たくさんのお気に入り登録、本当にありがとうございます。
終結までご愛読していただけると幸いです。
今回からそれぞれのメンバー視点の話になります。
青い空、白い雲、ジリジリと照らす太陽。
アタシたちは高校生になって、二度目の夏を迎えた。
ゴールデンウィーク最終日の夜に、葵とひまりが何者かに襲われて今も病院に入院中だけど、未だ犯人はわからないまま。
防犯カメラなどもなく、捜査は一向に進展しない。
歯痒い想いなのはずっと変わらないけど、アタシに出来ることなんてたかがしれている。
だからこそ、ずっと続けているお見舞いを欠かしたことは一度たりともない。
夏休みを目前にして短縮授業となった今日、アタシはあこを連れて病院へと訪れた。
冷房の効いた居心地の良い院内。
太陽に灼かれ吹き出るように流れた汗をタオルで拭い、先に葵のいる集中治療室へと足を運ぶ。
「ねぇ、おねーちゃん」
「どうした?」
エレベーターに乗り二人きりになったそのとき、あこは口を開いた。
「Roseliaがね……………解散しちゃうかもしれないんだ……………」
「Roseliaが!?」
信じ難い言葉に思わず大きな声を出す。
「友希那さんも、雄樹夜さんも、リサ姉も、紗夜さんも、りんりんも……………誰も話さなくなったの」
「そっか…………」
「Afterglowは、どうなの?」
「アタシたちは─────」
そう口にした途端、言葉が詰まった。
現状、アタシたちもRoseliaと大差ない状況にある。
その状態の証明として最もわかりやすいのが、誰一人として二人一緒にお見舞いに行ったことがないことにある。
いつもならありえないんだ。
どんなに喧嘩をしても必ず誰かが誰かと一緒にいるし、"独り" にさせることなんてアタシたちには決してなかった。
だけど、今はそれが起きている。
そう─────全ての要因は、このアタシだ。
『個人でお見舞いに行く』とアタシが言ってしまったからみんなが誘いづらい状況にあるに決まっている。
アタシから誘うことも考えたけど、言い出しっぺがこれを解消するのも少し違う気がする。
あの日からずっと平行線のまま。
"幼馴染" と名乗るのも烏滸がましいほど関係が薄くなっているんだ。
「おねーちゃん?」
「あ、ああ。問題ないぞ」
「そっか…………さすがおねーちゃんたちだね!」
いつも通り、なんてとても言えない。
言えるはずがない。
羨ましそうに笑うあこを見ると、胸が締め付けられるような痛みが迸る。
愛想笑いを振り撒き、嘘を嘘で固めた今のアタシはどんな顔をしてるんだろうか?
醜い?
それとも不細工か?
いずれにせよ、葵とひまりに合わす顔がないよな──────。
「あこ。葵とひまりに会う時は、くれぐれもよろしく頼むな」
「うんっ!任せて!」
笑みを浮かべるあこに、アタシもぎこちなさの残る笑みを返す。
こうして再び、嘘を重ねていく。
……………………
……………
エレベーターを降り、角を曲がるとそこに幼馴染はいる。
大掛かりな機材。
閉鎖的な室内。
瞳を閉じ横たわる葵。
何度も見た光景だけどやはり慣れるものじゃないな。
「あおちゃん…………まだ眠ったままなんだね」
「ああ…………」
あこは来たのが初めてだから、驚きを隠せないでいる。
知り合いや友達が突然寝たきりになる、なんてことは人生においてそう経験することはない。
まだ幼いあこも、この現実を受け止められていないようだ。
「はやく、目覚めると良いね」
「そうだな。また一緒に、ラーメン食べに行きたいよ」
「あおちゃんってラーメン食べるの?」
「誘ったらよく来てくれたぞ?見た目通り少食でな、あっさりした味が好きだったな」
「おねーちゃんは根っからの豚骨醤油好きだもんね!」
「べ、別に他の味が嫌いってわけじゃないぞ!?ラーメンは大好きだし、その中でも豚骨醤油が好きなだけで……………」
「あ〜、なんだかラーメン食べたくなってきちゃった!おねーちゃん、お昼はラーメン食べに行かない?」
「おお、いいぞ」
「やった〜!それじゃあ、あこ、トイレ行ってくるね」
「待ってるからなー」
あこの底抜けな明るさには本当に救われる。
今日は本当に一人で来なくて正解だった。
泣かない、絶対泣くもんかって心に決めてもどうしても耐えきれずそれに反することをしてしまう。
あこがいなくなって二人きりのこの状況。
ダメだ…………独りになると、やっぱりダメだ。
ガラスに手を当て、向こう側にいる葵に呟く。
「なあ、葵……………今のアタシ、どんな顔をしてるんだ?」
どれだけ話しかけようが、葵から言葉が帰ってくることはない。
それでもアタシは、口を閉ざすのをやめない。
「『似合わない』って思ってるよな。葵とひまりには何度も恋愛相談をされたことがあったし、聞いてて本当に嬉しかったんだ。羨ましいと思ったよ。二人は今本当に幸せなんだなって。なのに、どうしてだろうな──────」
