護りたいもの   作:影風

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少し短いですがキリがいいので


【第23話】白き師

 

 探していたISは福音から遠く離れた崖の上に座って戦闘を見学していた。

 

 とっくに相手の索敵範囲に入っているはずなのに、武装を展開する様子もない。それどころか片手でこちらを手招きすらしている。

 

(油断をさせる作戦か…?いやでも奴の実力ならそんなことをする必要もなく俺を仕留めることは容易だろう…)

 

 考えていても仕方ない。あえて乗ってみるか。俺は武装を解除し白銀に接近し、そして白銀の隣に座る。

 

「…驚いた。バカなんですか?」

 

 顔はフルフェイスで覆われているので表情は見えないが、声の調子からどうやら本当に驚いているようだ。

 

「酷い言いようだな。お前が手招きしたんだろうが」

 

「それはそうですが…罠だとは思わなかったのですか?」

 

「お前の実力ならそんなことする必要はないだろ。それに第一俺を仕留める気なら一夏と箒を庇ったあの時にやってるだろ」

 

「まあそれはそうですが…」

 

 何だが納得がいかない様子の白銀。

 

「そんなことよりこんなところで油売ってていいんですか?」

 

 機械音が混じった声で尋ねてくる。

 

「お前の監視が今の俺の仕事だ。お前こそ福音を強奪しに来たんじゃないのか?」

 

「誰かさんのせいで、苦手な銃撃戦をさせられて疲れたので今回はもういいです」

 

「それはすまん…ってかそんな緩い感じで大丈夫なのか?」

 

 俺がそう言うと白銀はけらけらと楽しそうに笑う。ってかあれで銃撃戦が苦手とか嘘だろ…

 

「いいんですよ。私優秀なので。それにどうしてあなたが謝ってるんですか。それに私はあなたが捕まえるべきテロリストですよ?」

 

「そうかもしれないが、お前に助けられなかったら俺だけじゃなく一夏も箒も危なかったのは事実だからな。恩を仇で返すようなことするつもりはないさ。まあ次会った時は別だが」

 

「その甘さが身を滅ぼすことになるかもしれませんよ?」

 

「それは分かっているつもりだ。それでも言わせてくれ、本当にありがとう」

 

 俺はそう言って白銀に頭を下げる。

 

「…あなたは変わりませんね」

 

「えっ?」

 

 彼女の言った言葉の意味がわからず首を傾げていると、白銀はふと思い出したように言う。

 

「でも仮にも敵同士なんで戦っておかないとそっちはマズくないですか?」

 

「まあ、それもそうだが…」

 

「この前やさっきの時も思いましたが、飛行制御や回避と言った細やかな操作精度の割に攻撃がお粗末すぎますね。戦闘を行ったという事実作りがてら指導してあげます」

 

 そう言ってゆっくり立ち上がって俺から距離を取った。

 

「いや、それは否定できないが_」

 

「『武装が火力がないタイプだから仕方がない』。そう思って諦めてませんか?」

 

「⁉︎」

 

 俺の思っていたことをそっくりそのまま言い当てられ言葉を飲み込む。織斑先生然り楯無さん然りIS強い奴ってやっぱり心読めたりするのか?

 

「武装は火力不足かもしれませんがあなたなら出来るでしょう?何か変な術みたいなのを使ってるじゃないですか」

 

「明鏡止水のことか?変な術ってお前…」

 

 一応一子相伝の秘技だぞ?…俺が教えてもらってる時点で説得力はないが

 

「あれって見たところ気の流れに逆らわず身を任せることによって、相手の行動を回避するって感じですよね?」

 

「そうだが…」

 

「川の流れで例えましょうか。今のあなたは川の流れに流されるまま水面に浮かぶ落ち葉です」

 

「もうちょっといい表現ない?」

 

 枯れ果てた自分を想像し何となく抗議するが無視して白銀は続ける。

 

「気の流れに身を任せるだけじゃなくて、その流れの方向に合わせて自分の力を加える。いわば流れそのものに自分がなって相手を飲み込む、そんなイメージです」

 

「そんなこと言われてもなぁ…」

 

 防御用に教えてもらった型を攻撃に転用するのはなにか違う様な気もする。

 

「もう、ハッキリしないですね。とにかく理論は教えましたから実戦いきますよ。とりあえず明鏡止水とやらを発動させて下さい」

 

 そう言って白銀はショートブレード《雪風》をコールする。どうやらやるしかなさそうだ。俺は中破しているガーディアンを展開しファントムをコールする。

 

 目を閉じ心を静め、明鏡止水を…

 

「今、目閉じてません?」

 

 白銀の言葉で俺の意識は戻される。

 

「閉じているが、それが何か問題でもあるのか?」

 

「はぁ…あなた戦闘中ですよ。回避やだけならそれでもいいかもしれないですけど、攻撃どうやってやるんですか?」

 

「攻撃時には目を当然開けているが」

 

「で、明鏡止水が解除されてるんですね。馬鹿じゃないですか?目開けたまま明鏡止水発動すればいいじゃないですか」

 

「はぁ?そんなの出来るわけ_」

 

「またやってもないのに決めつけるんですか?そうやってまた逃げるんですか?」

 

 白銀の指摘は図星だった。

 

「…っ、分かったやればいいんだろ!やれば!」

 

 俺は白銀を睨みつけながらも集中力を高め、心を落ち着ける。いつもと違い視覚に入ってくる情報が多くてなかなか感覚が掴めない。

 

「…仕方ないですね」

 

「何を…ッ⁉︎」

 

