「と、いうわけで現在、魔皇ヤルダバオトに蹂躙されているローブル聖王国から救援を求める使者が来ているのだが……」
ナザリック地下大墳墓 第十階層玉座の間に集められた階層守護者たちを見回しながらアインズが口を開いた。
守護者たちの中にデミウルゴスの姿はない。彼は自らの替え玉──ヤルダバオト──としての憤怒の魔将を操るため、ローブル聖王国にいた。
「恐れながらアインズ様。かような卑しき人間共の国を助ける事になんの価値も無いように思えます。よって魔導国が救援する必要は無いかと思われます」
守護者統括アルベドが意見をのべる。これはアインズにとって想定範囲内だ。
魔導国として救援をしないが、魔導王アインズが単独で救援に赴く。その為に考えに考え抜いた詭弁をこれから拡げてなんとしてもアルベドを説得する──アインズは両手を思わず握りしめる。
「──そこでだ。アルベドよ。確かに魔導国がローブル聖王国を救援する謂れはない。だがな──」
「──恐れながらアインズ様」
アインズの言葉がふいに遮られる。
「そのローブル聖王国への救援、私どもマジカル☆ロリータにお任せ下さいませ」
セバスが平伏しながらおもむろに顔を上げる。真剣な眼差しに強い決意が現れていた。
「──ああ、うん? そうか。……いや、実は私は今回は、だな……」
アインズは動揺する。
「……アインズ様。セバス様ではなく私たちプレイアデスにご下命下さいませ。……私たち『にゃんにゃん☆メイド隊』に是非!」
「………………は?」
ルプスレギナの言葉にアインズの思考は停止する。しばらくしてようやくアインズはプレイアデスに魔法少女戦隊として『にゃんにゃん☆メイド隊』と名付けた事を思い出す。
「…………うむ? しかし…………」
セバスとルプスレギナがアインズの玉座ににじりよる。二人の真剣な眼差しについアインズは根負けしてしまうのだった。
「……よかろう。ではセバスとルプスレギナに任せよう。現地でデミウルゴスと調整すると良い」
「……お任せください。アインズ様。きっとご満足いただける成果をおみせいたします」
「……アインズ様。この度は我ら姉妹の連携をご覧いただきたく思います」
「…………う……うむ。そ、そうか……期待しているぞ」
意気揚々と玉座の間を後にするセバスとプレイアデスを見送りながらアインズは一抹の不安を覚えるのだった。
◆
「私はローブル聖王国の聖騎士団長のレメディオス・カストディオだ。今回のヤルダバオト討伐に貴殿らの働きに期待している」
セバスら『マジカル☆ロリータ』が乗る馬車に颯爽と白いサーコートの女騎士が乗り込んできた。つづいて部下の騎士も乗り込む。横柄な物言いに眉をひそめるシャルティアを無言で制してセバスが答えた。
「よろしくお願いいたします。私は執事のセバス・チャン、そしてこちらが『マジカル☆ロリータ』のリーダーの──」
「ロリータ☆アリンスことシャルティア・ブラッド・フォールンでありんす」
「妾はロリータ☆クイーンことドラウディロンじゃ」
「……ロリータ☆ピンク。イビルアイだ」
「……ロリータ☆ソルトアルシェ」
「私はロリータ☆ブルー、ニニャです」
「私はお手伝い改め研修生、ネム・エモットです」
「……申し遅れました。私はレメディオス団長の部下のグスターボ・モンタニェスと申します。実際に皆さんのお世話をする事になるかと思いますので、どうぞお見知りおきください」
互いの挨拶が一通り終わるとセバスが早速訊ねた。
「我々は貴国にヤルダバオトを倒す為に来ましたが、状況はいかがですか? 聞くところによればかのヤルダバオトは自ら魔皇と称し、亜人どもの軍勢を率いローブル聖王国のほとんどを奪ったとか……」
セバスの言葉にカストディオ団長は唇を噛み締め言葉を発しない。とりなおすようにグスターボが代わりに答える。
