護りたいもの   作:影風

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 第二話です‼︎どうぞ‼︎


Lost EpisodeⅡ〜英雄を追うもの〜

 アルプスの中腹にあるスイス軍IS部隊、通称『聖天馬騎士団』の訓練場。そこでは黒と白、対照的な二機のISが激しい戦闘を繰り広げていた。

 

「どうした、マーシャ!お前の力はこんなものか⁉︎」

 

「くっ…‼︎」

 

 教官の叱咤が飛ぶ。

 

 だが、それに答える余裕はなかった。次々と飛んでくるソニックブームを避けるだけで私は精一杯だった。ほんの少しでも判断が遅れれば、その瞬間にシールドエネルギーが大きく削られる。

 

 スイス製第3世代量産機、天馬騎士(ファルコンナイト)。プロトタイプISであったエンリルナイトの速度と武装出力を抑えた分、生存性と安定性を上げ、癖をなくした機体だ。とはいえ、元となったISが規格外の速度を誇っていただけに、その機動力は第3世代ISの平均を大きく上回る。

 

 それに対して、こちらは最早骨董品と言ってもいい訓練機の第2世代IS。自分の技術がまだまだ未熟ということもあるが、そもそも機体の速度の性能差があり過ぎて、近づく事すら出来ない。

 

 だが、私は知っている。かつてこの機体がエンリルナイトを撃破していることを。

 

「まだ…‼︎」

 

 止むことのない衝撃波の雨をかわしながら、必死に隙を窺う。

 

 ソニックブームによる攻撃は強力だが、無限に撃てる訳ではない。いつかは必ずエネルギーが切れて、直接攻撃を仕掛けてくる。その時が、唯一のチャンスだ。

 

 予想より早くその時は訪れた。ソニックブームによる攻撃を止め、次の瞬間ファルコンナイトがこちらに向けて全速力で接近してくる。

 

(ギリギリまで引きつけるんだ…)

 

 どんなにスピードに差があろうと、この機体にはそれを補える力が備わっている。だがそれを使うためには、相手に可能な限り近づく必要がある。

 

(500…300…100‼︎)

 

 私は切り札の|瞬間移動≪テレポート≫を発動しようと_

 

「甘い‼︎」

 

「へ?」

 

 至近距離から放たれたソニックブームが直撃する。何が起きたのか理解するよりも早く、シールドエネルギーは0を表示した。

 

_____

 

 

「私の完敗です…」

 

 ガーディアンを解除し、中からがっくりと肩を落とした少女が現れる。

 

 マーシャ=エルトマン。聖天馬騎士団に所属する若き操縦者であり、現在は訓練機となっているガーディアンの操縦者である。

 

「いや、前回戦った時よりも格段に腕は上がっている。そう気を落とすな、お前はまだ若いんだから」

 

 そう言って少女を励ますのは、スイスの元代表操縦者であり、今はIS部隊で教官を務めるタニス=リヴィエールだった。

 

「そうは言いますが、私はもう16です。教官が私の年齢の時には、既にこの部隊の隊長を務めていたと聞きます。それなのに私は…」

 

 マーシャは納得がいかない様子で唇を噛む。そんな少女に対し、タニスは諭すように話しかける。

 

「いいか、マーシャ。私の頃と今では状況はまるで違う。私の頃はこの部隊も設立されたばかりで、はっきり言って人材が全くいなかったんだ。だからこそ、私のような未熟者でも隊長にならざるを得なかった」

 

「隊長が未熟者なんて…」

 

「事実だ。今思えば、あの頃の私は危ういところだらけだった」

 

 タニスは小さく苦笑する。

 

「だが、幸いなことに今の部隊は、お前も含めて優秀な人材に恵まれている。だからそう焦ることはない。お前は、お前の速度で成長すればいい」

 

「私が、優秀ですか?」

 

「ああ。私が見てきた中では、お前が一番才能がある」

 

「上代さんよりも、ですか⁉︎」

 

 マーシャは目を輝かせて尋ねた。

 

 その反応に、タニスは少し意外そうに片眉を上げる。

 

「なんだ、ダイチに憧れているのか?」

 

「もちろんです‼︎世界でたった二人の男性操縦者ですし、当時各国の代表操縦者でさえ捕まえられなかった凶悪なテロリストを倒した、我がスイスが誇る英雄にして聖天馬騎士団の副隊長でしたから‼︎」

