護りたいもの   作:影風

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 福音戦です。



【第22話】理想と現実の狭間で

 俺が作戦地点に到着したころには、既に激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

「凄いな…」

 

 思わず感嘆の声が漏れる。

 

 一夏の白式の機動性は相変わらずだったが、それ以上に今回の作戦目標である『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』も軍事大国イスラエルの重要軍事機密とされているISというだけあって、その速度と火力には目を見張るものがあった。

 

 それを成し遂げているのは頭部から生えた一対の翼だ。

 

 それは大型スラスターであると同時に敵を殲滅するエネルギー弾を打ち出す砲口でもある。そのエネルギーの弾丸は敵に当たると爆発するという厄介なオマケ付き。

 

 射撃精度自体はそこまで高くないものの、高い連射能力と爆発弾で広域を殲滅するのに特化していた。

 

 だが、戦いは決して一方的というわけではなかった。一夏の白式と箒の紅椿は互いに連携し、福音の攻撃を捌きながら確実に圧力をかけている。

 

 特に紅椿の機動力と展開装甲による柔軟な対応力は凄まじく、福音の弾幕を掻い潜りながら有効打を重ねていた。

 

(あれが篠ノ之束特製の第4世代の力…‼︎)

 

 言葉で説明されてある程度は理解はしていたつもりではあったが、実際の戦闘を目にするとその破格の性能に驚かざるを得ない。

 

 実際、戦況だけを見ればこちらが押していると言ってもいい。

 

 だが_

 

(消費が早すぎる…)

 

 紅椿の動きは明らかに限界に近い。高出力を維持したままの機動は確実にエネルギーを削っている。

 

 このまま一気に仕留め切れれば問題ないが、もし仕留められなかったら、流れは一気に傾く。

 

 そう思った次の瞬間、嫌な予感は現実のものとなった。

 

「まずいっ‼︎」

 

 箒が落とした刀が空中で光の粒子となり消えたのを見て、俺は焦りを感じる。箒の機体は具現維持限界(リミット・ダウン)、つまりエネルギー切れを起こしているのだ。

 

 紅椿の動きが目に見えて鈍る。その隙を福音が見逃すはずもなく、無慈悲にも照準を絞っていた。

 

 この状態でまともに攻撃を受ければ、いくらISといえども無事では済まない。考えるより先に身体が動き、俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で割り込もうとする。

 

 だが、その瞬間織斑先生から通信が入った。

 

『上代、動くな‼︎』

 

 その声に、始動がほんの一瞬だけ遅れた。だが、その一瞬で十分だった。今から飛び込んでも、福音の砲撃が箒に届く方が早い。

 

 万事休す__そう思った時福音と箒の間に割り込む一機の機体があった。

 

 

 一夏の白式だ。

 

 

 箒を庇うように抱き寄せ、一夏はその身で福音の砲撃を受け止めた。白い装甲に光弾が立て続けに叩き込まれ、爆発が二人を包み込む。

 

 それでも、一夏は箒を離さない。

 

 次の瞬間、二人の機体はそのまま海面に叩きつけられ、大きな水柱を上げた。

 

 そんな二人にとどめを刺すべく、福音が再び照準を定め、エネルギーを装填する。

 

 海面に叩きつけられた一夏と箒は、まだ動けていない。俺とは距離がある。今から瞬時加速(イグニッション・ブースト)をしても間に合わない。

 

_また、届かない

 

 その言葉が頭をよぎった瞬間、身体が勝手に動いていた。

 

「っ…‼︎」

 

 俺は無意識に瞬間移動(テレポーテーション)を発動していた。

 

 目の前の空間が一瞬歪む。次の瞬間には、目の前に白く輝く機体があった。

 

 同時に全身が引き裂かれるような激痛が走る。まるで肺が潰れたように息が詰まり、視界が明滅する。

 

(っ…これが、瞬間移動(テレポーテーション)…‼︎)

 

 だが、止まっている暇はない。福音は目の前にいる。今この一瞬を逃せば、次はない。

 

 俺は痛みを噛み殺し、福音の脳天をめがけて全力でファントムを振り下ろした。刃は確かに装甲を捉え、白い機体の頭部から肩口にかけて傷を刻む。だが、足りない。

 

(浅い…‼︎)

 

 装甲を抉りながらもその機能を停止させるまでには至らず、福音は姿勢を崩しながら水面へと落下する。俺は追撃ではなく足止めを選び、落ちていく福音にパラライザーを数発撃ち込んだ。

