3話同日投稿の3話目です。
既に限界を超えるダメージを負っていたISは粒子となって消え去り、その中から血まみれの雪菜様の姿が現れた。
「雪菜様‼︎」
俺はすぐさまISを解除し、崩れ落ちる雪菜様を抱き抱える。
その瞬間、腹部が焼けるように痛んだ。止まっていたはずの傷口から、じんわりと熱いものが滲んでいく。
だが、そんなものを気にしている余裕はなかった。
腕の中の雪菜様は軽かった。
あれほど強く、誰よりも遠くにいたはずの人の身体は、驚くほど軽かった。
同時に霧が晴れていく。
「雪菜ちゃん‼︎」
楯無さんもISを解除して駆け寄り、慌てて止血を始める。
だが誰の目にも明らかだった。
もう助からない。
「ダイチ…強くなりましたね…」
雪菜様は弱々しく笑う。
「喋っちゃダメです‼︎」
俺は必死に傷口を押さえる。
だが血は止まらない。
指の隙間から命の雫がこぼれ落ちて行く。
「私、誰か呼んでくる‼︎」
「待って…刀奈ちゃんもここにいて下さい…」
楯無さんの腕を雪菜様が弱々しく掴む。
「二人とも…私を止めてくれたんですね……」
雪菜様は目を瞑る。
「………ありがとう…」
「どうしてですか…」
気づけば声が漏れていた。
「どうしてこんなことを…」
雪菜様は静かに空を見上げる。
「世界を…変えるためです…」
「世界を変える?」
「歪んでるんですよ…この世界は…本当は、人は平等であるべきなのに…」
呼吸は浅く、言葉は途切れ途切れだった。
それでも雪菜様は言葉を紡ぐことをやめない。
「なのに人は…同じことを繰り返す……力を持った側が、弱い側を踏み付けるだけで…」
「それと雪菜ちゃんに、何の関係があるの?」
楯無さんは涙声で尋ねる。
雪菜様は小さく笑った。
「人は…自分達だけでは変われないんです……だから分かりやすい『物語』を求める…」
血に濡れた唇で、それでもどこか楽しそうに笑う。
「…本当は、違う形で終わらせるつもりでした…」
「えっ…?」
「でも…あなたが届いてしまったから…」
雪菜様は、苦しそうに、それでもどこか誇らしそうに目を細める。
「悪逆非道な『テロリスト』を『英雄』が倒す…そんな単純で分かりやすい物語を…人は信じたがるんです…」
『テロリスト』と『英雄』。それが誰のことを指しているのかなど、言うまでもなかった。
「だからって…!」
楯無さんの声が震える。
「だからって、雪菜ちゃんがそんな役割を背負う必要なんてないじゃない…‼︎」
雪菜様はゆっくりと首を横に振る。
「だって…素敵じゃないですか…」
その顔は、不思議なくらい穏やかだった。
「たとえどんな形でも…私とダイチの物語が、ずっと後世まで語り継がれるんですよ…?」
まるで夢見る少女のように、雪菜様は笑う。
「私にとっては…それだけで十分です……」
雪菜様は満ち足りたように目を細める。
その表情は、まるで大切な願いが叶ったように穏やかだった。
「刀奈ちゃん…少し見ない間に、随分きれいになりましたね…」
「雪菜ちゃん…」
「フフッ…ダイチの隣には…私が居てあげなきゃいけないと思ってたのに……」
そこで一度苦しそうに息を吐く。
「もう、その場所は埋まっていたのですね…」
「…そんなこと言わないで」
楯無さんの瞳から涙が溢れる。
だが、雪菜様は優しく微笑むだけだった。
「雪菜様は悪くない‼︎」
気がつけば叫んでいた。
「お側に居ながら何も気づくことが出来なかった…俺の責任です‼︎」
「ダメですよ…」
雪菜様は咎めるように、それでいてどこか楽しそうに笑った。
「すぐに自分の責任にしてしまうのが、あなたの悪い癖だって…何度も言ったじゃないですか…」
「雪菜様…」
「私も…どこかで踏み止まれていたなら……」
弱々しく笑う。
「二人と一緒に……あの頃みたいに笑っていられたのでしょうか…」
次の瞬間、激しく咳き込む。その口からは大量の血が溢れ落ちる。そんな姿に耐え切れず、俺は思わず雪菜様を強く抱きしめる。
「お願いです、本当にもう喋らないで下さい…」
「フフッ…あなたの方から抱きしめてくれたのは初めてですね…」
雪菜様は安心したように幸せそうな笑みを浮かべる。
「あったかい…」
そして今にも閉じかけていた瞳を、ゆっくりと開いた。真っ直ぐに俺を見つめる。
「ダイ……私…あなたのことが…」
言葉の途中で雪菜様は俺の腕の中で眠るように目を閉じていった。雪菜様の身体からふっと力が抜ける。
「雪菜様…?」
返事はない。
腕の中の身体がずっしりと重くなる。
「雪菜様⁉︎目を開けて下さい‼︎雪菜様‼︎」
必死に体を揺するが何の反応もない。
「っ………雪菜様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
喉が張り裂けんばかりにその名前を叫ぶ。だがそれに答える声は既になく、俺の声はアリーナに木霊するだけだった。
お読みいただきましてありがとうございました。
明日の20時、最終話を投稿予定です。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。