第六天魔王が異世界で暴れるようですよ   作:たこ焼き屋さん

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甘味と犬と信長

 

 

──箱庭二一〇五三八〇外門・内壁。

 

 四人+猫の団体が石造りの階段を上り中へと入っていく。すると、空からは眩い光が降り注ぐ。

 

 

 

「天幕のある場所に入ったはずじゃが、なぜ太陽が出てる?」

 

 

 

 他の二人も同じ反応を示し、自身の生きた時代とのギャップでの衝撃ではないと知る。

 

 

 

「は、はい。天幕は内側に入ると不可視になります。太陽の光直接浴びられない種族のために設置されています」

 

「なるほどのぅ」

 

「あの...おこがましいと思うのですが、その格好はどうにかした方が」

 

「ん?格好か、おかしい場所あるか?」

 

 

 

 特におかしな場所はないよなとその場でクルリと回転して答える信長だが、現在の格好は破廉恥極まりない。

 

 濡れた和服はピッタリと素肌に吸い付き、その淡い肌を大胆に透けさせて魅了してくる。

 

 十六夜から貸してもらっている学ランだが、体格の関係もありギリギリ股は隠れているがそれでも股下数センチまでしかない。袖も長く意図せず萌え袖になり、行き交う男を何人か虜にしている。

 

 例に漏れずジンもその一人であり、体格は近いが纏う雰囲気が圧倒的に上な信長のあられもない姿に頬が高揚している。

 

 

 

「別に脱いでもええが」

 

 

 

 特に羞恥心などと言うものが欠落している信長は、大胆にも学ランを脱ぎさる。その下にある下着なしの肌を見せびらかしてだが。

 

 

 

「やっぱり着てください!お願いします!」

 

「どっちなのじゃ...たく」

 

 

 

 無駄な運動をさせられたと機嫌が少し悪くなるも、ジン達から離れようとは思っていない。

 

 その大きな理由としてはあの声の主に会いたいと考えているからだ。

 

 

 

(ワシの脳に直接語りかけるような声。さも自分の方が上だと言わんばかりのあの態度、気にいらん。一度シバくまでは離れるわけにはいかん)

 

 

 

 神など信じず、仏を信じず。自分の運命は自分で決めている。

 

 唯我独尊。覇王。周りからは異端児と言われるが、それでも信長の生き方は変わることは無い。そんな信長だからこそあの声の主が気に入らないのだ。

 

 日本には将来文豪がこんな言葉を残していた。【天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず】産まれた時は同じスタートラインに立っていて、そこからの努力次第でどうとでもなると言う意味だ。

 

 信長は、努力を怠ることをしたことが無い。必要だと思った事は率先して行い、不要だと思った物は切り離す。

 

 この人生が他人にどうこうされるなどもってのほかだ。自分の人生は自分だけが決めて生きていく、それが信長の心構えだ。

 

 

 

「の......さ......ぶ......ま」

 

 

 

 腸が煮えくり返りそうなほど熱く燃える。そうそれはまるで──

 

 

 

「信長様!」

 

「ほわっ!突然大声を出すではない、驚くではないか」

 

「突然立ち尽くしたのよ、天下の信長様も焼きが回ったのかしら?」

 

「くくくく、嫌味ったらしいが的を得てるのう。その不敬許すぞ、飛鳥」

 

「それはどうも。で、信長様もあそこの店でいいの?」

 

「あぁ特に問題は無い」

 

 

 

 待ちくたびれた。そんな表情で見つめる春日部は指さされた″六本傷″の旗を掲げるカフェテラスへと滑り込む。

 

 無表情に近いのだが、それでも感情はしっかりとあるようで、どことなく蘭丸に似ているなと考え深い物があった。

 

 

 

「いらっしゃいませー。ご注文は如何なさいますか?」

 

「む、むむむむむ!なんじゃこれ!しょーとけーき、ろーるけーき、もんぶらん...見たことの無い甘味が沢山あるではないか!ジン、ジンよ!どれでも食べてええのか?」

 

「えっ...と...さすがに全部はダメですが、少しぐらいなら」

 

「うおおおおおお!よいよいぞ!よし、お主をワシの家来にしてやろう。猿と同じく真面目に励むといいぞ」

 

 

 

 少し落ちていた機嫌も見たことのない甘味によって大きく上がる。

 

 

 

(そう言えば、信長はカステラや金平糖などしか甘味は食べてないのよね。ショートケーキとかを初めて見たってことかしら?)

