いつもご愛読いただきありがとうございます!!
今回は三編で構成しております! みんなが結構ぶっちゃけるので楽しんでいただけたら嬉しいです笑笑
ひまりside
一人キッチンに立ち、ズラリと並ぶ調理器具を巧みに使いこなし、自分史上最っっ高に美味しいチョコレートを作ろうとしている真っ最中だ。
テンパリングの時間、チョコレートの形、甘さ加減などの調整も完璧にこなした。このわたしに抜かりはない。
そして、何十回目となるであろうチョコレートの味見をする。
………美味しい!
─────でも、わたしが満足のいくチョコレートとは程遠い完成度だった。
ただ、美味しいのは間違いない。
普段からお菓子作りはしてるし、みんなからの評判も毎度のこと良い。胸を張って自慢できる唯一の特技だ。
でも、私からしてみればこれは、ただ単に美味しいだけのチョコレートのように感じる。市販に出回っているものと大差ない、模範的な味。
─────こんな出来では、葵くんが心の底から喜んでくれるはずはない。
わたしは作業を一旦中断し、ソファに腰掛け深いため息をついた。
「はぁ………どうやったら、葵くんが喜ぶバレンタインチョコレートができるんだろ?」
唐突だが、時は1週間前に遡る─────。
その日は冬で稀に訪れる温暖な気温で、空からポカポカとした陽の光が差し込んできていた。
外がいつもより暖かいこともあってお昼は屋上で食べようと、朝のうちに決まった。
そして迎えたお昼休み。
いつも通りみんなで輪になって、時々吹く冷たい風に震えながらも楽しく昼食を取っていた。
わたしがチョコレート作りに邁進しようとしたきっかけはその時に、モカが不意に放った一言からだった。
「そーいえば、みんなバレンタインのチョコレート作り始めてるの〜?」
わたしはその言葉に思わずビクッと肩を震わせ、食事をするのを止めた。
それもそのはずだ。去年まではただの友達としてチョコを渡していたが、体育祭での出来事の後から私と葵くんの関係は、それだけにとどまらない。
わかりやすく言うと、友達以上恋人未満というところかな。………なんだか自分で言ってて恥ずかしくなってきた/////。
「そういえばこのイベントって、トモちんとあーくんの独壇場じゃなーい?」
「あ、あんまり恥ずかしいこと言うなよなあモカ〜」
生けるトレンドマークこと巴は、ハロハピの薫先輩には劣るけど、同級生と下級生の女子の間で憧れの的になっている。
その中性的な顔立ちと、モデルのように長い腕と脚。そして、誰とでも仲良くなれるコミュニケーション能力の高さと懐の広さも持ち合わせていて、人気者になるのは当然のことだ。
しかし噂では、同級生の女子から何度か告白されたことがあるらしいけど、本人はそのことに対して触れることはなく固く口を閉ざしている。まぁ、わたし達と毎日一緒に帰ってるから、おそらくは全て断っているのだろう。
………正直、幼馴染がイケない恋に落ちなくて内心ホッとしている。
「去年はどっち多く貰えたんだっけ?」
「私たちが渡した分を除いたら、葵くんが巴ちゃんより2つ多く貰ってたはずだよ!」
「さっすがあーくん♪ モテモテだね〜」
「つぐみちゃん! モカちゃん! ホント恥ずかしいからやめて/////」
葵くんは言うまでもなく………モテモテだ。
中学の時はサッカー部の主将だったし、今はAfterglowのボーカルとしてステージに立っているから、目立たないはずがないのだ。
一生懸命頑張る姿も、時々見せる意地悪そうな顔も、そしてわたしが一番好きなキラキラと輝くその笑顔は、ありとあらゆる女の子を虜にする。勿論、わたしもその中のうちの一人。
