友達が少ない俺、TSツインテールでこの素晴らしい男女逆転異世界の魔法少女戦隊になるそうですがこの中に一人、男の娘がいる!のと敵の女幹部が弟だけど中二病でも愛さえあれば青春ラブコメには関係ないのは   作:サッドライプ

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 アクアクロス(岬衣玖鎖)…先輩系魔法少女。ちょっと潔癖症。かなり常識人。でも常識ってなんだっけ?
 岬星奈・星良…この世界の標準型〇学生。
 岬牧江…最近少なくなった気がする年齢不詳系ママン。相応の良識は持ち合わせているが、ときどきぶん投げる。子供の命名とか。
 岬パパ…故人。星奈・星良を産んですぐ、産後の肥立ちが悪く肺炎で病死してしまったらしい―――あれ?




始動、魔法少女戦隊②

 

 沖田シン(男・この作品の登場人物はたぶんみんな18歳以上です)は異世界の魔法少女である。

 

 たった一行で色々と破綻している説明だが、端的に表現する分にはなんの間違いでもないので問題ない。

 少なくとも今この時問題なのは、シンがクーの勧誘に対し即決で応えたため、その異世界から着の身着のままでこの世界に飛び込んできたことだった。

 

「それでシンくん、泊まるところに当てはあるの?」

 

「ないっす……あの、お願いなんですが店の隅っこだけでも寝起きに貸してもらえたりしてくれませんか?」

 

「鍵掛けてるとはいえ、店の中は売り上げが置いてるからそれはちょっとねぇ」

 

 簡単にシンの紹介が岬家にされた後。

 牧江の顔を覗き込みながらの問いに、少し仰け反りながらシンはお願いを返すが却下された。

 その理由自体は至極まっとうなものなのでシンは少し残念そうながらも食い下がることもなかったが、何故か牧江は微笑みながらもさらに距離を近くしていたいけな少年を舐め回すように見る。

 前かがみになった体勢を安定させるためか、いつの間にか右手がシンの内ももに添えられていた。

 

「大丈夫、息子の命の恩人ですもの、無碍なことなんてしません。

 軒を貸すと言わず、いくらでもうちに泊まっていっていいわよ」

 

 ただし、わかっているでしょう?―――なぜかそんな無音の続きが聞こえた気がした。

 

(おお……なんかやらしい響きがあるよ星良ちゃん)

(官能小説の流れですね分かります。行く当てのない家出少年を拾った中年女性は彼を家で暮らさせる代償にその瑞々しい躰を貪るのですね!)

 

「馬鹿二人はもう置いとくとして、母さん?」

 

「や、やあね冗談よ冗談。………ちっ」

 

「???」

 

 冷たい目で産みの母を蔑む衣玖鎖。

 空々しい笑いで誤魔化す牧江。

 露骨に残念そうに経過を見ていた星奈と星良。

 まるで分かっていないシン。

 

 それぞれがそれぞれの反応を示す中、コント染みた一幕に無反応のクーが話題を軌道修正した。

 

『それで、シンもこの家で暮らすという話でいいのかな?

 勝手に連れて来たのは僕だけど、ここで彼を放り出されると色々厄介なことになると考えられる。公園で野宿すると言いだしたりとか』

 

「え、ダメか?虫がちょっと多い季節だけど、凍死の心配がない分そこまで―――」

 

「「「「うちに泊まりなさい」」」」

 

 どんな環境で育ってきたのか、まるで貞操の危機感が欠如している少年の態度。

 こんなエロい男の子を公園に寝かせていたら犯してくださいと言っているようなものだ。

 性欲に忠実な言動ばかりしていても最低限の良心を持ち合わせていたらしい衣玖鎖以外の三人も、声を合わせて結論を一致させるのだった。

 

 

 

…………。

 

