今回は同じく久々の登場、主人公くん目線の物語です。
「ここは──────どこ?」
気がついたらボクは真っ暗な空間にいた。
あたりを見渡しても、暗黒の世界が広がるだけで他には何も映らない。
ボクは確か………そう、偽モカに首を掻っ切られたはずだ。
「……………………っ!!」
そのことを思い出し、咄嗟に首に触れる。
切られ…………てはないな。うん、ちゃんとくっついてる。
よかった、と心の中で一安心する。
「それにしても、何も見えないな。携帯は…………ポケットの中か」
ボクはそう呟き、携帯のライトを辺り一面を照らす。
明かりが灯る光景を目にした感想は "無" 。その一言だけだった。
周りに何も何もなければ、暑くもなく寒もなく、室内か屋外かすらわからない真っ白な空間がそこにはあったのだ。
しんと静まり返る無の世界。
そんな寂しい所にボクは独りポツンと立っている。
「行かなきゃ」
そんな衝動に駆られ、一歩、また一歩とゆっくり前進する。
光を照らさなければ何も見えない暗がりの道。
それはまるで、これからどうなるかわからずにいるボクの心の中を表すようだった。
だけど今のボクには、この携帯のように道を照らしてくれるような人はそばにいない。
ボクにとってそれは幼馴染たちである。
その中で1番の光を放つのはもちろん
持ち前の明るい性格でみんなを和ませてくれる彼女は、幼馴染たちにとって、そしてボクにとって非常に大切な存在。
当たり前で無くなった今、独りぼっちはここまで寂しいものなんだと実感させられる。
(どこを見ても同じ風景だ……………本当に、前に進んでいるのかな?)
そんな懐疑的な気持ちまで湧いてきた。
ネガティヴな思考が脳内を駆け巡り、決して離れようとはしない。
無駄、無意味、無理、虚無。
この空間と同じ無の感情が押し寄せる。
「早くみんなに会いたいな」
ボクは独りそう呟き、暗がりの道を突き進む。
……………………
…………
あれから、どれだけの時間歩いただろうか?
いずれは壁に突き当たると思っていたけど、一向にその気配がない。
それどころか、目にする光景に変化が訪れることも決してなくただただ殺風景な空間が広がっている。
これ以上歩いても何も起きないと確信したボクは、その場で立ち止まり携帯の電池残量を見る。
残り28%。
これ以上使い続けたら電池がすぐに無くなるのは目に見えてるし、電波も受信していないから助けも呼べない。
携帯がただの鉄の塊になる前に、何か打開策がないか考えようとしたその時だった。
圏外と示す携帯に一件のメールが届く
『東に200歩。南に256歩。西に63歩』
方角と歩数が記された謎のメール。
ハッキリ言って、何か良からぬことが起きようとしているのは間違い無いだろう。
しかし、こんな無の空間にずっとはいられない。
この状況を打破してくれるなら本望だ!
そう考えたボクは携帯で方角を調べ、指示された方へ歩き歩数を数える。
「61………62…………63」
指定された歩数を歩きその場に立つと携帯の着信音が鳴った。
発信者は不明。ボクはその電話を出る。
『もしもし?』
『───────葵くん?』
『………………っ!?』
ボクの名を呼ぶ声の主は、ひまりちゃんだった。
随分と久しぶりに聴いたと錯覚するその声が聞けて嬉しくなり、高揚する。
『ひまりちゃん!?ひまりちゃんなの!?』
『うん。そうだよ。あの時は…………本当にごめんね』
『謝るのはボクの方だよ。ひまりちゃんには辛い思いをさせたよね…………』
『ううん。
涙声で話すひまりちゃん。
今きっと彼女はどこかで泣き崩れているはずだ。
はやく──────。
一刻も早く彼女に直接謝りたい。
そんな衝動に駆られる。
『今どこにいるの?すぐ近くにいなくてもいい。ボクは必ず、キミに会いに行くよ』
『……………ホントに?』
『ああ!もちろんさ!』
『そっか、やっぱり葵くんは優しいんだね』
『これが普通だよ』
『だから、
「──────お前のことが、大嫌いなんだ」
「………………えっ?」
携帯からではない、突如耳元から発せられた言葉。
それは電話と同じ声、ひまりちゃんから発せられたものだった。
振り返る間もなく体中に大電流が走る。
「な…………………んで………………」
ドサッとその場に倒れ込み、ボクは無意識の世界で意識を手放した。
ひまりちゃんは片手に持っていたスタンガンをポケットにしまい、ボクを抱え前に進む。
「葵くん──────大っ嫌いだよ。世界中の誰よりも、ね?」
彼女はそう呟き不敵な笑みを浮かべた。
***
「う、うーーん……………」
目を覚ますと先ほどの暗さとは違い、陽の光に照らされたような明るさが場を包んでいた。
しかし、違うのは明るさだけではない。
目に映る光景全てが一変した。
まず、ボクはまるで磔のように手足を木の十字架に縛られ高さ五メートルほどの位置にいる。
その高所からあたりを見渡すと、大量の黒い棺が無造作に置かれていた。
墓場と言うにはあまりにも不気味な場所。
大量の棺の中心には誰かもわからない顔写真が貼り付けられていると同時に、赤く染まった凶器の数々が添えられていた。
その赤色の正体も容易に想像がつく。
この棺全てに遺体があると考えるだけで気分が悪くなる。
ボクもきっとこのまま彼らの仲間入りなんだろう。
「あっ、ようやく目覚めたね。おはよう。気分はどうかな?」
足場も何もない、宙に浮いた状態で隣にいたひまりちゃんはボクに問う。
