それでもあなたを追い求めて   作:待兼山

2 / 2
第2話

/

まるで温室のようだと祥子は幾度目かの感想を抱いた。

現に夏の夕陽を上手く採光した室内型テラスは披露宴に盛大さが欠けていようとも、ちっとも誰も口にしていない。それどころかうっとりと新郎花嫁を見つめている。

先ほどまで親戚や社交界の誰それのゴシップを囀っていた方々でさえも、花嫁は幸せを手にしたと好意的な感想を口にしていた。

 

「やあ。水野さん、佐藤さん、山辺さん」

 

祥子のテーブル近くには姉である蓉子と聖、江利子が座っていた。

キャンドルサービスの時間だけれど、夕陽が射し込む中、室内灯をつけようかつけまいかとする時間の蝋燭の灯りは女性の心をくすぐるものがある。

 

「おめでとうございます、お姉さま。一段とお綺麗です、まさしく戦闘服がこれほどまで美しいとは思いませんでした」

「ありがとう、江利子。これから渡りゆく戦場には足跡しか残さないようにしないとね」

 

これは夢なのよ、きっとそうよ──祥子は聞こえてくる会話から逃避したくなる。

それもこれも祥子が高校一年時に黄薔薇さまだった方が柏木優と結婚するなんてどうして考えられようか。

尚も姉妹の二人のやりとりが耳たぶに掠めていていく。端々にしか聞こえないものが多かったけれど、それでも今日という日を迎えられて良かったに尽きることのようだ。

 

 

「ほんとうに素敵です。澄花さまのアイデアをこうして実現されたことについては柏木さんへの評価を改めないといけないくらいですわ」

 

祥子が善き日だ、と思っている最中に聞こえた蓉子の声に一瞬瞠目する。

冗談めかしているが、目が笑っていないことは見なくても分かる。

この結婚も恋人だった二人の時期も、周囲からどれだけの言葉が江利子の姉である澄花に投げかけられただろうか。だけれど、さすが黄薔薇さまだった人なだけあるという返しや対応だった。

祥子は後方支援を買って出ようとしたものの、

「祥子ちゃんだと甲冑の紐ぐらいにしかならないからいらないわ」

とすげなくされた。

 

「祥子ちゃん、改めて親戚づきあいをよろしくね」

 

交流が再開されてからのことを一つひとつ、思い返していると祥子のテーブルになっていた。

 

「澄花さま。おめでとうございます。どうぞ末永くよろしくお願いいたします」

「さっちゃんまでひどいな。僕のことを見ないふりするなんて」

「あら、優さん? 私たちは生まれた時から親戚なんですもの。今さらよろしくもありませんわ」

「ははっ。リリアン生には敵わないな」

「結局、聖ちゃんには口も聞いてもらってないんでしょう? 可哀相なあなた」

 

澄花は一瞬で涙を堪えるように瞼を震わせ、瞳は潤んでいた。それを見て祥子は騙されないぞ、と高校時代から何度も思ったことを再度、思う。

 

「澄花さま、お後がございますでしょう? 潤んだままお行きになれたら分家の方々が喜びますわ」

 

祥子はこんなやりとりが楽しくて仕方がないと思えている。

だけれど、今日は結婚式だというのに緊張感を張り詰めた空気を纏った一人と何を考えているのか分からない一人が場内に居る。そちらの方向に目をやる。近いテーブル配置されているけれど、会話をかわせない距離。それがどうしてか第三者である祥子の胸をきゅっとさせた。

清子もそれに気が付いていた。

 

「祥子さん、大丈夫よ。あの二人なら」

 

そっと囁いてくる清子はすでに隣の席に座っている父と会話をしていた。

 

 

/

曇天模様が通常営業な国に居ると、その曇天さにも晴れだとか気分が滅入るだとかが分かるようになることを祐巳は知った。

今日の晴天具合は……芳しくない。

日本で言うところの梅雨に入っていく時の感覚だ。そう思うと数々の思い出が脳裏に浮かぶ。少しだけ寂しい気分になるけれど、だからこそ今こうして世界を見ていられるのだと優しい気持ちになった。

だからこそ──瞳子と共に歩めているのだと。

 

「祐巳さん、それは共に歩めているとは言わないわよ」

 

空を眺めている祐巳の背後からきつすぎる言葉が飛んできた。

ヨーロッパに立ち寄ると必ず立ち寄る先、ホテル代わりにしている住居人の静だった。

背中を向けているのにも関わらず、どうして表情を見ないで分かるのかと慌てふためく。

 

「声、出していましてよ」

 

少し不機嫌そうにして静が種明かしをしてくる。山百合会選挙に出馬した頃に目にした表情がそこにはあった。

かと思うもの、わざとお嬢様口調というのにも彼女の不機嫌の正体をなんとなく察せられる祐巳にはなった。

 

「……瞳子から何か連絡きてました?」

 

「きちんと空港の出発ゲートまで見届けてほしいって。あたくしの休日は橋渡しに使われて……幸せは遠のいていくばかり……あぁ、神さま──あたくしは悪い子なのですか」

 

静は若干おおげさに──控えめに言って──嘆いてみせた。

祐巳は逃れるように支度をするために洗面所に足早に消えた。

 

 

 

「さて、祐巳さん? 再会したらいっぱい甘やして、どろどろに溶かすのよ。そうでないと悪い虫が鳥になって攫ってしまわれるわよ」

 

静の警告に祐巳は何度も抱いている危機感をより一層に深めた。

 

「はい! それ以上の、それこそ柏木さんたちに負けないくらいに幸せカップルとして深めてきますよ!」

 

元気いっぱいに答えた。祐巳の心はすでに一足先に旅立っている──瞳子と会える日本、姉である祥子や皆が暮らす場所に。

 

「ほんとに分かっているのかしら? でも、トコが瞳子に戻れるのは祐巳さんの前だけだものね」

 

飛行機が地上を離れ、何の境界もないような空を飛んでいく様を見ながら静はつぶやいた。

 

 




澄花はオリキャラの一人、江利子の姉です。
一人、ということは後数人は出てきます。未来設定なので、妄想は爆発だ~~!です……
あと、サブタイトルなのですがつけようか悩んでおります。後日つけるかもしれません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。