護りたいもの   作:影風

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だいぶ間が空いてしまいましたが久しぶりの投稿です!


【第20話】嵐の前の静けさ

 心地よい微睡みの中、誰かが俺の肩を揺すっている。

 

「…みしぃ、ねえかみし〜」

 

 そんな変な呼び方をして来る奴は俺の知り合いの中でも一人しかいない。

 

「本音、眠いんだから寝かせろ」

 

「でも海だよ〜、凄いよ〜」

 

「どうせ後で嫌という程見るんだからほっとけ」

 

「えぇ~」

 

 不満を漏らす本音を無視して再び寝る体勢に入る。昨日臨海学校に行っている間出来ない分の仕事をまとめてやった疲れからか意識はすぐに遠のいていった。

 

________

 

 しばらくの睡眠の後バスは目的地に到着し、一年生がぞろぞろと下りてきて旅館の前に整列する。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

「よろしくお願いします!」

 

 織斑先生の言葉の後、全員で挨拶する。この旅館には毎年お世話になってるらしく、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生は元気があってよろしいですね」

 

 歳は三十ほどに見えるがすごく落ち着いた雰囲気を醸し出しており、百戦錬磨といった感じの大人の女性だ。

 

「あら、そちらの方々が噂の・・・?」

 

 俺たちの方を見た女将さんが織斑先生のそう尋ねる。

 

「ええ、まあ。今年は男子が二人いるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな。それにいい男の子たちじゃありませんか。お二方ともしっかりしてそうな印象を受けますよ」

 

「感じがするだけですよ。挨拶しろ、この馬鹿者たち」

 

 俺と一夏はグイっと頭を押さえつけられる。完全に巻き添えじゃねえか。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「上代大地です。よろしくお願い致します」

 

「うふふ、ご丁寧にどうも。清州景子です」

 

 そう言って女将さんは再び丁寧なお辞儀をする。その美しい所作に思わず見とれてしまいそうになる。

 

「不出来の弟と生徒でご迷惑をお掛けします」

 

「あらあら、織斑先生ったら、このお二人には随分厳しいんですね」

 

「いつもこいつらには手を焼かされていますので」

 

 そんなことはないと思ったものの、世界でただ二人の男性操縦者だし見えてるとこだけじゃなくて見えないところでも多分迷惑掛けてるんだろうなと思い口をつぐむ。

 

「それじゃあ皆さん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらの方をご利用なさってくださいな。場所が分からなければいつでも従業員に聞いてくださいまし」

 

 女子一同ははーいと返事をするとすぐさま旅館の中へと向かう。とりあえず俺も荷物を置いてくるか。

 

「ねえねえ、おりむーとかみしーは部屋どこ〜?一覧に書いてなかった〜。遊びに行くから教えて〜」

 

 その言葉に周りにいた女子が一斉に聞き耳を立てるのが分かった。あまりの必死さに俺は思わず苦笑いする。

 

「いや、俺も知らない。けど多分ダイチと同じ部屋になるんじゃねえの?」

 

 まあそれが妥当なところだろう。まさか女子と寝泊まりするわけにもいかないしな。あと一部の女子がおりかみキターーー‼︎なんて騒いでいたような気がするがきっと気のせいに違いない、うん。

 

「わー、それだと別々に行く必要がないからいいね〜。部屋分かったら教えてね〜」

 

 それだとわざわざ一覧に載せなかった意味がないだろ。心の中でそうツッコんでいると織斑先生に呼ばれた。

 

「織斑、上代、お前達の部屋はこっちだ。ついて来い」

 

 そう言ってさっさと歩き出した織斑先生を俺たちは慌てて追いかける。

 

「えーっと、織斑先生。俺たちの部屋はどこになるんでしょうか?」

 

「黙ってついて来い」

 

 遠慮がちに訊ねた一夏は速攻で封殺された。大部屋の前を幾つも通り過ぎそこから少し離れた小さな個室の前で織斑先生は足を止めた。

 

「織斑はここ。上代は隣だ」

 

「え?ここって…」

 