そう頭の中で考えていると、いつの間にか背後に回っていたモカが、ニヤニヤとしながらわたしの顔を覗き込むようにして話しかけてきた。
「ひーちゃんはどうなの〜? チョコ作りは順調?」
「も、勿論だよ!? うん、絶好調〜!!あはは………」
「あ、ひまりのこの感じは、チョコ作りに行き詰まっているってことだよね?」
蘭がくすりと笑いながら論破してきた。
………さすがは蘭。察しが良くて、ひまりちゃん、涙が出そうだよ。
もちろん、何もしていないわけじゃないけど、どのようなチョコレートを作ろうかまだ悩んでいる最中だったのだ。
「だ、大丈夫だよ!! 当日までには、みんなに最っっ高にSNS映えするチョコを渡すからね!」
「ひーちゃん、ゴチで〜す♪」
「ちょっ!!モカも用意してよね!?」
─────ということがあったのだ。
あれからしばらく経つが、なんの進歩もなくて今に至る。
友チョコ作りも大事だけど、その先にあるのは葵くんに渡す本命のチョコレート作り。
今年はそれがわたしのメインだ。
葵くんの笑顔の為だったらなんだってするし、どんな努力も惜しまない。わたしには、そんな覚悟が誰よりもある。
葵くんへの気持ちも、チョコレートの味も、誰にも負けたくない。例え、その相手が
「………よしっ、休憩終わり! 続きはじめよ〜! 今日は何時間でも頑張っちゃうぞ〜!!」
そう自分に喝を入れて、再びチョコ作りを開始した。
次の日、わたしは結局一睡もすることなく朝を迎えた。
携帯のインカメで自分の顔を見ると目の下にクマができていて、ちっとも可愛くない桃色の髪の少女の姿が映っていた。
(ちょっと頑張りすぎたかな………)
調理器具を一式手入れをして、元の場所に戻してから部屋に戻り学校の支度をする。
一時間もすると、朝食を作り終えたお母さんから部屋から出てくるように声がかかる。
適当に返事をして、重い足取りでテーブルに向かい、のそのそと朝ごはんを食べる。
その様子を見かねたお母さんが、心配そうに話しかけてきた。
「ひまり? なんだか顔色悪そうだけど、ちゃんと睡眠取れてるの? 夜遅くに台所で何かしてたみたいだけど………」
「ううん、大丈夫だよ! みんなに最高のチョコレート渡したくってちょっと苦戦しててさ………」
「そうなの、まぁ無理しないようにね」
「わかった! それと、ごちそうさま!」
わたしは取り繕った笑顔でお礼をし、みんなとの集合場所へと駆け足で向かった。
登校中はと言うと、あまり会話には参加せず、ずーっとチョコレートのことを考えていた。
体内の血液が全てドロドロに溶けたチョコレートに変わったかのようで、酸素や栄養素が全身に行き渡らない。
午前中の授業もほぼ爆睡。今日はモカ以上に寝てたような気がする。ただ漠然と開かれたノートには何の記入もしていない真っ白なページが映る。まるで、チョコレート作りに行き詰まっている、わたしの頭の中みたいだ。これは、内申点が激下がりかな…………。
そしてお昼休み。
ここでも変わらずチョコレートのことばかり頭にちらつき、みんなの話が全く頭に入ってこない。"自分から話題を作る"ということを、わたしは高校になって初めてできなかった。
お昼休み終了の五分前をを告げるチャイムが鳴り、みんなが教室へと戻りだした。
でもその中で一人、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
他でもない、葵くんだった。
「ひまりちゃん。最近体の調子悪そうだけど、ちゃんと睡眠取れてる? 授業中もほとんど寝てたって巴ちゃんたちが心配そうに言ってたけど………?」
─────すっごいデジャブ!