 

 効くとは思っていない。だが、少しでいい。二人を回収出来る時間さえ稼げれば、それでいい。

 

 福音の動きが鈍ったのを確認し、俺はすぐに一夏と箒の元に駆け寄る。

 

「大丈夫か⁉︎」

 

「一夏が…一夏が‼︎」

 

 今にも泣き出しそうな顔で、必死に訴えかけてくる箒。その腕の中にはISが強制解除され、ぐったりとした一夏が抱きかかえられている。早く手当をしなければまずいことは素人目にも分かった。

 

「俺が時間を稼ぐ。箒、一夏を連れて岸まで戻れるか?」

 

「無理だ…もう、岸まで飛行するだけのエネルギーも残っていない。すまない…‼︎」

 

「分かった。じゃあ今から救援を…⁉︎下がれっ‼︎」

 

 箒と一夏の盾となるように回り込む。次の瞬間背中に凄まじい衝撃を受ける。装甲越しでも分かる熱量。皮膚が焼け骨が軋むような激しい痛みが襲いかかってくる。

 

(復帰が早すぎる…‼︎)

 

 パラライザーで完全に止められるとは思っていなかった。だが、予想以上に早い。これではまともな離脱すら許してもらえない。

 

「ダイチっ‼︎」

 

「大丈夫…だ‼︎」

 

 これ以上箒に不安を与える訳にはいかない。俺は痛みを堪えて福音に向き直る。

 

 正直言って勝てる気はしない。今の俺では、福音を倒すどころか、まともに足止め出来るかも怪しい。それでも、織斑先生が到着するまでの時間くらいは稼がなければならない。

 

_せめて、この二人だけは。

 

 そう覚悟決めた刹那、福音に激しい銃弾の雨が降り注ぎ、大爆発を起こす。

 

 状況を理解できずにいるとプライベートチャネルに通信が入った。

 

『上代大地、ここは私に任せて撤退しなさい!』

 

 その機械音混じりの声には聞き覚えがあり、そこでようやく正体に気づいた。

 

「白銀…‼︎」

 

 思わず歯を食いしばる。

 

 亡国機業(ファントム・タスク)。本来なら、信用出来るはずのない相手だ。そんな相手に背中を預けるなど冗談ではない。

 

亡国機業(ファントム・タスク)の手など借りん‼︎」

 

『今はそんなことを言っている場合ではありません』

 

「…っ‼︎」

 

 言い返そうとした瞬間、爆煙が晴れた。

 

 そこにはまだ戦闘可能な状態の福音がいた。俺のファントムは確かに装甲を抉った。パラライザーも撃ち込んだ。だが、どちらも決定打にはなっていない。

 

 止められていない。その事実が胸の奥に重く沈んだ。

 

『敵機Dを認識。排除優先順位を変更。これより敵機Dの排除行動へと移る』

 

 福音の翼が、白銀へ向けられる。次の瞬間、無数の光弾が白銀へと降り注いだ。

 

『ターゲットがこっちに移りました。早く‼︎』

 

 白銀はアサルトライフル2丁を器用に操り、弾幕を潜り抜けながら距離を取っていく。ただ逃げているわけではない。こちらに流れ弾が及ばないように進路を選びながら、福音を少しずつ俺たちから引き離している。

 

 その動きは、嫌になるほど的確だった。

 

 福音の意識を引きつけ、攻撃を誘導し、反撃で確実にエネルギーを削っていく。俺が必死にやろうとしていて、出来なかったことを白銀は当たり前のようにやっていた。

 

「…っ」

 

 残るべきではない。ここで意地を張れば、一夏と箒を巻き込む。白銀の邪魔にもなる。そんなことは分かっている。

 

 分かっているのに、身体が動かなかった。

 

 自分の力で守るために、俺はここに来たはずだった。雪菜様を守れるようになるために。もう二度と、手が届かない思いをしないために。そのためにISを手に入れたはずだった。

 

 それなのに。

 

 結局、俺はまた誰かに助けられている。

 

 敵であるはずの白銀にまで、助けられている。

 

(結局俺は、ISを手に入れても誰一人自分の力で守ることが出来ないのか…‼︎)

 

「っ…クソっ‼︎」

 

 俺は何も出来ない無力感に苛まれつつも、一夏と箒を抱え戦闘海域を離脱した。

 

______

 

 二人を引きずるようにして回収してきた俺は、長い時間をかけ今ようやく砂浜に辿り着いた。

 

