「ではお疲れ様でした。お先に失礼します」
「2人ともまたね〜」
「お疲れ様です」
「お疲れ様!気をつけて帰ってね」
放課後の生徒会室、ひと足先に仕事を済ませた布仏姉妹が去っていくのを俺と楯無さんは見送る。
「楯無さんはどんな感じですか?俺の方もそろそろ終わりそうなんで、よければこっちに回して下さい」
「大丈夫よ。私もそろそろ終わるから」
「了解です」
そう言って2人で黙々と仕事を進めていく。学期末のまとめの仕事であり、これさえ終わればあとは細々とした日々の書類だけであり消化試合だ。
人間終わりが見えれば不思議とやる気が出るもので、いつもに増して仕事に集中して取り組んでいく。
「よーし、お終い!!!」
「お疲れ様です。こっちも丁度終わりました」
狙ったわけではないが、楯無さんとほぼ同時に仕事を終える。この人普段はサボってるだけで、ちゃんとやる気がある時はめちゃくちゃ仕事早いんだよな。
「ふぅ〜…やっと終わった〜」
大きく伸びをしながら、楯無さんが備え付けのソファに倒れ込む。
「今日はちゃんと働きましたね」
「なによそれ、いつもサボってるみたいな言い方」
「みたいじゃなくて事実では?」
「うわ、言うようになったわね〜」
そう言いながら軽く睨んでくるが、すぐにふっと力を抜いて天井を見上げる。
「…まあ、今日はちょっと気合い入れてたのよ」
「へぇ、珍しいですね。何かあったんですか?」
何気なく聞いたその一言に、楯無さんの視線がこちらに向く。
いつもの軽さが、ほんの少しだけ消えていた。
「…ねえ、ダイチ君」
「はい?」
少しだけ間が空く。
何かを言おうとして、言葉を選んでいるような沈黙。
その空気に、思わず背筋が伸びる。
「相談があるんだけど聞いてもらえない?」
珍しく楯無さんからお願い事をされる。いつもの飄々とした様子ではなく、どこか緊張したような表情だった。
_____
少し長くなるからと夕飯を済ませて、部屋に戻ってからその話はすることになった。
二人でお茶を飲みながらしばらくは他愛のない話をして、それがひと段落した頃を見計らって俺は水を向ける。
「で、相談ってなんですか?」
楯無さんは気まずい表情を浮かべたが、やがて心を決めたように話し始めた。
「えっと、相談内容っていうのは私と妹のことなんだけど…」
「…簪さんのことですか?」
「知ってるの⁉︎」
とても驚いた様子の楯無さん。
「一応面識はあるって程度で。夏合宿の時に少し話したくらいですけど、少し周囲とは距離を置いているように見えましたね」
「…そう」
楯無さんの表情が少し曇る。
「あの子、もともと人見知りでね。自分から誰かに話しかけたり、頼ったりするのが苦手なの」
「なるほど…」
「それに加えて_専用機持ちなのに専用機がなくてね」
「はい?」
言ってる意味がわからず素っ頓狂な声が出てしまう。
「だから、日本の代表候補生なんだけど、専用機がまだ完成していなくて持ってないの」
「…そんなことあるんですか?」
「妹の専用機の開発元が倉持技研で、一夏君と同じところなの」
そこでようやく合点がいく。
「あぁ、なるほど。白式の方に人員を持って行かれて開発が遅れている感じですか」
「そうなのよ。それで専用機が必要な行事には欠席してるから、余計周りと距離が出来ちゃってるんじゃないかな」
一度言葉を切り、少しだけ間を置く。
「それだけならまだ良かったんだけど、あの子、自分の機体を自分で作ろうとしているのよ」
「自分で?そんなことが出来るんですか?」
ISは企業がチームを組んで組み上げるものといったイメージがあるし、実際殆どの機体がそうしている。それを1人でだなんて。
「どうやら私がそうしたから意識してるみたいで…」
「楯無さんあの機体自分で組み上げたんですか⁉︎」
「まあ7割がた出来上がっていたから出来ただけだし。それに薫子ちゃんや虚ちゃんにも結構意見をもらったから完全に独力って訳でもないんだけど…」
そう言ってため息をつく。
「そのことをちゃんと伝えて、手伝ってあげたらいい…って思うんですけどそうはいかないんですよね?」
「そうなの。それが出来たら苦労はしないのよ…」
そう言って楯無さんは苦笑する。
「今の関係だと、それすら出来なくて…多分私、避けられてるのよね…」
ポツリポツリと呟く。こんな落ち込んだ楯無さんは初めてだ。
「心当たりとかないんですか?」
単刀直入に尋ねると、少し考えこんだ後何かに思い至ったようだ。
「…ひょっとしたらあのことかも」
「あのこと?」