 

 嬉々として語るマーシャに対して、タニスは複雑な表情を浮かべた。

 

 マーシャにとって、ダイチは既にこの世を去った英雄だった。

 

 聖天馬騎士団の副隊長を務め、ガーディアンを駆り、最後には世界を揺るがした凶悪なテロリストを討ち果たした伝説の男性操縦者。

 

 だが、タニスは知っている。

 

 英雄として語られるダイチが、実際はどれほど傷つき、苦しんでいたのかを。

 

 そして、テロリストとして語られている少女が、彼にとってどれほど大切な存在だったのかを。

 

「『英雄』か…マーシャ、お前にとって英雄とはなんだ?」

 

「えっ?それは…」

 

 予想外の質問に、マーシャは思わず戸惑ってしまう。

 

 強い人。誰かを守る人。大きなことを成し遂げた人。いくつか答えは思いついたが、タニスの表情を見ると、それをそのまま口にしていいのか分からなかった。

 

「英雄というものは、周りが作り上げた虚構に過ぎん。実際に英雄として崇められている者も、1人の人間だ。迷いもする。後悔もする。本人が望まない形で語られることもある」

 

「それって…」

 

「だから、少しは考えてやって欲しい。英雄と呼ばれる者にも、悩みや葛藤があったことを」

 

 マーシャがタニスにさらに質問しようとした、その時だった。

 

 訓練場の入り口から通信員が慌ただしく駆け込んでくる。

 

「極秘回線に入電‼︎相手は教官をご指名です」

 

 その瞬間、タニスの表情が僅かに変わった。

 

 ほんの一瞬。だが、彼女の指導を長く受けてきたマーシャには、それが普段のタニスとは違う反応であることがわかった。

 

「…分かった。すぐに行く」

 

 そう言って、タニスは冷静を装いながら司令部に向かう。だが、その足取りには珍しく焦りの色が滲んでいた。

 

 極秘回線への緊急入電。直前まで話していた男性操縦者の話。この二つがマーシャには無関係なものだとは不思議と思えなかった。

 

 何かこれから大きなことが起ころうとしている。そんな漠然とした不安が、彼女の胸の奥に広がっていた。

 

_____

 

 緊急事態ということもあり、司令部には部隊の主要隊員たちが集められていた。誰もが緊張した面持ちで、タニスを見つめている。

 

 極秘回線への入電。それも、直接タニスを指名しての連絡などただ事ではない。

 

 タニスは一度だけ息を深く吸い、通信員に目配せをした。

 

「繋いでくれ」

 

「了解しました」

 

 短い電子音の後、回線が繋がる。

 

「スイス軍IS部隊教官、タニス=リヴィエールだ」

 

『お久しぶりです、タニスさん』

 

 聞こえてきたのは男性の声。

 

 その声を聞いた瞬間にもタニスは表情を変えなかった。変えなかったが、胸の奥が大きく揺れた。

 

 名乗られるまでもない。ただ、タニスにはその声が誰なのか、分からないはずがなかった。

 

「…すまない、5分後にもう一度掛け直してくれ」

 

 冷静を装い、タニスは答える。

 

『分かりました』

 

 相手もその反応は予想していたようで、戸惑う様子もなく通話を切った。

 

 通信が完全に終了したことを確認してから、タニスは深い息を吐いた。

 

 そして、隊員達の方へ振り返る。

 

「すまない。今から私が許可を出すまでの間、全員外に出ていてくれないか?」

 

 その言葉に、司令部の空気がざわつく。

 

 タニスは、隊長時代から何よりも情報共有を重視してきた。教官となった今も、その姿勢は変わらない。どれだけ都合の悪いことであっても、必要な情報は部隊に伝え、全員で判断する。

 

 だからこそ、今回の言葉は隊員達にとっては衝撃だった。

 

「理由をお聞かせ下さい。でなければ、ここを出て行くことは出来ません」

 

 そんな中、毅然とした様子で異論を唱えたのはマーシャだった。

 

「ダメだ。これは命令だ」

 

 タニスは語気を強める。

 

 だが、マーシャは怯まなかった。

 

「では、私を除名して下さい」

 

「なに…⁉︎」

 

 思いもよらぬ言葉に、タニスは思わずたじろいだ。

 

「教官は以前、私達のことを家族だと仰ってくださいました。あの言葉は嘘だったのですか?」

 