ヤルダバオトが亜人の軍勢を率いて首都ホバンスはおろか多くの地を失っている事を話す。レメディオスは露骨にいやそうな表情になっていたが、グスターボは動じなかった。
なによりも亜人の軍勢からローブル聖王国を奪還する事が優先されるべきであり、そこにはちっぽけな自尊心など不要だったからだ。
「ふむ。だいたいの状況はわかりました。……ところでヤルダバオト……かの者は悪、という事ですね?」
レメディオスは「何を今更?」とでも言い出しそうな顔をする。慌ててグスターボが答える。
「はい。かのヤルダバオトは自ら魔皇と名乗り、ローブル聖王国の民を虐殺しております。また、亜人どもにとって人間は食糧や玩具といった扱いで……」
「……くっ! ヤルダバオトめ! あの時に倒してしまえたら……むむむ……」
グスターボの言葉にロリータ☆ピンクが唇を噛みしめる。
「……イビルアイ──いや、ピンクさん。今度は我々マジカル☆ロリータの実力を見せつけてやりましょう」
「そうでありんす。デミ──ヤルダバオトなどわらわにかかれば雑魚に過ぎんせんでありんす」
「……確かにアリンス様の魔力なら……これだけの魔力を持つ存在が他にいるとは思えない……」
ロリータ☆アリンスの言葉にロリータ☆ソルトが頷く。
「……なんだと? 魔法においてカルカ様やケラルト以上の人間など、かの帝国のフールーダ・パラダイン殿位なものだが?」
レメディオスが突然食ってかかる。
「そのカルカンだのレトルトだのは知りんせんが、私より強いとは思えんでありんす。確かソルトはフールーダとやらの弟子だったでありんすな?」
「……はい。フールーダ様は当代随一のマジックキャスターではありますが……アリンス様は別次元の存在でまさに別格かと……」
「……うむ。悔しいが私もアリンス殿の強さは認めざるをえない。マジックキャスターとしても戦士としてもな……しかしやはりセバス様が一番──」
「バカな! 戦士ならばガゼフ殿が別格の強さではないのか? 私より強い者はおそらくガゼフ殿しかいないと思うぞ?」
レメディオスには信じられないようだった。
「……ぐぬぬ。セバス様ならば千ガゼフ、いや、億ガゼフ──」
「……カストディオ殿は中々の強さを自負されているご様子。しかしながらヤルダバオトには敵わなかったようですな。私も以前にお手合わせさせて頂きましたが、ヤルダバオトはなかなかの強敵にございます。我々の実力を実際にご覧頂いた上で判断されたらよろしいのではないですかな? 不毛な議論など無益な事にございます」
セバスの言葉にレメディオスは黙りこむ。やがて重い沈黙が馬車の中を支配する。無言の馬車はローブル聖王国に向かうのだった。
◆
「ギャハハハハ……良いっすね。まさに馬子にも衣装ってやつっす。……ああ、そうそう。『馬子』って『孫』じゃないらしいっすよ」
にゃんにゃん☆メイド隊を乗せた馬車はにぎやかだった。
「……まるで殺人鬼メイド……兇悪そう……」
笑い転げるルプスレギナに続いてシズが止めをさす。
「ルプスもいい加減笑うのをやめなさい。可哀相です……ププ……」
ユリが長姉らしくたしなめるが、やはり吹き出してしまう。
従者のネイアは恥ずかしさに顔を真っ赤にして泣きそうな表情だった。目つきは相変わらず兇悪なまでに怒りをたたえてみえるのだが、他の表情は困惑と羞恥にあふれていてまるで顔のパーツがバラバラな福笑いみたいな顔になっている。それがにゃんにゃん☆メイド隊の笑いを誘っていたのだった。
ネイアは自らの姿を見おろす。そして後悔する。
(なんでこんな格好になってしまったのだろう……)
ネイアがにゃんにゃん☆メイド隊のお世話係りとして馬車に乗り込んだ際に、リーダーのルプスレギナが言った一言──「突然っすが、この馬車にはメイド服を着たものしか乗せない事になったっす」
フリルとリボンに飾られて少し丈が短めなメイド服の裾を恥ずかしそうに押さえながらネイアは目をふせるのだった。