人生イージーモード   作:EXIT.com

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第9話

 2月14日それは女の子が頑張る日であり男の子が涙を流す日である。

 男の子の涙の理由は…まぁ、想像におまかせしよう。

 

「まじかよ…体がだりぃ~…」

 

 バレンタインデーなんぞなくてもいいと俺は思う。

 もともとは親しい人に贈り物をするって日だったし、送るのは愛情じゃなくて感謝だったはずだ。

 だから女性から男性以外でも意味のある歴史的な日だったのに、お菓子メーカーかデパートかの告知で今の流行が定着したらしい。それはいいとして。

 義理の愛情ってなんだろうな。そんな意味不明な物をがんばって作る女子は尊敬できるわ。

 見習いたくはないけどな。

 男も男でそんなまがい物貰って嬉しいのか?嬉しいんだろうな。じゃないとここまで浸透してないか。

 

「あぁ~…頭いてぇ…」

 

 こんな日に風邪を引く。割とガチな風邪。

 こんな日だからか?俺も中学時代はかなり貰えたけど、『義理だよ!』って渡してきたやつのはどんなにルックス良くても全部『本命とか義理とかこだわるならいらない』って突き返したからなぁ…

 何人か泣いちゃったし…マジめんどくさかった。でも『好きです』ってド直球なラブコメイベントのがめんどくさかったわ。

 

「どうした春仁?って顔色悪すぎだろ。まるでモテない男子の呪いを一身に受けてる様だ」

「………じゃあお前も風邪引いてないとおかしいぞ?」

「ばっか!お前俺がモテると思ってんのかよ、熱のせいだな春仁。学校には言っとくから今日は寝てろ」

 

 解せぬ。八幡は俺から見ても整った顔してんのに、あいつが元気なのはなんか腹立つ。

 ――はぁ…呪いかぁ男じゃなくて女の呪いだろ…

 

「軽く食って病院行くか…」

 

 ひとまずユキにはメールだけ入れとこう。

 

 俺はタクシーを使って病院まで行って診察を受けた。

 熱が結構あったみたいで医者に『なんで歩いてるんだ!』って怒られた。なんで俺が怒られるのか謎だ。

 んで点滴打ってもらって正午に家に着いて服着替えて、今ベッドの上にごろんとしている。

 スマホに通知があったので、見たらユキから返信があった。本文には『お大事に、またね』とだけあった。

 はぁー。点滴ってやばい。熱が下がるのが解って気持ちいい。睡眠薬も混ざってるみたいでぐっすり眠れた。

 

「…もっかい寝るか」

 

 俺は何の抵抗もなく眠りについた

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 ハルから『風邪引いた、しんどいから休む』とメールが届いた。わざわざメールしなくても大丈夫なのに。

 急にいなくなった事を気にしているのね。彼らしい気遣いに私は嬉しくなってしまう。

 急にいなくなってしまった仕返しに急に現れてあげましょう。

 

 午後の授業は早退してスーパーに寄って、車を出してもらって目的地に向かう。

 着いたのはいいのだけれど…呼び鈴を押しても応答がない。まさか死んでないわよね?――あら?

 

「不用心ね…」

 

 鍵が開いている…きっと病院にからもどってそのまま忘れたのでしょう。仕方ないわね。

 

 私は「おじゃまします」と一言口にする、返答はなかったので誰もいない事がわかった。玄関には靴があったのでハルはきっと寝てるのだろうと思いリビングに荷物を置き、先ず彼の安全を確認しに行った。

 

「……ハル?」

 

 ハルがベッドで寝息を立てていた。良かった死んではなかった。じゃあ起きた時の為にお粥でも作ってあげましょう。

 ふふっ起きた時にどんな顔するのかしら。

 

 料理を作ってると前にハルが言ってたカマクラがのそのそと出て来た。彼はいつもこの子と過ごしてるらしいけど、正直言ってうらやましい。私のマンションはペット不可の物件だから我慢するしかない。この家に遊びに来れたらいいのだけれど…。

 

「ふぁぁあ~――え?、ユキ?」

「おはよう、ハル。おきたのね。お粥もうすぐできるから少し待ってて」

「あ、あぁ。ありがとう…いかん。思考が追い付いてない…」

「ふふふっ。どうしたの?ハル。夢でも見てるのかしら?」

 

 作戦は成功みたいね。私は小さくガッツポーズをしてしまう。ハルにまた謝られたわ「意趣返しかよ…ホント悪かったって」ってこちらの考えも伝わった様でなによりだわ。

 お粥をよそって彼の前にコトンと置く。病院に行ったとはいえ治ってる訳ではないのだから、味は薄目に仕上げた。

 

