今回は最終話から十数年後。葵とひまりの子供達が主人公となる物語となります。二人の遺伝子を受け継いだ子供たちのストーリー、ぜひご覧ください。
満月の夜。縁側で見つめる空はどこか風流を感じる。カランと氷がグラスに揺れる音を楽しみながら、注いだお酒を喉に流す。
思えばボクの人生は波乱波乱万丈だ。
双子の姉ができ、幼馴染たちと出会い共に成長してきた。その中の一人、上原 ひまり───現、美竹 ひまりちゃんはボクの妻となり他の幼馴染や実の姉との関係も良好だ。
気づけばボクも40代。世間では "おじさん" と呼ばれるはずだけど全くと言っていいほど老けることなく顔の若さは健在。強いていうならスタミナが落ちたくらいかな?
あの厳格な父に似なくてよかったのか、よくなかったのか………。
ボクとしてはもっと夫として威厳のある風貌でありたかったけど今はもう叶わぬ願い。今は別の幸せがあるのだから。
「パパ〜〜!!」
元気な声でボクを呼ぶ声が部屋を飛び越え縁側で黄昏るボクの元にも届く。後ろを振り返ればバタバタとこちらに近づく影が目に映った。
「パパ!!」
「どうしたの?
そうそう。言い忘れていたけどボクとひまりちゃんの間には子供ができた。数は3。女の子が二人で男の子が一人だ。
勢いよくボクの背中に飛びついたのは長女の友莉。
子供っぽい印象のある娘だけど今年で20になる大学生。顔立ちは蘭にそっくりで今は茶色に染めたけど、髪は肩にかかるくらいの長さでとどめている。
友達が非常に多いようで毎日誰かと遊んだりして大学生活を満喫しているようだ。
「あ〜!一人でお酒飲んでる!」
「あはは。ママには内緒ね」
唇に指を立て、友莉を宥める。
見た目は変わらずとも体はもちろん衰えている。過去の検査で血圧が高くなっていることをお医者さんから指摘されたのだ。
その原因も自分で理解している。今こうして手にしているお酒であると。
昔は弱かったけど年々歳を重ねるごとにそれは改善され度数の高いものを口にしても平気なほどになった。おかけで今は父とも酒を酌み交わすほどになったのだ。
ちなみにひまりちゃんは相変わらずで3%ほどのお酒でも酔ってしまう。まあそれが妻の可愛いところではあるんだけど。
「友莉もいずれわかるようになるよ」
「え〜。友莉、パパは大好きだけどお酒は嫌い!」
「飲んだことあるの?」
「まだないけど、ちっちゃい時間違って飲んじゃったビールがすごく苦くて不味かったの」
「ははっ。よくあることだ」
「だから友莉は決めたの!お酒は絶対飲まないって!」
グッと拳を握りそう宣言する友莉。
顔は蘭に似ていても、中身はひまりちゃんそっくりだ。
「それで、ママに何か伝えられてたんじゃなかったの?」
「………あっ、そうだ!もうすぐでご飯だから呼んできてって言われてたんだった!」
「それじゃあ行こっか。あんまり遅いとママ、泣き出しちゃうからね」
よっこらせ、と年老いじみた言葉を吐きながら今へと向かう。友莉はお腹が空いていたのかボクを置いて先走ってしまった。
全く慌ただしい。あと数年でこの家を出るというのだから親としては少し、いやかなり心配だ。
「もぉ〜!遅いよぉ!」
ぶりぷりと可愛らしく怒る妻のひまりちゃんは体のバランスが少し崩れたものの、その明るい性格は健全。友莉共々、家族を明るく盛り立ててくれている。
ごめんね、と謝りつつ席に着く。
「今日は月が綺麗だったから、少し眺めてたんだ」
「まだお月見って季節じゃないよね?」
「まあね」
月見で思い出したけど、マ◯クで期間限定で販売されるあの甘いシェイク。すっごく美味しいんだよなぁ。
「あれ?ここにいるのは友莉だけなの?」
テーブルに視線を移すと椅子に座っているのは長女だけ。残りの二人は一体………?
