俺が作戦地点に到着したころには既に激しい戦闘が繰り広げられていた。
「凄いな…」
俺は思わず感嘆の声を漏らす。
一夏の白式の機動性は相変わらず言わずもがなだが、今回の作戦目標である『
それを成し遂げているのは頭部から生えた一対の翼だ。それは大型スラスターであると同時に敵を殲滅するエネルギー弾を打ち出す砲口でもある。そのエネルギーの弾丸は敵に当たると爆発するという厄介なオマケ付き。射撃精度は事態はそこまで高くないものの高い連射能力と爆発弾で高域を殲滅するのに特化していた。
だがその戦いは一方的というわけではなかった。一夏の白式と箒の紅椿は互いに連携し、福音の攻撃を捌きながら確実に圧力をかけている。
特に紅椿の機動力と展開装甲による柔軟な対応力は目を見張るものがあり、福音の弾幕を掻い潜りながら有効打を重ねていた。
(あれが篠ノ之束特製の第4世代の力…!)
言葉で説明されてある程度は理解はしていたものの、実際の戦闘を目にするとその破格の性能に驚かざるを得ない
実際、戦況だけを見ればこちらが押していると言ってもいい。
だが——
(……消費が早すぎる)
紅椿の動きは明らかに限界に近い。高出力を維持したままの機動は確実にエネルギーを削っている。
このまま押し切れればいい。だが、もし一撃で仕留めきれなければ——
(まずい流れになる…)
その予感は、次の瞬間現実のものとなった。
「まずい‼︎」
箒が落とした刀が空中で光の粒子となり消えたのを見て俺は焦りを感じる。箒の機体は
しかしそんな箒に対し福音は無慈悲にも照準を絞っていた。
とっさに俺は
『上代、動くな‼︎』
その声によって始動が一瞬遅れる。その遅れによってもう間に合わないことは明らかだった。
万事休す____そう思った時福音と箒の間に割り込む一機の機体があった。
一夏の白式だ。
箒を庇うように抱きしめた一夏は立て続けに福音の攻撃を受け、そのまま海面に叩きつけられた。
そんな二人にとどめを刺すべく照準を定め再びエネルギーを装填する福音。
それを見て俺の中で何かが切れる音がした。
俺は無意識に
目の前の空間が一瞬歪み、次の瞬間には目の前に白く輝く機体があった。
それと同時に全身が引き裂かれるような激痛が走る。まるで肺が潰れたように息が詰まり、視界が明滅する。
(っ…これが、
油断すると意識が飛ぶ。だが気力を振り絞り福音の脳天めがけて全力でファントムを振り下ろす。その刃は確かに福音を捉えた。だが
(ッ…‼︎浅い…‼︎)
装甲を抉りながらもその機能を停止させるまでには至らず、福音は姿勢を崩しながら水面へと落下する。そんな福音に対しパラライザーを数発打ち込み時間を稼いだ隙に、一夏と箒の元に駆け寄る。
「大丈夫か⁉︎」
「一夏が…一夏が‼︎」
今にも泣き出しそうな顔で必死に訴えかけてくる箒。その腕の中にはISが強制解除されぐったりとした一夏が抱きかかえられていた。早く手当をしなければまずいだろう。
「俺が時間を稼ぐから一夏を連れて岸まで戻れるか?」
「いや、もう岸まで飛行するだけのエネルギーが残っていない。すまない…」
「分かった。じゃあ今から救援を…⁉︎下がれっ‼︎」
箒と一夏の盾となるように回り込む。次の瞬間背中に凄まじい衝撃を受ける。装甲越しでも分かる熱量。皮膚が焼け骨が軋むような激しい痛みが襲いかかってくる。
(チッ、ロクに足止めが出来ないのは分かっていたが復帰が早すぎる…‼︎)
「ダイチっ‼︎」
「大丈夫…だ‼︎」
これ以上箒に不安を与える訳にはいかない。俺は痛みを堪えて福音に向き直る。
正直言って勝てる気はしない。だが織斑先生が到着するまでの時間くらいは稼げるはずだ。
そう覚悟俺が決めた刹那、福音に激しい銃弾の雨が降り注ぎ大爆発を起こす。
状況を理解できずにいるとプライベートチャネルに通信が入った。
『上代大地、ここは私に任せて撤退しなさい!』
その機械音混じりの声には聞き覚えがありそこでようやく正体に気づいた。
「白銀‼︎
とは言うものの煙が晴れるとそこにはまだまだ戦闘可能な状態の福音が存在している。