「美味しい。ありがとうユキ」

「お口にあってよかったわ」

 

 美味しいのはわかってのだけれど。感想を言ってもらえるとやっぱり安心できる。

 

「具合はどうなの?」

「あぁ、朝は熱がひどかったから病院に行ったんだが、そこで点滴打ってもらってな、今晩寝たら治るだろ」

「そう、それなら良かったわ」

「そういえばユキ」

「なにかしら?」

「なんでいるんだ?」

 

 ――すごく今更な質問が来たわね…ハル?気にしたら負けなのよ?

 

「早退してお見舞いに来たのよ。メールでまたねって送ったでしょ?それで来てみたら呼び鈴押しても出てこない。でも鍵が開いてたから不用心だと思って、悪いけどお邪魔させてもらたのよ」

「……マジか」

「マジよ」

「ユキなら断らないから、次から来る時は来るって言ってくれ」

「お見舞いはもうない様にしてほしいのだけれど。」

「ははっ、そうだな。でも連絡はしてくれよ?そのまま帰らせるのは申し訳ないからな」

「わかったわ、それじゃ迎えも来た様だし、私はお暇するわ」

「ありがとうユキ、気を付けてな」

「お大事に、ハル。」

 

 私は車に乗り込み下宿先のマンションに向かう。私はハルに嘘をついた。今日ここまで来たのはお見舞いの為だけではない。昨日用意した私の感謝を渡したかった。そっとメモを残してテーブルに置いてきたのだけれど、彼は気付いてくれるかしら…?体調が良くなってからで構わないから味わってほしい。《ブブッ》ハルが気付いた様ね。

 

『ユキの感謝を受け取った、ありがとう』

 

 私はまた嬉しくなってしまった。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

「ただいまっと」

 

 春仁は大丈夫か?朝に真っ青な顔してたが、心配だな。

 

 しかし今日は隣のクラスが超煩かった。あんなに騒がしいならバレンタインは学校休みでいい。むしろ閉鎖しよう。国民の休日に指定するまである。っていうか、バレンタインデーってお菓子メーカーの販促だよな?

 露骨なステマ。大丈夫ですか?隠せてないよ?

 

 しかし春仁のスペック高いよな。俺だって眼がヤバい以外は顔は悪くない、運動神経だっていいはずだ。ってか何で俺、張り合ってんの?目立ちたいの? ハッ!全力でお断りします。俺はぼっちエリートだ。エリートは学習するからエリートでいられる。結論、俺はぼっちでいい。

 

「小町は…まだか…」

 

 チョコはマイエンジェル小町からだけでいい、まだもらってないけど。もらえるよね?下さい!結局欲しいのかよ。あれ目から汗が…

 

 由比ヶ浜もそわそわしてたが、まぁムリもないだろう。春仁休みだし、春仁目当てで他クラスや他学年の女子いっぱい来てたし…でも今日の由比ヶ浜はなんか辛そうだったな。

 

「由比ヶ浜…なんかあったのか…」

 

 …あいつを意識してるのか…俺は由比ヶ浜から貰えなくて残念なのか?あいつが渡したいのは春仁だろう。あいつら仲良すぎでしょ。名前で呼び合ってるし…つか由比ヶ浜に名前で呼ばれてるのって春仁だけじゃね?イヤでもヒッキーってのもあいつしかよばねぇな…

 由比ヶ浜が悩んでる原因はわからんが、あいつの力になってやりたい気持ちはある。

 由比ヶ浜の事は信じるって決めたんだ。いい加減にしないとな。

 

「はぁ…」

 

 俺は由比ヶ浜が気になってる、あいつが笑ったり近くにいたりすると無意識に目で追ってる。何より心がわざついて素直になれない。でも由比ヶ浜が気になってるのはきっと春仁だ。あいつイケメンだしできない事ないんじゃね?

 由比ヶ浜が春仁を好きなら俺はそれを応援したい。これは本心だ。

 春仁が言ってた『自分で世界を回す』って事もまだよくわからん。

 自分を中心に回したらそれはただの自己虫(じこちゅう)でしかないんじゃないか?

 春仁の理論で言えば、俺はたしかに今まで他人を中心に世界は回っていると考えてた。むしろ回ってる世界の外にいると思ってた。でも自分で回して大切なものが壊れてしまうならそれは違うんじゃないか?

 

 俺はどうしたいんだろうな…。

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