ちなみにロリコンである【完】   作:善太夫

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第二十話◆キーノの恋心

「まさかプレアデス──『にゃんにゃん☆メイド隊』が負けるとは……」

 

 セバスは厳しい表情でため息をついた。

 

「あのワンド……紅い珠から姿を変えるなどまるでアルベドのギンヌンガガブみたいでありんしたな。でも、せいぜい神器級(ゴッズクラス)といったところでありんしょう」

 

 不安げなマジカル☆ロリータのメンバーの中で唯一自信ありげな様子のシャルティア──アリンスが呟いた。

 

「アリンス殿の強さなら恐らく問題ないだろうが……あの強大な魔法は恐らく真の竜王にも匹敵する……そしてそれを可能にしているのはタレント……噂で聞いたことがある。伝説のタレント『タムーラユ・カ・リー』……」

 

 ピンクことイビルアイの言葉は震えていた。

 

「……私も師から聞いたことがあります。全盛期には敵がいない最強のタレントだったそうです」

 

 ソルトことアルシェが補足する。

 

「そんな事よりお風呂にでも入りたいでありんす。このホテルには素晴らしい施設があると聞いたでありんすが……」

 

「アリンス様。素晴らしかったですよ。なんでもジャグジーとかいう気持ちが良いお風呂が最高なんですよ」

 

 アリンスの問いかけにソルトが興奮して答える。

 

「では私はジャグジーとやらに入るでありんす。ソルトは一緒にくるでありんすか?」

 

「是非お願いします」

 

 アリンスは他のメンバーを見回した。

 

「他はどうするでありんす? 明日の決戦に備えて英気を養うべきでありんしょうが……」

 

「……私はろ、露天風呂とやらに行こうと思う」

 

 何故かピンクはモジモジしながら答えた。

 

「妾はゆっくり……バーとやらに行くとする」

 

 クイーンはどうやらお酒が飲みたいようだった。

 

「……私は少しでも皆さんの足を引っ張らないように修行をしてきます」

 

 ブルーは真剣な表情で答えた。

 

 無理もない。対マジカル☆ローズ戦ではアリンスとピンクの活躍が圧倒的だった為、ブルーを含めた他のメンバーには活躍する機会すら無かったのであった。

 

「わかりんした。ではそれぞれ楽しむとしんしょう。ソルト、私達は行くでありんす」

 

 アリンスはソルトを促して浴場に向かった。

 

 

 

 

「……おや? いかがなさいましたか? ピンクさん」

 

 セバスは自分の居室を訪れた人物を招き入れて、やや不思議そうに尋ねた。

 

「……あの、せばす様。このホテルにはろ、露天風呂があるらしくてな……あ、よ、よければ入るのはどうだろうか…………わ、私と……」

 

 ピンクの顔は真っ赤だった。

 

「むう。露天風呂ですか? なるほど。それは是非とも体験したいものですね。……ですが──」

 

 セバスはため息をついてみせた。

 

「私にはまだやらなくてはならない仕事が残っておりましてな……」

 

 セバスの言葉にピンクの表情はみるみるしぼんでいく。

 

「……そうか。すまなかった。邪魔をしてしまった」

 

 肩を落として出ていこうとするピンクをセバスが引き留める。

 

「……その……よければ私の手伝いをして頂けませんでしょうか?」

 

 セバスの言葉に振り向いたピンクは花が咲くように微笑んだ。

 

 

 

「……アインズ様。申し訳ありません」

 

 ナザリック地下大墳墓 第九階層 玉座の間に整列した戦闘メイド(プレアデス)はアインズに膝まずく。アインズは片手を上げて顔を上げさせる。

 

「……よい。今回の敗退は私にも予想が出来なかったのだ。むしろこの世界では破格の強者がいた、という事だ」

 

「……アインズ様。するとあのハーフエルフはやはり……」

 

 玉座の隣に立つアルベドの言葉をアインズが遮る。

 

「間違いない。プレイヤー、もしくはプレイヤーの血を引くものだろうな」

 

 アインズの言葉に一同は黙りこむ。

 

 ナザリックにとってプレイヤーとは守護者それぞれに苦い記憶がある存在であった。

 

「……しかし、だ。仮にあのハーフエルフがプレイヤーだとしても問題はない。プレイヤーが一人いた所でナザリックにとっての脅威にはならない。私が怖れるのはプレイヤー複数を敵に回した場合だ」

 

「アインズ様。どうか今一度私達にご命令を。二度と不覚はとりません」

 

 アインズはユリの顔をじっと見つめた。

 

「……うむ。しかしな……あの者はレベル八十はある。お前達にはいささか荷が重いだろう」

 

「……では、アインズ様。わたくしが……」

 

 アルベドがアインズの前に一歩進み出る。しかしアインズは首をふる。

 

「……いや、このままマジカル☆ロリータに任せようと思う。シャルティアもいるのだ。不覚はあるまい」

 

「──はっ。かしこまりました」

 

 戦闘メイド(プレアデス)が退出したあとでアインズは呟いた。

 

「……守護者最強のシャルティアがいるのだ。万が一にも負ける事はない。万が一にも、だ」

 

 

 

 セバスは熱い視線を感じて顔を上げた。

 

「……ロリータ☆ピンクさん、どうかしましたか?」

 

「………………」

 

 ピンクの顔は熱があるかのように紅かった。

 

「……イビルアイさん?」

 

「………………」

 

 セバスを見つめるイビルアイの紅い瞳にたちまち涙が溢れてきた。

 

「…………?」

 

「…………ちが……う」

 

「……何が違うのでしょうか?」

 

 イビルアイは小さくイヤイヤをするように頭を振ると消え入りそうな小さな声で、言った。

 

「…………キーノ、って呼んで」

 

 セバスはイビルアイの肩をやさしく抱いた。

 

「……わかりました。キーノ。……これが貴女の名前なのですね」

 

 イビルアイ、いや、キーノはこくりと頷いた。そしてセバスを見つめていた瞳を閉じると唇を尖らす。

 

 セバスもキーノの気持ちにあわせて顔を近づけていく。

 

 二人の唇が微かにふれ合った瞬間──

 

「大変です! アリンス様が! シャルティア様がいなくなりました!」

 

 扉を勢いよく開けてロリータ☆ソルトことアルシェが飛び込んできたのだった。


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