第1話投稿からおよそ一年が経ちました
ご愛読の皆様、本当にありがとうございます!
蘭side
ここしばらくはAfterglowの中でもクラスの中でも、会話の内容がバレンタインデーの事で持ちきりになっていた。
誰が誰に渡すとか………あんまり興味ないけど、クラスの子が考えていることはだいたい、"葵にバレンタインチョコを渡すこと"だろう。
現に、あたしに葵の好みの味とか聞きに来た女子が何人もいた。
あたしから言うのもなんだから、葵に直接聞いて詳しく教えてもらうように促してみても、恥ずかしがって聞きにいかない子も中にはいる。
そんな気持ちじゃあ、到底チョコなんて渡せないだろうな………。葵はそんなこと気にする訳ないのに。
かく言うあたしも、チョコレート作りなんて全くやっていない。と言うか、作り方の本やチョコのカタログすら買ってない。
まぁ作ったとしても買ったとしても、どのみち葵にバレるからどうしたものかと悩んでる最中でもあった。
だけど、家庭科の授業に先生からあることが告げられた。
「2月14日はバレンタインデーということもあり、その日の授業では、みなさんには調理実習でチョコレートを作ってもらいます。材料も各自持参とします。」
その言葉にクラス中がどよめいたが、先生はさらに言葉を続けた。
「それともう一つ。今から1人一枚ずつ手紙を渡します。それは次の授業の時に作ったチョコと共にその相手に渡してもらうのでしっかりと記入しておいてください。その相手となる人を今からくじで決めます」
─────もう収集がつかないぐらいの騒ぎになった。
要するに、どんな気弱な子でも、クラスの中心的立場の子でも…………勿論あたしでも、葵にチョコレートを渡すチャンスが来たということだ。
それは、あたしにとって嬉しいのか、悲しいのか………。
自分の名前の書いた紙を、先生が持つ箱の中に入れ、出席番号から順番にくじを引いていく。
………もう誰か、葵の名前が書いたくじを引いたのかな?
─────いや、なんであたし、こんなそわそわしてるの?
他の人が引いたとしても、あたしは葵の姉な訳だし……別にチョコ渡しても何も変じゃ無いし、渡す勇気だってあるわけだし………。
でも、他の女子にそのことがバレて、白い目で見られるのはちょっと嫌かな………。
はぁ………なんでこんな事になったんだろ。
「…………蘭? 次、蘭の番だけど?」
「えっ!? あ、あぁ、ゴメン葵」
教壇の前まで歩き、心を落ち着かせて、深呼吸。
そして、何も言わずにくじを引き、さっと着席する。
ドキドキしながら開いたその紙に書いてあった名前は─────。
「っ!! 嘘でしょっ…………」
あたしはあいつの名前が書いてるクジを引き当てた。
授業後も、誰が誰のクジを引いたかで賑わっていた。
………葵にチョコを渡そうとしてた子の事を考えると、正直心苦しい。
「蘭〜! 誰のクジを引いたの〜!?」
そんな気も知れず、
全く………無頓着なやつめ。
「少なくとも、あんたじゃないから」
「あはは……どうやらお互い様だね」
ケラケラと笑う葵に対して余計腹がたった。
人気者にチョコを渡す人間の気持ちを知れ! このバカッ!!