 一夏が言葉に詰まるのも無理はない。ドアに張られた紙には教員室、と書かれていたのだ。

 

「最初はお前達二人が同室という話だったんだが、それだと絶対に就寝時間を無視した女子が押しかけるだろうということになってだな…」

 

 一度大きなため息をついて織斑先生は続ける。織斑先生、その苦労凄く分かります。俺も巻き込まれるのはゴメンだ。

 

「結果、お前は私と同室になったわけだ。これならおいそれと女子も近づかないだろう。ちなみに上代、お前は個室だ」

 

「山田先生と同室ではないのですか?」

 

 それは願っても無いことなのだが意外だった。俺の部屋のドアにも教員室の張り紙がしてあったからてっきりそう思っていた。

 

「いくら教師と生徒といえど男女を同じ部屋に寝かせるのはな。いや、お前がそのようなことをするとは思っていない。むしろ山田先生の方が、な…」

 

 織斑先生は言いづらそうに言葉を濁す。

 

「あぁ…何となく分かりました」

 

 山田先生は悪い人では決してないのだが思い込みの激しい一面がある。それをいちいち静めなければいけない労力を考えると、個室にしてくれた織斑先生には頭が下がる思いだ。

 

「では説明はこれくらいだ。二人とも、羽目を外しすぎるなよ」

 

「「はい」」

 

 二人で勢いよく返事をすると織斑先生はどこかへ行ってしまった。

 

 

 ひとまず荷物を置くべく部屋に入る。するとそこは和室で窓からは一面の大海原を見渡すことが出来た。元は二人部屋ということもあって一人で使うのがもったいないほどの広さだ。部屋にはトイレだけでなくお風呂もついているしもう大浴場行かなくていいなこれ。

 

 確か今日は一日自由行動だったはずだ。ということは

 

「じゃあ早速・・・!」

 

 荷物を置いた俺は畳の上で思いっきりゴロゴロする。もともと住んでたアパートが和室だったがIS学園の寮は普通に洋室なので長らく畳に飢えていたのだ。久しぶりの畳の香りを思う存分堪能する。誰の目もなくダラダラ出来るの最高すぎるだろ。何が悲しくて海なんて行かなくてはいけないのか。しばらくダラダラしたらISの調整をすることにしよう、うん。

 

 そんなことを考えているとメールの受信音が鳴った。開いてみると差出人は楯無さんだった。

 

『旅館にそろそろ着いたころかしら。たった一度の臨海学校なんだから部屋でゴロゴロしようなんて考えず目いっぱい楽しんでくること!』

 

 今の自分の状況を的確に言い当てられて思わず苦笑する。やっぱりあの人エスパーか何かなのか。

…まあそう言われてしまっては仕方ない。少しくらいは海に行くことにするか。

 

______

 

 水着などが入った袋を片手に更衣室へと向かう。途中で謎のニンジンのようなものが庭に刺さっていたがどう見ても面倒ごとの匂いがしたのでスルーした。こんなとこまで来てトラブルに巻き込まれるのはごめんだ。

 

 更衣室に到着すると一夏が既に着替えを済ませ今まさに出ていこうとしているところだった。

 

「おっ、ダイチ。どうせならいっしょに行こうぜ」

 

 それだけは絶対にゴメンだ。いくら俺が地味だとは言え流石に一夏が隣にいれば否が応でも目立ってしまう。

 

「いや、先に行っておいてくれ。同性とはいえ着替えているところを見られるのはあまり好きじゃないからな」

 

「そうか、じゃあお先に。また後でな」

 

 そう言って一夏は更衣室から出ていく。その直後数名の女子の歓声が聞こえてくる。改めて一緒に行かなくて正解だと心から思った。

 

 とりあえず俺も水着に着替え、女子が少なくなった時間を見計らって外に出るとその途端灼熱の太陽が肌を焦がし始める。

 

「暑い…」

 

 どうしてみんなあんなにはしゃげるんだろうか?更衣室から出て5分も経っていないが早くも俺は人気のない日陰を求めてうろうろし始める。

 

 五分ほどあたりを探索してようやく崖の下の丁度いい感じ場所を見つけた俺は腰を下ろす。

 