「違う。そうじゃない……だが、今回ばかりは…」

 

「教官は隊長時代から、誰よりも私たち隊員のことを大切にしてくださっていました。そんな教官がそこまで悩まれることなら、きっと私達の知らない“家族”のことではないのですか」

 

「…」

 

 タニスは無言を貫く。

 

 しかし、その沈黙は肯定と同じだった。

 

「教官にとっての家族であれば、我々にとっても家族です。教官が私たちを大切に思って下さっていているように、私たちも教官を家族と思っています。何があっても裏切ることはしません。それでも信頼出来ないと仰られるなら、除名してください」

 

 司令部に沈黙が落ちる。

 

 最初は動揺していた他の隊員達も、次第にマーシャの言葉へ同意するようにタニスを見つめていた。

 

 タニスはしばらく目を伏せていた。

 

 隊員を巻き込むべきではない。これは本来、自分の胸にしまっておくべき秘密だ。

 

 だが、目の前にいる彼女達は、ただ命令を待つだけの部下ではない。自分が育て、自分が家族だと言った者達だ。

 

 やがてタニスは顔を上げた。

 

「…今から言うことは、国家機密よりも重大な事項だ。万一外に漏らすようなことがあれば、お前達といえど容赦はしない。分かったか?」

 

「はい‼︎」

 

 全員が一様に緊張した声で返事をする。

 

 タニスは小さく頷いた。

 

「では、ここに残ることを許可する」

 

「ありがとうございます。早速ですが、先ほど電話をかけてこられた方は一体どなたなのですか?」

 

 マーシャの問いに、タニスは一瞬だけ間を置いた。

 

 そして、静かに告げる。

 

「上代大地だ」

 

 その言葉に、隊員達の間に衝撃が走る。

 

「カミシロさんって、あの男性操縦者のカミシロさんですか⁉︎」

 

「ああ、世界でただ二人の男性操縦者のうちの一人であり、我が聖天馬騎士団の隊員だ」

 

「ですが、既に亡くなっているのでは…?」

 

「表向きはそうなっている。だが実際、奴は生きている」

 

 さらに大きなどよめきが広がる。

 

 上代大地。聖天馬騎士団に所属するもので、その名を知らないものはいない。

 

 世界でたった二人しかいない男性操縦者であり、スイスの元代表候補生。タニスの副官を務め、ガーディアンを操り、最後には世界中の代表操縦者たちですら圧倒した凶悪なテロリストを討ち果たした英雄。

 

 そして、その後に非業の事故死を遂げたとされている人物。

 

 少なくとも、隊員達はそう聞かされていた。

 

「どうしてカミシロさんは極秘回線を?」

 

「名前を変える際、非常時のために私が念のために教えておいた。10年間一度も使われることはなかった。だが、それを今使ったということは、詳しくは分からないが相当差し迫った状況にあることは確かだ」

 

「…」

 

 隊員達は一様に黙り込む。覚悟はしていたとはいえ、想定外の情報量に、誰もすぐには言葉を返せなかった。

 

 その時、再び通信機が反応した。

 

 二度目の極秘回線への入電。

 

 タニスは通信機を見つめ、それから隊員達に目を向けた。

 

「皆、覚悟はいいな?」

 

「はい‼︎」

 

 全てを理解は出来ているわけではない。それでも、家族が危機にある。隊員達にとっては、それだけで十分だった。

 

 タニスは頷き、通信を繋ぐ

 

「私だ」

 

『もう大丈夫ですか?』

 

「ああ。それで今回の用件はなんだ?まさか世間話をするために電話してきたのでもあるまい」

 

『一つ、お願いがあって電話させていただきました』

 

「お願い?」

 

『単刀直入に言います。ISを貸していただけませんか』

 

 その言葉に、司令部が再びざわついた。

 

 当然だった。ISとは国防力そのものであり、たった一機数が変わるだけで、国同士のパワーバランスが大きく変わる代物なのだ。それを貸し借りするなど考えられない。

 

「いくらお前の頼みであっても、それは無理だ」

 

『無理は百も承知しています。ですが、このままだと何万もの無辜の命が失われてしまうんです』

 

 電話の向こうから聞こえてくる声は、切迫していた。

 

 タニスは表情を引き締める。

 

「どういうことだ?まず、お前は今どこにいる?」

 

『ビアフラ国です』

 