「それで? 葵は誰のクジを引いたの?」
「蘭が教えてくれたら、教えてあげてもいいけど?」
「じゃあ、聞かない」
葵は誰にも見せない意地悪そうな顔を見せた後、あたしがそういう反応をすることがわかってたかのようにクスクスと笑っていた。
「相手が誰であっても、材料は絶対に必要だからさ。蘭と一緒に買いに行きたいなぁと思って」
「そっちがメインって訳? まぁ……別にいいけど」
「ありがと! それじゃあ学校からそのままスーパーに行こうか」
「わかった、ひまりたちにはあたしから連絡しとく」
そして数時間が経ち、放課後────。
あたしたちが向かっている学校から少し離れた駅近くのスーパーマーケットはこの時間、主婦や子連れのお客さんでいっぱいだ。
何故この場所にしたかというと、人が多い程あたしたちが一緒にいるところを見られずに済む確率が高いから。
文化祭とかで、あたしたちが姉弟だっていうことは全校生徒に知れ渡っているはずだけど、まだ理解してない人がいたら面倒だ。
あらぬ噂が出回って葵に迷惑をかけるのも申し訳ないし………。
「蘭がチョコあげる人って、ビターな味が好きなの?」
「う、うん。 あたしだってその子のことは理解してるつもりだよ」
自分で言ってて呆れる。
理解してるも何も、姉弟な訳だから好みが分かるのは当然でしょ。
「そういう葵も、チョコあげる人はビターなのが好みなの?」
「んー、そんな感じかな。でも、ただ苦いだけなのも味気ないから、チョコの中に隠し味?みたいなのも入れようかなって考えてるよ」
「なるほど、それで抹茶パウダーとかコーヒー豆とかをカゴに入れてたんだ」
「面白そうでしょ?」
「まぁ、その子はきっと喜ぶんじゃない? なにせ、学校の人気者からチョコがもらえるんだからね」
「ホワイトデーはまだ先だけどね」
冗談交じりに笑いながら話す葵の眼は、真剣さを物語っていた。
本気でその子を喜ばせようとしてるんだろうな。
「試作はどうするつもり? あたしは母さんに手伝ってもらいながらやるつもりだけど」
「試作か、特には考えてなかったな………。蘭が使ってない時に適当に借りることにするよ」
「わかった。それじゃあ、あたし他に寄るところがあるから、買ったチョコを家に持って帰っといて」
「うん、いいよ。気をつけてね」
葵に荷物を預け、寄り道………と言う名の羽沢珈琲店に向かった。
幸い、スーパーマーケットからそれほど遠くないからすぐに到着した。
「いらっしゃいませ。おや、蘭君。どうぞこちらへ」
軽く頭を下げてから、つぐみのお父さんに案内されたいつものカウンター席に腰を下ろす。
コーヒーの芳醇な香りが一番感じられる特等席。
あたしのお気に入りの場所だ。
しかも、つぐみのお父さんからよくサービスとして、試作のお菓子も貰えるおまけ付きだ。
「君と顔を合わせるのはクリスマス以来かな」
「どうも、お久しぶりです」
「あ、つぐみは今日、用事があるからといって帰るのが遅くなるそうだ。それと、
………この人はエスパーか何かかな?
いつもいつもあたしが来ることが分かってるように話してくるし、味の好みも完璧に把握している。
もうこれは、"流石プロ!"、と言わざるを得ない。
「ほんとっ、いつも通り美味しいです。このケーキも」
「お褒めに預かり感謝するよ。積もるところ蘭君は、私に用があってきたんだろ?」
「察しが良くて助かります。実は───」
ここからの話は早かった。
あたしの悩み、
だからこそ、全てをさらけ出して話すことができる。あたしがこんなに本心で話せる人はそうはいない。
「なるほど、学校の授業でチョコを渡す相手が葵君か………」
「はい………正直、なんだか複雑で………」
「確かに、学校の人気者にチョコを渡すとなると誰しもが緊張するね。ましてや、その相手が弟ときた」
「緊張とかはないんですけど、その………葵にチョコ渡そうとしていたクラスの子のチャンスを潰してしまったし………」
「………蘭君。運命とはなんだと思う?」
「えっ………?」
つぐみのお父さんの言葉の意味が理解できず、思わず戸惑ってしまう。
「運命とは必然。誰しもが必ず訪れる出来事のことだ。」
「運命は………必然………??」
「蘭君が葵君のクジを引いたことも、君たちが姉弟として生まれたのも、全ては運命。避けては通れない道といってもいい。」
「つまりは………どういう………?」
「君が他人のことを気にする必要はない。全ては君に与えられし運命だ、堂々としなさい。君なら素晴らしいチョコレートを、葵君に渡せるはずだよ」
…………はっきり言ってこの人の言っていることは、つぐみと違って難しくて分かりづらい。
それでも────────。
「ありがとうございます、つぐみのお父さん。私なりに頑張ってみます。ケーキとコーヒー、ご馳走様でした」
「うむ、こちらこそありがとう。気をつけて」
私も運命ってやつに、逃げずに立ち向かえるような人間になれたらいいな。
つぐみside
いつからだろうか?
仲の良かった4人組に蘭ちゃんと葵くんが加わったのは。
いつからだろうか?
誰よりも一生懸命に頑張ろうとし始めたのは。
いつからだろうか?
