護りたいもの   作:影風

7 / 45
 切りどころが分からず長くなってしまった…
 下書きが切れたのでちょっと遅くなるかもしれませんが出来る限り早く更新していきたいと思います。


【第7話】特訓開始

「ダイ…」

 

 ぼんやりとした意識の中、遠くから声が聞こえる。懐かしい、優しい声だ。

 

「ダイチ、大丈…か?」

 

 名前を呼ばれて次第に意識がはっきりしてくる。目の前の風景には見覚えがあった。どうやらここは、俺が以前暮らしていたアパートのようだ。寮の部屋でないことに違和感を覚えつつも、声のする方に振り向くと、次の瞬間俺は言葉を失っていた。

 

 

「さっきからぼうっとしていますけど、もしかして風邪ですか?」

 

 

 そう言って心配そうに俺の顔を覗き込んでくる少女。

 

 俺が驚いているのは、彼女のことを忘れていたからではない。

 

 むしろ一瞬たりとも、彼女のことは忘れたことなどなかった。

 

 

____その大きな瞳や流れるような黒髪、右目の下の泣きぼくろも

 

____普段はおとなしいのに大事な時には絶対に自分を曲げない芯の強さも

 

____親から捨てられ絶望していた俺を、家族として迎え入れて生きる意味を与えてくれたことも

 

____そして、あの日から目を覚ますことがなくなったことも…

 

 

 一つも漏らすことなく、全部覚えているからこそ目の前の光景が信じられなかった。

 

 どうして?いったいどうして?

 

 

 

 

「どうして…雪菜様がここに?」

 

 

 

 

 やっと絞りだした声は酷く掠れていた。口の中が緊張でパサパサになっている。

 

「どうして、ってどういうことですか?」

 

 目の前の少女はきょとんとした様子で尋ねてくる。

 

「ISに襲撃されて植物状態になったはずでは・・・」

 

 混乱の中、俺は必死に言葉を紡いでいく。

 

「ああ、そのことですか」

 

 合点がいった、というような様子の少女。そして満面の笑みでこう続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんそうですよ、あなたのせいでね」

 

 

 

 

 

 

 

 言葉と表情のギャップのせいで俺は一瞬、彼女が何を言ったのか理解できなかった。

 

「俺のせい…?」

 

「ええ、そうです。あなたが助けに来てくれなかったからですよ」

 

「ねえ、どうしてあの時助けに来てくれなかったんですか?」

 

 少女はそう言いながら俺に迫ってくる。俺は思わず後ずさりをしようとするが、金縛りにあったかのように体が動かない。

 

「ねえダイチ、答えてくださいよ。ねえ?」

 

「俺は…俺は…‼︎」

 

 その次の瞬間俺の意識は暗い闇の中に落ちていった。

 

__________

 

 暗闇の中で跳ね起きると、全身がぐっしょりと汗で濡れていた。枕もとの時計を見ると時刻は午前4時。普段なら二度寝をする時間だが、今はとてもそんな気になれない。俺は軽くシャワーを浴びてから外に出た。

 

 

 気分転換にランニングをするも、どうしても頭の中から先ほどの映像が離れず、自然と歩みが遅くなる。やがて歩くことさえ億劫になり、俺は湖のほとりに腰を下ろした。

 

「やはり、雪菜様は俺のことを恨んでいるのだろうか?」

 

 湖面を見つめ、誰に答えを求める訳でもなく呟く。

 

 あの事故の直後には、あんな夢を毎日のように見ていたのだが、カウンセリングを受けてからは次第に見る回数が減っていき、最近は殆ど見ることがなかった。だからこそ久々に見た衝撃も大きかったのだが。

 

____ガラスの割れる音。鳴り響くサイレン。逃げ惑う人々の悲鳴と怒号。何かが焼けこげるような臭い。黒いIS。そして倒れている少女の姿。

 

 目を閉じると、事故のことがどれも昨日のことのように鮮明に浮かび上がってきた。

 

(あの時俺がいれば。いや、いたとしてもどうにかなっていたのだろうか…?そもそも俺は役に立っていたのか?)

