夏合宿2日目、自由時間だった昨日とは打って変わり今日は1日各種装備の試験運用とデータ取りが行われる。
1年の夏合宿とはいえ学内のアリーナでは取ることが出来ない広大な戦闘空域での戦闘データの取得や新装備のテストのための重要な機会となっている。
生徒たちがそれぞれの訓練機を運び始める中思わぬ乱入者が登場する。
不思議の国のアリスが着ているようなワンピースに特徴的なウサミミ。整ってはいるもののどこか気だるげな表情。服装といい雰囲気といい全てが異質な人物は、篠ノ之箒の姉にして、IS開発の生みの親である篠ノ之束だった。
(この人がISを作った張本人…)
この人が直接手を下した訳ではないと理解しつつもISによって大切な人を傷つけられてた人間としては、どうしても複雑な感情を抱かずにはいられない。
とはいえ、そんな俺のことを向こうは気にも止めず上機嫌で妹である箒の専用機、
途中でセシリアが自分のISの調整をお願いしたがにべもなく断られていた辺り自分が興味のないことには本当に関わらない人間らしい。
そうこうしているうちに紅椿のセッティングが終わり、性能テストが開始される。
その性能はあの篠ノ之束お手製の最新機というだけあって圧倒的なスピード、オールレンジ対応武器、抜群の機動力等圧巻そのものだった。
皆がその化け物に目を奪われている中、突然慌てて山田先生が織斑先生の元に飛び込んでくる。
どうやら何か緊急事態が起こったらしい。間も無く一般生徒達は今日の訓練の中止と宿での待機の指示を受ける。そして俺たち専用機持ちは別の任務を受ける。
「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、上代、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!__それと篠ノ之も来い」
「はい!」
そうして俺たち専用機持ち全員と教師全員は旅館1番奥に臨時で設立された作戦室に招集された。
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「では現状を説明する」
そう言って織斑先生が説明を始める。アメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『
そしてここから2キロ先の空域を約50分後に通過する。そのISを教師陣と専用機持ちで対処することになったらしい。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
まず発言したのはセシリアであった。
「分かった。ただしこれらは2国間の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。情報が漏洩した場合には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」
「了解しました」
その返事を聞いた織斑先生がデータを開示する。
楯無さんや虚さんからISのスペックデータの見方等も教わっていたので多少は理解出来るようになっていた。
一夏と箒を除いて専用機持ちが各々意見を口にする。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型…私のISと同じくオールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかもスペック上では私の甲龍を上回ってるから、向こうのほうが有利…」
「この特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しいって感じはするよ。そういやダイチのISならどう?」
「スペックを見る限り恐らく実弾武器ではなくエネルギー武器だろうから、他のISよりは流石に耐えられると思うが俺も厳しいことに変わりはないな。数発防ぐ盾くらいにはなれると思うが」
「このデータでは格闘性能が未知数だ。持ってるスキルも分からん。偵察は行えないのですか?」
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」
「一回きりのチャンス…と言うことは一撃必殺の攻撃力で討ち取るしかないな」
そう言って俺は一夏を見る。俺だけではなく全員が一夏を見ていた。
「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんわね。ただ問題は_」
「一夏をどうやってそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全て攻撃に回さないといけないだろうから移動をどうするか」
「しかも、目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」
次々と進んでいく作戦準備に肝心の一夏はついて行けていないようで困惑気味に声を上げる。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!お、俺が行くのか?」
「「「「「当然」」」」」
今回の作戦には一撃必殺の技が求められる。特に未知のスペックが多い相手となれば尚更確実に仕留められる一夏の零落白夜が重要になってくる。
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら無理強いはしない」
織斑先生の言葉に一夏の目の色が変わる。
「やります。俺がやって見せます」
その言葉に織斑先生の表情が緩んだように見えるがそれも一瞬、すぐに厳しい表情に戻る。
「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」
「それなら私のブルー・ティアーズが。ちょうどイギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」
