物語もいよいよ最終回間近なりました
もう少しお付き合いいただけたら幸いです
みんなと久しぶりに話をして1週間。
わたしは未だに面会を躊躇っている。
やっぱり、怖いんだ。
今まで会えなかったことや連絡できなかったことで申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
先日にあの日以来電源を入ることがなかった携帯を開いてみると、何百件と言うメールが届いていた。
家族、友達、そしてAfterglowのみんな。
その一つ一つのメッセージを見てわたしの目から涙が溢れ出した。
どれもこれもわたしを心配や励ましの言葉ばかり。
誹謗中傷の言葉はひとつたりともなかった。
(みんな、優しすぎるよ……………)
迷惑ばかりかけているのに。
わたしなんて必要のない存在のはずなのに。
「ひまり。あたし、蘭だよ。入っていい?」
そう考えていると蘭の声がドア越しに聞こえてきた。
いいよ、と起きあがらせたベッドに背中を預けたまま声をかけると蘭は少しばかりの笑みを浮かべて部屋に入る。
「今日は、いい天気だね」
窓から刺す光を見つめながら蘭は嬉しそうに口を開いた。
あれからも蘭は毎日来てくれている。
『無理してこなくていいんだよ』と言っても蘭は『あたしが来たいだけ。ひまりがもし嫌なら言って』と言われた。
決して嫌というわけじゃないから断る理由もなく今に至る。
蘭はクールで、友達思いで、とても優しい子。
その優しさに今わたしは支えられている。
「ご飯は食べれてる?」
「……………」
わたしは首を横に振る。
「そっか、無理して食べなくていいから少しでも栄養取ってね」
「うん……………」
この病院の食堂は夜中まで空いていて、自分のタイミングで食べることができるけど、その料理をわたしはほとんど口にすることはない。
食欲が湧かないというのもあるけど、それ以上に喉に通した後に襲ってくる吐き気が問題だ。
原因はお医者さんにもわからないみたいだけど、今は点滴で必要最低限の栄養素を補っている。
「学校は、いいの……………?」
「もう、冬休みに入ったからね。あたしも家に帰っても何もすることがないからよかったら話そうよ」
「うん…………」
「そうだな、まずは─────」
蘭は悩んだそぶりを見せつついろんな話をしてくれた。
学校のこと、プライベートのこと、Afterglowの様子など様々だ。
わたし自身、素っ気無いなと思いつつも蘭の話すことに返事を返し言葉のキャッチボールが生まれる。
とても懐かしい感じだ。
「ねぇ、ひまり」
「………………なに?」
数十分話したところで蘭は椅子から立ち上がり、窓の外を眺めながら話を切り出す。
「天気もいいことだし、外に出てみない?」
蘭からの突然の提案。
何を考えているかわからないけど、わたしの答えは決まっていた。
「……………うん。いいよ」
即座に返答すると、蘭は嬉しそうに笑った。
そのまま蘭は看護師さんを呼んで車椅子を用意してもらいそれに座る。
ずっと病室で動かなかったせいか、歩くことも困難なほど足が痩せ細ってしまった。
たまにリハビリで歩行練習もするけどまだおぼつかない状態。
今ではテニスをすることなんて夢のまた夢だ。
蘭に車椅子を押してもらい、部屋を出た廊下を歩いてる時何かの演奏の音が耳に入る。
「……………………?」
「ああ。そういえば、今ここでハロハピがライブやってるの」
「ライブ……………」
「よかったら見に行ってみる?」
その提案に今度は首を縦に振る。
正面からは流石に嫌だけど陰ながらでよかったらと思い頷いた。
少し歩いたところにある娯楽施設に、5人のメンバーとそこに群がる子供やその親たちがたくさんいた。
「みんな、とっても素敵な笑顔ね!それじゃあ次の曲いくわよー!」
ボーカルのこころちゃんの声が病院中に響き渡る。
元気溌剌、意気揚々とした姿だ。
楽しそうな歌声。
キラキラと輝く笑顔。
こころちゃんとその仲間たちの演奏で、入院して辛い思いをしている子どもたちが元気をもらっているんだと見てとれた。
でも──────今のわたしにはあまりにも眩しすぎる光景だった。
