1,2話で収まると思っていたんですが、いつも通り見積もりを大幅にミスっていたので4話くらいになる予定です。最終話の空白の10年のお話です‼︎
「ダイチは、神を信じますか?」
「どうしたんですか、いきなり?」
いつものように俺のボロアパートに遊びに来ていた雪菜様が、いきなりおかしなことを言い出した。
ひょっとして何かヤバい勧誘とかに引っかかったんじゃなかろうか?
「昨日、テレビで超常現象特集がやってたんです。その中で、婚約者を事故で亡くした女性の元に、死んだはずの婚約者が最期に愛を伝えるため、神様の情けで一時的に生き返ったっていう話があったんですよ」
「はあ」
「ロマンティックな話だと思いませんか?」
「本当なら素敵なお話ですね」
「でしょう?」
「ですが、現実的に考えてあり得ませんね。大方、その女性が本能的にショックを和らげる為に生み出した幻覚でしょう」
「もう、どうしてダイチはいつもそう冷めてるんですか」
雪菜様は不満そうに頬を膨らませる。
「もうちょっと夢を見たっていいじゃないですか」
「夢を見るには、もう歳をとり過ぎてますよ」
「もうまたそんなジジくさいこと言って…」
雪菜様は呆れたようにため息を吐く。
そして、ふと思いついたようにこちらを見た。
「じゃあ、もしですけど」
「はい」
「私が幽霊になってダイチの前に現れても、信じないのですか?」
「信じるわけないじゃないですか」
「えっ…」
きっぱりと断言すると、雪菜様は意外だったのか、少し驚いたように目を丸くした。
そして、徐々にしょんぼりしていく。
夢とか、神様とか、幽霊とかそんな曖昧な力には頼らない。頼るつもりもなかった。俺は、主人に向かって自分なりの決意を告げる。
「あなたは死なせません。俺が全てを懸けて守りますから」
雪菜様は一瞬、きょとんとしていた。
けれど、すぐに満面の笑みを浮かべる。
「よろしくお願いします」
「はい、お任せ下さい」
_______
_ピピッ、ピピッ
枕元で目覚ましが鳴る。
寝ぼけたまま手を伸ばし、それを止める。しばらく天幕の内側をぼんやりと見上げてから、俺は大きく息を吐いた。
「…あれからもう10年か」
妙に懐かしい夢だった。
ボロアパート、緑茶の香り、何気ない話で笑う雪菜様。もう二度と戻らないはずの時間が、夢の中ではあまりに鮮明に残っていた。
俺は額に手を当て、しばらく目を閉じる。
幽霊になって現れても信じないのか、その問いに、あの頃の俺は即答した。
信じるわけない、と。
馬鹿な話だ。あれだけ偉そうなことを言っておきながら、結局俺はあの人のことを守れなかった。
「…行くか」
考えていても仕方がない。
俺は寝袋から抜け出し、簡単な身支度を整えてテントの外に出た。
朝の空気は乾いている。太陽はまだ上りきっていないが、日中の暑さを思えばこの時間帯が一番動きやすい。
顔を洗っていると、背後から元気な声が聞こえてきた。
「ダイチ!オハヨウ!」
「ああ、おはよう」
振り返ると、数人の子供達がこちらへ駆け寄ってきていた。
この国の言葉はまだ流暢とは言えないが、挨拶くらいならもう慣れたものだ。子供達もこちらの発音の怪しさには慣れたらしく、からかうように笑いながら周りを取り囲んでくる。
「はいはい、朝飯の準備をするから少し待ってろ」
「キョウ、スープ?」
「ああ、あとビスケットもあるぞ」
その言葉に子供達は歓喜の声を上げる。
俺は苦笑しながら、簡単な調理場に向かう。
俺がこのニアメ難民キャンプに来てから、もう三ヶ月ほどになる。
