしいけどその噂が本当か確かめてあげる!」
「あらあら、怖い。あくまで主役は私じゃなくてダイチ君だからそこの所よろしくね」
そう言って楯無さんがオープンチャネルからプライベートチャネルに切り替え俺に話しかけてくる。
「で、おそらくは先にダイチ君を沈めて1対2の状況を作るのを狙ってくるんだと思うけどこっちはどうする?」
「ならそれをさせないまでです。一対一に持ち込みましょう。俺は近接型の鈴の相手をします。セシリアの相手はお任せしてもいいですか?」
「了解♪」
試合開始のブザーがなると同時にランス片手にセシリア相手に突っ込んでいく楯無さん。唐突な接近に焦ったのかピットを操作しつつ後方に距離を取り、俺と鈴はその場に取り残される形となる。
「あんたの相手は私ってわけね」
「そういうことだ!」
俺はファントムをコールし鈴に切り掛かるも上手くいなされる。
鈴の肩のアーマーが開き中心の球体が光る。次の瞬間俺は見えない衝撃に殴り飛ばされる。
「まだまだ!」
そう言って鈴の肩の砲身は連続で光を放ちそれに合わせ青龍刀で切り込んでくる。見えない砲弾と過激な剣撃のコンビネーション。俺はそれを凌ぐので精一杯であった。流石は代表候補生。その実力は伊達ではない。
俺はひとまず後方にスラスターを吹かせて距離を取り体勢を立て直す。
楯無さんの方を見るとセシリア相手に優位に戦っているようなのでどうやらどちらを心配する必要はないようだ。
今の位置なら衝撃砲の流れ弾が楯無さんに当たることもない。なら俺は俺の戦い方をするだけだ。俺は目を閉じて『明鏡止水』を発動させる。
中国製第3世代型兵器『衝撃砲』。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰として生じる衝撃自体を砲弾化して打ち出す不可視にして無制限の砲身射角をもつ砲台であった。
だが衝撃砲自体の射線は直線的であり、砲身がどちらを向いているかさえ分かれば回避は容易である。また砲身を作成して砲弾を打ち出すのには若干のタイムラグがあった。
つまり空間を圧縮する上で生まれる気の乱れを掴むことが出来る明鏡止水は衝撃砲相手には絶好の相性であった。
俺は次々に打ち出される衝撃砲の砲弾をスラスターをふかし、時には身体を捩らせて見えない砲弾をかわし再度鈴に接近する。
「っ…‼︎中々やるわね!」
鈴は接近する俺の攻撃を青龍刀で受け止めしばらく剣の打ち合いが続く。
埒が開かないと見たのか鈴は再度肩のアーマーを開く。
このタイミングを待っていた。俺はパラライザーをコールしアーマー内の中心の球体に向けて打ち出す。
お粗末な攻撃力と引き換えに麻痺させる効果を持ったエネルギーの銃弾。それがエネルギーを圧縮している不安定な箇所へ撃ち込まれるとどうなるか。
結果としては一方向に向かうはずだったエネルギーの塊はさらに安定を乱しそのエネルギーは全方位に拡散、つまり爆発する。
「きゃあ!!!!」
「くっ!」
鈴も俺も爆風に巻き込まれ吹き飛ばされる。鈴は至近距離で爆風を受けアーマーが破損し、かなり深いダメージを負ったようだが、こちらは全てを捨てて防御に振り切った機体。少し肩の装甲が飛んだもののまだまだ戦闘可能な状態を維持していた。
(恐ろしく硬い機体だな…)
改めて自分のISの頑丈さに驚かされる。結局セシリア戦と同じような戦略をとってしまったが、今回はその場で思いつきのヤケクソではなく自分の機体性能と武装、相手のISの性質を考えた上でキチンと計画の上の攻撃であったから成長だろう。
「アンタ何その機体化け物なの⁉︎」
「化け物とは失礼な。装甲全振りの機体なだけさ」
「ッ!その能面叩き割ってあげる!」
鈴は下降する勢いを合わせ双天牙月による兜割りを繰り出す。
(こちらのシールドエネルギーは残量十分で恐らくもうこの一撃で決めに来ていて衝撃砲による攻撃はない。これなら…!)
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爆発に巻き込まれながらも辛うじてエネルギーが残っていた鈴は状況を整理する。
こちらは装甲大破でシールドエネルギーは僅か。セシリアの方も見てみるがレーザービットを全て打ち落とされもう長くは持たないようであった。
一方目下のISは同じように爆発に巻き込まれたはずなのにまだまだ余裕といった様子でそこに立っていた。
龍砲はどういう理屈か分からないが最初の一発以外はまともに当たっていないしおそらく軌道は読まれている。相手がいくら守備型のISとはいえ残りのエネルギーを考えると打ち合いをするのは分が悪い。
ならやることは一つ。
(一撃で決める!!!)
装天牙月を連結し、直降下する。
重力に加え
だが装甲を叩き割るはずの双天牙月は空を切り勢い余って体勢を崩す。
「消えた⁉︎」
次の瞬間ハイパーセンサーにより背後にISを視認するも万事休す。
背中にショートブレードによる一撃を受け地上に叩きつけられた衝撃によりシールドエネルギー残量は0を示していた。
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(相変わらず無茶な戦いするんだから…)
セシリアと相対しつつもダイチと鈴の戦いを横目に見ていた楯無はため息をつく。
さっきから衝撃砲やら爆発やらが起こっていたがどうやら勝負はついたらしい。
(それにしても最後見間違えじゃなければ消えたわよね?あれが噂に聞いていた
「よそ見してる暇はありませんわよ!」
レーザービットを全て落とされたセシリアはそれでも諦めることなくミサイルビットとレーザーライフルで楯無を狙う。
テレポートのことは気にはなるものの詳細は後で本人に聞くことにして、まずは目の前の相手を片付けるとしよう。
そう考えた楯無は蒼流旋のガトリングで残されていたミサイルビットを
ビットを破壊されたセシリアは大きく目を見開く。当然だ。ガトリングは多数の弾をばら撒き面で制圧する武装であり、ライフル等の狙撃銃とは精度が大きく異なる。それを成し遂げたのだから楯無の銃撃戦の技術は推して測るべきものだった。
勝てるとは思ってはいなかった。ただ想定以上に隔絶した差を見せつけら絶望するが、それでも降参することは彼女のプライドが許さなかった。
(長距離で当たらないのなら接近するまで‼︎)
ライフルの長所はその長射程による相手のアウトレンジからの攻撃。レーザーライフルでの突撃はそのアドバンテージを捨てに行くもの。だがそうすることしかセシリアにはもはや手が残されていなかった。
「勢いは大切だし嫌いじゃない。でも勢いだけじゃわたしには勝てないわ!」
突撃してくるセシリアに対しそれを待つのではなく迎え撃つかのように真っ向から向かっていく楯無。
高速のレーザーに両者の加速が加わり異次元の速さの銃撃と化すが、それらを掻い潜りセシリアの懐に潜り込む。
「なっ⁉︎」
「チェックメイト‼︎」
止めの一撃にランスで薙ぎ払う。もはやブルーティアーズにエネルギーは残っておらずフラフラと地上に墜落し装甲が解除される。
セシリアの得意とする長射程戦闘ですら持ち味を発揮させず、悪あがきさえ正面から受け止めて圧倒する。まさに横綱相撲であり生徒会長の貫禄を見せつける勝利であった。
戦闘シーン書くのどうしても苦手だけど書かないと上手くならないので頑張って書いてます。
次こそは平穏な買い物回を!!!