人生とは何か、それは人によってさまざまな解釈が存在する。単純な者、複雑な者、そもそも考えていないとか理解不能とかいろいろ存在するのだが、俺にとって人生とは端的に言うのであれば未知の開拓であった。人は言う、既に多くの未知は既知になったと。それは人類の発展による未知部分の開拓を多くは称している。例えば病気であるとか、例えば科学技術であるとか。しかしそれはあまりにも短絡的思考からくる結論付けと言い切るほかない。既知とはたやすく未知に変化する、正確には既知による未知の発見とでも言い換えよう。新事実はまだ見ぬ道の一端をあらわしたに過ぎないのだ。
故であるからして、俺が何を言いたいのかと言うと。
「この人ごみを毎日歩くのか……」
新宿を降りた俺は目的地に向かうために渋谷に移動したのだが、それだけでげっそりとしていた。テレビで東京の人ごみを見たことはあった。しかし見たからと言っても実際に体験したことはない。一応ある意味稀有な体験ではあったが、毎日こんな人の大群でもみくちゃになりながら生活している人間たちを見ているとご苦労様と言うよりは何故こんなになってまで、と先に思ってしまう。生活のためなのはわかっているのだが俺の一番近しい大人は両親と兄であり、地方都市で仕事をしている父やストレスフリーで飛び回っている兄を思い出すとなおさらそう思う。
「と、次はまた乗換えか」
面倒なことに新宿から乗り換えたばかりだと言うのにまた四軒茶屋までは乗換えが必要になる。もう少し乗換えが必要にならないようにと思う部分もあるが利便的に必要なのだろう。ある意味有名なスクランブル交差点付近まで歩いたところで俺はポケットに突っ込んでいたスマホを取り出す。迷わないようにマップを開くためだ。電源を入れてアプリを起動し――、
「何だこれ」
見慣れないアプリが起動していた。赤と黒の禍々しいカラーリング、中央の目玉のような模様からうねる放射状に線が広がっている。直感的に不気味さを感じさせた。
「ウイルスか?」
新手のウイルスかと思ったがそういったものをインストールした覚えはない。背筋に冷ややかなものが流れる。反射的に指がアプリを削除しようとしたが反応しない。
「何が起こっている」
ふと違和感。それは奇妙な時間の流れだった。己以外すべての時間が遅くなっている。
「新手のヤクか、それとも電子ドラッグでも開発されたのか」
たまたま俺がその犠牲者になってしまったとでも言うのか。だとしたら最悪だ、人生がどん底というほかない。神様はいないはずだが、それでも作為的なものを感じさせてくれる。
時が停止した。俺一人だけがこのわけのわからない世界で行動を行えた。周囲を見回す。何もかもが動きと言うものを忘れたかのよう。
だが明らかに違うものがある。蒼い炎、薄い青と濃い青がグラデーションを作り、揺らめき、吹き上がる。炎の動きはやがて収束してシルエットとして形成されていく。人の形だ。炎で縁取られた人間。俺は駆け寄る。近くで見るためだ。動くのは俺と炎のみ。直感的につながりがあると思考。走る。
炎は動き続けていた。揺らめき、揺らめき、そして更なる変化。蒼い炎に赤い炎が混じる。赤い炎は弧を描いてた。顔の部分で、だ。壮絶な笑顔をかたちどった赤い炎。それが顔となって――、俺を見ている。
直感は正しかった。俺と謎の炎はつながりがあった。
何故なら炎はさらに変化し、『俺の顔』になったからだ。
問う。心の中で。お前は何者なのか、と。
そしてようやく手が触れる付近で、意識が解ける。
「……」
妙な気分だった。夢幻のような体験とでも言うべきだろうか。白昼夢でも見たような、そんな感覚。実際に一つの事柄がなければ白昼夢と思い忘れていただろう。俺はスクランブル交差点を走り出す前の、最初に時間が止まったところで俺は立ち止まっていたからだ。勿論、時間は既に動き出している。誰もが正しく時を刻んでいるかのように。