ビアフラ国。アフリカ内陸部にあるこの国では、長く続いた独裁政権に対して民主化を求める民衆が立ち上がり、数年に及ぶ内戦が続いていた。
半年前にようやく休戦協定が結ばれたものの、国土は荒れ、家を失ったものも多い。とりわけ親を失った子供達は、こうした支援キャンプに身を寄せるしかなかった。
俺がここでしていることは、大したことではない。
食事を作る。壊れた屋根を直す。畑を耕す。物資の確認をする。子供の相手をする。
ただ、それだけだ。
それでも、何もしないよりはいい。
雪菜様がいつか見たいと言っていた世界。そこで苦しんでいる人たちの力になりたいと語っていた夢。
その全てを俺が代わりに叶えられるなんて思っていない。けれど、せめて目を逸らさずにいたかった。
「ちゃんと並んで順番に。みんなの分はあるからな」
鍋からスープをよそい、栄養ビスケットと一緒に配っていく。
小さな手が器を受け取り、嬉しそうに笑う。
その笑顔を見るたびに、少しだけ救われたような気になる。同時に、これで救われているのは誰なのだろうとも思う。
_子供達なのか
_それとも、俺自身なのか。
「ダイチ、オイシイ‼︎」
「そうか。それはよかった」
「アシタモ?」
「物資が残ってればな」
そう答えると、子供は意味が分からないまま首を傾げた。
俺は苦笑し、その少女の頭を撫でる。
食事を終え、後片付けを済ませる頃には、日差しがだいぶ強くなっていた。
子供達が広場に走っていくのを見送り、俺は倉庫に向かう。
棚に積まれた箱を一つずつ確認し、帳簿に数を書き込んでいく。
「…やっぱり少ないな」
最近、届く物資の量が明らかに減っている。
もともと辺境のキャンプ地だ。規定量が届かないことなど珍しくもなかった。だがここ数週間は、それにしても酷い。
食料も医療品も、余裕があるとは言えない。
最悪の場合、近隣の別のキャンプに分けてもらうことも考えなければならない。もっとも、そちらに余裕がある保証もないが。
「ダイチ、また難しい顔をしていますね」
「うおっ⁉︎」
突然背後から声をかけられ、思わず肩が跳ねた。
振り返ると、ブロンドの髪を揺らした少女が楽しそうにこちらを見ていた。
「ミスト…気配を消して近づいてくるのはやめろって、何度も言っているだろ」
「嫌です。だってダイチ、いつも面白い反応をしてくれるんですから」
「人を驚かせて遊ぶな」
「えー、こんな可愛い女の子が会いに来てあげたのに、その言い方は酷くないですか?」
「仕事の邪魔をしに来たなら追い出すぞ?」
「手伝いに来たんですよ」
ミストは胸を張ってそう言った。
彼女の年齢は、正確には知らない。見たところ、17、8といったところだろうか。
名前はミスト。
それが本名なのかどうかも分からない。
家族はどうしているのか。なぜこんな辺境のキャンプ地で働いているのか。学校には行かなくていいのか。以前いくつか尋ねたことはあるが、その度に霧のように煙に巻かれてしまった。
分かっているのは、彼女が妙に人懐っこく、妙に手際がよく、そして妙にこちらの背後を取るのが上手いことくらいだ。
「お前、今日は洗濯の当番じゃなかったか?」
「もう終わりました」
「早すぎないか?」
「優秀なので」
「自分で言うな」
「事実ですから」
にこにこと笑いながら、ミストは倉庫の中に入ってくる。こうして笑っていると年相応の少女に見えてくる。
だが、時々ふと分からなくなる。
この少女は本当に、ただの支援スタッフなのだろうか?