「みなさん、大丈夫ですか⁉︎」

 

 真っ先に駆けつけてきたのはセシリアだった。続いて鈴やラウラたちも集まってくる。

 

「俺のことはいい。それより一夏と箒を頼む」

 

 そう言って二人を彼女達に預けると、彼女たちと入れ替わる形で厳しい表情をした織斑先生がやって来た。

 

「上代」

 

「…はい」

 

「なぜ二人ともを助けようとした」

 

 織斑先生は責めるような声色ではない。だが、その静けさがかえって重かった。

 

「なぜって……見捨てられるわけないでしょう」

 

「言ったはずだ。より助かる見込みのある方を助けろと」

 

「分かっています」

 

「分かっていない」

 

 即座に返された言葉に喉が詰まる。

 

「お前は二人を助けたつもりかもしれん。だが実際には織斑、篠ノ之、そしてお前自身をまとめて危険に晒しただけだ」

 

「…っ」

 

「あのISが乱入していなければ、どうなっていた?」

 

 その言葉に何も言えなかった。

 

 脳裏に浮かぶのは、白い機体。福音を引き離し、俺たちの逃げる隙を作った白銀の姿だった。あれがなければ、俺たちは帰ってこられなかったかもしれない。

 

「今回生き残れたのは、お前の力だけではない。敵の判断、第三勢力の介入。運。その全てが重なった結果だ」

 

「…分かっています」

 

「本当に分かっているなら、軽々しく繰り返すな」

 

 織斑先生の視線が、真っ直ぐに俺を射抜く。

 

「戦場で自分の理想を通すということは、その理想に周りの命を巻き込むということだ」

 

「…」

 

「お前が両方の命を助けたいと思うのは勝手だ。だが、その結果全員死ねば、それはただの自己満足でしかない」

 

 その言葉は冷たかった。だが、同時に何一つ間違っていなかった

 

 俺は二人を助けたかった。どちらかを選ぶなんて出来なかった。

 

 だが結果として、俺は福音を止めきれなかった。白銀が来なければ、一夏も、箒も、俺もあの海で沈んでいたかもしれない。

 

「上代」

 

「…はい」

 

「今は反論を聞くつもりはない」

 

 言いかけた言葉を織斑先生は先に断ち切った。

 

「織斑と篠ノ之の治療が先だ。お前も治療を受けろ。話はその後だ」

 

「…分かりました」

 

 織斑先生はそれだけ言うと、宿舎の方に歩いて行った。俺はその背中を見つめたまましばらく動けなかった。

 

 両方を助けたかった。その気持ちだけは今も間違っていたとは思えない。

 

 けれど、そのために三人とも死んでいたかもしれないという事実だけが、胸の奥に重く沈んでいた。

 

_____

 

 軽い治療を済ませた俺は、一夏と箒の治療が終わるまで自室待機を命じられた。

 

 部屋に戻っても、これと言って出来ることはない。着替える気力もなく床に座り込んだまま携帯を確認すると、楯無さんからの着信が2件とメールが1件届いていた。

 

 メールには、確認次第すぐに連絡するようにとだけ書かれていたのでひとまず電話をかける。

 

 呼び出し音が鳴ること一回、すぐに電話が繋がった。

 

『ダイチ君⁉︎』

 

 電話越しに聞こえた声は、いつもの余裕を含んだものではなかった。

 

「…楯無さん?」

 

『よかった、繋がった…怪我は?身体は大丈夫なの?』

 

「落ち着いてください、俺は大丈夫です。背中を少しやられましたけど、治療は済んでます」

 

『本当に?』

 

「本当です」

 

『…そう』

 

 電話の向こうで、小さく息を吐く音がした。

 

『まったく、心配させるんだから』

 

「すみません」

 

『そこで素直に謝られると、こっちが怒りにくいんだけど』

 

 いつもなら、からかうように笑いながら言う言葉であったが、今日の声には固さが残っていた。

 

『一夏君と篠ノ之さんは?』

 

「今、治療を受けています。詳しい状態はまだ分かりません」

 

『そう…』

 

 通話の向こうが、少しだけ静かになる。その沈黙に耐えきれず、先に口を開いていた。

 

「俺は、一夏を守れませんでした…」

 

『…ダイチ君』

 

「一夏も、箒も、俺だけじゃ守りきれなかった。白銀が来なければ、多分俺たちは戻ってこられませんでした。」

 