こころちゃんたちには申し訳ないけど、わたしが元気になることは決してない。
やっぱり、見るんじゃなかったかな。
「はい、"ハロー、ハッピーワールド !"さんの演奏でしたー!」
「みんなー!聴いてくれてありがとー!」
司会者の看護師さんの声の後、こころちゃんは大きく手を振り娯楽室をあとにする。
拍手喝采の室内。
その盛り上がりは5人が退場したあとも収まることはなかった。
「すごくいい演奏だったね」
微笑みながらそう呟く蘭。
「うん…………」
「この後も色んなグループが演奏するみたいだから、よかったらみていかない?」
この後は外に出るだけだし病室に戻ってもただ座っているだけ。
断る理由はどこにもなかった。
「続いては、"Roselia" の皆さんです!」
看護師さんの呼び声でRoseliaのみんなが入場する。
「Roseliaです。早速だけど、いくわよ」
友希那さんの声とともにRoseliaの演奏が始まる。
その次に出てきたPastel*PaletteもPoppin’Partyも…………これってもしかして─────
「ひまり。ごめん」
唐突に謝る蘭。
「外に出て話した、って言ったのは嘘。本当は、ひまりに
ステージを真っ直ぐみながら蘭は語る。
正直、Roseliaが出てきたから薄々は予感していたところがあった。
ここから去ろうと思っても蘭はその場から動かない。
今日他のバンドのみんなが病院へきてくれたのは、きっと私の為。
全て蘭の計画によるものだったのだ。
「無理に、とは言わない。けど、ひまりに聴いてほしい。あたしの歌を。ううん、
蘭はそう言いあたしの元から離れステージへと向かい、それと同時に舞台裏から、モカ、巴、つぐが入場する。
みんなの顔を見るのは久しぶりだ。
みんなが所定の位置に着く。
「本日のステージの主催、Afterglowです。沢山の方々に来ていただき本当にありがとうございます」
蘭の挨拶がはじまり、それを聞く子供や親たちの視線が集まる。
「今日のステージを開いた理由は一つ。ここにいる幼馴染と弟に聴いてほしかったからです。今日きてくれたバンドの皆様、そして聴いてくださっている皆様、本当にすみません」
蘭たちは深々と頭を下げる。
「二人はこの半年以上もの間ずっと苦しんでいました。一人は昏睡状態に陥り、一人は心に深い傷を負い今も病と戦っています。あたしたちでは想像がつかない辛い思いもしたでしょう。そんな中、何もしてあげられないあたしは……………あたしは……………」
堂々と話をしていた姿から一変、声は涙を含むものへとなり言葉が途切れる。
その姿に、わたしの目からも涙がこぼれた。
蘭は手で涙を拭い、話を続ける。
「少しでも二人の力になりたい。心の支えになりたい。だから────あたしはあたしにできることをやります」
蘭の視線が舞台裏に向き、そこから二人の看護師さんが出てきた。
二人はそれぞれ、わたしのベースとスタンドマイクを持っていて、それを所定の位置に置く。
それはまるでわたしたちもそこにいるような、そんな感じがした。
「二人は病になんて絶対負けない。皆さんも同じです。人は、諦めなければなんだってできる。強い心を持てば必ずやり遂げられる。そんな勇気をあたしたちは届けます。聴いてください『ON YOUR MARK』」
蘭からの言葉が終わり、それぞれが演奏の大勢に入り音を奏でる。
わたしの、知らない曲。
みんな、この日の為に必死に練習してきてくれたんだ。
「〜〜〜♪〜〜〜♪」
必死に歌う蘭。
にこやかな表情でギターを弾くモカ。
優しい笑顔でキーボードを弾くつぐ。
ニカっと楽しそうに笑う巴。
みんな……………みんな、すごい。
見入ってしまうほど、みんなの演奏は完璧だった。
あの日からこれまで、感情が揺れ動くことは決してなかった。
光が失われたわたしの瞳に映るのは、暗く沈んだ世界。
そんな寂しく閉ざされた世界を吹き飛ばすような、そんな歌声。
蘭はまるでわたしに訴えかけるように見えた。
『ひまり、早く戻ってきて』と。
「ひぐっ………………うぅっ…………」
溢れ出した涙が止まらない。
わたし、いいのかな?
