ちなみにロリコンである【完】   作:善太夫

10 / 23
第十話◆ソーセージの行方

「……ふむ。何ものかが後をつけてきているようですね。……まあ、良いでしょう。……アジトに到着次第シャドウデーモンは追跡者の無力化をしてください。くれぐれも相手を殺さないように……頼みましたよ」

 

 セバスの命令を受けてシャドウデーモンたちが姿を消す。

 

「……大丈夫です。心配は無用です」

 

 セバスは表情を柔らかくすると並んで馭者席に座るネムに微笑みかけた。

 

 

 

 

「……おい! クライム! なぜここにお前がいる?」

 

 リ・エスティーゼを走る馬車の中でクライムはいきなりひじをつつかれた。

 

「……あ、よろしくお願いいたします。えっと……ロリータピンクさんでしたよね?」

 

 ロリータピンクの目つきが怖くなる。

 

「……わからないか? 私だ。イビルアイだ」

 

 クライムの顔が驚愕にかわる。

 

「──イビルアイ──様? だっていつも仮面を被っていましたし……それにもっと横柄な──グフッ!」

 

 みぞおちに一発くらってクライムはうずくまる。

 

「……そんな事はいい。それより、だ。お前は何をしている?」

 

「私は魔法少女になって強くな──グハァ!」

 

 またしてもイビルアイの容赦ない一撃がクライムを沈める。

 

「……お前はわかっているのか? 魔法少女になるということはつまり……アレをちょん切るという事だぞ?」

 

「……アレ……ですか……? ……あのう……何をちょん切るのでしょうか?」

 

 純真無垢なクライムの瞳に見つめられてイビルアイは赤くなる。

 

「……うぐ。……それはチン……ゴホン。男から女になるのだ。わかるだろ?」

 

「わかりません!」

 

 イビルアイは絶句する。

 

「……なんだと?」

 

 しばしの空白。

 

「……あのですね、女には無いんですよ。……おチンチン」

 

「本当ですか! ロリータブルーさん!」

 

 横から助け船を出したニニャも絶句する。

 

 この少年は何もわかっていなかった。

 

 

 

 

 

(……このまま馬車を追っていけば大丈夫)

 

(……クライムのソーセージは私たちが守ってみせる)

 

 走る馬車を追って二つの影が疾走する。

 

 やがて馬車は目的地の大型の倉庫の前で止まる。

 

「……どうやらここのようだ。私は一旦ボスに報告する」

 

「……わかった。じゃあ私はこのまま監視する」

 

 二人はアダマンタイト冒険者“蒼の薔薇”のティアとティナだった。ティアは煙と共に姿を消す。

 

「──!」

 

 監視を続けるティナが背後に現れた闇に一瞬で飲み込まれる。

 

 ティナは声をあげる事すら出来ずに姿を消した。

 

 

 

 

 

「……セバス様! わ……私は……その……」

 

 魔法少女マジカル☆ロリータのアジトに着くなりクライムはセバスに土下座をする。

 

「……不合格。この者には魔法の素養が無い。魔法が使えない魔法少女なんてコーヒーの無いカフェラテのようなもの……」

 

 クライムに不意に声がかけられる。クライムが顔をあげると片目に眼帯をした少女が見下ろしていた。

 

「……ふむ。そうですか。ならば仕方ありませんね。……クライムさん。残念ながら貴方は魔法少女になれません」

 

「……は、はい。わかりました」

 

 クライムは額を地面に擦り付ける。自らの下腹部の存在──ソーセージを失わずに済んだことがありがたかった。

 

「……ところで……こちらの方は?」

 

 シャドウデーモンに雁字搦めに縄をかけられたティナがつれて来られる。

 

「──ティナ!」

 

 ロリータピンクが駆け寄る。

 

「……ロリータピンクさんのお知り合いでしたか。手荒な真似をして申し訳ありません」

 

「セバス様は悪くない。きっとクライムを心配したリーダーのラキュースが我々をつけるように命じたのだろう」

 

 セバスはティナの縄を解くと立たせる。

 

「……なるほど。しかし──ご覧のようにクライムさんは魔法少女にはなれません」

 

 クライムは恥ずかしそうにうつむいた。

 

「……わかった。戻ってボスに伝える。それに──」

 

 ティナはロリータピンクをなめ回すように見る。

 

「……イビルアイが妙に色気づいた事も……」

 

「──な!」

 

 ふと激しく入り口のノッカーが叩かれる。

 

「……私は“蒼の薔薇”のラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと申します。急用あってやってきました。是非とも話を聞いていただきたい」

 

 

 

 

 

「……リーダー。まだ落ち込んでいるのか?」

 

 リ・エスティーゼ中心に位置する最高級宿屋に場違いな装いをした一団がいた。

 

「……まあ、そのよ。とりあえずクライムの童貞は無事だったわけだしよ? 任務は成功だったんじゃないのか?」

 

 黄色を基調にしたフリフリの衣装の大柄な女──ガガーランがラキュースの肩をバンバン叩く。ラキュースは黒と紫を基調にした同じくフリルでフリフリの衣装を着ていた。

 

「……クッ!」

 

 カウンターに突っ伏したラキュースは唇を噛み締める。

 

 ラキュースの脳裏に先程の屈辱的な光景がよみがえる。

 

 ラキュースたち“蒼の薔薇”はラナー王女の発案でクライムの代わりに魔法少女を志願してクライムを無事に取り返す作戦の為、魔法少女マジカル☆ロリータのアジトを訪れたのだった。

 

 恥ずかしさに身悶えながらも辛うじてクライムの代わりに魔法少女になりたいのだと告げたラキュースに対してかけられたセバスの言葉──

 

「申し訳ありませんが貴女方は魔法少女になるにはいささかお歳をお召しになられていらっしゃるご様子。……そうですな……」

 

 セバスの鋭い視線がラキュースの身体を貫く。

 

「……せめてあと三歳ほどお若かったら……残念ですね」

 

 

 

 

 

 カウンターからラキュースが顔を上げる。その瞳には新しく光が宿っていた。

 

「決めたわ。私たち“蒼の薔薇”は今日から『魔法少女マジカル☆ローズ』に生まれ変わるの。そしてマジカル☆ロリータの鼻をあかしてやりましょう!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。