整備を終え、アリーナに出るとオルコットは既にそこで待っていた。
「悪い、整備が長引いた」
「別に構いませんわ、万全の状態のあなたを倒さなければ意味がありませんもの」
「おいおい、買いかぶりすぎだ。こっちは初心者でしかも量産機なんだ、少しくらい手加減してくれてもいいんだぜ?」
「ライオンはウサギを狩るのにも全力を尽くしますのよ?」
「俺はウサギですか…」
一瞬自分のウサギ姿を想像する。が、気持ち悪いのですぐやめた。
「負けませんわよ」
「それはこっちのセリフだ」
数秒の静寂。そして試合開始の鐘が鳴った。
その直後、予想通りレーザーが飛んで来た。俺はそれをかわしつつアサルトライフル《ヴェント》を呼び出し反撃をする。
「キャッ!」
俺が反撃してきたのが予想外だったらしく攻撃は直撃、オルコットの体勢が崩れた。このチャンスを逃すわけにはいかない。
俺は《ヴェント》を捨て、続いて呼び出したスタングレネード投げ付けた。ISには操縦者保護機能があるため本来の用途での効果にはあまり期待できない。しかしその閃光はオルコットが体勢を立て直すのを遅らせるには十分だった。
「もらった‼︎」
《ブレッドスライサー》を呼び出しつつ急加速、そのままの勢いでオルコットを斬りつける。
「くっ…」
数発攻撃を加えたところで体勢を立て直したオルコットが後方に急加速したため距離を取られてしまった。
しかし装甲の無い部分を狙ったおかげで随分シールドエネルギーは削れたようだ。
「なかなかやりますわね」
「そりゃどうも」
「ところであなた、銃器は扱えないのではなかったのじゃないですか?」
オルコットが咎めるような口調で聞いてくる。それに対し俺は笑みを浮かべ挑発するような口調で答える。
「難しいとは言ったが扱えないとは言ってないはずだが?」
この一週間で必死に練習した結果装備
オルコットは忌々しそうな表情を浮かべたがそれも一瞬、次の瞬間には笑みが戻る。
「まあ、いいですわ。どういうわけか知りませんが自分からライフルを捨てたのは好都合。ここからは本気で行かせてもらいますわ」
そう言って4基のピットを展開させた。
(さて、ここからが正念場だ)
目を閉じ、精神を集中して『明鏡止水』を発動する。ピットのエネルギーが切れるのが先か、俺の集中力が切れるのが先か、さあ我慢比べの始まりだ。
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あれから数十分、シールドエネルギーは半分ほど削られてしまったがダメージ覚悟の特攻でレーザーピットを3機破壊した。
残るピットはレーザーが1機、ミサイルが2機の計3機か…完全にピットを破壊してしまうとレーザーライフル一本になってしまうのでそれは都合が悪い。仕掛けるならここだな。
「行け‼︎」
先ほどと同じように俺はオルコットに向かってグレネードを投げつける。
「そんな子供騙し、二度も同じ手にはかかりませんわ‼︎」
しかしオルコットに怯む様子はなく射撃を続ける。それを見て俺は思わず口元を歪めた。
「バーカ、何度も同じ手を使うかよ」
その瞬間、オルコットの近くでグレネードが爆ぜ爆風が起こる。
「きゃぁ‼︎」
体勢を崩したオルコット。勝負をかけるならここしかない!