 

 

 

 彼の信長の意外な一面に驚くと当時に、自分達との時代とはホントに大きくかけ離れているのだと改めて実感できた。

 

 その後とりあえずショートケーキ・モンブランの二つを頼み、まだ入りそうなら他の物も頼むと言う事で納得した。

 

 

 

「いいわね春日部さんは素敵な力を持っていて」

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわよ」

 

「分かった。飛鳥はどんな力を持ってるの?」

 

「私は──」

 

「おやぁ?これはこれは、誰かと思えば東区画の最弱コミュニティの″名無しの権兵衛″のリーダー、ジンくんじゃないですか。今日はオモリの黒うさぎはいないのですか?」

 

 

 

 話を遮るように乱入してきたのはピチピチのタキシードを着た変態だ。服の上からでも見れば分かるが、膨張した筋肉がそれなりの力を示している。

 

 その者はジンの知り合いらしく、嫌そうな視線を送り出て行けとアイコンタクトを取るが、変態は知った事かとドン!と椅子に座る。

 

 

 

「僕らのコミュニティは″ノーネーム″です、″フォレス・ガロ″のガルド=ガスパー。それとも名前すら覚えられないのですか?」

 

「黙れよ小僧。こっちが下手に出てるのは、てめぇにじゃねえ。そちらのお嬢さん方にたいしてだ。いつまでも過去の栄光にすがりつくてめぇとは違ぇんだよ。自分の置かれた立場くらい把握しろ」

 

「敬意を払えと?昔の貴方ならば敬意は払いますが、今の貴方に対して払う敬意などありませんよ」

 

「ほほう。いい度胸だな″ノ──」

 

「ハイストップ、二人ともヒートアップしすぎ」

 

 

 

 二人の険悪な中に停止の声をかけたのは飛鳥だ。

 

 二人が水と油またはそれ以上なのは重々把握できた。ガルドの口から出たとある一言が引っかかり静止をした。

 

 

 

「ねぇジンくん。今そこの男が語った、置かれた立場とは何かしら?私たちは未だに詳しい説明を受けてないわ」

 

 

 

 声が出ない。

 

 ジンは黒うさぎと口裏を合わせひた隠しにしていた″ノーネーム″の秘密がある。どうにか加入が確定した後で語ろうとでも思っていたのだが、そんな考えは消し飛んだ。

 

 飛鳥が説明を求めるも答える訳にはいかない。もし説明すれば普通ならば″ノーネーム″に入ろうとはならないからだ。

 

 

 

「ではレディ。そちらの小僧は話す気が無いようなので私から話しましょう」

 

「ええよろしく」

 

「遅いなーまだかなー」

 

「ジン=ラッセル率いる″ノーネーム″がどのような立場にあるのかそれは──」

 

 

 

 ガルドが語るのはよくある出来事だ。

 

 数年前まではジン達のコミュニティは東区画最大手だったのだが、たった一夜にして最強最悪の天災″魔王″に滅ぼされてしまった。

 

 結果としてコミュニティの目印となる″旗印″と″名″が奪われ″ノーネーム″にまで落ちた。

 

 そうなれば悲惨な現実しか訪れない。

 

 主戦力は消え″ギフトゲーム″に参加しても勝てない。

 

 信用と信頼がないため″ギフトゲーム″を開いても誰も参加しない。

 

 新たな戦力を求めようとも、そんな崖っぷちどころか奈落に首まで落ちてるコミュニティなど誰も入りたがらない。

 

 だからこそ外から人を招くしか方法がなかった。それだけが残された可能性だったのだ。

 

 

 

「と言うわけなんですよ」

 

「なるほどね、ジンくんはこんな大事な事を私達に隠していたのね...はぁ残念だわ」

 

 

 

 くくくく。ガルドはピチピチなタキシードを震わせながら笑う。

 

 意気消沈とはまさに今のジンを表すのだろう。もう、口は固く閉ざされ惨めに震えるしかない。

 

 

 

「なので、どうですか黒うさぎ共々私のコミュニティに来ませんか?」

 

「そっ──」

 

「黙れよジン=ラッセル。そうそうにコミュニティを作り変えれば良かったものを、貴様の傲慢でこうなっているんだぞ。事情を知らない者なら騙せると思ったか?箱庭に生きる住人として、通さなきゃいけない仁義がある」

 

 

 

 ジンは肯定も否定もしない、悔しそうに唇をかみ締め下を向く。

 

 哀れだなと皮肉ぽく笑い、三人へとガルドは向き直る。

 

 

 

「今すぐにとは言いません、一週間程待ちますのでどうか最良の決断を」

 

「そうね。ジンくんのコミュニティは現在最低底辺。生きていくのがギリギリ、私達が合流して悪化するかもしれない」

 

「そうです」

 

「対して貴方はここら一帯を支配するコミュニティ。衣食住はもちろんの事娯楽などもしっかりしているのでしょうね」

 

 

 

 確定的だった。ジンは蜘蛛の糸ほど細い希望の糸も断ち切られ──

 

 

 

「けど断るわ」

 

「は?」

 