「最悪だよ。目覚めにこの光景は実に不快だね」
「そうかな?みんな苦しみから解放されて、安らかに眠りについてるんだよ?何が不快なのか私にはわからないなあ」
「……………あのさ」
「なに?」
「いい加減その姿でいられると、ボクも怒るよ」
「えっ!?私を疑っているの!?」
「ボクをからかっているつもりなら、本当に不愉快だ。つぐみちゃん、モカちゃんときて、次はひまりちゃんか…………キミは本当に悪趣味だね」
「…………なんだ、つまんないの」
不満気に頬を膨らますと、ひまりちゃんの全身が真っ黒な霧に包まれた。
数秒も経つと白いワンピースを着た長い黒髪の女性が姿を表す。
メガネをかけてはいるが決して目つきは鋭く無く、背丈はボクより少し低いぐらいに位置し、ボクと目が合うや否や小さく笑う。
「それが、キミの正体なの?」
「その通り。初めまして、と言うべきか?」
これまでとは違い、正真正銘の女性特有の声だったがどこか口調は男勝りだ。
「そうだね。よかったらキミの名前を教えてくれないかな?」
「名前?今の私にそんなものはない。それに、生前の名前も教える気もさらさらないぞ」
「ずっと、キミ呼ばわりするのも失礼だと思ったんだけどそう感じてくれていないなら結構だよ」
「ああ。私もお前を名前で呼ぶことは決してない。お前はお前で十分だ」
仲良くなる気はない。
そう否定するように話す彼女は膝を立てるように着座する。
「単刀直入に言おう。お前は今は死んでいない」
「『そしてここは私が作り出した世界だ』とでも言うのかな?」
「話が早くて助かる。この世界から脱出しない限り、お前が現世で目覚めることは絶対にない。どれほど治療をしてもな」
「そっか。キミこそ話がわかりやすくて助かるよ。つまりは、この磔の状態からどうにかして抜け出してこの世界から目覚めろと?随分と無理難題を言ってくれるね」
「クスクス。お前がこの下の奴らと同じ運命を辿るのも時間の問題だと言うことだ」
この状況はいわば、ゲームで言うところの超ハードモード。
目の前のラスボスを倒さない限り先には進めないってところかな?
もちろん彼女を倒す手段すらなければ、身動き一つ取れやしない。
ハッキリ言って絶望的な状況だ。
脱出するヒントもない。
触れることすらできない目の前の女性。
動かせない両手両足。
さて、どうしたものか…………。
「キミはそう言うけど、
「………………」
ずっと饒舌だった彼女は途端口を閉ざす。
肯定したと受け取っていいだろう。
「何か理由があるのかな?キミ自身の趣味か、ボクを殺したらデメリットがあるのか─────ううん、考えたところで正解するなんてことはない。とりあえず、ボクが今すぐあの世に行くことはなさそうだ」
「…………おしゃべりがすぎるな」
彼女の声に怒りが籠る。
「ボクって結構おしゃべりなんだよ?幼馴染たちの前では自己主張がないって姉「らん」にはよく言われるんだけどね」
「そんなことはどうでもいい。お前の推察を今ここで否定してやってもいいんだぞ?」
彼女はそう言うと立ち上がり、手に黒い霧を集めあの時に首を掻っ切った黒鎌を手に取るとボクの首にあてがった。
黒鎌を握る手に力が入り小刻みに動く。
彼女の真っ直ぐとこちらを見る目線が合うと、ボクは大胆に笑ってみせた。
静かすぎる空間にボクの笑い声が響き渡る。
「何がおかしい!?」
この状況を理解できず焦りの色を見せる彼女。
「いやあ、随分と必死になっているようだからおかしく思えてね。もっと肩の力を抜きなよ。そんなんじゃあ、ボクの首を飛ばすことはできないよ?」
「貴様……………!今お前が置かれてるこの最悪の状況がわからないのか!?」
「もちろんわかってるさ。だけど、死ぬのが怖くないと言ったら嘘になる。ボクだって生きたいさ。もっと長く、あの幼馴染たちとね」
「ならなぜ──────」
「ボクは、一度死んだんだ」
彼女の言葉に被せるようにボクの言葉を乗せる。
一つ呼吸を置き、再び話を続ける。
「首を斬られ、血飛沫をあげ、みるも無惨に、ね。だけど、あの時死んだのはボクであってボクじゃない。あの時キミが殺したのは、心が弱くて欲もない、みんなの顔色を伺ってばかりの "弱者の
「くっ……………!」
何か気に入らないのか、彼女は歯軋りしながらボクを睨む。
黒鎌を持つ手にさらに力が加わり小刻みな振動がより大きくなる。
数秒と経ち、彼女は力み声を上げると手に持っていた黒鎌が消え去り再び着座する。
「……………私が言うのもなんだが、お前、本当に肝が据わってやがる」
「以前のボクならこうはならなかったさ」
「今ここで殺すのはヤメだ。ここで痩せこけ、無様に枯れ落ちていく様を見届けてやろう」
「別に構わないよ。その代わり、ボクの提案に乗ってくれるかな?」
「なんだ。言ってみろ」
「──────ボクの話し相手になってくれないかな?」
「はぁ?」
「どんな話でもいいんだ。ボクが一方的に話すのはつまらないから、キミのことも教えてほしい。生前の記憶、経験、ここにきてからの話も、全てね」
「まあいいだろう。その口が達者なうちはな」
「それじゃあ、早速始めようか。まずは─────」
歪な関係であるボクたちは、その関係通りの対面で会話を行う。
いかがだったでしょうか?
今後、彼が目覚めることに期待ですね。
みんなが待っている!
最後になりますが、感想、評価お待ちしています。