 

 切り替えなければいけないことは分かっていつつも、思考はどんどん深みにはまっていく。

 

 そんな時不意に背後の茂みが音を立てて揺れ、それによって俺の意識は現実へと引き戻された。

 

 自分でも知らないうちに呼吸が乱れていたことに気づき、大きく深呼吸をする。

 

 よしっ、もう大丈夫だ。

 

 一息ついたところで、物音がした茂みを覗き込むと、そこには着ぐるみを着た少女が横たわっていた。

 

(ただ寝てるだけ…なのか?それなら放っておいても問題ないのだが、もし倒れているのだとしたら助けないとまずいよな…)

 

「おーい、大丈夫か?」

 

 色々考えてみたものの、とりあえず声をかけて揺すってみると、もぞもぞと動き出した。どうやらただ眠っていただけのようだ。

 

「あれー、どうしてかみしーがここにいるのー?」

 

 目の前の少女は、寝ぼけ眼をこすりながら訊いてくる。っていうか、ひょっとしてかみしーって俺のことなのか?

 

「それはこっちが聞きたい。どうして外なんかで寝てたんだ?」

 

 4月とはいえ朝夕はまだまだ冷え込む。好き好んでそんな中で寝る人間はいないだろう。

 

「眠れなかったから星を見に来てたんだ~」

 

「それでそのまま眠ってしまったと?」

 

「そうみたいだね~。うーん、まだ眠い…zzz」

 

「っておい、寝るな」

 

 最初は寝ぼけているだけなのかと思っていたが、この少女、どうやらかなり天然らしい。とにかく見つけてしまった以上、ここに放置するわけにもいかないので、どうにか寮まで連れて帰らなければ。

 

「おーい、起きろ」

 

 そう言いながら頬を軽くペシペシと叩いてみるが「かんちゃ~ん、痛いよ~」と寝言を言っただけで、全く起きるそぶりを見せない。さて、いよいよ困った。

 

 ここで俺が取れる手段は二つある。どちらも出来れば使いたくないが。

 

 まず一つ目は俺が背負って帰る。

 

 そしてもう一つは救援のために更識さんを呼んでくる。

 

 前者には他者に見られ、あらぬ誤解を招きかねないという危険性が、後者には更識さんに貸しを作るうえに、後から散々イジられる危険性がある。

 

 1分ほど悩んだ末に俺が選んだのは後者だった。前者は流石にリスクが大きすぎる。こうして俺は少女に背を向けて歩き始めたのだが…

 

「かんちゃ~ん、置いてかないで~」

 

と言いながら背中に覆いかぶさってきた。とっさのことに驚きながらも引きはがそうと試みるが、すでに再び眠りに落ちているようで動く気配は全くなかった。

 

「結局こうなるのか…」

 

 俺はため息を吐きつつ諦めて、少女をおんぶして寮の方に歩き始めた。

 

__________

 

 幸運なことに、誰にも見つからず寮まで戻ってくることが出来た。ひとまず安心するとともにそこで俺は重大なことに気づく。

 

「この子の部屋は何号室だろ…」

 

「ああ、本音の部屋なら1142室よ」

 

「ありがとうございます」

 

 これで部屋も分かったし一件落ちゃ…うん?おかしいよな?

 

「トレーニングに行ってるんだと思って様子を見に来たら、女の子に手を出してるなんて、さすがのおねーさんも予想できなかったな~」

 

「ゲッ、更識さん⁉︎」

 

 振り返るとそこには案の定満面の笑みを浮かべた更識さんが立っていた。手にした扇子には『油断大敵』の文字。いや、これは油断とかそういう問題じゃないだろ…よりによってこの人に見つかるとは。

 

「どこから見てたんですか?」

 

「うーん、君が本音を揺すって起こすあたり?」

 

「最初からじゃないですか。ってか見てたなら手伝ってくださいよ」

 

「いやー、君がどうするか気になったしね。本音に手を出すんじゃないかってちょっと期待したんだけどな~」

 

「出すわけないでしょ‼︎」

 

 このアマいきなりなんてこと言いやがる。そんなことしたら速攻で警察送りになるわ。

 

「ヘタレ」

 

「ヘタレじゃなくて紳士なだけです‼︎」

 

 こんなやり取りをしているうちに1142室にたどり着いた俺たちは、ルームメイトの子に背中の少女を託し、部屋を後にした。

 

 あとルームメイトの子が軽いパニック状態になっていたのは、正直少し申し訳ないと思った。まあ早朝に叩き起こされてドアを開けたら、男子生徒と生徒会長がいたんだから仕方ないか。恨むならルームメイトを恨んでくれ。

 

__________

 

「ねえ、ダイチ君。生徒会に入らない?」

 

 部屋に戻るなり更識さんが切り出してくる。彼女にしては珍しく真面目な口調だ。

 

「いきなりどうしたんですか?」

 

