Afterglow 〜夕日に焦がれし恋心〜   作:山本イツキ

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お久しぶりです。山本イツキです。
 
お気に入り登録、評価本当にありがとうございます。


今回は少しグロ要素があるので苦手な方は閲覧しないようよろしくお願いします。


第55曲 モカの夢

 空を飛ぶフランスパン。

 止めどなく溢れるマーガリンの滝。

 足を踏みしめると押し返してくるような弾力の食パン。

 

 ここはモカちゃんワールド。

 

 モカちゃんのモカちゃんによるモカちゃんの為の世界。

 もちろんこんなところは現実世界のどこにも存在しない。

 そう、ここは夢の中。

 

 モカちゃんの創造により誕生した、1ヶ月に数回しか見ることのできない理想郷である。

 

 

 「さてさて〜、今日は何を食べようかな〜?」

 

 

 あたしの周りを彷徨くふわふわ生地のパンたち。

 その中からキラキラと煌めくメロンパンを手に取り思いきい頬張る。

  

 

 モグモグ。

 

 

 「う〜〜ん、デリーシャ〜ス♪」

 

 

 外はさっくり中はふんわりとしたカリカリもふもふのパン生地に濃厚なバターの香り。

 甘美な味わいがいく層にも重なったこの至高の一品に舌鼓をうつ。

 一つ、また一つ手に取り全てをぺろりとたいらげる。

 

 

 「ふぃ〜、ごちそうさま〜♪」

 

 

 満足そうに手を合わせ、新たなパン探しのために足を進める。

 なんたってここは現実ではない。

 まるで胃袋がブラックホールの如く上限の無いモカちゃんの食欲。

 いくら食べようがゴロゴロと寝ていようが 、夢だから"太る" なんてことは決してあり得ないから、それが続く限りはいくら食べても構わないのだ。

 

 是非ひーちゃんにも─────

 

 

 「あ〜っ……………」

 

 

 その名前を告げようとした瞬間、思わず口を閉ざす。

 いつもならこの揶揄い言葉に頬を膨らませて怒る幼馴染だけど、もうその光景を随分と見ていない。

 それどころか、Afterglow(あたしたち)全員で集まることすらままならない状況にある。

 どこかみんなよそよそしく感じるからかな。

 あたしと誰かの二人きりでお見舞いに来ることはあるけど、3人以上で行く事は決してない。

 全員の予定がピッタリ合わないというのもあるけど、それ以上に、誰かが欠けた状態で集まっても()()()()()()()()()()()()ことが大きい。

 それはあたしだけが考えてることだろうけど、やっぱり全員がいてこそのAfterglowだと思うし、これからもそうでありたい。

 

 モカちゃんって、ワガママな子。

 悪くいえば我が強いのかな?

 

 難しい事はよくわからないけど、譲れないものがあたしにもあると言う事だ。

 

 

 「独りぼっちって、寂しいんだね」

 

 

 あたしだけの世界にその呟きはスッと消える。

 

 

 「そんなことはない」

 

 「……………!?」

 

 

 誰もいないはずの場所に突如女の人の声が響く。

 前後左右、あたりを見渡してもその声の主は姿は見えない。

 困惑するあたしに姿を見せない声の主はクスクスと笑い言葉を続ける。

 

 

 「まだ確認していない方向があるだろう?」

 

 

 まさか、という思いを抱え上空を見上げる。

 そこには白いスカートをひらひらと靡かせたおねーさんがあたしを見下ろしながら手を振る。

 

 

 「はじめまして、と言うべきか?青葉 モカ」

 

 

 全く身に覚えのないおねーさんはどこか親しげに話す。

 

 

 「……………だーれ?」

 

 「()()姿()を見ただけでは当然の反応か。私は、お前たちが "偽つぐ" と名付けた霊の本当の姿だ」

 

 「ヘェ、結構美人さんなんですね」

 

 「おいおい、褒めたところで何も出ないぞ?」

 

 「だいじょーぶ!何も出なくても、あたしのそばにはパンたちがいるのでー」

 

 「お前も物好きだな」

 

 「美味しいですよー?おひとつどうですかー?」

 

 

 あたしはそう言いクリームパンを差し出す。

 

 

 「私はいい。甘いものはどうも好かん」

 

 

 どこか口調が男っぽいそのおねーさんとはどうやら好みが合わないらしい。

 ならどうしてモカちゃんワールドにいるのかな?