「うおぉぉぉぉ‼︎」
「なっ⁉︎」
俺はオルコットとの距離を一気に詰めた。この一週間の更識さんとの特訓で射撃と並び必死に練習して身につけた技能、『
相手が予想していないからこそ成り立つ一回きりの奇襲。
だからこそその効果は絶大なものとなる。
「きゃっ‼︎」
加速の勢いそのままに俺はオルコットを切りつける。
二発、三発と休むことなく攻撃を加え続け、オルコットのシールドエネルギーはみるみるうちに減っていく。
(これは勝った‼︎)
相手は代表候補生。気を緩めてはいけないことは頭では分かっているのだがやはり感情は抑えきれない。そう言った油断が戦場では命取りになるにも関わらず…
「インターセプター‼︎」
オルコットはショートブレードをコールして展開する。
「しまっ…」
とっさのことに反応出来ずブレードが弾き飛ばされてしまい、俺は敵前で丸腰になった。
「形勢逆転ですわ。これで終わりです‼︎」
オルコットがレーザーライフルを構える。どう考えても回避は間に合わない。それならいっそ…
「間に合えっ‼︎」
「なっ⁉︎」
俺は発射直前の銃口を自らの機体で塞ぐ。その直後にオルコットが引き金を引いた。行き場を失ったエネルギーは出口を求め俺の機体を破壊するのみならず自らをも破壊してゆき大きな爆発を引き起こす。
「ぐはぁっ‼︎」
「きゃぁ‼︎」
その爆風で二人とも吹き飛ばされる。
「痛ってぇ…」
俺はアリーナの端まで飛ばされていた。装甲はボロボロになっているものにかろうじてシールドエネルギーは残っている。まだ戦える、そう自分を鼓舞して俺はふらふらと立ち上がりオルコットを探すが爆煙のせいで居場所が分からない。
下手に動くのもまずい。煙が晴れるのを待とう、そう思った矢先、爆煙の中からミサイルが飛んできた。俺はそれをなんとかかわし、改めて煙の方向を見るとそこにはセシリア・オルコットがいた。
オルコットのISは装甲はボロボロになっていてレーザーピットも全て使用不可。しかしシールドエネルギーも僅かになっているもののミサイルピットは未だ健在。それに対して俺は手元に武器はない。
「ゲームセットだな」
俺はそう呟く。
「流石に降参ですか?」
そう言うオルコットの顔には笑みが浮かんでいた。既に勝ちを確信している、そのような表情だ。両方同じようなエネルギー残量で方や遠距離戦闘用の武装あり、方や武装なしという状況だ、そう思うのも無理はない。
しかし人はそうした時にこそ隙が生まれ、その隙が戦場では命取りになるのだ。
「そんな訳ないだろ。勝つのは俺だ」
「あなた、何を仰って…」
そこでオルコットはハッと目を見開くがもう遅い。
オルコットの声は途中で途切れ、その直後ヴェントの銃声が響く。
そして試合終了のブザーが鳴った。
__勝者 上代大地
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「痛てててっ」
「男の子なんだから我慢しなさい」
試合後、俺は医務室で更識さんの手当てを受けていた。診断の結果は軽い打撲と数カ所の擦過傷だけだった。
それにしてもあれほどの強い衝撃を受けたにも関わらず骨折などもなくこんな軽傷で済んで、改めてISの凄さを感じる。
「まったく無茶するわね。見ているこっちがひやひやしたわよ」
更識さんは擦り傷に包帯を巻きつつ言う。その口調はどこか不機嫌そうだ。
「すいません。でもあの状況で勝つためにはああするしかなかったんです」
「そうかしら?あなたの方がシールドエネルギーがだいぶ多く残っていたしヴェントがあったなら大丈夫だったと思うけど?」
「いや、無理です。俺の射撃の腕じゃ油断している相手に当てることくらいしか出来ませんからオルコットと射撃戦になったら絶対勝てませんよ。だからブレッドスライサーを失った時点で勝つためにはどうにかしてヴェント一撃分までシールドエネルギーを削る必要があったんです」
普通ISに複数の同じ武器を搭載することはない。量子変換して収納出来るので複数あったところで一度に使えるのは一つなので容量の無駄にしかならないからだ。その思い込みを利用して奇襲出来ないか、と言った考えで二本目のヴェントを搭載していたのだが今回はそれが功を奏した。