「別にいきなりって訳じゃないわよ。代表決定戦までもう一週間を切ってるわけだし。どうしたら君が勝てるか私なりに色々考えてみたの。一番の問題点は、ISの起動時間の圧倒的不足。君のスペックを考慮しても、普通の訓練機じゃ他の生徒との兼ね合いで使える時間は限られてくるから、恐らく間に合わない。だから、生徒会専用の訓練機を使って訓練するわ」

 

「なるほど、それを使えるようにするために生徒会に籍を置くってことですね」

 

 俺の返答に我が意を得たりといった様子で更識さんは続ける。

 

「理解が早くて助かるわ。もちろん強制ってわけじゃないし、もし入らなくても出来る限りのサポートはするわ。でも悪い話じゃないでしょ?」

 

 

「もちろんです。ぜひ入らせてもらいます」

 

 俺は二つ返事で了承する。悪いどころか思ってもみない話だ。それに単純に更識さんが、そこまで俺のことを考えてくれていたという事実が嬉しい。

 

「ほんと!?じゃあちょっと待ってね!」

 

 そう言って彼女は、鞄の中から書類を取り出す。

 

「じゃあ、これにサインしてもらえるかしら?」

 

「分かりました」

 

 渡された書類にざっと目を通しサインをしていく。書類はそれほど多くなかったためすぐに終わり、それを更識さんに渡してチェックしてもらう。

 

「うん…どこにもミスはないわね。よしっ、これで君も今日から生徒会の一員よ!」

 

「なんだか実感が湧きませんね」

 

「まあ、まだ書類上だけだしね。しばらくはISの訓練に専念してもらうけど、代表決定戦が終わったら生徒会の仕事もしてもらうからね」

 

「分かりました」

 

 一通りの仕事を終えた安堵感からか、更識さんは大きなため息を吐く。

 

「はぁ~、それにしてもよかった。正直、断られるんじゃないかって思ってたのよ」

 

「どうしてですか?」

 

「だって君は目立つことが嫌いでしょ?」

 

「ええ、確かに嫌いですけど、生徒会の中でも書記や会計なら別に目立たないですしね」

 

 生徒会の中で表に出る役職と言えば、生徒会長と副会長くらいだ。そんな役職を一年にやらせるはずがない。

 

「えっ、ダイチ君は副会長だけど?」

 

「は?」

 

「書類にも普通に書いてあったから、気づいてると思ってたんだけど。ほらここ」

 

 そう言って更識さんはさっき俺がサインした書類のうちの一枚を指さす。その書類の役職欄には確かに副会長と書かれていた。ちゃんと目を通したつもりだったが、副会長はないだろうという先入観からか見落としていたのだろう。

 

「更識さん…」

 

「言っておくけど会計も書記も空いてないからね」

 

 更識さんはにべもなく言い放つ。

 

「じゃあ、雑務でも」

 

「ダーメ、折角の男子生徒なんだし、これを利用しない手はないでしょ?」

 

「それなら織斑の方が適任ですよ。あいつ人気がありますし」

 

 一夏はイケメンでなおかつあの織斑千冬の弟なのだ。俺も顔立ちは悪くない方だが、天は二物を与えるという無慈悲な典型例の前にはかなうはずがない。まあ目立ちたくない俺はそれに助けられているわけなんだが。

 

「安心しなさい、生徒会長である私が認めてるんだから、すぐに人気が出てくるわ♪」

 

「俺に全く安心する要素がないんですがそれは…」

 

「まあとにかく、これはもう決まったことだから諦めなさい。じゃあ私はこの書類を織斑先生に提出してくるわね~」

 

 そういって上機嫌に部屋を出ていく更識さんを止めることが出来なかった。

 

「やるしかないのか…」

 

 俺は朝から憂鬱になりつつ、重い足取りで教室に向かった。

 

_________

 

 放課後、携帯の電源を入れると更識さんからメールが来ていた。

 

 内容を確認すると、急な仕事が入ったせいで更識さん本人は来られなくなったが、代わりの人を用意してくれ、その人が特訓してくれるとのこと。

 

 俺はそのメールに了解です、と簡単に返信だけしてアリーナに向かった。

 

 アリーナに到着し暫く歩き回っていると、カートに乗せたISを背に立っている人を見つけた。髪を三つ編みにしたいかにもお堅い、といった感じの女性だ。リボンの色から三年生であることはわかる。恐らく更識さんが言っていたのはあの人のことだろう。

 

「あのすみません、ひょっとして生徒会の…」

 

「ええ、初めまして。布仏虚と申します」

 

「こちらこそ初めまして。上代大地です。あの…」

 