もしもスマホの中に謎のアプリが残っていなければ、俺は熱中症で幻覚を見たのだと、そう思って忘れていただろう。
「……一体、なんだったんだ」
俺の問いに答えるものはいない。
一つ、深呼吸した。頭がこんがらがったときはこれをするに限る。再度眼をスマホに移した。アプリを削除する。設定画面を開きアプリ管理のアイコンをタップ、スライドしてインストールしたアプリを眺め、しかしインストールされていないことを確認。溜息を吐き、仕方なく画面上で削除を行った。
「これで終わるといいんだけれど」
嫌な予感だけが俺の心にくすぶっている。だが、今は気にしていても仕方がなかった。歩き出す。目的の場所へ行くために。
〇
俺の下宿する先は四軒茶屋という場所にある。一般的な知名度で言えば若者の町、商業の町というところだろう。とはいえ路地一つ曲がるとそれを感じさせない雰囲気がそこにはあった。
むせ返るほどの生活臭。人の営みに根ざされたそれにやや俺は圧巻を感じる。
「えっと、佐倉佐倉……あった」
入り組んだ路地の置く。古びたアパートの先にこれまた古い一軒の家屋。時代を感じた。
「では失礼しまして、と」
インターホンを押す。
音が鳴る。人は出ない。再度同じ動作、同じ結果。
「留守か」
まあ、人の生活に口など出せないのだから気長に待つとしよう。その矢先だった、一人の男性が俺の目の前に立つ。若い、配達行の人間だ。
「あ、佐倉さんまた留守かぁ、仕方ないルブランの方まで持っていくか……」
俺は声をかけた。人好きする笑顔を浮かべつつ。
「すいません」
「ん、あ、何か」
「自分も佐倉さんに用事があるんですが、ついていっても?」
やや迷うそぶりを見せたが、結局は面倒くささが勝ったのだろう、了承してきた。おそらくは打算だ。面倒くさがって追い払い、SNSなどにあげられて炎上されては飯を食いっぱぐれることになる。俺はそんなことをするつもりはさらさらないが、そんな考えが見て取れた。
「んー、良いよ」
「ありがとうございます」
丁寧に一礼。配達員の男は少しばかり煙ったそうだった。
路地裏を歩きながら従業員と他愛のない雑談を交わす。
「宮田さんはこの仕事長いんですか?」
「俺の名前――、ああ、名札ね。んにゃ、三ヶ月程度だよ」
「へえ、楽しいですか」
「ンナ分けないジャン、金だよ金。ほかのとこよりちょっと給料よかったから」
「なるほど、やっぱり金は大事ですよね。田舎だとバイトできなかったし、やってみよーとは思うんですけど」
「何、大学生?」
「高校っす。ちょっと事情あってこっちに来たんですよ」
「へー、大変だね。でも、やるのもいいんじゃない? やっぱ若いときに金使うほうが楽しいって絶対」
「やっぱり? 俺地元のとき小遣い少なかったから大変だったんっすよ」
他愛のない話をしながら探りを入れる。人とのつながりは大事だからだ。ややラフな印象を感じ、丁寧さを軽くしない程度に口調を崩して話を続ける。やはりと言うべきか愚痴が多かった。日々の不満、上への不満、不満不満不満、聞きに徹してからはただ向こうは不満だけを吐き出していく。自分から環境を変えるという考えがないのだろうか、と思う。ないのだろう、と俺は結論付けた。
路地を通り、進むと目的地はあった。それは純喫茶とでも言うべき外観をしていた。古びた、取り残された。ややよい表現をすればレトロな物件。名はルブランという。
俺が中に入ると主人の男と、幾許かの客がいた。
中からは客の話し声と、テレビの音声。何の変哲もないワイドショーだった。流れている内容は最近はやりのやや不穏なもの。東京で流行のなぞの昏睡事件の話である。何でも公共交通機関で運転手が急な昏睡を起こし、車両を暴走させているという。