「ビアフラ…?確か各国から数週間前に退去命令が出ていたはず。それに、通信もほとんど繋がらないと聞いている。どうやって連絡している?」

 

『それが俺のいた難民キャンプはかなり僻地にあったので、その命令が届く前に退去期間が過ぎてしまいました。結果として、国内に閉じ込められる形になっています。あと普通の電話は繋がらないので、衛星電話を使っています』

 

「なるほど、状況は分かった。それで何が起きている?」

 

『その前に一つ確認したいことがあります』

 

『なんだ?』

 

『楯無さんは、今どうしていますか?』

 

「恋人との惚気話をしたいのなら切るぞ」

 

『違います!待って下さい‼︎』

 

 電話の向こうの声に、珍しく焦りが混じる。

 

 その様子に、タニスは僅かに眉を動かした。

 

『聞き方が悪かったです。楯無さんのIS、ミステリアス・レイディはどうしてますか?』

 

「楯無は代表操縦者を引退し、今はIS学園で教鞭をとっている。あいつのISは恐らくロシア管轄下で、別の操縦者が使っているだろう」

 

『やはり、そうでしたか…』

 

 その声には、はっきりと緊張が滲んでいた。

 

「それで、一体何が起こっている?」

 

 改めて問いかける。

 

 通話の向こうで、ダイチがわずかに息を吸う気配がした。

 

 そして、心なしか声を潜めるようにして告げる。

 

『政府軍のIS、それも恐らくはミステリアス・レイディの改良型による虐殺が起きています』

 

_________

 

 その夜、スイス軍の作戦司令室では、激しい口論が続いていた。

 

「出撃を許可して下さい‼︎」

 

「だから、それは無理だと言っている‼︎」

 

 こうした押し問答が、既に30分以上続いている。

 

 司令室に集まった将校達の表情にも、明らかに疲労と苛立ちが滲んでいた。それでもタニスは引き下がらない。

 

「こうしている間にも、多くの命が失われているんですよ‼︎」

 

「だから先ほどから、その証拠はどこにあると聞いているだ。正式な偵察情報も、国際機関からの報告もない。あるのは、出所不明の通報だけだろう?」

 

「ビアフラ国内の信頼出来る情報筋から、アラスカ条約に違反しているとの通報がありました‼︎」

 

「だから、その情報の提供元はどこなんだと言っている‼︎」

 

「それは…」

 

 タニスは思わず口をつぐむ。

 

 ダイチが生きているという事実は、スイス国内でもごく限られた者しか知らない最高機密だ。ましてや今この場で、10年前に死亡したことになっている男性操縦者から直接連絡があったなどと言えるはずもない。

 

 しかし、それを明かせなければ、出撃の根拠も示せない。

 

「情報源は明かせない。確たる証拠もない。おまけに我が国が攻撃を受けたわけでもない。それで他国領内へIS部隊を派遣しろというのか?」

 

 背広姿の役人が冷たく言い放つ。

 

「我が国の方針は永世中立だ。人道支援と軍事介入は違う。ましてISを他国に投入するなど、国際問題では済まん」

 

「ですが、このままでは_」

 

「却下だ」

 

 タニスの言葉を遮るように、役人は断言する。

 

「その話はここまでだ。これ以上は、君の立場にも関わるぞ」

 

 そう言い残し、役人は部屋を出て行った。

 

 残されたタニスは、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 

 正式な出撃は出来ない。情報源を明かすことも出来ない。だが、今この瞬間もダイチはビアフラで救援を待っている。

 

「……クソッ」

 

 普段の彼女なら決して口にしないような言葉が、低く漏れた。

 

______

 

「どうすればいい…」

 

 仮眠室の薄暗い天井を見上げながら、タニスは一人呟いた。体を休めるために横になっているものの、眠気は一向に訪れなかった。

 

 目を閉じれば、通信機越しに聞こえたダイチの声が蘇る。

 

_何万もの無辜の命が失われる。政府軍のISによる虐殺。ミステリアス・レイディの改良型。

 

 正式な出撃は認められなかった。情報源を明かせない以上、証拠としては弱い。加えてスイスの永世中立という立場が、軍事介入を許さない。

 

 理屈は分かっている。

 

 ただ、理屈で救える命などない。

 

 その時、仮眠室のドアが控えめにノックされた。タニスはすぐに身体を起こし答える。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 一礼して部屋に入ってきたのは、マーシャだった。