「それにしてもあんな無茶をしなくてもよかったのに。一歩間違えば大怪我よ?」
「今回の勝負は絶対に勝ちたかった戦いでしたから」
「あっそっか、あんな大見得を切った以上負けられないものね〜」
更識さんはニヤニヤしながら聞いてくる。
「まあそれもありますけど、一番は更識さんのためですかね」
「へっ?」
間の抜けた声を出す更識さん。夕日が差し込んでいるせいかその顔は赤く見える。
「生徒会副会長として相手が代表候補生とはいえ一般生徒に負けては格好がつきませんし、何より俺が負けたら更識さんがこれまで積み上げてきたものまで壊してしまうような気がして」
「あっ、なんだそういうことね…」
なんだか更識さんの元気が急になくなった。一体どうしたんだろうか。
「あの、更識さん?」
「楯無」
「はい?」
更識さんの言葉が理解出来ず俺は聞き返す。
「私のことは楯無って呼びなさい。乙女の純情を弄んだ罰よ‼︎」
「一体何のことです?」
「この唐変木…」
その後むくれながらも更し…じゃなかった楯無さんは手際よく包帯などを巻いてくれてあっという間に手当ては終わった。
「はい、お終い」
「ありがとうございます…楯無さん」
何だか名前で呼ぶのは照れ臭い。
「まあいいわ。許してあげる」
何だかよく分からないけど助かった。そう安堵していると彼女はポツリと呟く。
「でも…あんな無理はもうしないでね」
「えっ?」
「君が誰かのことを思っているように君のことを思っている人間もいるんだから」
「…善処します」
俺がそう答えると楯無さんはいつもの様な調子に戻って言う。
「こーら、そこは分かりましたって言うところでしょ」
「楯無さんの言うことももちろん理解できます。しかし俺は執事です。自分の大切なもののために死ねるなら本望です」
10年前、本来なら尽きるはずだった命だ。今更失うことなど惜しくはない。
「はぁ…何を言っても無駄そうね。無理をするなとは言わないわ。でも次からはきちんと助けを求めること。いいわね?」
「でも巻き込むわけには…」
楯無さんはため息をつきながら俺の言葉を遮る。
「君の護衛を任されてるんだから今更よ。それに護衛対象に予想外の動きをされたら困るのは君も知ってるでしょ?」
「うっ…確かに。今後はちゃんと相談するようにします」
「よろしい♪」
俺に返事に彼女は満足そうに笑う。その笑顔を見ていると俺もこの人なら信頼していいと思えてくるようになって来ていた。
突然保健室のドアがノックされた。
「上代居るか?」
「あっ、はい」
保健室に入ってきたのは織斑先生だった。
「どうかしたんですか?」
「クラス代表について話がある。単刀直入に言うが織斑に代表を譲ってやってもらえないか?」
「理由をお聞かせ頂いてもいいでしょうか?」
楯無さんが尋ねる。
「実戦経験の少ない織斑に経験を積ませる場を多く与えるためだ」
「ですが経験を積まなくてはいけないという点では上代君も同じだと思うのですが…」
「ああ、そうだな。一教師としてはこのようなことを頼むのは間違っているのは分かっている」
そこで一度言葉を切り俺をまっすぐ見据えてくる。
「だが一夏のたった一人の家族としてあいつには経験を積んでもらいたいんだ。身内びいきと言われても仕方ないかもしれないがどうか頼む」
そう言って俺に頭を下げる織斑先生。
「どうする?ダイチくん」
「俺は別に構いませんが一つ条件があります」
「何だ。言ってみろ」
「今訓練機を貸してもらっていますがその期限を俺の専用機が到着するまでに伸ばしてもらえませんか?」
「それでいいのか?」
「ええ、とりあえず訓練機さえあればどうにでもなりそうですから」
訓練機があれば模擬戦は出来るし実戦経験を積むことは難しくないはずだ。
「分かった。ではそのように手配しておく」
「ありがとうございます。それでしたら俺としては織斑に代表を譲ることに異論はありません」
「すまんな。助かる」
まあ元々やる気もなかったクラス代表だし全く問題ない。
それにしても意外だった。鬼教官のイメージしかなかったがこの人も弟のことを思う姉なんだと思うと何だか少し安心する。
