護りたいもの   作:影風

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 3話同日投稿の3話目です。



【第39話】想いの果て

 既に限界を超えるダメージを負っていたISは粒子となって消え去り、その中から血まみれの雪菜様の姿が現れた。

 

「雪菜様‼︎」

 

 俺はすぐさまISを解除し、崩れ落ちる雪菜様を抱き抱える。

 

 その瞬間、腹部が焼けるように痛んだ。止まっていたはずの傷口から、じんわりと熱いものが滲んでいく。

 

 だが、そんなものを気にしている余裕はなかった。

 

 腕の中の雪菜様は軽かった。

 

 あれほど強く、誰よりも遠くにいたはずの人の身体は、驚くほど軽かった。

 

 同時に霧が晴れていく。

 

「雪菜ちゃん‼︎」

 

 楯無さんもISを解除して駆け寄り、慌てて止血を始める。

 

 だが誰の目にも明らかだった。

 

 もう助からない。

 

「ダイチ…強くなりましたね…」

 

 雪菜様は弱々しく笑う。

 

「喋っちゃダメです‼︎」

 

 俺は必死に傷口を押さえる。

 

 だが血は止まらない。

 

 指の隙間から命の雫がこぼれ落ちて行く。

 

「私、誰か呼んでくる‼︎」

 

「待って…刀奈ちゃんもここにいて下さい…」

 

 楯無さんの腕を雪菜様が弱々しく掴む。

 

「二人とも…私を止めてくれたんですね……」

 

 雪菜様は目を瞑る。

 

「………ありがとう…」

 

「どうしてですか…」

 

 気づけば声が漏れていた。

 

「どうしてこんなことを…」

 

 雪菜様は静かに空を見上げる。

 

「世界を…変えるためです…」

 

「世界を変える?」

 

「歪んでるんですよ…この世界は…本当は、人は平等であるべきなのに…」

 

 呼吸は浅く、言葉は途切れ途切れだった。

 

 それでも雪菜様は言葉を紡ぐことをやめない。

 

「なのに人は…同じことを繰り返す……力を持った側が、弱い側を踏み付けるだけで…」

 

「それと雪菜ちゃんに、何の関係があるの?」

 

 楯無さんは涙声で尋ねる。

 

 雪菜様は小さく笑った。

 

「人は…自分達だけでは変われないんです……だから分かりやすい『物語』を求める…」

 

 血に濡れた唇で、それでもどこか楽しそうに笑う。

 

「…本当は、違う形で終わらせるつもりでした…」

 

「えっ…?」

 

「でも…あなたが届いてしまったから…」

 

 雪菜様は、苦しそうに、それでもどこか誇らしそうに目を細める。

 

「悪逆非道な『テロリスト』を『英雄』が倒す…そんな単純で分かりやすい物語を…人は信じたがるんです…」

 

 『テロリスト』と『英雄』。それが誰のことを指しているのかなど、言うまでもなかった。

 

「だからって…!」

 

 楯無さんの声が震える。

 

「だからって、雪菜ちゃんがそんな役割を背負う必要なんてないじゃない…‼︎」

 

 雪菜様はゆっくりと首を横に振る。

 

「だって…素敵じゃないですか…」

 

 その顔は、不思議なくらい穏やかだった。

 

「たとえどんな形でも…私とダイチの物語が、ずっと後世まで語り継がれるんですよ…?」

 

 まるで夢見る少女のように、雪菜様は笑う。

 

「私にとっては…それだけで十分です……」

 

 雪菜様は満ち足りたように目を細める。

 

 その表情は、まるで大切な願いが叶ったように穏やかだった。

 

「刀奈ちゃん…少し見ない間に、随分きれいになりましたね…」

 

「雪菜ちゃん…」

 

「フフッ…ダイチの隣には…私が居てあげなきゃいけないと思ってたのに……」

 

 そこで一度苦しそうに息を吐く。

 

「もう、その場所は埋まっていたのですね…」

 

「…そんなこと言わないで」

 

 楯無さんの瞳から涙が溢れる。

 

 だが、雪菜様は優しく微笑むだけだった。

 

「雪菜様は悪くない‼︎」

 

 気がつけば叫んでいた。

 

「お側に居ながら何も気づくことが出来なかった…俺の責任です‼︎」

 

「ダメですよ…」

 

 雪菜様は咎めるように、それでいてどこか楽しそうに笑った。

 

「すぐに自分の責任にしてしまうのが、あなたの悪い癖だって…何度も言ったじゃないですか…」

 

「雪菜様…」

 

「私も…どこかで踏み止まれていたなら……」

 

 弱々しく笑う。

 

「二人と一緒に……あの頃みたいに笑っていられたのでしょうか…」

 

 次の瞬間、激しく咳き込む。その口からは大量の血が溢れ落ちる。そんな姿に耐え切れず、俺は思わず雪菜様を強く抱きしめる。

 

「お願いです、本当にもう喋らないで下さい…」

 

「フフッ…あなたの方から抱きしめてくれたのは初めてですね…」

 

 雪菜様は安心したように幸せそうな笑みを浮かべる。

 

「あったかい…」

 

 そして今にも閉じかけていた瞳を、ゆっくりと開いた。真っ直ぐに俺を見つめる。

 

「ダイ……私…あなたのことが…」

 

 言葉の途中で雪菜様は俺の腕の中で眠るように目を閉じていった。雪菜様の身体からふっと力が抜ける。

 

「雪菜様…?」

 

 返事はない。

 

 腕の中の身体がずっしりと重くなる。

 

「雪菜様⁉︎目を開けて下さい‼︎雪菜様‼︎」

 

 必死に体を揺するが何の反応もない。

 

「っ………雪菜様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

 喉が張り裂けんばかりにその名前を叫ぶ。だがそれに答える声は既になく、俺の声はアリーナに木霊するだけだった。




 お読みいただきましてありがとうございました。

 明日の20時、最終話を投稿予定です。

 最後までお付き合いいただけますと幸いです。
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