キミの後ろ姿を見てるだけで喜びを感じるようになったのは─────。
きっかけはいつも、突然訪れる。
それは、ひまりちゃんが葵君に告白したのも同じことだ。
そのきっかけは過去に遡ると思い当たる節は幾らでもある。
きっかけとは、偶然?
それとも、巡り合わせ?
否。私は、神様が定めた必然の運命なんだと思う。
だから、その運命には逆らうことはできないだろうし、運命そのものを変えるなんて到底できるはずがない。
それでも、私は他の人より恵まれていると言えるだろう。
優しい両親に仲のいい幼馴染がいつもそばにいて、生徒会やお店の手伝い、バンド活動など私のやりがいを感じられることがたくさんある。
─────それでもちょっぴり、他人の運命を羨ましがる時期もあった。
それは主に恋愛に関してだけど………私はまだ、誰かに告白されたことはないし、したこともない。
自分で集めている少女漫画に登場するような白馬の王子様に恋をしたいというわけじゃない。
むしろ、極普通でありふれた恋愛に憧れを抱いている。
それはまるで、葵君とひまりちゃんのような─────。
「つぐみ、少しだけいいかな?」
「………えっ!? あ、うん。大丈夫だよ」
お父さんに話しかけられ、現実に引き戻させられる。
「もう直ぐでバレンタインデーだから、チョコレートの新作お菓子を出そうと思っていてね。よかったらつぐみに味見をお願いしようと思ってね」
「うん、いいよ!」
そういうとお父さんは冷蔵庫から、あらかじめ作り冷やしていたチョコ菓子を三種類取り出した。
一つ目は、チョコクッキー。
クッキー生地全体にチョコレートをコーティングしており、所々にチョコチップをまぶして香ばしく焼き上げている。
ドリンクのセットはカフェモカ。
二つ目は、チョコマフィン。
これまた生地にチョコが練りこまれていて、クッキー同様にチョコチップをまぶしてある。大きさも抑え、二つに分けたようだ。
ドリンクのセットは温かいミルクココア。
三つ目は……チョコ大福かな?
生地はそのままに、中にチョコレートが入っている。見た目も丸々としていてなんだか可愛く見える。
ドリンクのセットはうちの店オリジナルのブレンド。
「…………っ!! どれも美味しいよお父さん!!」
「ははっ、そう言ってもらえると嬉しいよ」
実際、どれも本当に美味しい。
味はさることながら、食感もそれぞれ違って甲乙つけがたいし………。
「かなり悩んでるようだね、つぐみ」
………どうやらお父さんには見破られていたようだ。
「気にしなくても、全てメニューに加えるつもりだよ。ただ、この店の味をよくわかっている
「私の………ため?」
お父さんの言っていることが理解できず、首をかしげる。
すると、まるで私が何もわかってないと言ってるようにクスクスと笑いだした。
「な、何がおかしいの!?」
「つぐみ、まだ葵くんに渡すチョコが完成してないんだろ?」
…………全てはこの為だったのか。
何を作るかは頭の中にあったけど、それを作ることができるほど手先が器用ではない。それに、お父さんやお母さんにも頼る訳にはいかなかったから行き詰まっていたのだ。
「全く、すぐに抱え込む癖をやめなさいと何度も言っているだろ?」
「はい………ごめんなさい…………」
「それじゃあ、チョコ大福作りを教えるから、すぐに準備しなさい」
…………何もかも、お父さんにはバレてたみたいだ。
私ができずに悩んでいたところも、お父さんが丁寧に教えてくれた。
何だかあっという間に終わり、完成するのがあっけなくも感じた。
─────私が、この人みたいなバリスタになるには、何十年も先になりそうだ。
「そういえば、つぐみは付き合っている人とかいないのか?」
「…………えっ!?!?」
お父さんの急な問いかけに、思わず変な声を出してしまった。
それもそのはずだ。
今までそういう話はしたことなかったし、そういうのも興味ないと思っていた。
でも………思っていたに過ぎなかったらしい。この人も人の親なのだ。
「いやぁ、葵君とひまり君が何やらそういう関係にあるという噂を聞いてね。つぐみはそう言った相手はいないのかい?」
「きゅっ、急に聞かれても答えられるわけないじゃん!?」
「なるほど、いないのか……残念ではあるな」
「人の心を読まないで!!」