 

 最後に海に来たのはいつだっただろうか。潮の匂いが染み込んだ生ぬるい風を受けながらそんなことをぼーっと考える。

 

 あれは確か一昨年の夏、雪菜様に叩き起こされて半強制的に海に連れて行かれたのが最後か。成り行きでなぜかビーチバレー大会に飛び入り参加することになり、寝不足の腹いせに決勝で優勝候補のセミプロペアを完膚なきまでに叩き潰したせいで周囲にドン引きされたのは今でもはっきりと覚えている。

 

 自分もあの頃は元気だったなぁ、と年甲斐もなく感慨にふけりながらみんなの様子を眺めていると突然声をかけられた。

 

「…こんなところで何してるの」

 

 顔を上げるとそこには水色の髪の少女が立っていた。

 

「見て分かんだろ。休憩中だよ、休憩中」

 

「一度もみんなのところに行ってないのに?」

 

「そういうお前はどうなんだ。更識簪さん?」

 

「‼︎」

 

 俺が自分の名前を知っていたことに少女は警戒感を露わにする。

 

「安心しろ、別にお前の姉に何か言われた訳じゃない。俺が知っているのはお前の名前と姉妹の仲がうまくいっていないことくらいだ」

 

「…そう」

 

 そう言って更識は俺の横に腰を下ろす。

 

「…その、この前はありがとう」

 

「ああ、あのくらい気にするな。あの場面に遭遇すりゃ誰だってああするさ」

 

「そんなことない」

 

「いや、あるぜ。不良に絡まれている美少女を助けるっていうのは男なら誰しもが憧れるシチュエーションだからな」

 

 まあ大概の場合かっこよさ半分、下心半分といった感じなんだけどな、と心の中で付け足す。

 

「美少女…」

 

「ん、何か言ったか」

 

 急に更識は顔を真っ赤にして俯いてしまった。いったいどうしたのだろう。

 

「おーい、更識〜。大丈夫か?」

 

 何度か呼びかけてみるものの返事がない。ただの更識簪のようだ。

 

 どうしようもなく俺が途方に暮れていると目の前に救世主が現れた。

 

「かみし〜…とかんちゃん?」

 

 これほど本音が頼もしく見えたことはこれまでになくおそらくこの先もないだろう。

 

「本音、丁度いいところに来た‼︎更識の様子が何かおかしいんだ」

 

「かんちゃんが?ちょっと見てみるね〜」

 

 本音は更識に声をかけたり目の前で手を振ったりするがやはり反応はない。が、やがて焦ったくなったのか

 

「えーい」

 

 そう言って更識の脳天にチョップをかました。おい、割と容赦なくいっただろ⁉︎凄い音がなったぞ。

 

「痛い…」

 

「ほら〜、元に戻ったよ〜」

 

 いや、戻すにしてももっと別のやり方があるだろ。古いテレビじゃないんだから。まあでも更識が元に戻ったからよしとするか。

 

「助かった。ところで俺に何か用か?」

 

「あ〜、そうそう。かみしーも一緒にビーチバレーしようって誘いに来たんだ〜」

 

「ビーチバレー?」

 

「そうそう。おりむー達がやっててかみしーも連れてこいって言ってたんだ〜」

 

「見つけられなかったって言っておいてくれ」

 

 何が悲しくてこんなクソ暑い中運動しなくてはならないのか。

 

「そういうと思ってたお嬢様から伝言を預かってきてるよ〜」

 

「伝言?」

 

 何だか嫌な予感がする…

 

「えっと…確か『戸棚の奥に隠してある秘蔵の羊羹が惜しければちゃんとクラスメートと交流しなさい』だってさ〜」

 

「はぁ⁉︎あれ一本1万円するんだぞ⁉︎」

 

 俺が必死に通い詰めてようやく買った幻の一品を人質にするとか流石に卑怯だ。

 

「ちなみに毎日お嬢様に報告することになってるから頑張ってね〜」

 

「よし今すぐ行くぞ。案内しろ、本音」

 