ガラスに当てた手をギュッと握り、強く叩く。
「悔しい……………本当に、悔しいんだよ……………」
アタシは堪えきれず、ポロポロと大粒の涙を流す。
「葵とひまりは、相思相愛だったんだ……………なのに、どうして………………アタシじゃなかったんだ!!!」
独りよがりの叫びが二人しかいない空間に響く。
「葵の代わりに……………ひまりの代わりに……………アタシが……………こうなればよかったんだ…………」
そして、膝からズルズルと崩れ落ちた。
止めどなく溢れる涙。
腕でいくら抑えようが流れ落ち、濡らす。
本当に運命は残酷だ。
アタシのような普通の人間が生き、二人のような幸せ者が不運に合う。
"神様" が本当にいるなら一発ぶん殴ってやりたい。
『二人の幸せの邪魔するなっ!!』って一喝してやりたい。
それが叶わないのであれば、アタシが身を投げても良い。
二人の将来が安泰であればそれでいいんだ。
だから、アタシを────────
「巴。もう泣かないで」
アタシの肩に手を当て、聴きなれた優しい言葉をかけた人。
振り向くとそこには、幼馴染がいた。
「蘭……………っ!!」
「ハンカチ持ってないの?ほらっ、これで拭いて」
そういうと蘭は、制服のポケットから花柄のハンカチを取りアタシに差し出す。
それを受け取り、涙を拭う。
「今日は一人?」
「いや……………あこもいる。今はトイレだけど…………」
「そっか」
蘭はそう言うとアタシの横で壁にもたれかかり、三角座りをする。
「巴のそんな弱気なところ、久しぶりに見た」
「……………誰にも、見せないようにしてたからな」
「巴も、泣くんだね」
「うっさい……………」
独りぼっちから解放されてようやく落ち着きを取り戻す。
「ってか、どこから聞いてたんだよ。まさか、初めからいたなんて言うんじゃないよな?」
「あたしが来た時には、巴は泣き崩れていたよ。大丈夫。何も聞かなかったから」
「は、恥ずかしいこと言うなよ……………!」
「なんで?別にいいじゃん」
「よくないんだよ!アタシは、強いアタシでいなくちゃダメなのに…………こんな…………」
俯きながらそう話すと、蘭はアタシの額目掛けてデコピンをする。
あまり、というか全く痛くなかったけど、思わず額を抑えた。
「な、何すんだよ!?」
「弱音は吐かない。葵だって、きっと悲しむよ」
「……………………悪い」
「あたしもね、葵が手術してる時はずっと泣いてた。死んじゃうかもって、ネガティヴな感情に押し潰されてた。でもね、なんだか葵が側で『大丈夫。ボクは必ず生きてみせるよ』って言ってるように聞こえたんだ。現に、葵はこうやって生きている。あたしの弟は、絶対嘘はつかない」
「そうか……………」
「だから、あたしは決めたの。葵の前では絶対泣かない、弱気にならないって。でも、葵の前にいざ立つと……………いろんな出来事を、思い出して……………」
涙声になる蘭。
涙は流さないけど、ずっと目の中で溜めている状態だ。
そんな蘭を、アタシは肩に抱き寄せた。
「泣いたっていいんだぜ?葵だってきっと許してくれるだ。『気にすることはないよ』って笑いながら、な」
「うん……………ありがと」
「なあ、蘭」
「なに…………?」
「これからはさ、一緒にお見舞いに行かないか?独りだと、やっぱりダメだからさ」
「うん、いいよ」
「ありがとうな」
「みんなも、誘おうよ。つぐとモカはああ言ってたけど絶対に来るはずだよ」
「そうだな。今度来る時は、みんなでだな」
「うん。葵もきっと喜ぶはずだよ」
アタシたちは立ち上がり、葵にまた来ることを伝え帰ろうとすると、あこが帰ってきた。
二人から三人へ。
今度は、ひまりのいる病棟に向かう。
***
ひまりの両親から聞いた話だけど、ひまりは"医療保護入院" として病棟の出入りが自由にできる開放病棟にいるらしい。
けど、その姿を見たことはこの数ヶ月で一度たりともない。
そう、一度たりともだ。
他の幼馴染にも聞いてみたが、誰一人としてひまりを見た人はいない。
まるで、自ら会うのを拒んでいるようだ。
けど、アタシは今ひまりがどんな状態だとしてもちゃんと話がしたい。
ひまりの心の闇を振り払いたい。
例えそれが、お節介だったとしても──────。
「今日こそは、会えるといいな」
「うん。早く会いたいね」
「えっ?まだひーちゃんと会ったことないの?」
「ああ、実は…………そうなんだ…………」
「今日は会えるよ。きっと」
「そうだね。あこも信じてるよ!」
無邪気に笑うあこ。
その姿を見てアタシと蘭も微笑ましい気持ちになる。
アタシたちはしばらく歩き、病棟の受付にいる看護師さんに話しかけた。
「すみません。上原ひまりの友達なんですけど…………」
「面会お願いします」