「ちわー、宅配です」
「どーも」
けだるげに主人の男が手を振った。そして面倒くさそうにサイン。
「ではしつれいしまーす」
やる気があるのかないのか判らない配達印の男が伝票を受け取りそのまま出て行く。
主人の男の視線が俺のほうを向いた。値踏みする目だ。
「おめーは――」
「どうもはじめまして、お世話になります雨宮・蓮です」
よろしくお願いします、と頭を下げる
――やりにくそうだ。
嘗て中学の職場見学のときに兄の会社に見学へ行ったことがある。日程にして四日ほど、そのときに見たことのある、目端の利くやり手と同じ雰囲気を眼前の男は持っていた。
ぱっと身だけで見るのならば男は枯れた雰囲気の男と形容できた。
草臥れたシャツ、年季の入った顔のしわ、曲がった腰、しかし鋭い目つき、そして細かいところまで観察するその様は一線を引い古強者の様に見える。きっかけさえあれば燃え上がりそうな炎を無理にくすぶらせているような、そんな感覚だ。
「……どうも、俺は佐倉・惣治郎。覚えなくて良いぜ。一年の付き合いだ」
「そういうわけにはいきませんよ」
「フン」
惣治郎はそっぽを向く。
「あら、甥っ子さん?」
客の一人が声を上げた。
「ちげーよ、まあ、なんだいろいろあって知り合いの手前預かることになっただけだよ」
そうですね、見ず知らずの、知り合いの子供ってだけの子供を預かる奇特な人ですね、ええ。
「あらそうなの?」
「そうだよ――つーか、コーヒー一杯でいつまでいるつもりだ」
「良いじゃない、常連は大事にしないと」
「常連と言っても限度があるだろう……」
惣治郎は後頭部を掻き揚げて、
「ほら帰った帰った店仕舞いだ、あ――、雨宮の生活用品とかそろえねーといけねえ」
体よく俺をだしにするとは。
「はいはいそういうことにしておきますよ」
そういって客は立ち上がり、会計を済ませて出て行った。
惣治郎は面倒くさそうに息を吐いた。
「ついてきな」
俺は促されるままについていく。階段を上がり、二階へ。
「うわ」
思わず声が出る。部屋と言うよりは、物置小屋だ。先に届いていた俺の私物が部屋の真ん中に鎮座し、使わなくなった書籍、ポリタンク、何かが詰まったダンボールが床においてある。惣治郎のプライドか、ある程度丁寧におかれているのはやや几帳面な性格が見て取れた。
「今日からお前が住む部屋だ……、お前の荷物はそこにおいてある。ああ、寝床のシーツくらいは貸してやるよ」
「――えっと、これは」
「不服なら出てってくれても良いんだぜ?」
「あーいや、違いますよ」
眼前のものを指し、言う。
「これはすべてゴミなんですか?」
「ああ――、変なこと聞くんだな」
「大事なことですので」
そうかい、と惣治郎がぼやく。
「じゃあ、これをどうとしても問題はないってことですかね?」
「そうだが――、変なことはするなよ?」
保護観察なんだからよ、と惣治郎。
なんとなくわかってきた気がする。この人、結構よい人だ。普通ならば忠告などしない。よくて自身への被害を思って言葉を発す。例えば、俺に迷惑をかけるな、といった言葉。意識してか無意識かは知らないが、相手の立場を慮って何かを言う人間にそう悪い人間はいない。そういうポーズ、とも思ったが、ポーズでやるなら最初からもっと愛想よく振舞っているだろう。
「じゃあ、片付けでもするとしましょう――、と、それで、どうします」
「何が?」
怪訝そうな顔で、こちらを見てくる。
「さっき適当な理由とはいえお客様を追い出したときに、生活用品云々とか言っていたでしょう?」
「あー、あれな」
惣治郎はやや考え込み、そして名案が思いついたかのように手の平を打ち付けて音を出す。