 

 

 「それで、おねーさんはあたしに何の用ですかー?」

 

 「用、用か……………」

 

 

 おねーさんは顎に指を置き考えるそぶりをみせる。

 

 

 「単純にお前と話がしたい」

 

 「話?別にいいですよ〜」

 

 「立ち話もなんだ、用意しよう」

 

 

 おねーさんはそう言い指をパチンっ!と鳴らすと、真っ白のガーデンテーブルとチェアが出てきた。

 これは─────魔法というやつなのかな?

 それとも特殊能力?

 まるで漫画に出てきそうなシーンを再現してかっこいいー!と心の中で大はしゃぎする。

 

 

 「紅茶も注いである。まあ、座るといい」

 

 「ありがとうございまーす」

 

 

 おねーさんの言葉通り、あたしはチェアに腰掛ける。

 

 

 「話ってなんですか〜?」

 

 「そうだな……………"私とお前の共通の話題" とだけ言おうか」

 

 「初対面の人と共通の話なんてないと思うけどな〜」

 

 「遠回しに言うのも良くないな。なら、ハッキリ言おう。美竹 葵についてだ」

 

 「……………!」

 

 

 あーくんの名前が出てあたしは目を大きく見開いた。

 今は昏睡状態の幼馴染。

 おねーさんが彼の何を知ってるかわからないけど、語り合うような思い出がこの人にあるのかな?

 

 

 「おねーさんはあーくんのお知り合いですかー?」

 

 「知り合いも何も、初めて会ったのはあの日………夜の体育館だった。おまえもあの場にいただろ」

 

 「ん〜、正直に言うとあの日の記憶ってあんまりないんですよねぇ。それに、あの日から全然時間は経ってないし、思い出なんてないじゃないですか〜」

 

 「そんなことはない。私はずっとみていたぞ。お前たちのことを」

 

 「ヘェ…………」

 

 

 随分気味の悪いことを言う。

 この人は言わばこの世に存在してはいけない、成仏されていない幽霊だ。

 微笑ましく覗いているどこぞのアニメキャラとは違い明らかに憎しみに似た感情を持ってあたしたちを見ていたんだと思う。

 とてもじゃないけど笑って聞き流せる話ではない。

 

 

 「高校の入学から今日の日までずっと、な。とても仲の良いグループだと思ったよ。友達なんていなかった私が思わず嫉妬してしまいそうなぐらいだ」

 

 「それはどーも」

 

 「だからこそ、あの2人が付き合い始めてからは実に滑稽だったよ。平行線だった関係性が突如波打ったんだからなぁ」

 

 「別におねーさんにカンケーなくないですか?」

 

 「確かにその通りだ。だが、崩れゆく人間関係を見るのは大好きでな。仲違い、対立、いがみ合い……………いやあ、どの言葉も響きが良い」

 

 「あのー、モカちゃんたちはそんな風になってないんですけど」

 

 「……………だからこそだよ」

 

 「えっ?」

 

 「何故貴様らの関係性は悪くならない!?まして貴様らには双子の姉弟がいる!普通ギクシャクするものだろう!?なのに2人をまるで応援するかのように他の奴らは…………………!!はぁ、ほんっとうに虫唾が走る」

 

 

 独りよがりに怒るおねーさんに多少驚きつつも、あたしはクリームパンを一口齧る。

 

 

 (何言ってるんだろ、この人)

 

 

 クリームの糖分が脳にたどりつき、活性化する頭の中でよーく考える。

 議題は『この人は何が目的か』ということだ。

 ここはモカちゃんの夢である以上、モカちゃんの都合で物事が進んでいくはずなのに、異物────おねーさんが現れた。

 この人がただ愚痴を言う為だけにあたしの前に姿を現すわけがない。

 パンの消滅?