そう告げると、看護師さんはニコリと笑い病室まで案内してくれた。
廊下の隅にある一人部屋。
"上原ひまり" と名札が掲げてあるその一室の扉をノックする。
「ひまり、巴だ。入っていいか?」
──────返事はない。
鍵がかかってないことを確認し、恐る恐る扉を開ける。
入るとそこには、大きな窓が開いていて白いカーテンが風で靡いている。
備え付けのベットには綺麗に畳まれた布団と枕があるだけで、ひまりの姿はどこにもいない。
「今日もいなかったか……………」
そう呟き落胆する。
「もしかして、トイレにいるんじゃないの?」
「…………そうだな。そうに違いない」
「少し待ってみようか。ひまりと入れ違いになったら嫌だし」
アタシたちは部屋にあったソファに三人同時に腰掛けると、あこはあたりをキョロキョロと見渡す。
「どうした、あこ?」
「ひーちゃんの部屋なのに、全然物がないね」
あこはそう言うと首を傾げる。
確かにその通りだ。
本来のひまりの部屋にはぬいぐるみが多く飾られていて、内装もピンクでまさに女の子らしさ満点になっている。
対してこの部屋は、ベットとアタシたちが座るソファ以外に何もない。
なんだか寂しい。そう感じてしまうほど閑散としていた。
「病室なんだし、そう簡単に模様替えなんてできないでしょ」
「そっかぁ…………」
「せっかくだし、今度ひまりの部屋から何か持ってきてやるか?」
「そうだね。ぬいぐるみとか良さそう」
「うんっ!あこも持ってくるー!」
「その前にひまりのお母さんたちの許可を得ないとダメだけどな。それにしても、ひまりは一体どこにいるんだろうなぁ…………」
アタシたちがこうして話している間にも、ひまりが現れる気配すらなく時間だけが過ぎていく。
30分、1時間待っても帰ってこなかった。
痺れを切らしたアタシは立ち上がり、扉の前に立つ。
「巴?どうしたの?」
「おねーちゃん?」
「ちょっと、飲み物買ってくるよ。二人は何が飲みたい?奢るぞ」
「やったー!あこ、オレンジジュースで!」
「あたしはお茶」
「わかった。すぐ帰ってくるからな」
二人にそう告げ、扉を開ける。
「……………………ッ!!!」
扉を開けたその先には、アタシが待ち焦がれた顔がそこにいた。
互いに驚き硬直する。
「ひ……………ひま……………!」
アタシが声をかけようとしたその時、ひまりは背を向け走り出した。
何も言わず、まるでアタシから逃げるかのように─────。
扉の前で立ち止まるアタシに蘭がゆっくりと近づく。
「ねぇ、何かあったの?」
「ひまりが……………ひまりがいた!」
「えっ!?」
「アタシ、探してくる!」
「ちょっ、巴!?待って!!」
蘭の静止を振り切りアタシはいなくなったひまりを探しに走り出す。
……………………
……………
「ハァ……………ハァ……………。ダメだ、見つからない」
10分ほど走り回り、アタシの体力が底をついた。
手を膝につき切らした息を整える。
頭から抜けていたけど、ひまりはテニス部のエースで都大会でも上位に位置するほどの実力者だ。
テニスの実力だけでなく、スタミナも瞬発力もある。
体型がどうとか、体重が増えたとかずっと嘆いているけど、抜群の運動神経の持ち主だ。
アタシもダンス部に所属していて運動には自信があったけど、どうやらひまりには敵わないようだ。
「どこ行ったんだよ……………ひまり」
どれだけ心配したところでひまりは出てこない。
アタシは探すのを諦め、トボトボと歩き病室に戻る。
扉を開けると、あこと蘭がソファに座って待ってくれていた。
「ひまり、見つからなかったんだね…………」
どうやら蘭は表情で察したようだ。
アタシは何も言わず、二人の座るソファに腰掛ける。
「おねーちゃん?」
「なんで────逃げるんだよ」
ひまりの考えがわからず、モヤモヤとした気持ちが押し寄せる。
「きっと、ひまりもびっくりしたんだよ。巴も、追いかけ回したらダメだよ」
「うっ……………それは、ごめん」
「でも、会えたんだからいいんじゃないかな?また今度来ようよ!」
「そうだな。つぎ、
アタシはそう誓い、三人で部屋を出た。
(それにしても、ひまり……………痩せすぎじゃなかったか……………?)
さっきの光景を思い出す。
あまりに唐突の出来事で何も言えなかったけど、ひまりにしてはおかしな点がいくつもあった。
やつれた顔。
目の下のクマ。
そしてあの怯えるような目。
『あれは本当にひまりだったのか?』と懐疑的になるほどだったのだ。
葵のことで相当悩んでいるんだろう。
ほんの少しでいい。
ひまりの背負ったその "重り" を肩代わりしてやりたい。
(次に会った時はみんなで、ひまりを元気づけるんだ)
そう密かに心で誓った。
いかがだったでしょうか?
早く目覚めるといいですね。
ひまりの動向も気になるところ……………。
次回もどうぞお楽しみに