「いいか、本当は買い物に行く予定だったが、こちらに野暮用が入ったので行けなくなった、OK」
「OK了解です」
「それでいい、素直なのは、いいことだ、うん」
満足そうにうなずく。
「じゃあ、俺は片付けさせていただきますよ」
そうか、と惣治郎はうなずいた。
「俺は引き上げる。夜は独りになるけどよ、五月蝿くするんじゃねえぞ」
「騒いだら?」
「放り出す」
「了承です」
「……お前、本当に保護観察だってわかってんだろうな?」
無論です、と俺はうなずいた。
「なら、くれぐれもおとなしくしてろよ、どうせ一年の辛抱だ」
「判ってますよ」
惣治郎はため息をつき、そうか、と言って階段を下っていった。俺はそれを見送ってから、再度部屋を見渡す。
「じゃあ、やらせていただくとしますか」
早速ラフな格好に着替えて片づけを開始する。窓を開けて換気し当たりにあるものを仕分けていく。人間が捨てるゴミの山と言うのは時にとんでもない宝が隠されているときがある。そもそも人間が必要ないと談じるものの内に本当に必要のないものなど大抵存在し得ない、その多くはあくまで主観的『本人』が必要としていないものであって他者から見ればまだそれは必要であると考えられるときがあるからだ。いわゆるわらしべ長者と言うのが極めてわかりやすい表現になるだろう。使い捨てられたちり紙ですらときに他者からは必要とされる。
そしてこの部屋はきわめて『宝』の多い部屋と称すことが出来た。特に乱雑におかれた書籍の山は黄金の価値があると俺は踏んでいる。本の内容は専門知識で書かれたものばかりで惣治郎のインテリジェンスが伺える、やはり只者ではなかったらしい。
部屋自体の片付けは思うよりスムーズに終わった。ある程度整理しておかれていたが故に、大雑把な掃除だけで十分だったからだ。
「一筋縄じゃむりそうだ」
惣治郎を思い出す。何かを挫折した、心ある人間。このような人間は用心深い、簡単にこちらを信頼することはない、必要なのは積み重ねると言うことでしか解決しない。
「なら正攻法だな」
書籍で惣治郎の頭の良さは見て取れた。こういった人間に回りくどいやり方は意味がない上に下手をすると害悪なまでもある。回りくどいやり方で信頼を得ようとすればこちらの裏を見透かしてくる上に、さらに警戒を強化するからだ。だからこそ正攻法、回り道に見えるときがときに一番早く目的地に着くことがある。急がば回れの精神。
「こいつを売るのは正式に信頼を得てから、だな」
書籍にちらと眼をやる。専門書と言うのはそれなりの高値がつきやすい傾向にある。市場に出回っている数が少ないというのもあり希少なのだ。しかしこれはさらに高値でやり取りが出来ると確信した。海外に売りつけるのだ。いわゆるどこにでも存在する外国オタク、自分の好きなもののためならばコストを惜しまない人間。そういった人間は例えば日本オタクであれば、日本のものにほぼ無条件肯定で金を出す。それが価値のあるものであればなおさらだ。嗚呼素晴らしきは需要と供給。
だからこそこれを売り払うのは細心の注意が必要だ。人間は時に必要がないと倉庫の奥にしまったものに価値を見出すときがある。否、見つけてしまったが故に価値を思い出すと言うべきか。
なんにせよまだ自分が厄介な存在である問いことを根底に刻まなければならない。一つでも動き方を間違えればアウトなのだ、と自覚する必要がある。
そう、俺は『前科』のつく『犯罪者候補』なのだから。
俺は口の端が上方に弧を描くことを感じた。笑みだ。俺は今、この状況を面白がっているのだ。このどん底の状況を楽しんでいるのである。
「なんだ案外余裕じゃないか」
もっと自分は精神が逼迫しているものと思っていた。しかし現実はその正反対に楽しんでいる。
「と、片付けの続き――と、その前に」