 

「どうした、こんな時間に?」

 

 壁の時計は既に午前1時を回っている。

 

 訓練後の疲労もあるはずだ。それでも彼女の表情に眠気はなかった。むしろ、何かを決めてきた者の顔をしていた。

 

「IS派遣の件ですが、許可が降りそうですか?」

 

「いや…」

 

 タニスは短く答える。

 

「外交状況、軍事的根拠、国際世論。どれを取っても厳しい。何よりも、情報源を明かせないのが致命的だ」

 

 普段なら、もう少し冷静に言葉を選べたかもしれない。だが、今のタニスにはその余裕はなかった。

 

 ダイチを助けたい。ビアフラで失われようとしている命を救いたい。それなのに、ISを国外へ動かすことができない。

 

 どれほど考えても、正規の手段では道が見えなかった。

 

「私に行かせて下さい」

 

 マーシャは真っ直ぐにタニスを見つめて言った。

 

「…お前、今の話を聞いていたのか?部隊としては出撃は出来ないと言ったはずだ」

 

「はい。ですから、部隊の一員としてではなく、私個人として行きます」

 

「マーシャ」

 

「脱走兵としてなら問題ないでしょう?」

 

「良いわけないだろう‼︎」

 

 タニスは思わず声を荒らげた。

 

「ISを国外に持ち出すなんて論外だ‼︎それがどういう意味を持つのか、分かっているのか?」

 

「分かっています」

 

 マーシャは怯まない。

 

「ISは国防力そのものです。それを無断で国外に持ち出せば、私は軍規違反どころでは済まない。身柄を拘束され、一生監視下に置かれるかもしれません。最悪の場合、国家反逆に等しい罪に問われる可能性もあります」

 

「分かっているなら_」

 

「でも、それでタニスさんが大事にしているものは護れるんですか?」

 

「っ…」

 

 タニスは言葉を失った。

 

 マーシャの声は静かだった。だが、その静けさの奥には、揺るがない決意があった。

 

「私は部隊の中で一番下っ端です。実戦経験も少なく、使っている機体も、今では訓練機として扱われている第二世代ISです」

 

 マーシャは自嘲するでもなく、事実を確認するように続ける。

 

「恐らく私が脱走兵としてビアフラへ向かうのが、戦力的にも、部隊への損害としても一番影響が少ないはずです」

 

 タニスは否定できなかった。マーシャの言っていることは、冷静に考えれば一理ある。

 

 ファルコンナイトを動かすことはできない。現役の主力機を失えば、部隊に与える影響が大き過ぎる。だが、ガーディアンは既に旧式であり、現在は訓練機として運用されている。

 

 それを動かすのが、まだ正式な中核戦力とは言えない若手のマーシャであれば、軍全体への損害は最小限で済む。

 

 合理的に考えるなら、これ以上の選択肢はない。

 

 だが、それはマーシャ一人に全てを背負わせるということでもあった。

 

「どうして、お前はそこまで…」

 

 タニスは、絞り出すように問いかける。

 

 マーシャは迷わずに答えた。

 

「当然じゃないですか」

 

 その瞳には、恐怖よりも強いものが宿っていた。

 

「“家族”の危機に命を張らずして、何が家族ですか」

 

 その言葉に、タニスは何も言えなくなった。

 

 教官としては、止めるべきだった。

 

 部隊を預かる者としては、許してはならない判断だった。

 

 だが、一人の人間として。

 

 かつて自分もまた、仲間を、家族を護るためにISを駆った者として。

 

 目の前の少女の言葉を、否定することは出来なかった。

 

 長い沈黙の後、タニスは静かに息を吐いた。

 

「…お前の処遇については、可能な限りこちらで悪くならないように尽力する」

 

 その言葉を聞き、マーシャの表情がパッと明るくなる。

 

「それでは…‼︎」

 

 タニスは答えない。

 

 ただ、わずかに目を伏せ、それから小さく笑う。

 

「『英雄』を、その目で確かめてくるといい」

 

 それはタニスなりの、マーシャへの精一杯のの声援だった。

 




 マーシャも原作はFE蒼炎の軌跡、暁の女神のキャラクターです。
 番外編は基本個人的に好きな展開の詰め合わせなので、書いていてとても楽しいですね。
 
 次は来週の金曜20時に投稿予定です!
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