 背に腹は変えられない。俺は即座に立ち上がる。

 

「りょーかーい」

 

 そう言って本音は歩き始める。

 

「更識、お前も一緒に来ないか?」

 

 俺は更識に尋ねるが彼女は首を横に振る。

 

「私はいい…もう少しここにいる」

 

「そうか、じゃあまたな」

 

「また」

 

 そう言って軽く手を振る更識。俺はその手に右手を上げて答えその場を後にした。

 

_____

 

 本音に連れられてコートまで来るとそこには大勢の生徒が集まっていた。そのうちの一人が俺を見つけ大声を上げる。

 

「あ、上代君。来てくれたんだ‼︎」

 

「えっ、嘘‼︎水着変じゃないよね⁉︎」

 

「織斑君もそうだけど上代君も体鍛えてるんだ‼︎カッコイイ」

 

 何だかわらわらと人が集まってきて俺は思わず戸惑ってしまう。

 

「おーい、ダイチ‼︎こっちだ」

 

「分かった、今行く」

 

 一夏の助け舟もあり、人をかき分けコートの中に入って行く。

 

「遅かったな」

 

「悪い、ちょっと立ちくらみがしたから休んでたんだ」

 

「大丈夫なのか?」

 

「ありがとうもう治ったから心配いらない。で、一つ聞きたかったんだがコートにあるクレーターは何だ?」

 

「何ってそりゃ…相手を見ろよ」

 

 そう言って一夏は相対するコートに視線を移す。そこにいたのは世界最強だった。

 

「すべて理解した。で、俺たちの作戦はどうする?」

 

「『命だいじに』、で。死ぬなよダイチ」

 

「ああ一夏。お前こそな」

 

 こうして俺たちは死地へと赴いたのだった

 

______

 

 長いようで短かった臨海学校初日も大半が終わり今は夕食の時間である。

 

 昼食でも出たが夕食でも何と刺身が出てきた。流石税金で運営されているIS学園、そこらの学校には出来ないことを平然とやってのける。そこにシビれる憧れ…はしないな。

 

 そんな馬鹿なことを考えながら一人食事をしていると料理を持ったシャルロットがやってくる。

 

「ダイチ、合席してもいいかな?」

 

「別にいいぞ」

 

「ありがとう」

 

 そう言って空いていた席に座り始める。

 

「足でも痺れたか?」

 

 そう言って俺は座敷の方に目をやる。IS学園の生徒は世界中から集まっているため多国籍・多宗教なのだ。そのためそれに配慮して正座が出来ない生徒のためにテーブル席も用意されている。

 

 ちなみに俺がテーブル席に座っているのは正座が出来ないからではなく単にこちらの方が空いているというだけの理由だ。

 

「違う違う。ダイチと話したかったんだよ」

 

「俺と?そういうのは一夏の担当だが?」

 

「人にはさんざん唐変木と言ってるくせに…」

 

「何か言ったか?」

 

「いや何でもないよ」

 

 そう言って2人で雑談しながら食事をする。

 

「そういやシャルロットはもちろんフランス語話せるよな?」

 

「まあそりゃ母国語だしね」

 

「うちの国大体はドイツ語で通じるんだが一部地域の共通語がフランスなんだ。それでもしよかったら暇な時間でいいからフランス語教えてくれないか?」

 

「あぁ、スイス多言語国家だもんね。勿論いいよ!」

 

「ありがとう。助かる」

 

 言語を身につけるのにはやはりその国のネイティブと話すのが1番だ。心強い味方を得た俺は一つ抱えていた課題が解決し胸が軽くなった。

 

___________

 

「で、何でシャルロットはうちの部屋にいるんだ?」

 

 食事後、何故かうちの部屋にいる目の前の人物に問いかける。

 

「ダイチが暇な時間に教えて欲しいって言ったでしょ?」

 

「だが仮にも年頃の男女が密室にいるというのは良くないというか…」

 

「楯無さんとは毎日一緒に寝てるのに?」

 

「待て!その言い方には語弊がある‼︎」

 

「ごめんごめん、ちょっとからかい過ぎた。ちゃんと教えるから機嫌直してよ」

 

