死して尚生を求める者よ   作:ビートカヤック乗ってみたい

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兄弟がいる

 

 

何度目かの独りぼっちの一日。今日も何事もなく、ナツキの母の元で寝るつもりだった。

けれどそれは突然やってきて、海岸沿いに墜落した。

 

「飛行艇だ」

 

そして、兄弟がいる。

本当の兄弟じゃないけど、生い立ちは一緒だ。ならば兄弟だ。

 

島中に走らせているオレのセンサーにそれは引っかかった。

 

立ち上がって、落ちてきた方を確認する。強化された視力では人がぞろぞろと船の中から出てくるのがわかる。

行かなきゃ。行こう。兄弟の元へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国際郵便船ザンバニ号は墜落し、次にいつ浮遊できるかわからなくなった。ヒトガタの急襲を受けて大ダメージをくらった為だ。

船長である紅皮伊舟とナキアミが何故かぎくしゃくしているし、何か全体的に暗い。まぁ自分達が生活の拠点としていた飛行艇が墜落したのだから、暗くなるのも当然かもしれない。

このメンバーの中で一番新しい新人である竹原アキユキは、自身がヒトガタを惹きつけるザムドであるのとその墜落の原因が自分自身の戦闘にあると知っていた為に居たたまれなく、船長達を見れずに周りを見ていた。

だからだろうか、小高い丘の上にある巨大な石に見えるザムドを見つけたのは。

アキユキは目を見開き、近くにいたザムドに精通してきるナキアミの裾を引っ張る。何だと問われる前に、丘の上にあるザムドを指差した。

 

「……何故もっと早く言わない」

「いや!さっき気づいたんだって!」

「まぁ良い。解体してくる。イシュウには宜しく言っておいてくれ」

「俺叱られたくないんだけど!ってちょっと待て、今は単独行動は!」

 

ナキアミが歩き出し勝手に出かけようとするのを阻止しようと腕を掴んで引っ張ったアキユキ。たたらを踏んだナキアミはアキユキを振り返り、離せと言おうとした瞬間、後ろから爆風を受ける。

ついでに砂ぼこりでも舞っている為に地雷でも仕掛けられてたかと、目を開けてアキユキの驚いた顔を見て怪訝な表情になる。

 

「アキユキ……?何を驚いている」

「あ、い、いや……後ろの、ザムドかなー?なんて」

 

ハッとして勢いよく振り返る。そこには淡い黄色の体表を持ったザムドがいた。けれどその姿は今までのザムドとは違って、人のように手足を持っておらず、あるのは翼と鳥の脚の様なもの。仮面の部分は確かにザムドと思わせるが、そのほかは完全に鳥だ。

見たことがなくザムドだと確信できなかったからこそアキユキは戸惑った。

今までにいないザムドだったが、ザムドの声を聞くことができるタマヨビの娘であるナキアミには冷静にそのザムドを観察した。仮面の上、嘴の様なものの上にある輝く石。そのヒルコの色を。

 

「赤い……!興奮状態だ!退がれ!アキユキ!」

 

ヒルコは沈静している場合と、興奮状態で色が変わる。わかりやすく赤と青で分かれ、青が沈静状態、赤が興奮状態を表す。

青であれば安全だが、目の前のザムドは赤だ。我を忘れて、同じザムドに惹きつけられてきたのかもしれない。

まだ戦闘もままならないアキユキを退がらせて、目の前に手を差し出す。ナキアミは訓練されたタマヨビだ。興奮状態のヒルコを大人しくさせる技術がある。

 

「我を忘れるな!生きたいのならそう願え!」

 

眼前に手を掲げたナキアミをジッと見るザムドだったが、一向に何も起きずナキアミが疑問を覚えた時、またザムドも首を傾げたのだ。

 

「まさか」

 

ナキアミがそう声を上げた時、ナキアミの問いかけが効いていないと悟ったザンバニ号にいるもう一人のザムド、角股雷魚は全身をザムドに変形させて鳥型のザムドへと迫った。

翼を切って活動を鈍らせるだけ、と雷魚が右腕を上げて水によるカッターを発生させようとした時だ。やめろ!とナキアミが叫んだ。その為に動作が少し止まり、いつのまにか雷魚の頭上に移動したザムドが雷魚を取り押さえた。

 

〝ぐぁっ!〟

「ライギョ!」

 

頭部にある魚の様な部分と、肩にザムドの爪が食い込む。その様子は猛禽類が獲物を仕留めた時の様で、雷魚は表情の変わらない仮面の奥でぎゅっと歯を噛み締めた。

クルクルと鳴く鳥型ザムドは、仕留めた獲物の顔をそっと覗き込む。自分以外のザムドだからか、その珍しさに面白そうに鳴くだけ。

雷魚を人質に取られたザンバニ号の住民はハラハラと見守っていた。

 