朝にお母さんが言ってたことと殆ど同じだ。声のトーンも表情もまるきり同じ。
思わずわたしはお腹を抱えて、吹き出して笑った。
「な、何がそんなにおかしいの!?」
「だって……! さっき言ったのお母さんとまるまる同じだったもん!! あはははは!」
「そこまで笑う必要ないと思うよ!?」
「こんなに笑ったの久しぶりかも! ありがと、葵くん! なんだか気が楽になったよ!バレンタイン、楽しみにしててね♪」
わたしはそのまま、みんなの後を追って走り出した。
「まぁ、ひまりちゃんが元気になってなによりかな」
運命の日まで、あと2日─────。
巴side
「はぁ……とうとうあの日が近づいてきたか……」
部屋にあるカレンダーを見つめ、思わずため息をつく。
2月14日。思春期の男女が、夏祭りのように盛り上がりキャッキャするイベントだけど、アタシからしたらそう感じることはあまりない。
それもそのはずだ。
何しろアタシは、チョコを
なんだか複雑な気持ちだ。
これまでを振り返っても、同級生の男子達より圧倒的にもらってる数は多いし、告白された数も両手で数えられないぐらいにまで達した。
もうこの際だからはっきり言おう。
──────アタシは、バレンタインデーが嫌いだ。
なんだかいつも以上に、女として見られてないような気がして………。
"もしアタシが葵と同じ男の子だったら" と、真剣に考えたこともある。
思春期の女子としては、あまり喜ばしく悩みだ。友達に相談して、アタシの弱気になってる姿も見せたくないし……困ったものだ。
そう考えていると、ノックもなしに誰かが部屋の中に勢いよく入ってきた。
「おねーちゃん!! いま暇してるー?」
「な、なんだあこか。今は暇してるけど、何かあったのか?」
アタシの妹、あこにそう聞いてみると、先程とは裏腹に暗い表情になりポツリポツリと話しだした。
「実はね、Roseliaのみんなにチョコレート渡したいんだけど………あこは作りかたわからないし、おねーちゃんと作りたいなぁと思って聞きにきたんだ」
「なんだ、そんなことか。わかった、アタシもAfterglowのみんなにチョコレート渡さないといけないからな。一緒に作ろうか」
「うん!! キッチンに材料は準備してるから、早く降りてきてね!」
あこは、そう言い残しバタバタと慌ただしく部屋を出て行った。
さっきまで考えていたことを頭の片隅に置いて、ゆっくりとあこの後を追ってキッチンに向かった。
キッチンに着いたアタシとあこは、戸棚の奥にしまってあったエプロンを借りて、チョコ作りを始めた。
とは言いながらも、板チョコを溶かして型を変えるだけで、味とかの変化は一切行わない。ひまりや葵みたく、お菓子作りが得意な訳じゃないからな。
それでも実際、テンパリングは難しいしどのような形にするかもかなり悩んだけど、何とか二人であと冷蔵庫に冷やして完成という段階まできた。
「手伝ってくれてありがと! おねーちゃん!」
「まぁ、携帯で作り方見ながらだったけどな。アタシこそ、手伝ってくれてありがと、あこ」
あこはニコニコとしながらお礼をしてきたので、アタシもお礼を込めてすこしだけ頭を撫でた。
「そういえば、おねーちゃんはAfterglowの人たち以外にはチョコ渡さないの?」
あこが純粋な目を向けて聞いてきた。
まぁ気になるのは当然だよな。お互い思春期の身だし、少ないけど男子生徒もいる。
あこに隠し事をするのも申し訳ないから、本心を伝えることにした。
「そうだな、アタシはバレンタインデーでは渡さないで、ホワイトデーの時に渡そうかなって考えてるよ」
「なるほど……おねーちゃんのクラスには男の子はいないの?」
「何人かはいるけど、あんまり関わりがないから渡そうにもなんて言ったら分からないからな……。あこはどうなんだ?」
「あこ!? うーん、男の子には渡さないかな。おねーちゃんと一緒で、何を話したらいいか全然分からないもん」
「あはは、アタシと同じだな」
「も〜っ! からかわないでよ〜!」
………なんだか、妹とこういう話するのってなんだかむず痒いな。
すると、あこがなんだか照れたような様子で質問してきた。
「おねーちゃんは、その……告白されたことあるの?」
「あー……あると言われればあるな」
「えっ!? 誰に誰に!?」
「…………同級生の女子に」
「なーんだ、男の子じゃないんだ」
少しガッカリしたように気を落とすあこ。
アタシだって、好きで告白されてる訳じゃないんだぞ〜!!