「どうかしましたか?」

 

「ひょっとして、どこかでお会いしたことありましたかね?」

 

 何となく彼女の姿に既視感があったので尋ねる。

 

「いえ、ここでお会いするのは初めてですが、妹が上代さんと同じクラスなのでそのせいではないでしょうか?」

 

「妹さんがいらっしゃるんですか?」

 

 俺は昨日のクラスの自己紹介の記憶から、布仏と名乗った少女のことを引っ張り出そうとするが、イマイチぴんと来ない。

 

「ええ、そう言えば今朝妹がお世話になったようで。妹に代わってお礼を申し上げます」

 

「今朝?…ってああ!あの着ぐるみの!」

 

 ようやくつながった。ってかあの子同じクラスだったのか…

 

「ええ、あの子ったら昔からそうなんですよ。目を離すとすぐどこかに行っちゃって」

 

「心中お察しします…」

 

 確かにあの妹を持つと苦労することは容易に想像できる。

 

「また後日あの子からもお礼を言わせますので。あの子の話はこれくらいにして訓練を始めましょうか」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 虚さんと二人でカートから訓練機_ラファールを下ろす。そして軽くストレッチをして体をほぐしてからいよいよISに乗り込む。

 

「ではまずは起動して頂けますか?」

 

「分かりました」

 

 鎧をまとうイメージで意識を集中する。次の瞬間、体が光に包まれISが展開された。ここまでは問題ないのだ、ここまでは。

 

「展開はスムーズですし問題ないようですね。では次は歩いてもらえますか?」

 

「うっ…はい」

 

 俺の脳裏には入学試験の時のトラウマが蘇る。他の生徒が山田先生と戦っていたにも関わらず、何故か俺はあろうことか織斑先生と戦わされた。そして足がもつれて盛大に転んだところを完膚なきまでに叩きのめされたのだ…正直死ぬかと思った。

 

「上代さん、大丈夫ですか?」

 

 俺の様子を不審に思ったのか、虚さんが声をかけてくる。

 

「あっ、はい。すみません」

 

 いつまでもこうしていても仕方ないな。ええい、もうどうにでもなれ!

 

 そうして俺は一歩前に踏み出す。

 

 …あれ?行けた?

 

 未だに自分でも半信半疑なのでさらに一歩、もう一歩と踏み出す。

 

 うん…普通に歩けてるな。

 

「歩行も問題ないようですね。では次は早速ですが飛行訓練に入っていきましょうか」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 こんな調子で基本動作を練習していき、最初のうちは失敗ばかりだったが日が傾くころには、丁寧かつ分かりやすい指導のおかげでなんとか一通りはマスターしていた。本当に教え方が上手いな、この人。

 

「では今日はここまでにしましょうか。ISから降りて頂けますか?」

 

「分かりました」

 

 俺はISを解除し、ラファールから降りる。

 

「これは格納庫に戻してきたらいいですかね?」

 

 答えは後ろから返ってきた。

 

「その必要はないわ」

 

「お嬢様、お疲れ様です」

 

「更識さん、お疲れ様です。お仕事は終わったんですか?」

 

「ええ、ばっちりよ!学園側と交渉してその訓練機はしばらく君の専用機として使わせてもらえることになったから、待機状態にして持ち歩いてもらっていいわよ」

 

「本当ですか!?」

 

 素人が専用機を持てるなんてISの知識に疎い俺でも、ただ事ではないということは分かる。

 

「ええ、おねーさんの交渉力の賜物よ♪感謝してくれてもいいのよ?」

 

 冗談めかして言うが、きっと様々な障害があったはずなのにたった半日で許可を取ってきたのは、間違いなく彼女の卓越した力あってのことだろう。

 

 俺は更識さんの手を勢いよく握り、お礼を言う。

 

「ありがとうございます!」

 

「へっ!?うん…」

 

 俺の反応が予想外だったのか面を食らっているがすぐに調子を取り戻す。

 

「まあ私がこれだけ頑張ったんだから、君にもこれからしっかり頑張ってもらうわよ?」

 

「出来るだけ期待にこたえられるように頑張ります」

 

「よろしい♪じゃあ、そろそろ帰りましょうか」

 

 こうして俺たちは、後片付けを済ませてアリーナを後にした。

 

_____

 

 夕食後、部屋に戻って二人でお茶を飲みながら、気になっていた疑問を口にする。

 

「そう言えば更識さん、これって何か特別な機体なんですか?」

 

 俺は指輪になっている待機状態のISを眺めながら尋ねる。

 