 店のバックヤードから繋がる住居部分に場面を移し。

 外でじっとしているだけで汗ばむ季節、まして命懸けの戦いをしてきたばかりの衣玖鎖とシン。

 少しべとつく衣服にひとまずシャワーを浴びることにして、先に済ませた衣玖鎖はシンの着替え用に自分のジャージを衣装タンスから引っ張り出していた。

 身長的にはやや衣玖鎖よりシンの方が背が低いが、着られないほどにサイズが異なる、ということも無いだろう。

 

 そんな衣玖鎖の背後から生まれてこの方聞き慣れた、しかし覚えのない真剣さを孕んだ声が掛けられる。

 

「衣玖鎖」

 

「……何、母さん」

 

「魔法少女、ちょっとお休みしない?」

 

 使い古しの赤いウェアを取った衣玖鎖の手が一瞬ぴくりと震えて、止まる。

 母には通じるわけもないことを知りながらも、平静を装って息子は返答した。

 

「魔法少女お休みって、いきなり何を言うのさ」

 

「言ってもしょうがないから今まで言わなかったけれど、私はあなたがアブダクターと戦うことに賛成してる訳じゃない。

 あなたは男の子で、しかも敵は男を誘拐していく化け物で……戦う度に衣玖鎖が帰って来ないんじゃないかって気が気じゃないのよ?」

 

「それは―――ごめん。でも」

 

「ええ。今まで戦えるのはあなたしかいなかった。“でも”、シンくんが来てくれた」

 

「………」

 

「ずっととは言わない。でも今まで一人で戦って来た分、少しお休みしてもいいんじゃないかしら」

 

 それは衣玖鎖にとって、少し揺れてしまうような誘いだった。

 シンと違って好き好んで魔法少女になった訳じゃない―――あ、いやシンも別に魔法少女になりたかった訳ではないが―――どうして自分だけが、という思いは常に心のどこかにあった。

 戦うのは怖いし痛いのは嫌だ。

 今日なんて追い詰められて敵の前で涙を流してしまった。

 

 誰か代われるものなら代わってくれと――――ここ最近はずっと思っていた。

 

 けれど、母の言葉に頷く気には、何故かなれなかった。

 代わりに出たのは自身の性分から出た言葉。

 

「もしかしてシンを家に泊めるのは、恩に着せる為?」

 

「……無いとは言わないわ」

 

 家に住まわせてやるんだから、家主の息子が危険にならないようにしっかり戦え。

 乱暴に言ってしまえばそういう思惑が親切の裏に在ったことを、母は敢えて肯定した。

 潔癖症で曲がったことに拒否感を覚える性質の衣玖鎖に、自身が泥を被ることで逃げ道を用意する為に。

 

「大人としてかっこ悪いことは自覚してる。

 でも親として、やっぱりあなたに戦って欲しくはない」

 

 そこで言葉を区切った牧江は、衣玖鎖の結論を待たずして自分の部屋に戻っていった。

 というよりむしろよく考えた上でちゃんとした結論を出せ、ということなのだろう。

 

 普段のエロババアぶりに辟易することも多いけれど、やはり彼女は衣玖鎖の親なのだ。

 敵わない、という気持ちと言い分や遣り口への反抗心が衣玖鎖の中で両方膨らんでいるところだった。

 

 

――――だとしても。

 

「ごめん、母さん」

 

 家の中に小さく響くシャワーの水音と二人分の足音を聞いた衣玖鎖はそっと立ち上がり、虚空に蒼の宝玉をかざした。

 

 

(ふひゅひゅ―――今この擦りガラスの向こうでシンお兄ちゃんがカラダを洗っていると思うと、あ、よだれが)

(駄目ですよ星奈、作戦はあくまでさりげなくです。さりげなくシン兄さんが風呂場から出たところに鉢合わせてしまったフリをして、その一糸まとわぬお姿を拝見しようというのですから)

 

 

「――――逆装」

 

『Tran-S-Exial』

 

 母の願いに背き、逆装転女【トランスエクシアル】アクアクロスに変身する。

 さしあたって、人の気も知らず能天気に不埒な覗き行為に走るエロガキ共に八つ当たりを兼ねた正義の鉄槌を下すために。

 