 いや、そんなくだらないことじゃない。それが目的であればあたしなんかよりパン屋の定員さんの前にでも化けて出ているはず。

 この夢の中での可能性を考えると…………パンを除けば一つしかない。

 

 

 (モカちゃん、大ピンチかも)

 

 

 だとすれば一大事だ。

 今すぐにでも夢から覚めて逃げたいところだけど、そんな方法はどこにもない。

 それに逃げたところでまたこの人は現れる。

 逃げの一手は封じられた。

 

 ならばどうするか?

 おねーさんに感づかれないように話を進めるしかないだろう。

 

 

 「少し落ち着いたらどうですかー?」

 

 「……………そ、そうだな。私としたことがつい熱くなってしまった」

 

 

 おねーさんはそう言い自分で淹れた紅茶を口に含む。

 そして、心を落ち着かせるようにふぅっと、ひと息つきついた。

 

 

 「お前たちを見ていた、と話していたな」

 

 「そーですね」

 

 「もちろんあの2人だけを見ていたわけじゃないぞ。全員隈なく観察していた。その中でも特に面白いと感じたのが青葉 モカ、お前だ」

 

 「あたしが面白いんですか〜?」

 

 「ポーカーフェイスを装ってはいるが、(なか)における感情の変化は実に顕著だからだ」

 

 「………………ヘェ…………………」

 

 「特に、美竹 葵と関わっている時の変化がすごくてなぁ。……………あっ、そういえばお前はよく美竹 葵にちょっかいをかけていたよな?」  

 

 「ええ、まあ」

 

 「その理由は自分でわかってるのか?」

 

 

 まるであたしを揶揄うように話すおねーさん。

 しかも、全て知っているかのような口ぶりだ。

 

 

 「ダンマリか?なら、私の口で言ってやろう。お前も奴のことが好きだったからだ」

 

 「………………ッ!」

 

 「好きだからあの男にちょっかいをかけた」

 

 

 違う。

 

 

 「好きだから上原 ひまりのことが許せなかった」

 

 

 …………違う。

 

 

 「好きだから、あの2人の関係が羨ましかった!」

 

 

 ───────違う!

 

 

 「そして何より、奴より先に告白ができなかった自分のことが嫌いだった。違うか?」

 

 

 違う!!!

 

 

 「黙り込む必要はない。私は、お前のことをなんでも知っている。殺してしまいたいほど2人のことを憎んでいたんだろう?だから、私が代わりに「やってやったんだよ」!!」

 

 

 ───────えっ?

 

 いま、なんて………………?

 

 

 「おねーさん」

 

 「なんだ?」

 

 「さっきのことば。もう一回言って」

 

 「黙り込む────」

 

 「そこじゃない。最後」

 

 「最後?私が代わりにやってやったってところか?」

 

 

 やった?あーくんを?

 ということは、あーくんとひーちゃんを襲った犯人って…………。

 

 

 「おねーさん。一つ聞いても良いですかあ」

 

 「ああ。構わないぞ」

 

 「あーくんとひーちゃんをあんな風にした原因って……………おねーさんなの?」

 

 

 あたしの真剣な眼差しを向けた質問に、この人は釣り合わないニタァっとした笑みを浮かべ応える。

 

 

 「ああ。その通りだ」

 

 「………………………!!」

 

 「気に入らなかった。だから襲った。花火大会の日、2人はデートの真っ最中だったんだろう。お前の姿で現れたらさぞ驚いていたぞ。上原 ひまりには逃げられたが、美竹 葵の首を掻っ切った瞬間はもう最高だったなぁ!血が派手に吹き出してな、最後は奴が涙を流しながら…………」

 

 「もう、喋らないで」

 

 「あぁ?」

 

 

 事件の真相は分かった。

 もうこれ以上、この人と話すことは何もない。

 

 

 「お前が何を考えてるかは知らんが、提案だ。私と手を組まないか」

 

 「なんで?」

 