 打鉄とラファール、機体が違うとはいえ、過去二回の操縦で全く動くことが出来なかった俺が、いくら虚さんの指導が上手かったとはいえ、いきなり基本動作をほぼ完璧に出来るようになったのはどう考えてもおかしい。

 

「あっ、気づいた?実はそのラファールには操縦補助プログラムが組み込まれているのよ」

 

「操縦補助プログラム?」

 

「そう。ISはいくら生身に近い感覚で動かすことが出来ると言っても、実際は体の一回りも二回りも大きなものを動かす訳だから、当然感覚にズレが生じるの。このズレが、初心者が躓く大きな原因となっているから、そのズレを電気信号を変換することでほぼ無くしてくれるのがこのプログラムよ。まあ、変換する分若干反応速度が落ちちゃうんだけどね」

 

「ひょっとして、それも更識さんが作ったんですか?」

 

 何でもこなせそうな更識さんならあり得ないことではない。そう思ったのだが彼女は首を横に振る。

 

「違う違う、原理は聞くだけだと意外と簡単そうに聞こえるかもしれないけど、実際にプログラミングするとなったら全く別物だし、私じゃとても無理よ」

 

「では誰が?」

 

「その機体の前の持ち主よ」

 

「前の?これは訓練機じゃないんですか?」

 

「その機体はもともと、並み居る専用機持ちを訓練機で倒し、IS学園史上唯一の整備課出身で生徒会長になった人が、学園側からその才能を認められて専用機として貸し与えられた機体なのよ」 

 

 更識さんはさらっと言ってのけるが、とんでもないことだ。汎用性を重視される量産機は、やはり一点物の専用機と比べると性能は一回り、項目によっては二回りも劣る。しかも訓練機ともなれば、大幅な改造をする訳にもいかないはず。そんな機体で専用機持ちに勝つなんてはっきり言って異常だ。

 

「…そんな人が使っていた機体を、俺なんかが使っていいんでしょうか?」

 

 実力もISに関する知識もない俺に、使う資格があるとは到底思えない。

 

「勿論よ。折角の訓練機なのに今まで誰も使ってこなかったんだけど、そんなの勿体ないじゃない」

 

 やっぱり今までの生徒会は遠慮して使ってこなかったのか。まあ、前任者が偉大過ぎるから、それも当然と言えば当然だな。

 

「ひょっとして、俺が使えば後の代も使いやすくなるとか考えてません?」

 

「…そんなことないわよ?」

 

「そんな目を泳がせながら言っても、全く説得力がありませんけど」

 

「…まあとにかく君は訓練が出来る、生徒会側としても使いやすくなる、といいことずくめじゃない。でしょ?」

 

 更識さんは強引に話を切り上げようとする。でも彼女の言っていることももっともだしまあいいか。

 

「そうですね、まあ俺としても使うのを断る理由がないですし。出来るだけ前任者に恥じないように頑張ります」

 

「そうそう、その意気よ。明日からは私がみっちり鍛えてあげるから覚悟しておいてね♪」

 

 そう言って彼女は不敵に笑う。俺はしっかり彼女を見据え答える。

 

「望むところです」

 

 オルコットに負けたくないというのも勿論あるが、何より自分のために更識さんをはじめ多くの人がわざわざ動いてくれているのだ。無様な姿を見せるわけにはいかない。

 

「いい顔してるわね~。おねーさん思わず惚れちゃいそう」

 

「はいはい、ありがとうございます。マグカップ洗うので流しにだけ持って行っておいてもらえますか?」

 

「こんな綺麗なおねーさんが惚れちゃいそうって言ってるのに。反応薄くない!?」

 

「自分で言わないでください。実際綺麗ですけど」

 

「まあ冗談はさておき、君には期待してるから頑張ってね?」

 

 今日一番の笑顔で言う更識さん。本当にずるいな。こういう所が人たらしである所以か。

 

「全力で頑張ります」

 

 俺の返事に納得したように彼女はうなずく。

 

「よろしい♪でも無理は禁物。今日は初めてISの訓練をして疲れてるでしょうし、早めに休みましょうか」

 

 そういって広げた扇子には『体調管理』の文字が。こちらの体調もしっかり見極めている辺り流石と言わざるを得ない。

 

「ありがとうございます。そうさせてもらいます」

 

 ベッドに入ると眠気は速攻で襲ってきた。どうやら体は想像以上に疲れていたらしい。

 

 明日からも頑張ろう。そう決意すると同時に俺の意識は遠のいていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。