「うん。ちょうど私が楯無の名前を継いだ時のことなんだけど_」
そう言って、楯無さんが昔の経緯を話し始める。話を要約すると暗部に付き纏う面倒なことに妹を巻き込みたくなくて
「ちなみになんて言ったんですか?」
「あなたは何もしなくてもいいの。私が全部してあげるからって…」
「…どう考えてもそれが原因じゃないですか」
「でも私は簪ちゃんのことを思って‼︎」
「分かってます。それは分かってますよ」
取り敢えず楯無さんをなだめる。
「でも、どんなに相手のことを思っていてもキチンと伝えないと届くとは限らないんですよ」
「…ッ‼︎」
楯無さんが息を呑む。そして何も言わずにうなだれる。
(参ったな…)
楯無さんが簪さんのことを本当に大切に思ってることは明らかだった。簪さんの話をする時の楯無さんはいつものどこか掴み所のない余裕のあるお姉さんと言った感じではなく、紛れもなくたった1人の妹を溺愛する1人良き姉の姿だった。
「そういえば、どうして俺が六角家の執事をやってるか話しましたっけ?」
「えっ、それは拾われたからじゃないの?」
思いもよらない質問といった様子で楯無さんはキョトンとした表情を浮かべる。
「確かにそれは半分正解です。ですが当初は旦那様も雪菜様も執事なんてさせずに、六角家の一員として普通の子供のように育てるつもりだったらしいんです」
そこで一度俺は言葉を切る。
「でも、それは俺自身が許せなかった。子供の自分にやれることなんてほとんどない。そう分かりつつも少しでも拾ってもらった恩義や大切な人たちの役に立ちたい、その一心で無理を頼み込んでお願いしたんです」
その話を聞いた楯無さんは黙り込む。楯無さんも楯無さんで10代前半にして暗部の当主に就任し、俺なんかでは想像もつかない苦労をしてきたのだろう。
そう言った中で、それに巻き込まないように簪さんを遠ざけたのは分からなくもない。だが遠ざけられた気持ちはどうだろうか。
「楯無さんが簪さんのことを思っているように、きっと簪さんも簪さんなりに楯無さんの力になりたいと思っていたんだと思います。悪気がなかったのは分かりますが、受け手にとっては、自分を気持ちを不要だと言われた様に感じても仕方ありません」
俺の言葉に深く考え込む楯無さん。かろうじて絞り出した言葉は小さく震えていた。
「…どうしたら簪ちゃんと仲直り出来るかな?」
楯無さんにしては珍しく自信がない、不安な様子で尋ねてくる。
「正直、もう嫌われている気がしていて…」
ポツリ、ポツリと紡ぐ言葉は消え入りそうだった。
「こればっかりは人それぞれなので、俺も正解は分からないです。特に簪さんに関しては本当に面識がある程度ですし…」
「そう、そうよね」
俺の言葉を聞き落胆した様子の楯無さんに対して言葉を続ける。
「でも楯無さんのことなら分かります」
「えっ?」
「楯無さんは更識家当主という立場、生徒会長という立場、代表操縦者という立場。本当に様々な立場でいつも自分の弱い所を見せずに、完璧なとこだけを見せてきたんだと思います。でもこの世にたった1人しかいない妹さんの前でくらいまずその仮面を外して、ありのままの楯無さんとして簪さんと話し合うのがいいんじゃないでしょうか」
第三者の意見、というにはあまりにも主観が入り過ぎている。だが俺の思うことは全て伝えたつもりだ。
俺の言葉を聞き少し考え込む楯無さん。だが彼女の中でも思い当たることがあったようだ。
「そうね…そうよね」
次第に表情がいつもの自信に満ちたものに戻っていく。
「きっとすぐに和解出来るものじゃないとは思う。でもまずはちゃんと話してみることにする」
その言葉にはしっかりとした決意が滲んでいた。この人ならきっと時間がかってもうまく解決するだろう。
「ダイチ君に相談して本当によかった。ありがとう」
珍しく混じりっ気のないお礼を言われて面を食らう。照れ隠し半分に俺は冗談半分当たり障りのない返事をする。
「楯無さんならきっと大丈夫ですよ。何せ我らが生徒会長様ですか…」
俺がいい終わるか終わらないかのうちに、楯無さんはスッと俺の耳元に口を寄せ告げる
「楯無は嫌。私の本当の名前は刀奈_更識刀奈。君にもちゃんと本当の私を知っておいてほしい」
そう言ってさっと俺から距離を取る。気のせいか頬に赤みが少しある気がする
「それは一体どういう…?」
「さてどういうことでしょうか?おねーさんからのとっておきのプレゼントどう使うのは君次第よ」
そう言って楯無さんはいつもの、いやいつも以上の蠱惑的な笑みを浮かべてそう言った。
書かないと上達しないので頑張ります!!!