 

「ユキマツリ―――“結”」

 

 

 

 

…………。

 

「なあ衣玖鎖、星奈ちゃん達がなんかぶるぶる震えて毛布にくるまってたんだけど、大丈夫か」

 

「気にしなくていいよ、クーラーの付けすぎで夏風邪でも引いたんだろうから」

 

「そうか?でも悪いな、コーヒーおごってもらうだけの筈が、晩飯と寝床までもらっちゃって」

 

「………それも気にしなくていいよ」

 

 そして、夜。

 一人分増えた夕食を終えた後衣玖鎖の部屋の床に来客用の布団を敷く形で、シンが今晩寝る場所を作っている。

 この部屋に誰かが客として泊まること自体が初めてで、くすぐったいような不思議と悪くない気持ちがあった。

 先ほどの母との話さえなければ、もう少し屈託なくお泊り会として楽しめたのだが。

 

「シン、何か珍しいかな、ボクの部屋」

 

「珍しいかは分かんないけど、衣玖鎖の部屋はこうなんだなー、ってだけ」

 

「なんだいそれは」

 

 良くも悪くもなく、ただなんとなくと言った風情で内装を見回すシン。

 この世界では男子の数自体が偏っていてある意味珍しいのだが、そこを抜かせばドレッサーと三面鏡が置いてあったりベッドサイドに兎のぬいぐるみが置いてあったりする普通の男の部屋だと衣玖鎖は思う。

 

 異世界だとやはり違うものなのか、と思い至りそれについて尋ねようとして―――やめた。

 もっと別の、屈託ついでにでないと突っ込めない本質的なことを訊こうと思ったからだ。

 

「ねえシン。キミはどうしてこの世界に来たの?」

 

「そりゃ、クーがこの世界を救うヒーローになってくれ、って言うから」

 

「それだけ?」

 

 そんな筈はない。

 家族、友達、生活、その他あらゆるものをシンは置き去りにしてこの世界にやってきた。

 国や人種どころか世界さえ違う人々を助ける為に戦うヒーローになるのを、あの怪しいクリオネもどきに言われただけで了承した。

 普通に考えれば、そんなこと誰もしない。

 ならばもっと深く大きな理由がある筈で―――しかしシンは笑ってその勘繰りを否定した。

 

「“ヒーローになる”……俺の目標だったんだ」

 

「え?」

 

「俺にできる、俺にしかできない何かがあるって、どうしても証明したい。

 もしもヒーローになれたなら、その時やっと×××(おれ)はシン(おれ)だって胸を張って言えると思ったから……無茶でも阿呆でも目指したんだ」

 

 天井のライトに眩しそうにしながら、それでも手をかざして見上げて話すシンの横顔は、引き込まれる程に、そして不安を掻き立てるほどに透明だった。

 

「シン――」

 

 

「だから俺は、ヒーローになる為にこの世界に来た」

 

 

「………っ」

 

「じゃ、おやすみ!」

 

 その断言に、疑問を呈すにもより深い意味を問うにも衣玖鎖は掛ける言葉を持てなかった。

 出会って一日と立っていない相手に対し、あまりに踏み込み過ぎることになると察知したから。

 

 なので、唐突に話を切り上げて寝る態勢に入ったシンとそのけろっとした態度にある意味助けられた。

 ある意味では、最初の最初から助けられている。

 

 

 無茶でも阿呆でも、沖田シンがヒーローとして来てくれたことで、助けられた人間がここに一人いる。

 

 

 だから彼のことを知りたい、と衣玖鎖は強く思った。

 当の本人は寝入りがすこぶる良いのか早速寝顔を見せていて、それがあまりに気の抜けた顔だったから苦笑する。

 

「うん、おやすみシン。また明日」

 

 一方的な挨拶を投げて、衣玖鎖は部屋のライトを夜間灯に落とした。

 

 





 大丈夫?きたないサッドライプの作った主人公だよ?


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