現実問題として俺が戦ったところで白銀の足手まといになるだけだろう。
『敵機Dを認識。排除優先順位を変更。これより敵機Dの排除行動へと移る』
そう言って福音は白銀への砲撃を開始する。
『ターゲットがこっちに移りましたから早く‼︎』
白銀はアサルトライフル2丁を器用に操り可能な限り俺たちから福音を引き離して行く。
こちらに攻撃が及ばないようにしつつも確実に福音のエネルギーを削り、俺たちから距離を取るように誘導していくその実力は見事としか言いようがなく俺との実力の差は明らかだった。
(結局…結局俺は、ISを手に入れても誰一人自分の力で守ることが出来ないのか‼︎)
「っ…クソっ‼︎」
俺は何も出来ない無力感に苛まれつつも一夏と箒を抱え戦闘海域を離脱した。
___________
二人を引きずるようにして回収してきた俺は、長い時間をかけ今ようやく砂浜に辿り着いた。
「みなさん、大丈夫ですか⁉︎」
セシリアを始めとする専用機持ちが続々と集まって来る。
「俺のことは心配するな。それより一夏と箒の手当てをしてやってくれ」
そう言って二人を彼女達に預けると、彼女たちと入れ替わる形で厳しい表情をした織斑先生がやって来た。
「上代、なぜ二人ともを助けた?」
「なぜって…」
「言ったはずだぞ。より助かる見込みのある方を助けろと」
頭ではそれは正しいのは理解している。
「俺が見捨てられるわけないでしょ…俺は大切なものを守るためにISに乗ってるんです。俺はもう二度とあの時のような思いはしたくない‼︎」
「……感情論だな」
織斑先生から返ってきた言葉は冷たく、重かった。
「戦場でそれをやれば、結果的に全員を死なせる。お前がやったことは“誰も死なせない”のではなく、“全員を危険に晒した”だけだ」
「それでも____‼︎」
食い下がろうとした俺の言葉を、織斑先生は鋭い視線で断ち切る。
「今回生き残れたのは偶然だ。敵の判断、第三者の介入、あらゆる不確定要素が重なった結果に過ぎん」
脳裏に浮かぶのは白銀の姿。確かに、あいつがいなければ俺たちは…
「だがな」
一拍置いて、織斑先生はわずかに声音を落とした。
「それでもお前は、自分の判断で動いた。その結果に責任を持てるのなら、それもまた一つの在り方だ」
「…」
「勘違いするな。私はお前のやり方を肯定しているわけではない。だが、戦場で“何を選ぶか”は最終的には操縦者自身だ」
そこで一度言葉を区切り、俺を真正面から見据える。
「次に同じ状況になった時、お前はどうする?」
試すような問いだった。だが迷う必要はなかった。
「それでも俺は、両方助けます」
一瞬の沈黙。そして
「…そうか」
それだけを短く告げると、織斑先生は踵を返す。
「ならば、その選択を現実に出来るだけの力を身につけろ。理想だけでは誰も救えん」
背を向けたまま、最後にそう言い残して去っていった。
___
軽い治療を済ませた俺は一夏と箒の治療が終わるまで自室待機ということになっていた。
これといって出来ることもないのでとりあえず携帯を確認すると楯無さんから着信が2件、メールが1件届いていた。
メールには確認次第至急連絡するように書かれていたのでひとまず電話をかける。
呼び出し音が鳴ること一回、すぐに電話が繋がった。
『ダイチ君、大丈夫なの⁉︎』
「ISは中破しましたけど俺は大丈夫です」
『そう…良かった』
電話越しにも伝わる安堵の表情。
「ですが一夏を…織斑を守ることが出来ませんでした」
『……そう』
一瞬の間を置いて返ってきた声は、思っていたよりもずっと落ち着いていた。
『でもねダイチ君、それって
「……何が違うんですか?」
『大違いよ。あなたがいなかったら、その時点で終わってた可能性もあるんだから』
言葉に詰まる。
確かに、あの場で何もしなければ二人とも…
『それに』
楯無さんの声が少しだけ柔らかくなる。
『君は自分一人で全部背負おうとしすぎ。戦いはチームでやるものよ?』
「……分かってはいるつもりです」
『“つもり”で止まってるから今落ち込んでるんでしょうに』