 言葉にすると、胸に沈んでいたものがまた重くなる。福音を止めきれなかった。二人を連れて逃げることすら、白銀の助けがなければ出来なかった。

 

「結局、俺はまた守れなかったんです」

 

『そこは違うわ』

 

 返ってきた声は、思ったよりもハッキリしていた。

 

「何が違うんですか?」

 

『守れなかったんじゃなくて、守りきれなかったの』

 

「……同じでしょう」

 

『同じじゃないわ。君がいなかったら、一夏君も篠ノ之さんも、その場で終わっていたかもしれない。君が割り込んで、時間を稼いで、二人を連れて戻ってきた。そこまで全部無かったことにしないで』

 

「でも、白銀がいなければ」

 

『ええ。だから、守りきれなかった』

 

「…」

 

『一人では全部出来なかった。足りなかった。そこは否定しないわ。でも、何も出来なかったわけじゃないでしょう?』

 

 俺はその言葉に言い返せなかった。織斑先生に言われたこととは違った。だが、楯無さんの言葉もまた、間違っているとは思えなかった。

 

『君はすぐ、そうやって全部自分の責任にするのね』

 

「実際、俺がもっと上手くやっていれば_」

 

『そういうところよ』

 

 ピシャリと遮られる。

 

『反省はしなさい。でも、自分を責める材料だけ探すのは禁止。生徒会長命令です』

 

「職権濫用では…?」

 

『適正な職務遂行よ。うちの副会長が勝手に潰れちゃたら困るもの』

 

「副会長…」

 

『そうよ。君にはまだまだやってもらうことはあるんだから』

 

 必要とされている。そう言われたわけではない。けれど、楯無さんの言葉は俺を何も出来なかった人間として終わらせようとはしていなかった。

 

「……ありがとうございます」

 

『どういたしまして。あと、診断結果が出たらちゃんと教えること。誤魔化したら怒るから』

 

「分かりました」

 

『それと、無理に平気なふりをしないこと』

 

「…善処します」

 

『よろしい。また連絡してね。絶対よ?』

 

「はい」

 

 そう言って通話が切れた。しばらく俺は携帯を握ったまま動けなかった。

 

 守れなかったのではなく、守り切れなかった。その違いを正直まだ完全に理解できたわけではない。

 

 だが、少なくとも、楯無さんは今の俺を何も出来なかった人間とは見ていなかった。そのことだけが、さっきより少しだけ胸の奥に残っていた。

 

 電話が切れてまもなく、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「話は終わったようね」

 

 部屋に入ってきたのは鈴をはじめとした専用機持ちの面々。その中には箒もいた。少し顔色は悪い。ただ、その目にはもう迷いは見えなかった。

 

「箒、動いて大丈夫なのか?」

 

「ああ、私は大丈夫だ」

 

「本当か?」

 

「本当よ。さっきまでウジウジしていたけど、あたしが叩き直したから」

 

「鈴…‼︎」

 

 箒が抗議するように鈴を見るが、鈴はまったく悪びれた様子もなく腕を組む。

 

「実際そうでしょ。あんたが落ち込んでたって一夏は起きないし、福音も止まらないんだから」

 

「それはそうだが…」

 

 箒は少しだけ言葉に詰まり、それから俺に向き直った。

 

「さっきはすまなかった。私のせいで、お前にも一夏にも無茶をさせた」

 

「気にするな。ISこそ中破したが、身体はこの通りだ」

 

 そう言って軽く肩を回して見せると、鈴が呆れたような顔でこちらを見る。

 

「それ絶対平気なじゃないやつでしょ」

 

「治療は済んでいる」

 

「そういう問題じゃないわよ」

 

「少なくとも、今すぐ倒れるほどじゃない」

 

「それを平気とは言わないの」

 

 鈴の呆れた声に、何も言い返せなかった。

 

「それで、福音を追うのか?」

 

「ええ。一夏さんをあんなふうにした福音をあのまま放置しておくわけには参りませんもの」

 

 セシリアが静かに頷く。ラウラもシャルも既に準備万端といった様子で、止まる気はなさそうだった。

 

「許可は出たのか?」

 

「出るわけないでしょ、こんな専用機持ちを一挙に投入するなんてリスクの高い作戦。だからあんたに頼みがあるの」

 

「俺に?」

 

 鈴の言葉を引き継ぐように、ラウラが一歩前に出る。

 

「私たちが出撃するまでの間、教官の意識を引きつけておいて欲しい」

 