 俺は白銀の斬撃をくらい吹っ飛ばされる。単なるショートブレードの一撃とは思えない重みがこもっていた。

 

「今のは明鏡止水がちゃんと発動出来ていればかわせたはずの一撃です。実際この前はかわされましたし」

 

「いきなり攻撃を仕掛けてきてお説教とは随分いい趣味してるな?」

 

「あなたが弱いからですよ」

 

「あぁ?」

 

「護りたいものがあっても護る力がなければただ蹂躙されるのを目の前で見ることしか出来ない。あなたはそういう経験をしたのではありませんか?」

 

「…っ‼︎」

 

 白銀の言う通りだった。俺が雪菜様を護れなかったのは俺に力がなかったからだ。

 

「あなたのISは防御に特化したもので1人なら生き残れるでしょう。ですが仲間を守るとなった時に攻撃は最大の防御、それでもなお攻撃を疎かにするのなら私は何も言いませんが…」

 

「すまない…俺が悪かった。もう一度頼む」

 

「分かればいいんですよ。では行きます」

 

 そう言い終わるや否や白銀との距離は一瞬で詰まり、鋭い斬撃を受ける。

 

「クッ…」

 

 まるで反応出来ずに攻撃を食らう。白銀はこちらの状態など気にせず追い討ちをかけて来る。

 

「どうしたんですか?あなたの決意とはその程度ですか⁉︎」

 

「チッ…‼︎」

 

 俺は咄嗟にファントムで受け止める。が、白銀の斬撃は俺の剣が受け止める寸前、ありえない速度で加速し、機体に叩きつけられる。

 

「ガハッ‼︎」

 

 恐ろしいことに絶対防御が発動している。つまり今の白銀の一撃は、ガーディアンの装甲すらも貫いて生身に届くものだったと言うことだ。ごっそりとシールドエネルギーを削られる。

 

「遅い。意識が見えているものに引っ張られすぎです。もっと本質を視なさい」

 

 彼女の剣撃は、最小限の動きで最大効率の攻撃を叩き込んでくる。それはISの出力に依存した力任せの一撃ではなく、機体の慣性と気の流れを乗せた研ぎ澄まされた技術の極みであった。

 

「言われなくても、分かっている…!」

 

 俺は再び意識を集中させる。目を開けたまま、意識を外側へ。

 

 ガーディアンが捉える空間の歪み、風の流れ、そして目の前の白銀が放つ、不気味なほど静かな闘志。それらが流れ込んでくる

 

「そうです、その感覚です。…流されるだけの落ち葉ではなく、流れそのものになるのです。流れが岩に当たれば、水は砕けることなくその形を変え、全方向から包み込む。明鏡止水を攻撃に利用するということはそういうことです」

 

「…全方向から包み込む…」

 

 感覚に身を任せ、思考を止める。

 

 白銀が動いた。今度は、見える…‼︎

 

 彼女のブレードが空気を切り裂く音。それよりも先にそこにあるはずの未来の軌跡が、直接“視え”ていた。

 

「____そこっ‼︎」

 

 俺は回避と同時に、今まで試みたことのない踏み込みを放つ。

 

「ッ‼︎」

 

 白銀の雪風が、咄嗟にその一撃を弾く。ガキィィィンという金属音と共に火花が散る。

 

「…今のはなかなか良かったですよ。その感覚、覚えていて下さい」

 

 そういうと白銀は俺から距離を取り、武装を収納する。機械音混じりではあるがその声からは上機嫌なのが伺える。

 

「お前は、一体何者なんだ?」

 

「さあ。暇を持て余したテロリスト、ですかね?…っと、どうやら潮時のようです」

 

 そう言った彼女の視線の先では、福音と一夏が激しい戦闘を繰り広げていたが、どうやら決着がついたようだ。一夏の零落白夜によって福音は機能を停止し、支えを失った操縦者がフラフラと海面に落ちていくのを鈴がキャッチしていた。

 

「上代大地。また会いましょう」

 

 そう言い残すと白銀は一瞬で加速していき空の彼方に消えていった。

 

 白銀の姿が見えなくなると、緊張が解けたのか一気に疲労感が押し寄せてくる。

 

 今日は稽古をつけてくれていたとはいえ、気を抜けばやられかねない気迫が確かにあった。もし相手に戦う気があったなら逃げることすら満足に出来なかったはずだ。

 

 それくらい今の自分と白銀との間には隔絶した実力差があった。

 

(もっともっと強くならないと…大切な人を守るためにも…‼︎)

 

 俺は歯を食いしばり、白銀が去っていった空を睨みつけた。

 

_______

 

 高層ビルの一室、拠点としている部屋に帰還した白銀をスコールは問い詰めていた。

 

「ミスト、あなたみすみす福音を逃してどういうつもり?」

 

「今回の作戦領域にはIS学園の専用機持ちが多数いました。それに篠ノ之束も。それなら修理に送られた所を回収するのが効率的。そう考えて今は見逃して帰りに中国とロシアに寄ってきました」

 

 そう言ってミストは行き掛けの駄賃と言わんばかりにISコアを5つ机の上に転がす。

 

「どうせ2世代の汎用機でしょ?特に必要ないからあなたの好きにしていいわよ」

 

「フフッ、ありがとうございます」

 

 そう言ってミストはISコアを回収する。

 

「あんまりお痛が過ぎると追い出すわよ。お嬢様(・・・)

 

「ああ怖い。家なき子になっちゃいます」




次が少し詰まっているのですが、出来れば1週間以内に出したいと思います
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