みんなと一緒にいて、本当にいいのかな?
『当たり前だよ!ひまりちゃんは、何も悪くない!』
「…………………!?」
ここにいるはずのない葵くんの声。
それは、わたしの妄想か幻聴か。
蘭の歌声に乗り、葵くんからも励ましの言葉が聞こえてきた。
「葵くん…………………」
睡る彼の名を呼ぶ。
もう聞こえることはなかったけど、彼ならきっとこう言う。
『ひまりちゃんが気にすることはない』と。
蘭たちの演奏を聞いてわたしの思いは決まった。
まずは、みんなに会って謝ろう。
演奏が終わるとわたしは他の子供や親たちよりも真っ先に、大きく拍手を送った。
感謝の意を込めて。
みんな、ありがとう。
葵くん。わたし、前に進むよ。
固く閉ざされた心が今、開いた。
***
ステージでの演奏を終え、わたしは蘭に車椅子を押してもらいながら外へと出る。
空は青空から夕暮れに差しかかり、太陽も綺麗なオレンジ色で照らされていた。
わたしたち以外には誰もいないテラスに着き、そこにあるベンチに3人の姿があった。
「ひまり……………」
「ひまりちゃん……………」
「ひーちゃん……………」
巴、つぐ、モカは心配そうにわたしをみる。
それもそのはずだ。
これほど変わり果てた姿をしていたら誰だって驚く。
「みんな、久しぶり、だね…………」
わたしは弱々しく話を始める。
「さっきの演奏、カッコよかった……………とっても…………」
「ひまり?」
「みんな……………ごめんね、心配、かけて…………………」
わたしは涙ながら謝る。
半年間みんなとの面会を拒んでいたこと、連絡を途絶えていたこと全てを含めて。
罵倒されることも覚悟していたけど、わたしの幼馴染はやっぱり優しかった。
わたしのそばに寄り添い、そっと抱いてくれた。
「ひまりが気にすることないんだぞ」
「私は、ひまりちゃんが元気でいてくれたらそれでいいんだよ」
「モカちゃんは、ひーちゃんを信じてたんだよ〜」
「ひまり。もう泣かないで」
「うぅ………………みんな……………」
わたしは本当に人に恵まれている。
こんなに人を想ってくれる友人に出会えたことに今はただ感謝するしかなかった。
「よしっ!ひまりとも話すこともできたし、食堂で何か食べてくか?もうアタシお腹ぺこぺこでさ〜」
「ふふっ、久しぶりにお客さんの前で弾いたし、疲れちゃったのかもしれないね」
「パンはあるのかな〜?」
「モカってパンしか食べないよね」
「いやいや、そんなことないよ〜。主食と主菜がパンなだけだよ〜」
「もうそれってほとんどがパンじゃん」
そのやりとりにみんなが笑顔になる。
この感じ、本当に懐かしい。
いけない、また泣いちゃいそうになった。
今日はずっと泣いてばかりだ。
「ひまりは大丈夫?あまりお腹空いてない?」
「わたしはみんなが食べるのをみてるよ。それに、みんなの話をたくさん聞きたい、かな」
「わかった。じゃあ食堂に行こうか」
わたしたちは食堂へと向かう。
…………………
…………
「いやー、あそこのラーメンも美味しかったなあ!」
「ともちんもラーメンばっかり食べてるよね〜」
「結局モカもパン食べてたじゃん」
「二人は全然変わらないね」
久しぶりの幼馴染との会話は楽しかった。
他愛もない、何でもない光景だったけど今のわたしにとってはかけがえのないものだ。
「ねえねえ、この後どうする?」
「せっかくだしこのままどこかで話すのもいいんじゃないか?」
「うん!私も賛成!」
「あたしもそれでいいよ。ひまりは?」
「わたし………?わたしは………………」