「ああ。正面から許可を求めても、まず認められない。それに教官に動かれると出撃前に止められる可能性が高い」

 

「時間稼ぎか」

 

「30分あれば十分だ」

 

 30分。相手は織斑先生だ。こちらの意図などすぐに見抜かれるだろうし、正直難しい。だが、今の俺にできることがあるとしたら、それくらいしかなかった。

 

「分かった。善処する」

 

「ああ、頼んだぞ」

 

 ラウラは短く頭を下げる。

 

「そっちこそ、誰一人欠けるなよ」

 

「当然ですわ」

 

「福音を叩き落として、全員で帰って来るわ」

 

「ありがとう。行ってくるね」

 

 それぞれ言葉を残し、彼女たちは部屋を出ていく。彼女たちはもう前を向いていた。

 

 俺だけが、まださっきの海に取り残されているような気がした。けれど、今の俺にも出来ることはある。

 

「…30分か」

 

 小さく呟き、俺は作戦室に向かった。

 

_____

 

 俺は作戦室の前で、一度だけ息を整える。

 

「失礼します」

 

「上代か、どうした?」

 

 織斑先生は入ってきた俺を一瞥するも、すぐに作戦図に目を戻す。

 

「先ほど福音と交戦して、気付いたことがあったのでご報告に来ました」

 

「それは、今頃勝手に出撃準備をしている専用機持ち(あいつら)にも伝えているのか?」

 

「…っ。はい」

 

 思わず息が詰まる。やはり織斑先生には全てお見通しのようだ。叱責を覚悟し身構えるが、織斑先生は作戦図から目を離さないまま、淡々と続けた。

 

「そうか。なら問題ない」

 

「その、こんな聞き方をするのもなんですが…いいんですか?」

 

「いいわけがないだろうが。戻ったら全員反省文だ。もちろんお前も例外ではない」

 

「…ですよね」

 

「だが、今ここで止めに行っても、あいつらは聞かん。仲間が傷つけられているならなおさらな」

 

「そう、ですね…」

 

 仲間が傷つけられた。一夏が倒れ、箒も限界まで追い詰められた。そして、俺はそれを守りきれなかった。

 

 無意識に奥歯を噛み締めると、織斑先生の声が飛ぶ。

 

「上代。今はその顔をしている暇はない」

 

「…はい」

 

「ガーディアンはどんな状態だ?」

 

「スラスター系に損傷があって全力運用は出来ませんが、通常飛行程度なら。装甲も一部にやや深い損傷箇所はあるものの、こちらは元の装甲が厚いこともあって通常戦闘なら問題ありません」

 

「福音相手では?」

 

「…無謀です」

 

「そうだ。だから、お前を福音には向かわせん」

 

 織斑先生はようやくそこでこちらを見た。

 

「先ほど乱入した正体不明機、あのISの動向を監視しろ」

 

「白銀を…」

 

「あの機体が福音の敵に回った理由は不明だ。こちらを助けたようにも見えるが、信用出来る材料はない。お前の任務はあくまで監視だ。戦闘になる前に離脱しろ」

 

「分かりました」

 

「本当に分かっているな?」

 

「…はい」

 

 言い返せなかった。

 

 福音を止められなかった悔しさはある。だが、今のガーディアンで福音の前に出ても、また誰かの足を引っ張るだけだ。

 

「上代、今のお前に福音は止められん」

 

「…分かっています」

 

「なら、今出来ることをやれ。白銀を追えるのはお前だけだ」

 

 慰めではない。だが、その言葉でようやく今の自分にもまだ役割があるのだと思えた。

 

「了解しました」

 

 俺は短く返事をして踵を返す。

 

 部屋を出ようとしたところで、背後から声がかけられる。

 

「上代」

 

「はい?」

 

「無茶をするな、とは言わん。だが、生きて戻れ」

 

 振り返ると、織斑先生は作戦図を見たままだった。

 

「これも命令だ」

 

「…分かりました。必ず戻ります」

 

 一礼をし、俺は作戦室を出た。

 

 福音を止めることはできない。専用機持ちたちと肩を並べて戦うこともできない。

 

 それでも、今の俺にしか出来ないことがある。

 

 その事実だけを握りしめて、俺は白銀を追うために走り出した。




 久しぶりの投稿…というには期間が空き過ぎていて申し訳ありません。また投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
(6/20)内容自体は大きくは変えていないものの書き直しました
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