俺は休憩がてらにポケットからスマホを取り出す。ニュースを見るためだ。今時はいい時代になったもので、アプリがあればいくらでも情報を探し出すことが出来る。それも外国メジャーだけではない、言語さえ理解できれば海外ニュースをいくらでも覗き放題なのである。情報化社会の利点の一つであった。勉学さえ心がければどんな人間でも多彩で多大な情報を手に入れることが可能なのである。
スリープモードのスマホに電源を入れ、画面を移す。ロックを解除し――、そして気づく。
「やっぱりか」
渋谷で消したはずの『眼』のアプリが再度スマホにインストールされていた。嫌な予感と言うものは、どうにも外れにくいのだろう。いい予感は当たらないのに。
「これは一体なんだ?」
昼間は新手のウイルスや電子ドラッグだと考えたが、直感ではあるがもっと別の何かではないか、そんな雰囲気を俺は思う。
「ふむ」
俺は部屋に届いていた私物からノートパソコンを取り出しスマホをつなぐ。アプリを解析するためだ。
ヤバいアプリである可能性は十分あった、というかある。しかしおそらく削除しても元通りになる可能性が高い。で、あるならば危険を承知で踏み込むべきだ。
「本当は専門家の手を借りるのが一番なんだがね」
やろうと思えば一人でアプリのプログラムを構築できるだけのスキルを俺は有していたが、こういったアプリの解析などはまだ未熟な部分が多いことは自分自身理解していた。生兵法は怪我の元、とは言うが失敗すれば怪我で済みそうにはない。しかし、俺は手を止めない。まるで不可思議な磁場が俺を吸い込むようにアプリの解析を行わせようとする。まるで甘い罠のように俺を誘ってくる。
ケーブルをつなぎ、作業用の画面を立ち上げる。
アプリチェック、ソースコードを解析しようとし――、急に眩暈。
意識が暗転する。
〇
眼を覚ます。俺は何をしていたのだろうか。ああ、アプリの解析を行おうとして、そのまま意識を失ったのだった。
「ここは」
声を上げ、眼を見開く。薄暗い。俺はルブランの二階にいたはずなのだが。
「眼が覚めたか囚人」
声、少女の声、甲高い、ヒステリックなイメージをわき起こさせる。
体を持ち上げようとして不都合を感じた。何かが俺の自由を奪っている。手錠だ。俺の手がつながれている。起き上がろうとして金属のこすれる音を聞く。足元からだ。足元にはアンクレットとそれにつながれた鎖と鉄球。体を見る。まるで映画の囚人が着用する横ストライプの衣服をまとっていた。
「どういうことだ」
「こちらをお向きなさい、囚人」
また少女の声、先ほどとは違いやや低く落ち着いた声だ。
声のほうに眼を移す。少女が二人いる。青いカラーの服を身にまとっている。スカウトの意匠の衣服だ。違うのはその二人は眼帯を着用していることだった。左右反対に鏡写しのように。
俺は歩いた、その二人の少女のほうへ、誘蛾灯に誘われる羽虫のように。
「起きたようだな囚人」
「現実の貴方は、睡眠中。これは夢としての体験に過ぎません」
少女二人が、そういう。俺は二人を改めて眺める。快活そうな少女とやや大人しそうな少女、顔立ちは似ている。姉妹と言うよりは双子のような少女たちだ。
快活そうな少女が口を開いた。
「主の御前だ、身を正せ」
言われる。
眼前には一人の男がいた。
初老の背の低い男。それだけならばどこにでもいる男だが、異様な雰囲気と容貌をしている。長くとがった鼻、大きく白目をむいた双眸、薄気味の悪い笑みを浮かべている。
男は口を開いた。
「お初にお目にかかる。ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。何かの契約を結んだ者だけが訪れることの出来る部屋。そして私はここの主イゴール」
小さく笑い。
「以後、覚えておいてくれたまえ」