「あこはどうなんだ?」
「あこ? あこは1回もないよ?」
「そ、そうなのか……。逆にこっちから聞くけど、好きな人ができたりはした事あるのか?」
「うーん、雄樹夜さんはかっこいいと思うけど、りんりんとリサ姉と紗夜さん、友希那さんがいるからなぁ………。おねーちゃんは? 葵くんのことはどう思ってるの?」
「まぁ、葵にはひまりがいるからな。まだ付き合ってないはないみたいだけど、両思いみたいなところがあるからな。アタシがどうこう言える立場じゃないよ。でも、友達としてチョコレートは渡すつもりだよ」
ふーん、とあこは少しつまらなさそうに反応した。
「葵君、おねーちゃんのことよく見てるしお似合いだと思うのにな〜」
「そ、それはみんなにも言えることだからな!? それにあいつにはひまりが────」
「ひーちゃんもだけど、おねーちゃんはそれ以上に幸せになって欲しいの! だっておねーちゃん、葵君と話してる時いつもより楽しそうだもん!」
「………はい、この話はもうおしまい! 宿題あるの忘れてたから、アタシは部屋に戻るから、あこはお風呂沸かしといて!」
「えぇ〜っ!? つまんないよ〜!!」
不機嫌そうに嘆くあこを置いて、アタシは部屋に戻った。
部屋に戻ってからも、あこに言われたあの一言が頭にずっとちらついていた。
『葵君と話してる時いつもより楽しそうだもん!』
もちろんアタシは本気にしてる訳じゃないし、あこもそうやって言ってるけど、他人の不幸を願うような妹じゃないのは姉のアタシが一番わかっている。
ましてや、幼馴染の恋愛に手を出すなんて………アタシには考えられない。
でも、葵が他の男子とは全く異なることは確かだと思う。
昔から男勝りで、口調も態度も女の子っぽくないアタシに対して葵はいつも、一人の女の子として接してくれた。
葵は誰に対しても同じように、優しく接していたけど、アタシは特別嬉しく感じたことを昨日のことのように覚えている。
────これがアタシの初恋だったのか?
そう考えたところで、首をブンブンと横に振って自分を否定した。
腕相撲でも一度たりとも負けたことないし、背もアタシの方が高いし、ずっと弟みたいな存在だった…………けど、Afterglowの中で一番頼りにしていたかけがえのない幼馴染でもあった。
無意識にアタシは携帯を手に取り、その幼馴染に電話をかけた。
『………もしもし、巴ちゃん? どうしたの?巴ちゃんからかけてくるって珍しいね』
『あぁ、ちょっとな。今時間大丈夫か?』
『うん、大丈夫だよ。何があったの?』
『今度のバレンタインデーの事でな………。正直、アタシはバレンタインデー嫌いなんだ』
『バレンタインデーが、嫌い?』
『あぁ。アタシってこんなんだから、普段から女の子として見られることってあまりないだろ? それが………ちょっとな』
しばらくの沈黙の後、葵は宥めるように答えた。
『巴ちゃんは巴ちゃんだよ!確かに、ボクより背が高いし、頼り甲斐があって羨ましいこともあるけど………。それ以上に巴ちゃんは、喜んでる顔とか照れてる顔とか、どれもこれも可愛いし、れっきとした女の子だよ! むしろその男っぽさも、巴ちゃんの一つの魅力だよ!』
葵のその言葉一つ一つに、確かなものを感じた。
アタシの悩みだった、男っぽさも魅力の一つだということ。そして、アタシもれっきとした一人の女の子だということ────。
『………巴ちゃん? 大丈夫??」
『大丈夫大丈夫、心配ないぞ。ありがとな葵。なんか、悩みが一気に吹っ飛んだ気がするよ。葵に相談してよかった』
『巴ちゃんの力になれたなら、それが何よりだよ』
『なんか、ひまりが葵に惚れる理由が改めてわかった気がするよ』
『ちょっ!? 何言ってるの!!////』
イタズラに笑うアタシに対して、電話越しでもわかるぐらい葵は照れるような感じで言い返してきた。
『それじゃあ電話切るぞ。明日も学校だから、夜更かしするなよ!』
『うん! それじゃあまた明日学校で! それじゃあ、おやすみ!』
そしてアタシは、葵とのおよそ30分の通話を切った。
「全く、あいつは………可愛いとか、そういうことはひまりに言えよな………」
今はただ、自分の幸せよりもあの二人の恋愛を応援したいかな。
両思いの二人を別れさせるなんて、そんなことしないしさせたくない。どんなことがあってもアタシが守ってみせる。
冷蔵庫にあるチョコレートは、最高の幼馴染への感謝の印。心を込めて渡せたらいいな。
そして葵への気持ちは、心の奥底にしまっておこう。いつかこの話が、大人になって笑い話になる、その日まで────。
いかがだったでしょうか??
次回は、つぐみ、蘭、モカの話になります!
お楽しみに〜!