みんなの視線がわたしに集まる。
「………………葵くんに、会いたい………………」
「「「「!?」」」」
今のわたしにすること────それは、葵くんと会って直接謝ることだ。
偽物のモカから逃げて、彼を置き去りにしてしまったことをわたしはずっと後悔していた。
ずっとずっと自分のことを責め、彼にもしものことがあれば死ぬことだって考えていたほどに。
今日みんなに勇気をもらって、わたしはようやく決心がついた。
彼の顔を見て、直接謝ろうと。
「ダメ、かな………………?」
わたしは恐る恐るみんなの顔を見る。
「ひまりが行きたいって言うなら、あたしもついていく」
「もちろんアタシも!」
「私も!」
「あたしも〜」
わたしの提案に意義を唱える人はいなかった。
「決まりだね。それじゃあ行こうか」
わたしたちは葵くんの元へと向かう。
食堂を出て賑やかな廊下を渡り、エレベーターで上に上がる。
エレベーターを降りるとそこには物音一つ聞こえない静寂な空間が広がっていた。
わたしのいたところと随分と違う雰囲気。
みんなの表情を見ても、なんだかこの空気に慣れているような気がした。
「葵は、こっち」
蘭はそう言い車椅子を押す。
長い廊下をしばらく進むと、無音の空間に電子音が一定の速さで鳴る音が聞こえた。
「ここが………………葵くんの………」
大掛かりな機材が据え付けらた真っ白な病室。
大きな窓ガラスの向こう側でベットの横になる葵くんを見てわたしはふらつきながらも立ち上がった。
「葵くん…………………葵くん……………!」
窓ガラスに手を当て何度も彼の名を呼ぶ。
幼い頃からずっと呼び続け、その度にわたしの名を呼び返事を返してくれる彼は未だ眠ったまま。
小さかった彼の顔はさらに小さく細くなり、肌もまるで雪のように真っ白になり、髪もところどころが白くなっていた。
「葵くん………………なんで、こんな……………」
彼の今の姿を見て、何度目かもわからない涙がわたしの目から零れ落ちる。
「ひまり…………」
そんなわたしに蘭はそっと肩に手を置き支えるを
「ひまり、葵に何か言ってあげて」
「うん……………」
わたしは片手を胸に当て眠る葵くんの顔を見ながら口を開いた。
「葵くん……………あの時は、逃げ出して……………ごめんね。わたし、みんなにも……………ひどいこと、しちゃったの」
途切れ途切れになりながらも言葉を続ける。
「葵くん、お願い………………どうか、目覚めて………………。わたしは……………葵くんのことが─────」
ピピピッ!ピピピッ!!
「っ!?」
わたしの言葉を遮り、葵くんの部屋にある機械のデジタル音が急に大きな音へと変わる。
これは明らかに普通じゃない。
間違いなく命の危険を知らせる音だ。
「なんで、こんな急に……………!?」
「つぐ!モカ!先生に連絡だ!」
「「わかった!」」
モカとつぐは走り出す。
「葵くん…………!葵くん……………!」
わたしは必死にガラスを叩く。
数分としないうちに先生と看護師さんが大慌てで病室に入る。
「ご家族に連絡は!?」
「完了してます!」
「ダメだ、心臓が止まっている…………!至急、電気ショックの準備だ!」
「はいっ!」
先生たちもとにかく必死だ。
「葵くん……………!葵くん……………!」
「葵!嘘だよな……………」
「葵くん!目お覚まして!」
「あーくん!」
「葵ー!!」
わたしたちは必死になって叫ぶ。
葵くん、お願いーーーーわたしたちを、置いていかないで。
いかがだったでしょうか?
次回、葵くんの安否はいかに…………
次回も必見です