「そこで、何をすればいいですか?」
「そこの箱を確認して、数を帳簿と照らし合わせてくれ」
「了解です」
ミストは軽い返事をして、すぐに作業を始める。
口ではふざけているが、手は早い。こちらが言わなくても、必要なものとそうでないものを見分けている。
やはり、ただの素人ではない。
「なあ、ミスト」
「はい?」
「お前、本当に何者なんだ?」
そう尋ねると、ミストは箱を持ったまま、キョトンとした顔でこちらを見た。
「美少女です」
「それは分かった」
「あら、認めるんですね?」
「否定すると面倒くさそうだからな」
「ひどい」
ミストは不満そうに頬を膨らませる。
その表情があまりにわざとらしくて、俺は小さくため息を吐いた。
「真面目に聞いてるんだが」
「私も真面目です。美少女で、働き者で、少しだけ謎めいている。完璧じゃないですか」
「謎めいている部分を誇るな」
「だって、女の子には秘密が多い方が魅力的でしょう?」
「そういうものか?」
「そういうものです」
ミストはそう言って、イタズラっぽく笑う。
これ以上聞いても無駄だろう。俺は諦めて作業に戻る。
しばらく倉庫の中には、箱を動かす音と、帳簿に鉛筆を走らせる音だけが響いていた。
かと思えば、ミストがすぐに口を開いた。
「ところでダイチ」
「今度はなんだ?」
「美少女と密室で二人きりってこの状況に、少しくらい興奮したりしないんですか?」
「10年経ってから出直せ」
「痛っ⁉︎」
反射的にチョップを落とすと、ミストは頭を押さえて涙目になる。
「暴力反対です‼︎」
「アホなことを言うからだ」
「もう、ダイチは本当に冷たいですね」
「作業に戻れ」
「はーい」
返事だけは素直にして、ミストは再び箱に向き直る。
こういう軽口を叩いている時だけは、少しだけ肩の力が抜けた。
10年前からずっと背負ったきたものが、消えるわけではない。
それでも、ここでの生活は確かに日常になりつつあった。
そう思った、その時だった。
遠くから、空気を切るような音が聞こえた。
「…航空機か?」
俺は顔を上げる。
この辺りに物資の空輸が来る予定はない。少なくとも、俺は聞いていない。
倉庫の外から、子供達の歓声が上がる。
「ダイチ?」
ミストの声が、少しだけ低くなった。
俺は帳簿を置き、外に向かう。
「確認する」
倉庫の扉を開けると、眩しい日差しが目に刺さった。
子供達は空を見上げて手を振っている。
その視線の先。
青い空の中に、一つの黒い影があった。
支援物資を運ぶ輸送機にしては、小さい。
ヘリにしては、音が違う。
その形を認識した瞬間、背中に冷たいものが走った。
「全員、建物の中に入れ‼︎」
俺は叫ぶ。
しかし、その声が届くよりも早く、空の影がこちらへ向けて降下を始めた。
子供達は、突然の怒声に驚いたようにこちらを振り返る。
けれど、すぐには動けなかった。
無理もない。ついさっきまで、それを支援物資を運んできた航空機か何かだと思って、嬉しそうに空を眺めていたのだから。
「早くしろ!走れ‼︎」
俺は近くにいた子供を抱え、倉庫の陰へと走る。
その瞬間、空気が震えた。
青空に浮かぶ、銀と水色の装甲。
機体の周辺に揺らめく水のヴェール。背部に広がる翼のようなユニット。そして、その手に握られた大型のランス。
細部は違う。
けれど、その姿を見間違えるはずがなかった。
「……ミステリアス・レイディ?」
楯無さんのIS。
いや、違う。あれそのものではない。
だが、間違いなくその系統に連なる機体だった。
考えるより早く、機体がランスを地上に向けた。それに搭載されたガトリングが、次の瞬間火を噴いた。
辺りに轟音が響く。
無数の弾丸が地上を薙ぎ払い、簡易宿舎の壁を砕き、積まれていた物資の箱をまとめて吹き飛ばす。
乾いた地面が砕け、布切れや木片が煙の中に舞い上がる。
数秒前まで響いていた子供達の歓声が、悲鳴に変わる。
「伏せろ‼︎」
抱えていた子供を庇うようにして、俺は地面に転がった。
背中に砂利が食い込み、耳の奥がキンと鳴る。それでも、顔を見上げると、広場の向こうで足がすくんで動けなくなっている子供の姿が見えた。
朝、スープを美味しいと言って笑っていた少女だった。
「こっちだ‼︎」
俺は立ち上がり、少女へ向かって走る。
_あと少し。
_あと数歩。
手を伸ばせば届く、その瞬間に上空のISが再びランスをこちらに向けた。
(…間に合わない)
そう理解した直後、横から強い力で体を引かれた。
「ダイチ‼︎」
ミストだった。