「…分かりやすいように教えてくれると助かる」

 

「教えるのは得意だから任せてよ」

 

 こうしてシャルロットによる臨時のフランス語講座が始まった。

 

____

 

「今日は取り敢えずこんなとこかな」

 

 そう言ってシャルロットは持参したタブレットの電源を落とす。

 

「ありがとう。やっぱり自分で勉強するよりも圧倒的に分かりやすかった。助かる」

 

「いやいや、ダイチの飲み込みが早かったからだよ」

 

 シャルロットは謙遜しているがお世辞抜きに聞いていて分かりやすかった。ISでの器用な戦い方を見ていても感じたことだが相手に合わせるのが圧倒的に上手く、キチンとこちらの理解度に合わせて講義をしてくれていた。

 

「それにしてもISの分野においてメジャーな言語になってるのは日本語と英語なんだからそんなに頑張って勉強する必要ないんじゃない?」

 

「いや、そこはスイスの代表として自分で選んで、そして迎え入れてもらったんだからその国の言葉を学ぶのは義務だ。まあでもフランス語だけじゃなくてあとイタリア語とロマンシュ語も学ぶ必要があるんで先は長いけどな」

 

 言語は国家を構成する要素の大きな一つの要素だ。男性操縦者とはいえポッと出の外国人が国家代表になることを面白く思わない人間もいることだろう。その反発を抑えるためと言うわけではないが国家を代表する以上その国の言葉を学ぶのは当然だ。

 

「ダイチはやっぱり凄いね…」

 

 シャルロットはしみじみと呟く。

 

「いや、まだ気持ちに中身が伴っていない。口だけならなんとでも言えるし大したことはないさ」

 

「人が褒めてるのにそうやって悪びれるのダイチの良くないとこだよ」

 

「いや、悪びれてるとかじゃなくてまだまだ未熟なのは事実だし…」

 

 俺の言葉にシャルロットはため息をつき、やれやれと言った様子で首を振る。

 

「ダイチがそう言う言動をするのは仕方ないか…」

 

 そう言って少し考え込んだ後こちらを改めて向き直ってシャルロットは切り出す。

 

「もし良かったら君を隣で支えさせてくれないかな?」

 

「申し出は嬉しいが、その言い方だと誤解を招くから気をつけた方がいいぞ」

 

「誤解じゃないよ。ダイチが今想像している意味であってる」

 

 こちらをまっすぐ見つめるシャルロット。その視線に思わず目を背ける。

 

「何で俺なんだ?」

 

「Entre deux coeurs qui s’aiment, nul besoin de paroles」

 

「え?何て言ったんだ?」

 

「フフッ、ダイチがもっとフランス語に詳しくなったら分かるよ」

 

 そう言って悪戯っぽく笑うシャルロットは小悪魔じみた魅力があった。

 

「答えは今はいらない。でもとにかく僕はダイチを支えさせてもらうよ。これは僕のわがままだから気にしないで」

 

「そこまでされる義理がない。男装事件のことなら気にしないでいいと言ったはずだ」

 

「だから、だよ。君は助けているつもりはなくても無意識に僕も含め多くの人間を助けるような行動を取ってるんだ。だからこそいつか潰れちゃうんじゃないかって心配になるんだ」

 

「…百歩譲ってそれが事実だとしてもそれは俺が貰う分が多すぎる」

 

 俺の苦し紛れの言動にシャルロットは苦笑いする。

 

「本当に素直じゃないなぁ…じゃあせめて僕のことシャルって呼んでよ。それで貸し借りは無しってことでさ」

 

 あまり納得はいかないがこれ以上の押し問答をしたところでシャルロットは納得しないだろう。ならここが落とし所か。

 

「改めてよろしく頼む…シャル」

 

 俺の言葉にシャルはパッと顔を綻ばせる。

 

「うん!よろしくね。ダイチ」

 

 眩しい笑顔に思わず見惚れそうになり、俺は慌てて顔を逸らした。




次も頑張って書きますので気長にお待ち頂けると嬉しいです!
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