パッケージは武器だけでなく目的用途に合わせた追加アーマーや増設スラスターなどを含めた装備一式のことを指し、セシリアが現在送られてきているものはまさに高速戦闘に特化したものだった。
セシリアの機体で決定か、そう思っているとまたもや乱入者が現れる。
「待った待った!その作戦断然紅椿の出番なんだよ〜!」
そう言って乱入してきたのは篠ノ之束であった。山田先生に何度か追い出されそうになるがそれをかわしつつ、メインディスプレイを乗っ取り説明を始める。
説明を要約すると紅椿には展開装甲という技術が使われており、装備の換装を必要とせずにあらゆる状況に対応出来る万能機ということであった。
その説明の中にあった第4世代という言葉に皆が絶望に近い衝撃を受ける。なぜなら各国が現在多額の資金、膨大な時間、優秀な人材を注ぎ込んでようやく初期型が完成しつつあるのが第3世代IS。
その努力を嘲笑うかのように一気に抜き去りそれらが全て過去のものになることがこの瞬間に確定してしまったのだ。
改めて目の前にいる篠ノ之束という人間の天才性とそれを誇るわけでもなくただ当然のことのようにやってのける異常性を認識する。
(台風のような人だ…)
ひたすらに苛烈でそして周りに与える影響など一切考えず、かといって彼女自身はマイペースそのもの。存在そのものが災害と言っても過言ではなかった。
「それにしてもアレだね〜。海で暴走っていうと、10年前の白騎士事件を思い出すね〜」
ニコニコと話し出す篠ノ之束と不意を突かれたような顔をする織斑先生。
『白騎士事件』。それはこの世界の形を決定的に変えてしまったこの世界に生きている人間なら知らない人間はいない事件だ。
日本に攻撃可能な各国のミサイル2341基が全てハッキングされ制御を失い、発射された。その絶体絶命の事態に急遽現れた一機のISが迎撃しその全てを無力化。その後もISを捕獲もしくは撃破しようと各国から差し向けられた最新鋭の戦闘機や、巡洋艦、果ては正規空母や監視衛星すら撃破もしくは無力化してしまったのだ。
『ISを倒せるのはISだけである』
その言葉を十分過ぎる結果で示し、結果として世界中がこぞってIS研究に取り組むことになったのだ。その副次作用として世界はその日から急速に女尊男卑へと形を変えていった。
テレビ越しでしか見ていなかった10年前には正直何が起こっているのか分からなかったが、今ならはっきり分かる。
白騎士事件はISの力を世界中に示すために篠ノ之束によって引き起こされ、世界初のIS操縦者織斑千冬によって最悪の事態を免れるというマッチポンプだったのだ。
改めて目の前にいる天災科学者に戦慄を覚える。
そうこうしているうちに作戦の大枠は決まり、一夏箒ペアで目標ISの追跡及び撃墜。その他のメンバーは予備戦力として待機しておくことになった。
予備戦力として待機を命じられた俺は他のメンバーのように高速戦闘の経験がなく特にレクチャー出来ることもないので裏方の荷運び等を行なっていた。
そこで不意にISの調整を終えたと思われる箒とすれ違う。が、どこか足取りも軽くこちらに気づくこともなく去っていってしまった。
先ほどから感じていたことだがどうにも箒の様子がおかしい。緊張もあると思うが端的に言えば浮かれているのだ。確かに専用機持ちになって喜ぶなというのは無茶な話だが、こんな状態で任務に挑ませるのは危険だ。とりあえず声をかけようとした俺の背中に恐ろしく冷たい声がかけられる。
「邪魔するなよ、虫けらが」
振り向くとそこには先ほどまで紅椿の調整をしていたはずの篠ノ之束が立っていた。隠そうともしない明確な敵意を受け流し、俺は冷静に言葉を返す。
「あんたの妹、このままだと失敗するぞ」
「何言ってんのお前、紅椿がある以上失敗なんてするわけないじゃん」
「どれだけ機体が完璧であろうと操縦するのは人間だからミスは起こりうる。それにこれは訓練じゃなくて実戦なんだ、下手をすれば妹が死ぬんだぞ‼︎」
「そんなことにはならないって言ってんのが分かんないの?ほんとお前頭悪いな」
言葉に熱が入る俺とは対照的に冷め切ってそう言う篠ノ之束。俺はその態度に違和感を覚えた。
俺は篠ノ之束に関して出会って間もないが天才だが決して自惚れるような人物ではないという印象を持っていた。自信過剰とも取れる彼女の発言は全てその卓越した能力に裏打ちされたものであり、決して憶測などではない。
なら今回も紅椿以外にも何か策を講じているのではないか、そう考えた時ふと先ほど聞いたの白騎士事件の内容が脳裏に浮かぶ。
__白騎士事件はISの力を世に知らしめるため篠ノ之束によって引き起こされた事件。
そう考えるのであれば妹の記念すべき初実戦を華々しいものにするために事件を起こしても不思議ではないのではないか?
「まさか…」
そのことを尋ねようとした時、織斑先生に声をかけられる。
「上代、ちょっといいか」
「あっはい、なんでしょう?」
「ここでは少し話しにくいから場所を変える。ついて来い」
「分かりました」
そうして誰もいない別室に移動する。
「お前には織斑と篠ノ之のバックアップをやってもらう」
「俺が、ですか?」
正直意外な話だった。箒を除けば俺はこの中では専用機を持ったのが一番遅いし、実戦経験で言えばラウラ、サポートで言えばシャルの方が俺よりも格段に上だからだ。だがその疑問は次の織斑先生の言葉で解消される。
「ああ、あいつらではいざという時に非情になりきれないだろうからな」
織斑先生が言わんとしていることはすぐに分かった。
「…つまり最悪の場合はどちらかを見捨ててより助かる見込みのある方を救出するということですね」
「そうだ。これはお前にしか任せられないことだ」
「…分かりました。ではこちらも準備がありますので失礼します」
「ああ、頼んだぞ」
そう言って俺は織斑先生の前から立ち去る。
それにしてもまさかここまで織斑先生に見る目がないとは思わなかった。俺がISに乗っているのは大切な人たちを守るためだというのに。
(絶対に二人とも見捨てたりはしない)
決意を固めて俺はガーディアンの調整の確認に入った。
次も無理せず頑張って投稿します!