「パパ隊長!友莉は声をかけたけど応答がなかったであります!」
「二人とも、何してるだろ」
「ちょっと呼びに………あっ」
席を離れようとしたその時、次女の
現在高校3年生の彼女はボクと同じ黒髪を腰に届くまで伸ばしていて、メガネをかけているのが特徴的だ。性格はどちらにも似ることなく、親からしても感心するほどの生真面目な性格である。部活には所属せずボクの跡取りを志し日々研鑽を積み重ねている。
ここだけの話、背丈に関してはこの家の誰よりも高い174センチだ。息子ならともかく娘に抜かされるなんて非常に悔しい。
「ごめん。待たせた?」
「そんなことないよ」
「そう」
淡白に返し食卓に並ぶ椅子に腰を下ろす。
「きーちゃん。もうちょっとパパやママみたいに愛想良くしたら〜?」
「これがあたしだから」
「む〜。頑固者め〜」
社交的な長女と内向的気味の次女。
こうも似つかないのだからきょうだいは面白い。
「桔梗。
「知らない」
桃弥は我が家の長男で兄弟でいうと末っ子にあたる愛息子だ。今年高校に入学したばかりでひまりちゃんと同じ桃色の髪をした活発な子で、少しヤンチャが過ぎるところもあるけど根は優しい子だとボクは知っている。どうやらギターを弾くことと歌うことが好きなようで部屋に大切に保管しているようだ。
最近は家にいることが少なくなり、夜遅くまで出歩いたり部屋に篭ったりすることが日常茶飯事で、親としてもどう声をかけたらいいかわからない。思春期だから、という言葉では片付けたくはないね。
「友莉が呼んでこようか?『エロ本なんて読んでないで出てこいやー!』って」
「やめなさい」
すぐさまツッコミを入れる。これは一人の親として、一人の男として今の言葉を見過ごすわけにはいかない。ひまりちゃんと楓もボクに続く。
「友莉ちゃん!女の子がそんなこと言っちゃいけません!」
「はぁ、少しは桃弥の気持ちを考えてあげたら?」
「だって〜!この前部屋を漁ったら出てきたんだもん〜………あっ、その本のタイトル教えてあげよっか?」
「いい加減にして」
桔梗が友莉の頬を掴み言葉を遮る。ボクがするとDVだなんだと冗談混じりに騒ぎ立てるからありがたい。
まあ、姉妹喧嘩に発展しそうになるなら全力で止めるけれども。
「
「姉さんはもっと自重して」
「お母さんは友莉ちゃんが一人で暮らしていけるか心配だよ………」
「それはボクも同じ気持ちかな………」
「
純粋過ぎるのも困ったのもだ。親としてはやはりもう少ししっかりしてほしいと願う。
「とりあえずボクが行くよ。みんなは待ってて」
女性陣を居間に残し子供部屋へと向かう。
無駄に広いこの家はボクら家族のためにと父が和風モダンに建ててくれた。
5人家族なのに部屋がその倍はある。全く、孫が可愛いからって張り切るのはいいけど掃除が大変だということも理解してほしいな。
実家も母さんがほとんどしていたというのに。
そんなことを考えていたら三つ並んだ部屋の扉の前に到着する。左から長女の友莉、次女の桔梗、そして長男の桃弥の順だ。
名前付きのプレートが掛かった扉をコンコンとノックする。
「桃弥」
扉越しに呼んでみるも返答はない。ドアノブに手をかけゆっくり気づかれない程度に引いても鍵がかかってるようだ。
(ホントッ、世話の焼ける………)
昔、実家でも同じようなことを経験したことがある。朝寝起きの悪い蘭を起こすためにあれやこれやと手を尽くしていたことを思い出す。
一番効いたのは確か………
「今すぐ出てこないと桃弥の携帯を使用できない契約にしちゃうよ?」
若者にとって携帯は命。
友達と連絡を取り合うのはもちろん、ゲームや写真、買い物の支払いでも使われるなくてはならないツールだ。
その契約を結んでいるのはボクの名義。月々の支払いを止めれば必然的に使えなくなるのは目に見えている。子供への脅しとしてこれほど効果的なものはない、と父はよく口にしていた。
ボクの言葉に反応してか、不服そうな声でようやく返答される。
「…………分かった。今、行くから………」
数十秒扉の前で立っていると静かにそれが開き桃弥が姿を見せた。
「オレなんかほっといたらいいのに」
「そんなわけにもいかないだろ?」
「オレは高校を卒業したらこの家を出るつもりだから」
高校1年生の子供が大きなことを言う。
そういえば、昔父さんと蘭がバンドのことで揉めた時も同じようなことを言っていたような………。
全く、ボクの子供だと言うのに
「バンドで食べていくつもりなの?」
「親父には関係ない」
「それはそうだけど………」
「オレは蘭おばさんを超えるシンガーソングライターになる。親父の跡を継ぐ気なんて更々無いから」
そう言い残し一人居間へと向かう桃弥。息子の言葉に怒りなどない。彼の人生なのだから好きに生きればいいとボクは考えている。
だけど、今の桃弥の様子を見て少しだけ不安を感じでいた。夢に向かって努力し続けるのはいいことだけど、それに囚われすぎて視野が狭くなっているのではないか?他にもっと大事なことがあるのではないか?