 「お前は私の良き理解者になってくれると踏んだからだ。共に幸せに思う人間を妬む同士な。ああ、そういえば、上原 ひまりは私のことを警察や親に話さなかったらしいな。全く、馬鹿な女だ。いや、それ以前に私と言う存在を証明する方が難しいか。はっはっは!!」

 

 

 顎を上げ高らかに笑うおねーさんを見て、あたしの堪忍袋の尾がぷつんと切れた。

 

 

 (もう、許さない)

 

 

 ここは夢の中。

 それも、モカちゃんとこの人の2人だけしかいない空間だ。

 ここで何が起きようが他人に知られることは決してない。

 

 そう、ここは夢の中。

 現実ではあり得ないことがあり得るこの世界では、自由。

 だから、頭の中で想像したものが突如出てきてそれを扱うことも容易いということだ。

 モカちゃんが頭に描いたもの─────それは、乾燥してガチガチに固まったフランスパン。

 おねーさんがやった要領で指をパチンっと鳴らし、それを出す。

 

 ……………うん、良い硬さだね。

 

 あたしは音を立てずスッと立ち上がり、無警戒なおねーさんの前頭部目掛けて思い切り振り下ろした。

 ゴンッ!と鈍い音が二人だけの空間に響き渡る。

 

 

 「がはっ!」

 

 

 テーブルにあったティーカップがおねーさんと共に倒れ派手に割れていく。

 肝心の彼女はと言うと、両手で頭を押さえ大量の血を流していた。

 あたしはその光景を見下ろしながら眺める。

 

 

 「キッ……………キサマ………………っ!!!」

 

 

 "憤怒" という言葉を体現するような顔つきであたしを睨むおねーさん。

 そんな彼女にあたしは冷たく問いかける。

 

 

 「あーくんも、こんな風になったんだよね?こんなにいっぱい血を流して……………辛かったんだろうね。ねえ、おねーさん。今、どんな気持ち?」

 

 

 あたしはもう一度、彼女の血がこびりついたフランスパンを頭目掛けて力一杯振り下ろした。

 今度は手に当たって肌の色が変色し、また、彼女の吐血でパンが血で赤く染まる。

 

 

 「私を、殺したところで………………どうにも………………ならないぞ……………!?」

 

 

 漫画でありがちの捨て台詞。

 

 

 「ヘェ。そっか」

 

 

 あたしの問いかけに答えないおねーさんに三度パンで殴打する。

 そこからは同じことの繰り返しだった。

 無感情にパンを振りかぶり、下ろす。

 どれだけ苦しもうが血溜まりができようが、あたしは変わらずパンを振るう。

 辺り一面に血が飛び散り、頭は真っ二つに割れ頭蓋骨も崩壊寸前。

 痛みで抑えられなくなった両手に至っては、常人の3倍は膨らんでいるほどだ。

 モザイクがかかるほどのグロテスクな光景。

 現実世界なら大ニュースになるほどの暴力行為だ。

 

 フランスパンが血で真っ赤に染まり切ったところであたしは殴るのを止める。

 おねーさんが、ピクリとも動かなくなったからだ。

 

 

 「はぁ………はぁ……………ふぅ」

 

 

 一呼吸おき、荒い息遣いを整える。

 

 

 「痛かった?苦しかった?それとも、気持ちよかった?……………いずれにせよ、あーくんの辛い気持ちを理解できたなら、それでいいんだよ」

 

 

 あたしがそう言い切ったところで、血塗れのおねーさんは突如として消え去った。

 それはまるで、モカちゃんの問いかけから逃げるような。そんな気がした。

 あたしも赤いフランスパンを指で鳴らし無かったことにする。

 

 

 さっきまでとは違う静かな空間。

 あたしはその場に座り天を仰ぐ。

 

 

 「あーくん、ひーちゃん。悪霊はやっつけたよ。だから──────早く、戻ってきてね」

 

 

 心の底から思うその言葉。

 幼馴染たちの帰還をあたしは待つ。




モカちゃん怖い、とにかく怖い。



でも、悪霊退散はスッキリ。

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