ぐうの音も出ない。
『まあいいわ。反省は大事だけど、引きずりすぎるのは良くないわよ』
「……はい」
『それと大事なことだけど_』
一瞬だけ間が空く。
『あなたを必要としてる人は、ちゃんといるんだから。それだけは忘れないでね』
その言葉が妙に胸に残る。
「……ありがとうございます」
『ふふっ、素直でよろしい。 じゃあ。気をつけてね』
そう言って通話が切れる。しばらく携帯を見つめたまま、小さく息を吐いた。
(必要とされてる、か)
まだ実感は薄い。
だけどさっきまでよりは少しだけ前を向ける気がした。
電話が終わると同時に部屋のドアが開けられる。
「話は終わったようね」
部屋に入ってきたのは鈴をはじめとした専用機持ちの面々。その中には箒もいた。
「箒、動いて大丈夫なのか?」
「ああ、私は大丈夫だ。ダイチにも迷惑をかけた。本当にすまなかった」
そう言って頭を下げる。出撃前や戦闘中のような浮かれた様子はなく、覚悟が決まった顔をしていた。
「気にするな。ISこそ中破したが身体の方は平気だ」
そう言って肩を回して健在をアピールするが箒の顔に笑顔はない。
いや、箒だけじゃない。他の面々も同じように決意は決まっているようで、独特の緊張感があった。
言葉はいらない。彼女たちがこれから何をしにいくのかは自ずと分かった。
「すまない、俺のISはさっき中破してしまってやつの前ではおそらく足手まといにしかならない…」
「ああ、分かっている。だからお前には我々が出撃するまでの間教官の注意を引き付けてほしい」
「織斑先生を?」
「ああ。戦力の逐次投入は愚策だが、専用機持ちを一挙に投入するこの作戦は、全滅した時のリスクが高過ぎて許可されないだろうからな」
「分かった。どのくらい時間を稼げばいい?」
「30分あれば十分だ」
「30分か…善処する」
「ああ、頼んだぞ」
そう言って専用機持ちたちは部屋を出ていく。頼むから誰一人欠けることなく帰ってきてくれ。そう思いながら俺は作戦室に向かった。
____
「失礼します」
「上代か、どうした?」
織斑先生は入ってきた俺を一瞥するも、すぐに作戦図に目を戻す
「先ほど福音と戦って気付いたことがあったのでご報告に…」
「それは今頃勝手に出撃準備をしている
「…っ。はい」
思わず息が詰まる。やはり織斑先生には全てお見通しのようだ。叱責を覚悟し身構えるが、返ってきたのは意外なほど静かな声だった。
「そうか、なら問題ない。“報告”は以上か?」
「その、こんな聞き方するのもなんですが、いいんですか?」
「ダメに決まってるだろうが。戻ったら反省文と懲罰用の特別トレーニングだ」
フゥ、と深く重いため息をつく織斑先生。だが、その視線は遠くを見ていた。
「だが言ってもあいつらは聞かんだろ。仲間が傷つけられているならなおさらな」
「そう、ですね」
思わず俺は奥歯を噛み締める。目の前の一夏を守りきれなかった悔しさが込み上げる。
「上代、お前も連帯責任だ。だが、今お前を遊ばせておく余裕はない。ISはどんな状況だ?」
「スラスター系に損傷があって全力運転は出来ませんが、通常飛行程度なら。装甲も一部にやや深い損傷箇所はあるものの、こちらは元の装甲が厚いこともあって通常戦闘なら問題ありません」
「分かった。その状態で福音との戦闘は無謀だが、先ほど乱入してきた正体不明機の動向の監視なら行けるな?」
「…はい!ご配慮頂きありがとうございます」
「礼を言われるようなことではない。あくまで任務は監視だ。戦闘になりそうなら離脱に専念しろ」
「分かりました」
短く返事をし、踵を返す。部屋を出ようとしたところで織斑先生に声をかけられる
「上代、」
「はい、何でしょうか?」
「無茶はするなとはいわない、生きて戻ってこい」
「…分かりました」
改めて織斑先生に一礼をし、俺は部屋を出た。
久しぶりの投稿…というには期間が空き過ぎていて申し訳ありません。
また投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします