Afterglow 〜夕日に焦がれし恋心〜   作:山本イツキ

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お久しぶりですっ、山本 イツキです!


そうUA数も75000回を控え、今回で第2ステージは終了となります!

次回から第3シリーズとして、2年生編の幕開けとなります。

亀投稿ですが、ご期待くださいませ


第39曲 チョコレートは 君のため 〜五等分の決意 後編〜

 葵side

 

 バレンタインというイベントは、思春期を迎える男女なら誰でも心躍らせるものだ。

 それは勿論、ボクも例外ではない。

 甘いもの、基スイーツ好きな身としてはこれ程嬉しいイベントはない。

 

 冷蔵庫にいっぱいになったチョコレート達を見るとつい笑みをこぼしてしまう。

 無論、それを蘭に見られたら『葵、なんかキモい………』と一蹴されてしまう。

 

 しかし、その人が気持ちを込めて作ってくれたチョコレートというものは、どんな形でも美味しいと感じるものだ。

 特に、Afterglow(おさななじみ)から貰うチョコレートには、どこか特別な感情を抱いている。

 

 普段、言葉に言い表せない感謝や想いが詰まったそれは、『ありがとう』の一言に尽きる。

 

 

 そして、今日は正にその日。

 例年よりも寒さをあまり感じさせない、煌びやかな陽の光が街を照らしている。

 春を迎えると言わんばかりのその光は、どこかバレンタインデーの開催を祝福しているように感じた。

 

 

 ───だが、例年と違うのは気温だけでは無い。

 

 

 いつもは時間に余裕を持って共に登校する蘭が、今朝から何故か慌ただしい。

 

 朝食を食べている時から、ボクを先に学校に行くよう促したり、鞄に荷物を詰めてはその中身を取り出してもう一度確認をしたり…………ハッキリ言って、見てられない。

 

 蘭に言われた通り、先に家を出て玄関を開けた先に、イメージカラーである赤色のマフラーを巻いた少女が立っていた。

 

 

 「よっ、葵! おはよう!」

 

 「おはよう、巴ちゃん。今日はどうしたの? 珍しいね」

 

 

 軽く手を挙げて挨拶した彼女の逆側の手には、紙袋が握られていた。

 

 

 「まぁ、特に理由はないんだけどな。なんか、今日はいつもより早く起きたから一緒に行けたらなぁと思って………蘭はどうした?」

 

 「準備するものがあるから先に行っててほしい、らしいよ?」

 

 「そっかー、でも今日は仕方ないだろうな。それじゃあ、早く待ち合わせ場所に行こうぜ!」

 

 

 巴ちゃんがニカッと笑って歩き出した後をついて行く。

 Afterglowの中でも一対一で話す機会が多い巴ちゃんと、今日もいつも通りの他愛もない話で会話を弾ませる。

 

 しばらく経って待ち合わせ場所までもう少しというところで、彼女は急に立ち止まった。

 そして、手に持っていた紙袋を無言で突きつけてきた。

 

 

 「これ、ボクにくれるの?」

 

 「えっと………一応、今日はバレンタインデーだから、その……アタシからの、感謝の気持ち。受け取ってくれるか…………?」

 

 

 普段は見せない表情をする巴ちゃん。

 少し赤みを帯びたその顔は、ボクの眼を真っすぐと見ている。

 紙袋を持っている手はプルプルと小刻みに揺れ、緊張と不安でいっぱいのように見える。

 

 

 「もちろん!有り難く受け取らせてもらうよ!巴ちゃん、ありがとっ!」

 

 

 そう言って紙袋を受け取り、中を見ると和太鼓の形でデコレーションされたチョコレートがでてきた。

 

 

 「葵が喜んでくれたなら、アタシも嬉しいよ! ホワイトデー、楽しみにしてるからな!」

 

 「あはは、すごいプレッシャーだね」

 

 

 こうやって軽口を叩ける巴ちゃんの存在は、ボクにとって非常に大きい。

 ひまりちゃんの事でよく相談も乗ってくれるし、蘭とはまた違う "姉" として接してくれる。

 

 彼女なら、きっと良いお嫁さんになりそうだ──────。

 

 

 

 

 

 

 学校に着いてからも、まるで漫画のような大量のチョコレートが下駄箱と机の中に入っていたり、手渡しされたりしてくれた。

 もちろん、巴ちゃんにもボクと同じ現象が起きていた。そしていつも通りモカちゃんたちにいじられ、本人もずっと苦笑の表情を浮かべていたらしい。

 

 昼休みになり屋上に向かう途中で、階段の壁からヒョッコリと顔を出し手招きする姿が見えた。

 

 

 自称銀髪美少女からのお呼び出しだ。

 

 

 屋上へのルートとは少し違う道を辿り、普段は使われていない理科準備室に連れ出された。

 

 巴ちゃん同様、大小二つの小包を持っていた。ボクもバカではない。目的は大体は察している。

 

 

 「あーくん、やっほ〜♪」

 

 「こんなところに呼び出して、どうしたの? モカちゃん?」

 

 「いや〜、あーくん人気者だからなかなか渡すチャンスがなくてさー。はい、これチョコレートね〜♪」

 

 

 

 そう言うと、片手で収まるほどの小包を受け取る。中身は当然チョコレート。

 ハートや星などの形に加えて、赤や白などカラフルでとても綺麗だ。

 

 

 「ありがとっ! モカちゃん!」

 

 「ふっふっふ〜、ホワイトデーは特大チョコレートお願いねー♪」

 

 

 

 悪戯に笑うモカちゃんだが、その笑みにどこか()()()を感じた。

 長年友達として付き合った者の勘………というのかな。なんとも言えない、不思議な感覚。

 

 

 「よかったらそのチョコレート、ここで食べてよ〜。溶けちゃったらモカちゃん、悲しいからさ〜」

 

 「うん、わかった!それじゃあ、いただきます」

 

 

 袋の中で一番目立ってた星型の青色のチョコレートを手に取る。

 見た感じはチョコミントかな? 一口でそれを頬張る。

 

 

 「お味はどう〜?」

 

 「やっぱりチョコミントだ! すごく美味しいよ!」

 

 「おぉー、よかったよかった〜♪ 全部食べてね〜」

 

 

 中に入っていた4つのチョコレートを全て食べきると、モカちゃんは満足そうにニコニコと笑っていた。

 

 

 「あーくん的にはどの味が好きだった〜?」

 

 「そうだなぁ……やっぱり、ハート型のピンクのチョコレートかな? あの甘酸っぱさがすごい印象に残ったな」

 

 「あー、それモカちゃんの自信作のやつだー♪」

 

 「本当に!? ちなみにだけど、なんのフルーツ使ったの? 最初は苺かなって思ったんだけど………?」

 

 

 ボクがそう問いかけると、モカちゃんは右手の人差し指を顎に当て、やや上に目線を上げながら答えた。

 

 

 「苺なのは正解だよー。でも、普通の苺じゃなくて、今回は "あまおう" を使ってみましたー。余った分は、今日のモカちゃんのお弁当に入ってるのですー♪」

 

 

 そう言うと、パァーッと花が咲くような笑顔で、持っていたお弁当を両手で上げた。

 

 

 「そうだったんだ!! 品種までは分からなかったなぁ、本当に美味しかったよ♪」

 

 「いえいえー、あーくんに喜んでくれてモカちゃんは嬉しいよ〜♪ ………あ、モカちゃん、教室に忘れものしたから先屋上に上がってて〜」

 

 「分かった! じゃあ先に行ってるね〜」

 

 

 ボクは駆け足で屋上に向かった。

 それにしてもあのピンクのチョコレート、何か違和感を感じたんだけど………気のせいかな?

 まぁ、事実美味しかったし、良しとしようかな。

 

 

 「────あはは〜、全部食べてくれた♪ 実は、モカちゃん特製の "湧き上がる欲望チョコレート" の本領を発揮するのは、()()()()()なんだよね〜」

 

 「でも、ひーちゃんは家に帰った後にチョコを渡すみたいだから、丁度いいかなぁ♪ モカちゃんのチョコでケダモノになったあーくんがどうなるか、だいたい想像つくよね〜」

 

 

 これであーくん(キミ)は、あたしのもの♡─────。

 

 

 

 

 

 

 お昼休みが終わり、残りの授業は全て調理実習に使われる。

 蘭と一緒に購入したチョコレートとその他諸々の材料を持ち、家庭科室にた移動する。

 

 

 先日の授業で決まった、ボクがチョコを渡す相手は──────まさかの実姉(らん)だったのだ。

 

 

 その紙を引いた時は本当にビックリした。

 それでも、少し早めのホワイトデーということにしよう、とすぐに頭の中を切り替えることが出来た。

 

 当の本人は………見たところ忘れ物もして無さそうだし、手順さえ間違っていなければ問題ないだろう。

 

 

 「それでは、調理実習を始めます。時間が限られてるので早めに完成しておくようにお願いします。冷やしている間に、ラッピングや手紙を書く時間を設けますので、そのつもりで進めてください」

 

 

 先生がパンッ、と手で音を鳴らし調理を開始する。

 調理………といっても、チョコを溶かして色々飾り付けをして終わりだから、普段お菓子作りをする身からしたらそれほど難しいとは感じない。強いて言うなら、テンパリングの温度調整ぐらいか。

 

 

 なんだか呆気ないな、と思いつつクラスで一番最初に完成させた。

 

 

 味は5種類で、抹茶、珈琲、ピーナッツ、キャラメル、バナナで全て蘭の好み通りにビターに仕上げている。

 余談だが、これらの味のモチーフはボクが小さい時によく食べていたお菓子、チョ◯ボールからきている。

 

 蘭の方を見ると、調理に集中にしているからか、ボクの視線は一切気づいていない。

 経験上、その状態で声を掛けたら何をされるか分かりきっているのでそっとしておく。

 

 クラスの子とも時々だが、笑い話をしながらできてるし過度な気負いもしていように見えた。

 

 

 先生に別室で待機するように告げられ、その教室にある椅子に腰を掛ける。

 机の上には、ハガキ程度の大きさの紙が置かれており、誰もいない教室は音一つ無く、"すごく寂しい" の一言に尽きる。

 

 蘭への手紙。24時間、365日、家族として共に育った人への感謝…………。

 

 

 「…………ダメだ、何を言ったらいいか全然わからないや」

 

 

 ボクは頭を抱え、深いため息をついた。

 ああ言えばこう言われる、という負の考えが脳内をよぎる。

 

 こういう場合、他の人なら幾らでも投げかける言葉は見つかるのだが、相手が相手だ。

 掛ける言葉がなかなか思いつかない。

 

 そう悩んでいると、ボク以外無人の教室の扉が突如開いた。

 

 

 「あ、葵くん! 今って大丈夫かな?」

 

 「えっ!? つぐみちゃん、なんでこんなところに!?」

 

 

 他クラスで授業を受けているであろう、つぐみちゃんの姿がそこにあった。

 

 

 「別に、サボって抜け出したわけじゃないよ!? 私のクラスでは、今は休み時間だから渡したいものを持ってきたんだよ!」

 

 

 そう言うと、モカちゃんのよりさらに小さい袋を渡された。中身は、言うまでもない。

 

 

 「ごめんね、こんなタイミングで………本当は朝に渡そうと思ってたんだけど、渡しそびれちゃって………」

 

 「いや、全然大丈夫だよ! ありがと、つぐみちゃん! ついでと言っては何だけど、ちょっと相談に乗ってもらってもいいかな?」

 

 「うんっ! 相談って?」

 

 「今書いてるこの手紙のことで何だけど、この手紙を渡す相手が蘭なんだ………」

 

 「えっ!? そんな偶然が………」

 

 「それで何を言ったらいいか分かんなくて、つぐみちゃんのアドバイスが欲しいんだけど………何かないかな?」

 

 

 そう問いかけると、つぐみちゃんは特に考えるそぶりを見せる事もなく答えた。

 

 

 「葵くんのありのままの言葉を伝えたらいいと思うけど………それがわからないんだよね?」

 

 「そう、なんだよね………」

 

 「それじゃあ、葵くんにしか言えないことを使えるってどうかな? 例えば─────」

 

 「……なるほど! その手があったか!」

 

 「蘭ちゃんになら、ちゃんと気持ちは伝わるはずだよ! あっ、もう直ぐて休み時間終わりだから教室戻るね。頑張って!」

 

 

 そう告げると、つぐみちゃんは駆け足で教室を後にする。

 それを境に調理を終えたクラスメイトが次々と教室に入り、手紙を書いていく。

 蘭は、一番最後で先生と共に教室に入った。

 

 手紙を書いてる時間は、半ば自由時間でクラスメイト達と雑談をしながらチョコが固まるのを待った。

 

 そして、15時を迎えたところで先生が家庭科室に集合するように告げた。

 それぞれ着席し、書いた手紙を先生に渡した。

 

 

 「今から、みなさんが作ったチョコと一緒に手紙を配布します。それでは出席番号順で、1番の人から取りに来てください」

 

 

 誰から貰えるか緊張すると共に、蘭がどんな反応をするか楽しみで仕方ない感情が湧き上がる。

 蘭の顔色を伺うと、いつも通りで表情の変化が全く見られない。誰に渡しても、渡されても心の準備ができているような、そんな強い意志を感じた。

 

 

 「それでは次に、美竹君。取りに来てください」

 

 

 先生に呼ばれ、手紙とチョコレートを受け取りに行く。

 ラッピングの色はオレンジで、中のチョコレートを見ると、綺麗に形付けられたものが並んでおり、緑・白・黒で彩られていたそれは、丁寧な調理が施されていることが伺えた。

 

 

 「これってもしかして…………」

 

 

 頭の中で、これを作ったであろう人物のある考察が浮かんだ。

 

 一つ、ボクが抹茶などの苦いものが好きなことを知っている人。

 二つ、部屋着でよくオレンジのパーカーを着ているのを知っている人。

 三つ、チョコペンで "バカ" と書かれたものを入れて、それをボクに言える人。

 

 

 

 このクラスにそれを実行できる人は、僕は一人しか知らない─────。

 

 

 「マジかよ……………!?」

 

 

 蘭の方を思わず見ると、ボクと全く同じ反応をしていた。

 互いに顔を合わせ、目で会話する。

 

 

 『なんであんたなの!?』

 

 『それはこっちのセリフだよ! あの時、ボクじゃないって言ってたじゃないか!』

 

 『本当の事なんて言えるわけないでしょっ!? それに、葵もあたしじゃないって言ってたし!』

 

 『………とにかく! この事は後でじっくり話そう! でも、チョコレートは有難く頂くからね』

 

 『あたしも、チョコありがとっ』

 

 

 姉弟の声を発さない会話を終え、チョコの実食をする。

 ………おっ、いい具合で苦い。

 どのチョコも適度な苦味とホワイトチョコなどの甘さ加減も繊細に仕上げている。

 

 普段はお菓子づくりをしないのに、凄いじゃん。

 

 そして、気になっていた手紙を見るとたくさんの言葉がここに綴られていた。

 

 『葵へ

  あの時は嘘言ってごめん。正直、これを渡す相手を変えてもらおうかとも思ってけど、やっぱり他の人に譲れなかった。いや、譲りたくなかった。

  葵はあたしの側でずっと支えてくれてるし、いつも相談にのつてくれるし、、すごく頼りにしてる。たまに喧嘩もするけど、本気で嫌いになったことは一度もないよ。

 

  この一年は、本当にいろんな事があったよね。バンドを始めたり、宿泊学習に行ったり、頭にへんな耳が生えてきたり、みんなで年越ししたり………話したらきりが無いよね。

  二年生になっても、みんなとたくさんの思い出作りたいな。バンドも、他のグループに負けないぐらい実力も付けたいと思ってる。

 

  最後になるけど、ひまりにはチョコは貰った? もうこの際だから、有耶無耶な関係じゃなくて、ちゃんと告白したら? ひまりはひまりで、すごく悩んでるよ。葵の彼女ヅラをしたらダメだとか。

  あたしはお似合いだと思うよ。もし、ひまりのこと泣かしでもしたら、絶対に許さないからね。

  それじゃあ、これからもよろしく。

                 蘭より』

 

 普段、口にしない言葉を並べた手紙というものは、人を素直な気持ちにしてくれる。

 

 

 ボクだって蘭のこと、すごく頼りにしているんだよ。

 

 もちろん、これからもたくさんの思い出をみんなと作ろうね。

 

 こちらこそ、これからもよろしく。

 

 そして─────────────。

 

 

 「ボクもずっとそのつもりだったんだよ」

 

 

 

 

 授業終わり、蘭が真っ先にボクの元に歩み寄ってきた。

 それも、顔を真っ赤にして………。

 

 

 「葵っ! これ、何!?」

 

 

 そう言って顔に突きつけられた紙には、ボクが数時間前に書いた言葉が綴られている。

 

 

 「何って………その言葉通りだけど?」

 

 「その言葉通りって………あんたには羞恥心のかけらもないの!?」

 

 

 息も絶え絶えになりながら、怒りと恥ずかしさがこもった声が教室中に響く。

 

 

 「酷い言い方だな………じゃあ、なんて言って欲しかったの?」

 

 「普通にありがとうっていうとか……いくらでもあったはずでしょ!」

 

 「『蘭へ。超ラブだよ! 姉弟として!!』これのどこが羞恥心のかけらもないって言うのかな?」

 

 

 蘭は先ほどの様子とは打って変わって、呆れたように深いため息をつき、ボクの前の席に腰掛ける。

 

 

 「だから、こう言う言葉はひまりに──」

 

 「実は休み時間中に、たまたま居合わせてたつぐみちゃんにアドバイスをもらったんだ。そしたら、『ボクにしか言えない言葉を蘭に伝えたらいい』って教えてくれたから、その通りにしたんだよ?」

 

 「つぐみの仕業だったんだ………」

 

 「普段言えないことを伝えるのが手紙だからね。どう? ビックリした?」

 

 

 悪戯に笑って見せると、蘭はボクから目線をそらし答えた。

 

 

 「まぁ………悪い気分じゃなかった/////」

 

 

 赤面した顔はその後、ボクに見せることは決してなかった─────。

 

 

 

 

 

 

 長い長い1日が終わり、家に着くと早速もらったチョコレートを全て冷蔵庫の中にしまい込んだ。

 今年の結果はと言うと、ボクが48個。巴ちゃんが33個でボクの勝ち(?)となった。

 

 ホワイトデーのお返しを考えると、ゾッとするけど今はこのチョコレートたちを堪能させてもらおう。

 

 

 

 しかし、二つ気がかりがある。

 

 

 一つ目は()()からまだ、チョコレートを貰っていないこと

 

 二つ目は、調理実習が終わってから頭の中でチラついている()()()()のこと。

 

 登校中も屋上にいた時も、彼女は全くそんな素振りを見せた記憶がない。忘れた………と言うことは間違いなく無いだろう。

 

 そして、この煩悩もおかしなものだ。

 思春期男子に必ず訪れる煩悩、もとい()()が止まるところを知らない。

 下校中はなんとか誤魔化してこれたけど、時間が経つにつれて症状はひどくなる一方だ。

 

 時は進み、20時半。

 夕食中も蘭の顔を極力見ないようにして、必死に煩悩を抑える。実姉にこんな感情を抱くなんて………なんと罪なことか。

 部屋に戻り携帯を開くと、メッセージが一件届いていた。

 

 

 『葵くん! 遅くなってごめんね! 今から会うことって難しいかな………?』

 

 

 来るべき時がやってきた─────。

 …………しかし、こんな状態のままで果たして大丈夫なのだろうか。

 

 今のボクは、何をしでかすかわからない。

 

 それでも、こんな煩悩より彼女のバレンタインチョコを貰いたいと言う気持ちが圧倒的に勝り、決心がついた。

 

 

 『もちろん! それじゃあ、神社の上で待ち合わせでいいかな?」

 

 『うんっ! 今から家を出るから10分後には着くと思う!』

 

 

 スタンプで返信を返し、軽い身支度をした後、すぐに家を出た。

 昼間が暖かかったとは言え、2月の夜となれば気温は尋常では無いほど下がる。

 

 軽い身支度とは言ったが、防寒対策は完璧と言っても過言では無い程の徹底ぶりだ。

 コートを羽織り、手袋とマフラーを着けているのは勿論のこと、モコモコのニット帽に加えカイロも二つ持参している。

 

 一歩外に出れば、雪が少量ではあるがしんしんと降り注いでいた。

 街灯の明かりと合わさって、幻想的な景色を作りあげている。

 

 ひまりちゃんを待たせまいと、少し駆け足で神社に向かう。

 長々とした階段も全て上りきり周りを見渡すと、、街の景色が一望できるベンチに腰掛ける一人の少女の姿が目に入る。

 

 ボクの足音に気づいたのか、声をかける前にひまりちゃんは立ち上がり、振り向いたと同時に笑顔で手を振ってみせた。

 

 

 「こんばんは、葵くん! こんな時間に呼び出してごめんね……」

 

 

 頬を赤く染めピンクのコートに身を包まれたその少女は、夜の雪景色と相まって更に可憐に見えた。

 

 

 「大丈夫だよ! 隣、座ってもいいかな?」

 

 「う、うんっ! 」

 

 

 ひまりちゃんが座っていた横に腰を掛ける。その距離、およそ10センチ。

 

 

 「昼はあんなに晴れてたのに、夜になって急に天候が変わったちゃったね」

 

 「明日も雪が降るって天気予報でやってたよ? 積もったりしないかなぁ♪」

 

 「そしたら『みんなで雪合戦やろ〜』ってモカちゃんが言い出しそうだね」

 

 「たしかにっ! それでわたしが集中的に狙われるんだろうな〜……」

 

 

 しばらく雑談をした後、ひまりちゃんが何かをする為の準備をするように、胸に手を当て大きく深呼吸をしてこちらに顔を向ける。

 

 

 「えっと、渡すの遅れてごめんね…………これ、バレンタインのチョコレートなんだけど…………食べてくれる?」

 

 

 目を潤ませ、心配そうにこちらを見つめる。

 煩悩を必死で抑え、今のひまりちゃんと誠心誠意向き合う。

 

 

 「ありがとっ!! 正直、ひまりちゃんからは貰えないかなってすごく不安だったんだ」

 

 「そ、そんなわけないよ!! 学校は他の人が渡すだろうし、葵くんには一番美味しい状態で食べて欲しかったから…………」

 

 「なるほど、それじゃあ早速だけど頂くね!」

 

 「うんっ! どうかお口に合いますように」

 

 

 受け取った箱の中身を見てみると、赤・青・ピンク・黄・濃い茶・橙色の、After glowカラーで統一されていた。

 とてもカラフルで、食べる前からこのチョコレートたちに魅了される。

 

 

 「これ全部手作り!?」

 

 「悩みに悩んで、やっぱりこれが一番いいかなって思ったの! 私たちらしさが前面に出た自信作だよ!」

 

 

 一つ一つ、時間をかけてゆっくりと味わっていく。

 そして、残るは一つ。ボクのイメージカラーとなっている橙色のチョコレート。

 この色を出せるものと言ったら、みかんが妥当だが、果たして………。

 

 

 「あっ! やっぱりみかんだ! 甘酸っぱくてすごく美味しかったよ!」

 

 「えへへ、正解! さすが葵くんだね♪」

 

 「─────!!」

 

 

 ひまりちゃんの笑顔を見た瞬間、ボクの中にあった煩悩が遂に爆発した。

 

 数秒の沈黙が流れる。

 

 不思議そうに見つめるひまりちゃんに、何も言わずそっと抱きしめた。

 そのまま優しく押し倒し、ひまりちゃんの肌の温度を直に感じる。

 

 

 「ごめんね、ひまりちゃん…………今だけは何も言わないで、こうさせてほしい………」

 

 

 頬にそっと触れてみると、尋常ではないほどの熱を感じた。

 体も硬直して動けない上に、全く喋れない状態にあるようだった。

 

 

 「どうしても抑えられなかった………どうしても………」

 

 

 そういうと、ひまりちゃんもボク同様に背中に手を当て耳元でそっと呟いた。

 

 

 「う、うん……あ、葵くんが……落ち着くまで、ずっと……こうしてても……いいよ/////」

 

 

 手も声も震え、呼吸も荒い。

 ドキドキと、ひまりちゃんの心臓の音が聞こえてくるようにも感じる。

 

 数分も経つと、ようやく落ち着きを取り戻した。耳元でもう大丈夫と囁くと、ひまりちゃんの手が離れて、互いが少し距離を取る。

 

 ひまりちゃんの顔は、今まで以上に赤く、紅く、緋くなっていた。

 

 

 「実は、放課後になってからなんだか調子がおかしくて…………欲望が抑えられないというか、いつもより昂ぶっているというか………不思議な感覚があるんだ………」

 

 「そ、そうなんだ………急でビックリしたけど落ち着いたようでわたしもホッとしたよ」

 

 「うん、ありがとっ、ひまりちゃん」

 

 

 少々……というか、かなり複雑な雰囲気になった。

 もう、数十分前の自分を叱りつけたい。

 頭の中で考えていると、ひまりちゃんがこの沈黙を破った。

 

 

 「でも、わたしは嬉しかったな。葵くんがこういうことしてくれて///」

 

 

 はじめは彼女が何を言っているか分からず、何も返答できなかった。

 ひまりちゃんはそのことを察して、俯きながらだが話を続けてくれた。

 

 

 「今まで、付き合っているか曖昧な関係だったし、葵くんはそういうの興味ないかなって思ってたから…………その、私もすごい昂ぶったよ/////」

 

 「…………うん、蘭からも似たようなことを言われたんだ。正直ボクもこんな曖昧な関係で、ひまりちゃんに迷惑じゃないかなってずっと思ってた。でも、もうそんな事関係ない。これからはもっと自分の気持ちに素直でいたいとおもう…………!!」

 

 「わたしも………!! もう誰になんて言われても、胸を張って言いたい! わたしが葵くんの彼女だって………!」

 

 

 互いに顔を合わせて、口を揃えて言った。

 

 

 「ボクと付き合ってください」

 「わたしと付き合ってください」

 

 

 この時、二人の思いがようやく実った。

 嬉しさのあまり涙が溢れて止まらなかった。この曖昧な関係に終止符を打ち、今日から正式的な関係になったのだ。

 

 涙を拭っていると、今度はひまりちゃんがボクに抱きつき、押し倒してきた。

 服越しなのに、ひまりちゃんの鼓動が聞こえてくるような気がした。

 

 押し倒されたボクはそのまま、四つん這いに体制を変えたひまりちゃんに指導権を握られ、動けなくされる。

 

 

 「わたし、ずっと前から覚悟はできてるよ………? もう…………()()()()()()()♡」

 

 

 完全にひまりちゃんのスイッチが入った。

 ボクのズボンに、ひまりちゃんの小さな手が触れ、これからナニが起きるか完全に理解した。

 

 

 「ひまりちゃん、そういうのはまだもっと先でも─────」

 

 「わたしは、ずっと我慢してきたんだもん………! 葵くんだって、嫌じゃないでしょ…………?」

 

 

 もう、こなったら手段は一つしかない。

 ひまりちゃんの顎に手をそっと添え、彼女の唇に自分の唇をあてがう。

 何秒でも、何十秒でも─────。

 

 

 「まだボクたちは高校生だよ? それに場所が場所だ。こういうことはまたの機会でいいかな?」

 

 「………もうっ! 葵くんの意地悪! 自分からそういう空気か持ち出しといて!」

 

 

 プクーっと頬を膨らませたひまりちゃんの頭を軽く撫でて、ベンチから立ち上がる。

 乱れた服を整え、階段をゆっくりと降りていく。この時に時間はすでに、22時を超えていた。

 

 ひまりちゃんを家まで送り、別れを告げて歩き出そうとすると、今度は後ろからボクに抱きついてきた。

 

 

 「また明日ね! 葵くん♡」

 

 「うん、また明日!」

 

 

 神様、ボクたちは誓います。

 

 

 これからどんな辛いことや、悲しいことが起きても。

 

 

 二人で必ず乗り越えてみせます。

 

 

 そして、近いに将来必ず───────

 

 

 

 幸せな家庭を築くことを約束します。




いかがだったでしょうか?


ちょっと危ない展開もありましたが、R18指定にするつもりはありません!


初の10000時超えて読みづらかったと思いますが、感想・評価お待ちしております。

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