「チィッ!これだからザムドは……厄介事を運んできてくれる。宛先不明便で捨てちゃいけないかね」

「イシュウ!」

「情けない声出すんじゃないよ、ナキアミ。女はいつだって堂々としときな、男に侮られない様にな」

 

何処からか取り出したのかロケットランチャーを構える伊舟。ヒトガタとは違ってあまり兵器は効かないザムド相手ではあるが、それでも完全に効かない訳ではない。何発か撃てば仕留められる。

しかし、船長として船員を守ろうとする伊舟にナキアミは駆け寄り止めようとする。

 

「やめろ!やめてくれ!あいつは!あのザムドは我を忘れてない!」

「んなわけねぇだろ!ヒルコを扱える人間がいなくてどうやって我を忘れないでいられる!無理なんじゃねぇのか!」

「イシュウ!」

「ライギョには当てやしねぇよ!」

 

ナキアミの制止も聞かず、伊舟はロケットランチャーの引き金を引いた。瞬間肩に来る振動に耐えながら、ザムドに向かっていく弾を見る。

物珍しさに雷魚を見ていたザムドだったが、発射されたロケットが自分に向かって来るのに気づき顔を上げた。そして翼を広げる。

 

「避けろ!」

 

そうナキアミが叫ぶがザムドは聞かずに、広げ翼を目の前にドーム状になる様に広げる。そして着弾する数秒前、青白い光が走ったかと思えば爆発する。

砂埃が舞った。

 

「ライギョ!」

「冷静になりな!ナキアミ!ライギョは死んじゃぁいないさ。あれが防ぎやがった」

 

ポケットから煙草を取り出して口に咥えて火を付ける伊舟。ザムドは頑丈だ。ロケットランチャー如きでは死にはしない。そう確信しての行動だった。

本当にあのザムドが我を忘れていないなら、まともに力を使えるザムドの人質というメリットを離してこちらに来る事もない。そう思っていた。

 

「あー、もうついてない」

 

長年戦場から離れていたせいか伊舟の読みは外れる。

人質というものは自分が有利であるのに更に有利にしようとするか、不利であるが為に有利になろうとするものである。しかし、前提からして間違っている。あのザムドは人質なんてとっていないというところだ。

そう、ただ単純に攻撃してきたから抑えただけである。

 

「兄弟がいたから来ただけだってのに……ついてない。ついてねぇなぁ」

 

可愛らしい声が聞こえた。幼い十歳ぐらいの声音だろうか。ソプラノの声だ。

だがその声色はザンバニ号に乗船している誰のでもなくて、皆が首を傾げるが考えて欲しい。一体何を相手していたかを。

 

「そこ、そこのオマエだ。ぱっつん眼鏡のクソ野郎」

 

ナキアミと伊舟、そして解放されている雷魚だけが理解している。その声の主があの鳥型のザムドなんだと。

 

「そりゃぁ、私のことかい?レディに向かって野郎とは小生意気な餓鬼だ」

「オマエのせいで寛容なオレでもちょっとキレたぞ。だからさ……そだな」

 

魚野郎と同じ場所に傷をつけてやんよ。

そう言った瞬間、伊舟の目の前に幼い少女が現れて伊舟の肩を刃物が貫いた。それは少女の腕から伸びていて、ザムドが変形したものだとわかる。

 

「イシュウ!」

「イシュウ……!」

「ぐ……て、てめぇ、いつの間に」

「さぁ、いつの間にでしょう」

 

ポタリと血が滴った後、その少女は伊舟の肩から刃物状にした自身の腕を抜いて元の人間の腕に戻した。

ふらりとふらついた伊舟をすぐさまナキアミが支える。

 

「あとオマエ。何様って感じだな……我を忘れるな?バカ言え、オレは死んで生まれてもオレはオレ。そう、ずぅっとな」

 

ナキアミは驚く。自分自身でその答えに辿り着くザムドは少ない。

自分は自分だとわかっていても変化する身体には不安が宿るものだ。ヒルコはそんな弱い部分に付け狙い暴走させる。ヒルコに飲まれて石化してしまえば元も子もない。だからこそナキアミは言うのだ。我を忘れるなと。

目の前の少女はナキアミには興味を失くした様子で、人に戻った雷魚とアキユキを見て笑った。

 

「よぉ!兄弟!会いたかったぜ!オレはナツメ!オマエらの名は?」

 

兄弟と呼ばれて笑顔で走って来る少女に雷魚とアキユキは顔を見合わせたのたった。

 

 

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