次の瞬間、俺がいた場所は銃弾が抉り、砂と石が弾け飛ぶ。
「離せ‼︎」
「ダメです‼︎」
「あそこに子供がいる‼︎」
「今行けば、あなたも死にます‼︎」
「それでも‼︎」
叫んだ瞬間、頬に乾いた音が走った。
一瞬、思考が止まる。
ミストはいつもの軽い笑みを消し、見たこともないほど真剣な表情で俺を睨んでいた。
「あなたがここで死んだら、誰が他の子を助けるんですか」
「っ……‼︎」
言い返せなかった。
俺には、あの空に手が届かない。
かつてなら、ガーディアンがあった。空を飛び、その身を挺し、攻撃を受け止めることができた。
けれど今の俺は、ただの人間だ。
走ることしか出来ない。抱えることしか出来ない。
その間にも、俺の知る機体の面影を持ったISが、戦う力を持たない人々を一方的に踏みにじっていく。
「……クソッ‼︎」
「ダイチ、今は逃げます」
「まだ助けられる人が_」
「助けるために逃げるんです‼︎」
俺は奥歯を噛み締める。
逃げるという選択は、どうしようもなく惨めだった。
それでも、ここで死ねば本当に終わりだ。
「…行くぞ」
「はい」
俺たちは煙の中を駆け抜け、キャンプの外れにある林へと逃げ込んだ。
振り返ると、キャンプは黒い煙に包まれていた。
朝までそこにあった日常は、たった一機のISによって踏みにじられている。
隣に立つミストも、燃えるキャンプを黙って見ていた。
「行きましょう、ダイチ」
「……ああ」
今は生き延びるしかない。
無力感を抱えたまま、俺は煙の上がるキャンプに背を向けた。
__________
命からがら逃げ出した俺たちは、キャンプから少し離れた村の廃墟に身を隠していた。
壁は崩れ、屋根も半分ほど抜け落ちている。だが、外から姿を隠し、息を整えるには十分だった。
「ここまで来れば、ひとまず大丈夫だろ」
外の様子を確認してから、俺はミストへ振り返る。
「ミスト、怪我は無いか?」
「ええ。少し疲れましたけど、大丈夫です」
「そうか」
短く答え、壁にもたれかかるようにして腰を下ろす。
逃げる途中で擦ったのか、腕には細かい切り傷がいくつかできていた。だが、そんなものは怪我のうちにも入らない。
「…ダイチこそ、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるか?」
「見えませんね。世界の終わりを見てきたみたいな顔をしています」
「似たようなものは見たからな」
そう返すとミストは少しだけ黙った。
俺もそれ以上は続けない。
目を閉じれば、さっきまでの光景が蘇ってくる。
_それに手を振っていた子供達。地上を薙ぎ払うガトリング。動けなくなっていた少女。届かなかった手。
俺は奥歯を噛み締める。
だが、ここで立ち止まっている訳にはいかなかった。
「…これからどうしますか?」
先に口を開いたのはミストだった。
俺は深く息を吐き、意識を切り替える。
「国外に脱出する…と言いたいところだが、普通に難しいだろうな」
「ええ。ここから外に抜ける道は、恐らく軍が押さえています」
ミストはどこから持ってきたのか、古びた地図を広げた。
「お前、それどこで拾った?」
「逃げる途中の車にありました」
「拾った、ってことでいいんだよな?」
「細かいことは気にしない方がいいですよ」
「…深くは聞かないでおく」
ミストは何食わぬ顔で地図の一点を指す。
「私たちが今いるのはこの辺りです。山に囲まれた国ですから、国外に出るには北の街道を通るしかありません」
「そこを軍が抑えている、と」
「でしょうね。あのISいる以上、無理に抜けようとすれば終わりです」
「厄介だな」
逃げるだけなら、隠れながら山中を抜けるという手もある。
だが、あのキャンプから逃げた人間は俺たちだけではない。周辺には行き場を失った人たちがまだ大勢いるはずだ。
軍がこのまま進軍を続ければ、同じことがまた起きる。
「…あのISを止める必要がある」
「そうなりますね」
「だが、こっちにISはない」
「通常兵器でどうにか出来る相手でもありませんよ」
「分かってる」
ISにはISを。単純だが、どうしようもなく厄介な結論だった。
「国外に連絡を取るしかないな…」
そう言ってポケットを探るが、何もない。どうやら携帯をキャンプに置いてきてしまったようだが、仮にあったところでこの状況で繋がるとは思えない。
「ミスト、何か連絡を取れるものは持ってないか?」
「一応スマホがありますけど、無理ですね」
ミストが画面を見せるが、そこには圏外の表示。
「基地局かアンテナが落とされたか」