そんなことが脳裏をよぎる。
(これは………要相談、かな)
心の中でそう呟きボクも居間へと向かう。
***
夜もすっかりと更け子供たちが寝ついた頃、ボクは再び縁側でお酒を飲みながらいろんなことを考え込んでいた。
特に、桃弥の将来についてだ。
次女の桔梗は問題ない。友莉も………まあ大丈夫だろう。桃弥はやはり心配に思う。
音楽の世界はそうそう甘くないと蘭から愚痴を散々聞かされているからだ。今も姉はテレビや雑誌で特集を組まれるほどの人気を誇るシンガーソングライターで、ソロでドームに立ったこともある。家族として本当に誇りに思う。
幼かった桃弥はそれに憧れてあのようなことを口にするようになったんだろう。
しかし、蘭のような存在になれるのはほんの一握り。誰でも簡単に辿り着けるほど簡単なものではない。
再三言うが夢を持つことは非常にいいことだ。しかし、その夢の途中で挫折し絶望を味わってしてしまったらどうするのか。親としてはそこが一番心配だ。
他に選択肢なんていくらでもある、なんて言葉では到底励ましにはならないほど今の桃弥は音楽に人生を賭けている。日々の練習だって怠らない。今も部屋で演奏の練習をしているはずだ。
桃弥にどんな言葉をかけたらいいかわからない。
「あっ!またこんなところでお酒なんか飲んで!」
ぱっと横を向くと、妻のひまりちゃんが頬を膨らませながらこちらに近づき隣に腰を下ろした。
「ははっ、バレちゃった」
なんてわざとらしく言葉を吐きながら妻の顔を見る。反応を察するに友莉は本当に告げ口をしなかったようだ。うん、純粋でよし。
「………今日は、一段と悩んでるみたいだね」
「わかる?」
「何年あなたの妻でいると思ってるの?」
「全く、敵わないね」
隣に座る妻にボクの思いを打ち明ける。
桃弥のこと。そして、これからのこと────
親身になって聞いてくれたひまりちゃんは少し考えながらもすぐさま答えを出す。
「子供なんてみんなそれだけ大きな夢を持つものだと思うよ」
「そうなんだ………」
「小さい子供が『魔法少女になりたい』とか『ヒーローになりたい』って言うのと同じ。まずは応援してあげることが大事だよ」
「ひまりちゃん………」
妻の言葉には確かな説得力がある。将来のことなんて神様でもない限り誰にもわからない。
だからこそまずは夢に向かって努力する息子を応援すること。挫けそうになったら手を差し伸べること。
親としてできることを当然のようにするのが今の桃弥を支えることに直結するんだ。
「キミと結婚して本当によかったよ」
ひまりちゃんを抱き寄せ唇を重ねる。歳をとったとはいえ愛おしいことに変わりはない。今も目の前の妻はボクからの愛情表現を真正面から受けている。
「もうっ、お酒臭いよ」
「あはは。ごめん」
「急にそんなことされたら────したくなっちゃうじゃん………♡」
「おいでっ」
瞳の色を変えたひまりちゃんはボクに抱きつき体を預けた。幾つになろうと昔のままなのはひまりちゃんも同じだったようだ。
淫らな行為に及んだ次の日の朝、やたらと肌艶の目立つひまりちゃんとやや疲労感の見えるボクが子供たちと食卓を囲んだのは別の話。
とりあえず最初はジョブ程度に。後々、子供達の詳細も執筆しようと思います。まずは二人の関係性から………
葵=ひまりのことは、ひまりちゃんと変わらず呼んでるけど子供達の前ではお母さんやママと呼ぶ。
ひまり=葵のことは、あなた、葵くんと呼ぶけど子供達の前ではお父さんやパパと呼ぶ。
時が経ち、子供ができた今でも「〜くん」「〜ちゃん」って呼び合うの、いいですよね笑
最後になりますが、高評価、お気に入り、感想お待ちしてます!