護りたいもの   作:影風

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短いですがとりあえず


【第2話】女の園

「はぁ・・・」

 

 IS学園登校初日、俺は早速頭を抱えていた。

 

 IS学園には基本的に女性しかいない。そのことは頭では分かっていたが実際に体験してみると想像以上に大変なものだった。

 

 まず、周りから浴びせられる好奇の視線。

 

 執事兼護衛といった職業柄俺は目立つことが苦手だ。特に護衛の場合、目立つと護衛対象を余計な危険に晒しかねない。

 

 だから職業病といったところか、普段から極力気配を消して過ごしていたのだがここではそれも通用しそうにない。

 

 同じ居心地の悪さはこの学園で俺以外の唯一の男子、織斑一夏も感じているようだ。ちなみに席は名前の順のため、俺の席は織斑の後ろである。

 

 彼には何の恨みもないが願わくば目立ちまくって俺に対する物もふくめて注目を一手に引き受けてもらいたいものだ。

 

 そんなことを考えていると、織斑が振り返って話しかけてくる。

 

「ちょっといいか?」

 

「何か用か?」

 

「いや、別に用ってほどでもないんだけどこの学校で男子って俺とお前だけだから挨拶しておこうと思って。俺は織斑一夏、一夏って呼んでくれ」

 

 そう言って手を差し出してくる。

 

「ああ分かった。俺は上代大地。よろしく頼む」

 

 差し出された手を握ると周りから歓声が上がる。この学園一体どうなってんだ・・・

 

「おう、よろしくなダイチ。それにしても上代かぁ・・・珍しい苗字だな」

 

「お前が言うな、一夏。これまで色々な人間に会ってきたがお前以外に織斑なんて苗字の奴には一人しかあったことがないぞ」

 

「俺以外に会ったことあるのか?」

 

「ああ、ついこの間な」

 

「へー、俺も家族以外では聞いたことがないから会ってみたいぜ」

 

 そう暢気に言う一夏。こいつは悪いやつではないのだろうが底抜けの阿呆なのか。そんなことを考えていると予鈴が鳴り、同時に教師が入ってきた。

 

 圧倒的な存在感を放つその女性は今まさに話題に上がっていた人物だった。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。出来ないやつは出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠15歳を16歳まで鍛えぬくことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

 次の瞬間教室中に女子生徒の黄色い歓声が上がる。

 

「キャーーーー!本物の千冬様よ!!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 

 おい、おかしいだろ!?言ってることは横暴以外の何物でもないぞ?

 

 まあでもその言葉が不思議と説得力を持っているのも事実。これもひとえに彼女のもつカリスマゆえか。

 

「はぁ・・・毎年毎年よくもまあこんな馬鹿が集まるものだ」

 

 ため息をつきながら織斑先生はこめかみを押さえる。

 

 驚きの声を上げたものがもう一人。

 

「えっ、千冬姉!?」

 

 次の瞬間スパーンといういい音が教室中に響く。彼女の手には出席簿が握られていた。

 

「学校では織斑先生と呼べ」

 

 一夏は叩かれた頭を押さえて悶えていた。俺は心の中で合掌する。

 

 織斑、という苗字を聞いた時点で分かってはいたがやはりあの二人姉弟だったようだ。

 

 水を打ったように静まり返った教室は、一夏が織斑先生の弟だと分かったことで再び喧騒に包まれる。いいぞ、もっとやれ。一夏が目立つのには賛成だ。

 

「ほう、このクラスには叩かれたい馬鹿が大勢いるようだな?」

 

 呆れたような織斑先生の呟きに再び一瞬にして教室内は静まり返る。流石に今度は誰一人話し出す者はいなかった。

 

「よし。ではこれから入学式が行われる体育館に移動する。廊下に番号順で整列しろ」

 

 その言葉にみんなゾロゾロと無言で動き始める。瞬く間に廊下には軍隊の見紛うほどに整った列が出来上がった。

 

 鬼教官だけは怒らせてはいけない。これだけは絶対に気を付けなければ・・・

 

_スパーン!

 

「おい、上代。今失礼なことを考えただろう?」

 

 頭に経験したことのない痛みが走る。その出席簿、絶対材質が紙じゃないだろ。ていうかなんで考えていることが分かるんだよ。

 

_スパーン!

 

 無慈悲な二発目の攻撃が俺を襲う。

 

「いやっ、今のはおかしいでしょう!?」

 

「すぐに返事をしないからだ」

 

「理不尽だ・・・」

 

_スパーン!

 

 とどめの三発目が来た。

 

「はぁ・・・まさか返事の仕方から教えなくてはいかんとは」

 

「大変申し訳ありませんでした。以後気を付けます」

 

「うむ、それでいい」

 

 こうして俺は入学式が始まる前に文字通り満身創痍になったのであった。

 

_____

 

 世界中から生徒が集まるIS学園だから何か特別なことがあるのかと期待したが、これと言って変わったことのない普通の入学式であった。

 

 学園長のありがたい()お話がさっきから三十分以上続いている。はっきり言ってかなり退屈だ。隣の一夏に至っては舟をこぎ始めている。一応つついて起こそうとしたのだが全く反応がない。ただの屍のようだ。

 

 そうやって暇をつぶしているうちに拍手が巻き起こる。どうやら学園長の話が終わったようだ。

 

「_ありがとうございました。では続きまして更識楯無生徒会長より新入生への挨拶を頂きます」

 

 紹介を受け立ち上がった水色の髪の少女はゆっくりと壇上に上がっていく。ここからだとはっきりとは見えないがそれでもかなり整った顔立ちだということが分かる。

 

 その少女がよく通る声で話し始める。

 

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんは超難関と言われるIS学園の入試を突破して今ここにいます。世間からはいわゆるエリートと呼ばれる存在です。さぞ希望と自信に満ち溢れていることでしょう」

 

 少女はそこでいったん話を切る。一年生がざわつき始める。それも当然だ。彼女の言葉の節々には明らかに棘がある。このざわつきは主にそれに対する物だろう。

 

 そんな一年生の反応に満足しさらに挑発するような笑みを浮かべて挨拶を再開する。

 

「ですがそんな何の役にも立たないものは早めに捨てることをお勧めします。確かに皆さんは世間一般にとっては特別な存在であるかもしれませんが、この学園内においては至って平凡な一生徒に過ぎません。天才でもない、ただの凡人です。この学園では何よりも実力が重視されます。実力さえあれば自ずと将来が開けてくる、そんな場所です。ただしそのような道に進めるのはごく一部の生徒だけです。多くの人は夢に破れることになるでしょう」

 

 すっかり一年生のざわつきは収まっていた。入学早々厳しい現実を突き付けられたのだから仕方がない。

 

 そんな一年生の様子を見て彼女は真面目な表情になりこう続ける。

 

「ですが、同時にこの学園は努力をすれば必ず報われる場所でもあります。先ほども言ったように皆さんは天才ではありません。つまりスタートラインは全員同じなのです。大事なのは皆さんがどれだけ努力するかということなのです。どれだけ苦しくても歩みを止めないで下さい。その努力は絶対にあなたを裏切りません」

 

 ふう、と息を吐き今度はいたずらっ子のような笑みを浮かべこう言い放つ。

 

「以上で私の挨拶は終わりですが、今の挨拶に異論反論がある人はいつでも生徒会室に来てください。生徒会長であるこの私、更識楯無がいつでもお相手します♪」

 

 そう言って彼女が広げた扇子には『学園最強』の四文字が書かれていた。




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