「何か録でも無いことを考えていないか?」
「いえ、滅相もございません」
やっぱりなんで分かるんだよ、この人。
「一発いきたい所だが怪我人に手をあげる訳にはいかないし今日は遠慮しておいてやる。私はそろそろ行くがお前たちも用事を済ませたらさっさと戻れよ」
さっきまで頭を下げてお願いをしていた人間は何処へやら。そう言って足早に保健室から出て行ってしまった。
「凄い変わり身の早さですね…」
「照れ隠しよ、察してあげなさい」
「そんなものには到底見えなかったんですが」
「大人には色々あるのよ。さて手当も済んだことだし私たちも帰りましょうか。疲れたでしょ?」
「ええ、流石に…」
ISにはパワーアシストがあるのだがやはり慣れない動きなので肉体的にも疲れるしそれ以上に精神的にどっと疲れた。
「じゃあ部屋に戻ったらおねーさんが特別にマッサージをしてあげる♪」
「じゃあお願いしていいですか?」
「ありゃ、珍しく素直ね。これは思った以上に重症なのかも…」
神妙そうな顔で呟く彼女に俺はツッコミを入れる。
「勝手に人を重症扱いしないで下さい」
「フフッ、冗談よ。よーしおねーさんにどーんと任せておきなさい」
「何か不安になってきた…」
「安心して。今日は何もしないから、今日は」
「不穏な限定やめて下さい」
「細かいことは気にしない。さあ帰りましょ」
一抹の不安を抱えながら寮の部屋に戻りシャワーを浴びたあとマッサージをしてもらったのだが、心配とは裏腹にこれが驚くほど気持ちがよく疲れていたこともあって開始5分で寝落ちしてしまった。
こうして激戦の1日がようやく終わりを迎えた。
___________
翌日のホームルームでクラス代表が発表された。
「では、一年一組代表は織斑一夏君に決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」
山田先生は嬉々として喋り、クラス中の女子も大いに盛り上がっている。そんな中、納得していない様子の人物が一人。
「先生、俺は昨日の試合に負けたんですが、なんでクラス代表になってるんでしょうか?」
その人物とは晴れてクラス代表となった織斑一夏その人だ。
「それは私と上代さんが代表を辞退したからですわ」
自信満々にそう答えたのはオルコットだった。立ち上がり腰に手を当てるポーズはなかなか様になっている。
「なんでだよ⁉︎」
「今回の対戦で確かに貴方は敗北しました。しかしイギリスの代表候補生であるこのわたくしをあと一歩まで追い詰めるなどポテンシャルが高いことも事実。 そこでわたくしたちは貴方により多くの実戦を積んでいただくべく今回はクラス代表をお譲りすることにしたのです。やはりIS操縦には実戦が何よりの糧ですから」
「まあそんなところだ」
俺が説明するまでもなくオルコットが説明してくれたので手間が省けて助かる。
「ダイチ、経験っていう面ではお前も積まなくちゃいけないんじゃないのか?」
「俺にはちゃんとコーチがついてるから大丈夫だ」
「コーチ?」
一夏は不思議そうに訊いてくる。
「ああ、飛び切り優秀だけどちょっとだけ面倒臭いコーチがな」
「いいな、俺もコーチが欲しいぜ」
何気なく呟いた一言にオルコットと篠ノ之が反応する。
「あの…一夏さんがよろしければイギリス代表であるこの私が…」
「あいにくだが、一夏の教官は足りてる。私が直接頼まれたからな」
「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに何かご用かしら?」
「ら、ランクは関係ない!頼まれたのは私だ。一夏がどうしてもと懇願するからだ!」
おいおい、そんな風に騒いでいると…
「座れ、馬鹿ども」
案の定織斑先生の雷が落ちる。さすが鬼教官、容赦が無い。
パシィィンという小気味のいい音とは裏腹に激痛が頭に走る。目の前では一夏も同じように頭を抑えている。
「流石におかしいでしょ⁉︎」
「失礼なことを考えているからだ」
理不尽だ…と思ったが追撃が怖いので口にはしないでおく。
なんだか納得できないこともありつつもこうしてなんとか無事にクラス代表決定戦は幕を下ろしたのであった。
継続して書くのって本当に難しい…