そう言うと、お父さんはからかうように笑った。
年頃の娘になんて話を投げかけるんだ、全く。
頬をムッと膨らまして不機嫌そうな顔をすると、お父さんは笑うのをやめて宥めるように話しかけてきた。
「つぐみ、これは蘭君にも言ったんだけどね、運命とは避けては通れない道。つまりはどんな苦難でも、逃げずに立ち向かわなくてはならない」
「どんな苦難でも?」
「人気者の葵君にチョコを渡すのは、さぞ緊張するだろう。だが、自分の本心を伝えたら彼には必ず伝わるはずだ。つぐみは私の娘なのだからきっとできるはずだよ」
「なるほど、ありがとう! お父さん!!」
お客さまがお父さんに相談を持ちかける理由が改めてわかった気がする。
これで私も晴れやかな気持ちで、葵君にチョコを渡せる気がする。
でもね、私は昔からお父さんにも、Afterglowのみんなにもずっと隠していることがあるんだ。
これは、絶対誰にも言えないこと。
葵くんに抱いたあの気持ちは─────。
モカside
「おぉ〜、世の中真っピンクで染まっておりますな〜」
バレンタインを間近に控えたとある休日。
モカちゃんが見ているのは、某ジャンケンで有名な、とある朝のニュース番組。
取材で、街中のカップルにバレンタインのことを聞いて回って、みんな恥ずかしがりながらもちゃんと受け答えしている。
大学生が多いけど、やっぱり高校生カップルに目がいく。
なんせ、一番近くにそれと同じものを見てるからね。
「これは、いじりがいがありますな〜♪」
ひーちゃんとあーくんもやっぱり、バレンタインは2人だけで過ごすのかな?
ラブラブな2人がやることと言ったら大体は想像がつくけど…………ウブな2人じゃそれもないかな。
「自分用のチョコはもう買ったし、あーくんにあげるチョコは手作りでいいかなぁ」
モカちゃんは天才だから、チョコ作りなんて、作り方の本を見なくてもできてしまう。
それすなわち、本さえ見ることができれば何でも出来るということ。
それでも世の中は不条理だ。
幾ら天才でも成せないこともある。
こればっかりは、天才モカちゃんにはどうしようもでなかった。
それでも、モカちゃんの好きな漫画にこんなセリフがある。
「未来を変える権利は皆 平等にあるんだよ‼︎!」
これは、とある海賊が敵キャラに向かって放った一言だ。
モカちゃんはこの言葉に衝撃を受けた。
そっか〜、そうだよねぇ〜。
両思いの幼馴染の未来を、モカちゃんが変えちゃってもいいんだよねぇ♪
あたしがあーくんに抱く恋心は、結局実ることはなかった。
ひーちゃんとあーくんが付き合ってることに納得いかないのも事実だ。
あたしだけ不平等だ………。
なんであたしだけ…………。
頭に凄まじいほどの血がのぼる────。
…………おっと、いけないいけない。
最近、感情の浮き沈みが激しくなってるから、みんなの前では気をつけないと。
普段はなんとなく制御できてはいるけど、1人になったらいつもこうだ。
お母さんにバレたら病院に連れていかれかねないし、幼馴染達にもバレたくない。
この苦しみは────あーくんを嫌いにならないと逃れることはできないだろうな。
まぁ、そんなこと絶対ないけど。
「ふぅ〜っ。………じゃじゃーん、モカちゃん特製バレンタインチョコかんせ〜い♪」
名付けて、"湧き上がる欲望チョコ"。
ナニが湧き上がるかは置いといて、これを食べた後のあーくんはきっと、『食べないほうがよかった』って後悔するだろうなぁ。
だって、この中には少量の
これを食べた後、あーくんはどんな行動に出ると思う?
いや、欲情しきった男が辿る末路はもう決まっている。
それを見たひーちゃんはどう思う?
そんな男を好きでいられると思う?
その時があたしの出るチャンスだ。
傷ついたあーくんを救うのは、誰よりも君を愛しているあたし。
─────そんな男と付き合うあたしは頭がおかしいって?
まぁ………周りから変な目で見られるだろうし、幼馴染達とはもう一緒にいられないだろう。
それでもあたしには関係ない─────。
「だって、こんなにも君を愛しているんだもん♡」
この歪んだ愛情が、暴走が、止まることは
もう
な
い
いかがだったでしょうか?
次回でバレンタイン編は最終となります。
そろそろ二年生編に突入したいですね………