「逃げられたくないでしょうしね」
「やはりそうか…」
ISはなく、脱出路は抑えられている。外部との連絡も断たれている。状況だけ見れば、かなり詰んでいる。
「…弱ったな」
「あの、外部と連絡を取りたいんですよね?」
「そうだが、何か方法があるのか⁉︎」
思わず身を乗り出して尋ねる。
「衛星電話です」
「衛星電話…確かにそれなら繋がるかもしれないが、そんなもの俺たちは持ってないぞ?」
俺がそう言うと、ミストはニッコリ笑って答えた。
「無ければ借りればいいんですよ♪」
______
「無事に『借りられて』良かったですね」
借りる、の部分をやたら強調してミストが言う。
「なあ、ミスト」
「どうかしましたか?」
ミストはきょとんとした様子で、可愛げに首を傾げる。その仕草だけ見れば、どこにでもいる無邪気な少女に見えなくもない。
「これはどう考えても『借りた』とは言わない」
俺たちの周りには、気絶した兵士が大量に転がっていた。
「あら?そうでしたか」
「そうでしたか、じゃねーよ。大体、たった二人で軍の野営地を襲撃するところからしておかしいだろ‼︎」
「襲撃なんて人聞きが悪いですね」
ミストは心外と言わんばかりに眉を下げる。
「ちょっと野営地に忍び込んで電話を借りようとしたら、騒がれそうになったから静かにしてもらっただけじゃないですか」
「それを人は襲撃って呼ぶんだよ」
頭が痛くなってくる。
とはいえ、こうして衛星電話を手に入れられたことも事実だった。
廃墟を出た俺たちは、ミストが逃走中に見つけていた軍の野営地へ向かった。そこなら通信機材がある可能性が高く、実際にそれは当たっていた。問題は、そこに至るまでの過程があまりに力技だったことだ。
見張りを避け、気付かれないように衛星電話だけを拝借する。俺としては、そのつもりだった。
だが、最初の見張りを無力化した辺りで、既にミストの動きは忍び込むというより制圧に近くなっていた。音もなく背後を取り、相手が声を上げる前に眠らせる。その手際はあまりに鮮やかで、隣で見ている俺の方が引くほどだった。
「全く、どんな化け物だよ…」
「でも、あなたも大概じゃないですか、結局一人も殺さずに無力化していたでしょう?」
「まあ、それは確かにそうなんだが…」
言われて、俺は周囲に倒れている兵士たちを見る。
誰も死んでいない。骨の一本や二本は折れているかもしれないが、命に別状はないはずだ。
無駄な殺生は好まない。こればかりは、命のやり取りをする戦場であっても、余裕があるのであれば変わらなかった。
「それにしても、ずいぶん手慣れてましたね」
「10年もあちこちを歩いていれば、多少はな」
「多少、ですか」
ミストは含みのある笑みを浮かべる。
その目が、こちらの言葉の裏側まで覗き込んでいるようで、俺は思わず目を逸らした。
「…それより衛星電話だ。使えそうか?」
「ええ。少し確認しましたけど、問題なさそうです」
ミストは野営地のテントから持ち出した衛星電話をこちらに差し出してくる。
「それで、どこに電話するんですか?」
ミストは不思議そうに尋ねてくる。
それもそうだろう。ISを貸してくれる団体なんて普通に考えて存在するわけがない。
ましてや今の俺は、どこの国にも所属していない。上代大地という名前すら、10年前に捨てた。
それでも、一つだけ繋がる場所がある。
10年前、別れ際に渡された番号。使わずに済むのなら、その方がいいと思っていた。
だが、今この瞬間のために、あの人はこれを渡してくれていたのかもしれない。
「ちょっと昔の“家族”に電話するだけさ」
そう言って俺は、旅立ちの日から大切に持ち歩いていたメモ用紙を取り出した。
四つ折りにされた紙は日に焼け、端も少し擦り切れている。何度も荷物の奥へとしまい直し、それでも捨てることだけは出来なかったものだ。
そこに書かれた番号を、俺はゆっくりと指でなぞる。
10年間、一度も使わなかった番号。
もう二度と戻らないはずだった場所へと繋がる細い糸。
俺は衛星電話を手に取り、その番号を一つずつ押していった。
番外編で新ヒロイン()を出す狂気。
続きは明日の20時に投稿予定です‼︎
あと最終決戦編良かれと思って3話同日投稿したんですが、改めて読み返して見るとクッソ重かったので、普通に分散&分割投稿した方が良かったなと思いました(特に37話)それでも読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました‼︎