「だってそんなのつまらない物。強くてニューゲーム?ふっ...そんな者に興味はないわ!底辺?上等よ、逆にそっちの方が楽しそうだわ!」

 

「な、何を言ってい」

 

「春日部さんはどう思う?」

 

「友達を作りに来ただけだから、どっちでもいい」

 

 

 

 今までの話を聞いても興味が無いのか淡々と受け答えをする。それにガルドは呆れるしかない。

 

 

 

「そうなら私と友達になりましょう」

 

「...分かった。飛鳥となら友達になれそう」

 

 

 

 おい待て、何がどうなっていやがるとガルドはまるて彼女らの思考が理解できない。

 

 自ら進んで茨の道どころか地獄の道を歩もうとしている決断に理解が追いつかない。

 

 ではもう一人の少女はどうしているのか、視線を向けると。

 

 

 

「うまっ!なんじゃこれ美味すぎじゃろ!かァァ、ワシの時代になぜこれが無い!」

 

 

 

 ペロリと二つのケーキを完食していた。

 

 この先の人生を決める重要な場面で優雅に食事をとるなど、普通ならばありえない。三人が三人とも異常だ。

 

 

 

「あっ、すまん注文いいか?このいちごばななちょこすぺしゃるでらっくすみっくすえでしょんぱふぇを一つくれ」

 

「は、はいぃぃぃぃぃ」

 

 

 

 猫耳をピクピク動かし盗み聞きしていた店員は急いで厨房の方へかけていく。

 

 

 

「さて、もういいかのう」

 

「ん──」

 

 

 

 信長が立ち上がったのと同時。ガルドの視界は上下逆転した。それが、蹴られて吹き飛ばされて回転したのだと気づく頃には地面へと直撃する。

 

 

 

「がハッ」

 

「せっかくの甘味の時間で、貴様の汚れた話など聞きとうないわ!その口閉ざさせてやろう」

 

 

 

 すぃーつを完食した段階でどうなんだろうかと思うが、信長の怒りは至極真っ当だ。

 

 戦国時代を生き抜いてきた信長だからこそ分かる、裏で色々工作し血に汚れ内面から腐り果てていた奴と同じ匂いを感じていた。

 

 影の人間。表にどうどうと居ていい人間ではない。

 

 

 

「この、小娘がァァァァァ!調子に乗るなよォ!」

 

「...立場がいささか分かっておらんようだな──

 

 

 

 その言葉を皮切りに虚空から何かが現れ信長の周りで停止し時を待つ。それは信長に縁が深くよく知る物だった。

 

 無敵の武田軍の騎馬隊を打ち破った兵器【火縄銃】である。

 

 

 

(あれぇ?ワシどこに隠し持ってた?てか、周りに浮かんどるやつどこから出てきた?)

 

 

 

 当の本人はこの謎の現状に理解が出来ていないようで、内心かなり驚いていた。

 

 されども流れは完全に信長が掴んだようだ。圧倒的強者からの威圧に突如として現れた【火縄銃】により、獣特有の勘で戦っては行けないと悟る。

 

 

 

「はっ、随分と弱気じゃな。先程までの威勢はどうした?ん?」

 

「こ、この!!!」

 

「ほれほれ甘い甘い!その程度でこのワシの首を打ち取れると思うなよォ!」

 

 

 

 ピチピチだったタキシードは弾け飛び、筋肉は大きく膨張し鋭い爪が牙が信長を襲う。が、その全てを少ないステップだけで躱していく。

 

 周りから見れば一目瞭然。空中をはためく薄紙を刃物で切るなど不可能に近い。この後いくら繰り返せど信長に攻撃が当たることはありえない。

 

 

 

「うっとうしいな!」

 

「あッ──」

 

 

 

 大振りな一閃を右足を引いて躱し、体制が崩れた瞬間に顎に向け引いた右足で蹴りあげる。

 

 いくら獣とは言えど人間と同じような構造で脳があるならば、逃れようのない一撃だ。

 

 脳に激しい衝撃が訪れ数秒間だけ意識を奪う。仰向けに背中から倒れ、意識を取り戻し飛び上がると──

 

 

 

「はいドーン」

 

 

 

 待ち構えていた信長の蹴りが顔面を強打する。

 

 とは言えだ。身体能力は成人男性に比べればいくらか劣る少女の蹴りに、相手を殺す程の威力は無く這い転がり飛び上がる。

 

 完全にブチ切れているのか息を荒くし、姿勢を低く屈め構えて、いつでも襲ってやると唸る。

 

 

 

「ワシとしてはなここで一つ試しておきたいんじゃよ。″ギフトゲーム″とやらをやろうではないか犬よ!まさか、逃げるとは言わんよなぁぁ!」

 

 

 

 獣へ告げたのは″ギフトゲーム″への勧誘だった。

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